日本国内で強盗事件を繰り返した日中混成強盗団約30人のリーダーを中国で事情聴取
八王子3人射殺 死刑囚聴取続く 日中捜査協力の試金石
東京都八王子市のスーパーで95年に女子高校生ら3人が射殺された事件を巡り「知人が関与した」と証言した日本人死刑囚の男(66)=麻薬密輸罪で中国で死刑確定=に対する警視庁八王子署捜査本部の事情聴取が大連市看守所で続いている。「日中刑事共助条約」(08年11月発効)に基づき捜査員が派遣された初のケースで、聴取内容と共に、日中両国の捜査協力の試金石としても注目される。【古関俊樹、佐々木洋、神澤龍二】
【事件の第一報】バイトの女子高校生ら3人、射殺される-八王子のスーパー(95年7月31日)
捜査関係者によると、この男は日本国内で強盗事件を繰り返した日中混成強盗団約30人のリーダーで、愛知など5県警に国際手配されていた。02年7月~03年3月、東京や愛知、大分など9都県で強盗傷害など17件の事件に関与した疑いが持たれている。
愛知県警などは強盗団のメンバー20人以上を逮捕したが、男は02年11月、名古屋空港から中国に出国。広東省深セン(しんせん)市のホテルで04年6月、中国人らと覚せい剤3.1キロを所持していたとして麻薬密輸容疑で逮捕され、07年8月に死刑が確定した。
公判中に男と数回面会した男性によると、男は「死刑でも仕方がない」と極刑を受け入れた様子だったという。男性は「面会の際はいつも礼儀正しく、言葉遣いも丁寧で落ち着いた様子だったが、威圧感があった」と話した。
現地の総領事館の出張駐在官事務所によると、看守所にはこの男を含めて麻薬密輸罪で死刑が確定した日本人の男3人が収監され、他に同罪などで公判中の日本人も数人収容されているという。
「日中刑事共助条約」は07年12月、犯罪捜査の円滑化を図るため日中両国政府が署名。捜査当局が外交ルートを通さずに情報交換できるようになった。
警察当局によると、今回の捜査員派遣のきっかけは、中国公安当局が昨年、「収監中の男が『知人の男が八王子の事件に関与した』と証言している」と伝えてきたことだった。
警視庁は今年1月、警察庁を通じて捜査員の派遣を中国側に要請し、日程調整を進めてきた。その結果、警視庁捜査1課の原雄一管理官ら捜査員数人が13日に現地入りし、15日から連日事情聴取をしている。中国で男と行動を共にして同罪で死刑が確定、同じ看守所に収監されている40代の日本人の男についても聴取している。
事情聴取は、警視庁が事前に用意した聴取事項を基に中国当局が行い、警視庁の捜査員が立ち会う形で進められているという。捜査関係者は「日程調整に時間はかかったが、捜査協力はうまくいっている」と話す。
男の証言について警視庁は、中国で死刑執行されるのを免れるための虚偽の可能性もあるとみて慎重に裏付けを進める方針。ある捜査員は「時効まであと約10カ月しかない。どんな情報でもあきらめずにつぶしていく」と話している。
【ことば】八王子3人射殺事件
95年7月30日午後9時15分ごろ、東京都八王子市大和田町4のスーパー「ナンペイ大和田店」の2階事務所で、パートの稲垣則子さん(当時47歳)と、いずれもアルバイトで高校2年の前田寛美さん(同16歳)、矢吹恵さん(同17歳)の3人が拳銃で射殺された事件。公訴時効まで残り約10カ月に迫っている。