小島千枝さん(被害者の文春子さんが日本で使っていた名前)=当時(66)= | 日本のお姉さん

小島千枝さん(被害者の文春子さんが日本で使っていた名前)=当時(66)=

【裁判員初公判速報】(1)日本初の6人、緊張した面持ちでメモ 被告は弁護人の横に
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2009/08/03 14:30更新
 《日本初の裁判員裁判が開かれる東京地裁1階の104号法廷。3日午後1時28分、裁判長を務める秋葉康弘裁判官、馬渡香津子裁判官、蜷川省吾裁判官の3人と、殺人罪に問われた東京都足立区の無職、藤井勝吉被告(72)がすでに着席している法廷に、傍聴席からみると柵を挟んで正面にある扉から、緊張した様子で6人の裁判員が入ってきた。6人中5人が女性だ》
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3日に全国初の裁判員裁判 東京地裁
記事本文の続き 《3人の裁判官は「法服」と呼ばれる黒い服を着ているのに対し、裁判員たちは私服を着ている。裁判長は傍聴席から向かって正面の中央の席に座り、その両隣に裁判官が1人ずつ座る。さらにその両脇に裁判員が3人ずつ座った》
 《午前中の選任手続きを経て選ばれた6人の裁判員を、便宜的に傍聴席からみて左の方から順に「1~6番」として説明してみる。左端の1番は黒い上着の女性。2番は白っぽい上着の女性。3番は黒系の服装の女性。3番の女性と裁判官3人を挟んで座る4番は白いシャツの女性。5番は黒い服の女性。そして、右端の6番は白いシャツの男性だ。6人とも若年から中年といった感じだ。裁判官、裁判長の計9人の後ろには3人の補充裁判員が座っている。こちらはいずれも男性だ》
 裁判長「では開廷します」
 《裁判員が着席した直後の午後1時28分、開廷した。裁判長は名前、生年月日などを確認していき、藤井被告はすべてに小さい声で「はい」と答えていく》
 《藤井被告は入廷後、裁判員が入廷する前に、手錠、腰縄を外され、弁護人の横に座った。また、足には革靴にみえるサンダルをはいている。犯人という先入観を裁判員に与えないための措置だ。これまでの公判では、起訴された被告は弁護人の前の長いすなど座っており、この点でも変化がみられる》
 裁判長「それでは、あなたに対する殺人事件の審理を行います。最初に検察官が起訴状を読むので、そのまま聞いていて下さい」
 《藤井被告が問われている殺人罪の内容が書かれた起訴状を検察側が読み上げる。内容は、藤井被告が5月1日午前11時50分ごろ、足立区の路上で、隣人の整体師、文春子さん=当時(66)=の左胸、左側の背中などを刃体の長さ約9・3センチのサバイバルナイフで数回突き刺すなどし、文さんを出血性ショックによって死亡させた-というものだ。裁判長は黙秘権の説明をした後、こう問いかけた》
 裁判長「起訴状に書いてあることで、違ってあること、何か言いたいことはありますか」
 藤井被告「間違いございません」
 裁判長「弁護人は?」
 弁護人「被告人と同様でございます」
 《起訴状の内容を被告本人と、その弁護人がともに認めた。検察側と弁護側が考える「事件の内容」には大きな差がないことになる。公判前整理手続きの内容をふまえると、主な争点は、藤井被告の殺意の強さなどとなる見通しだ》
 《続いて、検察側が立ち上がる。法廷の左右に設置してある大型モニターに、「冒頭陳述」罪名 殺人と映し出された。冒頭陳述は、起訴状の内容をさらに詳述するもので、検察側が公判で立証しようとする「事件のストーリー」になる。仮に本人がその内容を認めているとしても、起訴状、冒頭陳述は当然ながら確定した事実ではなく、裁判官、裁判員がその内容を吟味し、有罪、無罪の別や量刑を決定することになる》
 検察官「これから検察側の冒頭陳述、つまり証拠に基づいてどのような事実を証明しようとしているのかをお話しします。お手元のA3の紙をご覧下さい」
 《裁判員に呼びかけるような口調だ》
 検察官「画面にはこれから、分かりやすく(主張を)まとめたものを次々とあげます。お好きなときにこの紙をご覧下さい。時間は約20分を予定しています。では、はじめさせていただきます」
 《画面には藤井被告と文さんの家との関係図が示された。2人は幅2・3メートルの路地を挟み、斜め向かいに住んでいた》
 《検察官は、文さんの家族のバイクの止め方や、藤井被告が敷地に置いていたネコよけのペットボトルが倒れていることなどについて、日ごろから文さんとトラブルになっていたとした。藤井被告は、文さんが乗っていたスクーターで方向転換する際に倒していたのではないかと疑っていたという》
 検察官「被告は直接文句を言ったこともありましたが、逆に言い返されてしまいました。小島さん(文さんが日本で使っていた名字)の顔を見たくないと思うほど嫌っていました」
 《そして犯行当日の5月1日。倒れたペットボトルをめぐって、またもトラブルが勃発した。文さんは「倒したのは自分ではない」と説明したが、藤井被告は「サバイバルナイフを見せて脅そう」と考えたという。裁判員の6人は、依然として緊張した面持ちだ。メモを盛んに取っている》
 検察官「そして、右手に持ったサバイバルナイフを見せました。しかし小島さん(文さん)はひるみませんでした。藤井被告はひっこみがつかなくなりました」
 「そして、これまでの不満が爆発し、こうなったら自分の言うことを聞かない小島さんを刺すしかないと考えました。このときに被害者に対する殺意が発生したのです」
 《検察側によると、こうして藤井被告は午前11時50分ごろ、サバイバルナイフで文さんの胸を突き刺し、続けて左胸、肩などを突き刺した。さらに、逃げる文さんを「ぶっ殺す」と言いながら追いかけたという》
 =(2)に続く
【裁判員初公判速報】(2)電子モニターに見入る6人
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2009/08/03 14:49更新

《藤井勝吉被告に対する検察側の冒頭陳述の読み上げが続く。男女6人の裁判員は読み上げる検察官を見たり、手前のモニターに見入ったりしているが、いずれも緊張した様子がうかがえる。普段の公判より検察官はゆっくりと読み上げ、専門用語についても、裁判員や傍聴人に分かりやすい言葉で言い換えている。一方、藤井被告は下を向いたままだった》
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記事本文の続き 《検察官は事件の概要を説明したあと、藤井被告の殺意の部分に移る》


 検察官「藤井被告には、小島千枝さん(被害者の文春子さんが日本で使っていた名前)に殺意がありました。殺意があることについて、検察側、弁護側とも争いはありません。しかし、殺意の程度については争いがあります」

 《検察側は殺意の濃淡についての弁護側との主張の違いについて説明を始める》

 検察官「殺意とは『絶対殺してやる』という程度のものもあれば『死ぬかもしれない』というものもあります。検察側は藤井被告が『ほぼ確実に死ぬ』『人が死ぬ危険性が高いと認識していた』ことを主張します。一方、弁護側は『死に至るかもしれない』、つまり、検察より弱い殺意を主張しています」

 《検察側は、5つのポイントに重点を置いて説明を始める。刃物の形状、傷の状態、犯行態度、動機、犯行当時の藤井被告の言動について検察側と弁護側双方の主張を並列で紹介。そのうち、5番目だけについて争点があることを指摘した》

 検察官「まず、凶器のナイフについては刃渡りは10・4センチです。小島さんが受けた傷については、胸や背中など8カ所に及び、特に胸と背中の傷については生死に直結する重要な内臓があり、背中の傷については10・5センチで刃渡りとほぼ同じ深さでした」

 「犯行態度については、ナイフを振り回し、たまたま当たったものではありません。動機についても以前からバイクや植木鉢のことでトラブルになっていました」

 《検察官は弁護側と一致している点については簡単に説明。その後、殺意の濃淡を決める上で重要ポイントとなる犯行当時の言動部分に移る》

 検察官「5番目の犯行当時の言動については争いがあります。検察は(殺された)小島さんに対し、藤井被告が『ぶっ殺す』と数回言っていたことや、逃げる小島さんを追いかけていたと主張します。一方、弁護側がそのいずれも否定しています。目撃した証人の証言によって、藤井被告が小島さんに対して『ぶっ殺す』と言っていたことと、ナイフを持って追いかけていたことを立証します」

 《検察官によるゆっくりとした冒頭陳述の読み上げが法廷内に響き渡る中、報道陣が分刻みで法廷の様子を伝えるために頻繁に出入りする。6人の裁判員は、机上の電子モニターを見入っているが、裁判官が裁判員が裁判の進行に追いついているか、時折、裁判員を横目で見るシーンも。一方、弁護人の隣に座る藤井被告は、一度も顔を上げることなく、冒頭陳述を聞いている様子だった》

 =(3)に続く

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/285514/

藤井勝吉被告に対する検察側の冒頭陳述は続いている。傍聴席に背中を向ける形で立つ検察官。相変わらずゆっくりと書面を読み上げている。裁判員の多くは、手元のモニターに目を向けている》

 検察官「お手元の『冒頭陳述メモ』の各項目に、青色の矢印に続けて青い字で書いた部分がいくつかありますが、これらが立証事実と証拠の関係を書いたものです」

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記事本文の続き 《法廷内の大きなモニターには『被告人と被害者の関係』『犯行に至る経緯』などの文章が映し出された》

 検察官「まず、メモの左側『被告人と被害者の関係、犯行に至る経緯』については、被告人質問や供述調書、犯行現場の図面や写真をつけた報告書などで立証します」

 《続けて検察官は、被害者の死亡状況▽凶器の形状▽被害者の傷の位置や程度、傷の数▽犯行態様▽殺害動機などについて、報告書や鑑定書、供述調書、証人尋問などで立証することを述べる。モニターには、それぞれの立証方法が映し出されていく》

 《今回検察側と弁護側の間に争いがあるのは、犯行時に藤井被告がどのような言動をしたか、についてだ。モニターでは、そこを強調するように、太く黄色い矢印が書き込まれ、その中に「争いあり」と記されている》

 検察官「『犯行時の言動』については、これまで申し上げた通り、検察官と弁護人の間で争いがあり、2人の目撃者の証人尋問によって立証します」

 《検察側の冒頭陳述は、最終盤にかかってきた。検察官は刑を決定するにあたって、考慮してもらいたいとする情状面について説明を始めた》

 《6人の裁判員は、手前のモニターの画像にくぎ付けになっている》

 検察官「検察官は、これから画面に表示する5つを特に重要な情状に関する事実と考えています」

 《検察官は一息置いた後、ゆっくりと話し始めた》

 検察官「第1に、犯行態様が執拗(しつよう)かつ残忍であることです。第2に、被害者を死亡させており、重大な結果を生じさせたことです。第3に、動機が短絡的で酌量の余地が少ないことです。第4に、被害者遺族の処罰を求める感情が極めて厳しいことです。これについてはご遺族の供述や証言で立証します。第5に、被告人は規範意識、つまり法律や決まりを守ろうとする気持ちが極めて低いことです」

 《難しい言葉を言い換えるなど、工夫を凝らしながら冒頭陳述を読み上げた検察官。そして、最後のあいさつに至った》

 検察官「以上で検察側の冒頭陳述を終了します。ありがとうございました」

 《そう述べると、検察官は裁判員席に向かって一礼し、自分の席に戻った。6人の裁判員は、検察官に一瞬視線を送った後、再度手元の書類に目を移した》

 《次は弁護側の冒頭陳述だ。裁判員らには、事務官から弁護側の冒頭陳述に関する資料が新たに渡された》

 裁判長「では弁護人の冒頭陳述をお願いします」

 《薄いグレーのスーツ姿の弁護人がすくっと立ち上がった。証言台の後方まで移動してきた検察官と違い、弁護人は、その場で冒頭陳述を行うようだ》

 弁護人「弁護人の主張を約15分間述べさせてもらいます」

 《緊張感を漂わせながら、手を腹の前にあわせる弁護人。資料は手元にない。冒頭陳述は全文を頭の中に入れて臨むとみられる》

 弁護人「公訴事実については争いません。被告の殺意の内容については、ナイフで人を刺す行為によって人が死ぬかもしれないということを認識していたに過ぎません。被告人は、被害者が死ぬことまでは意識していませんでした」

 《モニターには、『公訴事実』『殺意』『被告人の殺意の程度』と記され、殺意の内容については吹き出しが付き『争点』と記された》

 《次に弁護人は、現場の状況や被告人の人物像などについて説明を始める》

 弁護人「被害者の玄関先にはバイクが…バイクとスクーターが4台置かれていました」


 《緊張からか、記憶をたどり、つっかえつつ冒頭陳述を進める弁護人。藤井被告の家と道路をはさんではす向かいにあった被害者の文春子さんの家との位置関係を説明しつつ、文さん一家のスクーターが敷地からはみ出ていたことや、藤井被告の庭先にネコよけのペットボトルがあったことなどを説明する》

 《さらに、弁護人は被告人の人物像の説明を始めた》

 弁護人「被告は犯行時は71歳。現在は72歳です。足立区梅田出身。今の家の近くです。小学校を卒業してから、工員や運転手など職を転々としつつ、最近は古新聞の回収などをやっていましたが、18年4月からは、年も年ですので、仕事をやめ、生活保護を受けていました。趣味は競馬、特に平日の公営競馬に飲酒です。白内障を患って視力が弱く…」

 《弁護人は事細かく藤井被告の人物像を描写していく》

 《次は被害者の家族構成だ。文さんと2人の息子が計4台のスクーターやバイクを所有していたことが説明された》

 《そして、弁護人は被害者の人物像にふれた》

 弁護人「文さんは、言葉が強いです。気が強いです。余計な一言をいいます。誰かとケンカして終わりそうになったときは、また話を蒸し返してケンカが終わりません。近所の人ともしょっちゅうケンカしていました。相手にかちんとくることを言われると、相手の急所、一番弱いところを突いてきます

 《弁護人は、被害者のネガティブな部分を一気に並べ立てた》

 《さらに、藤井被告と文さん一家との間に近隣紛争があったと説明する弁護人。これから細かく描写していくという》

 =(4)に続く

《弁護人の冒頭陳述が続く。ゆっくりとした口調で、時折、裁判員たちに顔を向けて語りかけるように、藤井勝吉被告と(被害者の)文春子さんとの間に起きていたトラブルについて明かしていく。6人の裁判員が弁護人に目を向けることはほとんどなく、手元の資料を見つめていた》

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記事本文の続き 弁護人「被害者は、植木の手入れをよくやっていました。水やりで余った水が流れて、道路のくぼ地にたまりますね。すると被害者は、もったいないと、金属製の食器でその水をまた掻きだして、器に入れて水やりをします。その際、コンクリートやアスファルトに金属製の食器がこすれて、ガガーっという耳障りな騒音を立てていました。被告がかつて注意したことがあります」

 「被害者は夕方から、整体の仕事をしていました。仕事にはいつもスクーターで出かけ、深夜に帰宅していました。スクーターは、空き地によく置いていました。被害者は出かけるとき、バックでいったん被告宅に入れて、南側の公道に向かっていきます。その際に被告が猫よけに置いていたペットボトルを倒したり、ときにはつぶしたりして、直さないことがありました。被告と被害者には、こういうトラブルがありました」

 《弁護人は、さらに藤井被告と文さんの過去のトラブルについても明かしていった。被告は弁護人の横で、身じろぎもせずに視線を落としていた》

 「被告は、道路に置いてある植木やバイクが邪魔で、通れないと苦情を言ったことがありました。被告は昔、軽自動車に乗っていましたが、幅2・3メートルの公道では、道路にバイクが止まっていると、たとえ軽自動車でも出入りが困難になります。また、水も入っていないのに、食器で道路をこする音をわざと立てたこともあり、『なんでそんなことするんだ』、と被告が抗議したことがあります。ですが被害者は、『この道はうちの土地だ。生意気言うな、やるのか』などと言い返していました。こうした態度に、被告は悔しい思いをしていました。ただ、被告は前科があります。手を出すと、また懲役になると思って、なるべく被害者とは顔を合わせないようにしていました」

 《そして、弁護人は藤井被告の犯行前日からの行動を明かしていく》

 「被告は、前日は大井競馬場に行きました。浦和競馬の場外をやりました。そして、前日の晩は、酒を飲みました。350ccの缶チューハイ、500ccの缶チューハイ。さらに近所のスーパーで焼酎、『樹氷』というやつですね、それを買って、午前0時くらいまで飲んで寝ました」

 「被告は翌日、深酒のせいで午前9時に起きました。その日は5月1日の金曜日で、浦和競馬は最終日です。いつも競馬に行くときは、午前10時にはバスで鶯谷に行き、京浜東北線で大井競馬場に向かっていました。しかし、その日は寝坊したため、11時ごろに家を出て大井競馬場に行こうと、朝ご飯を食べたりして、準備をしていました。被告は2日酔いで頭が痛かったため、迎え酒で焼酎の水割りを2杯飲みました」

 《酒に犯行の原因の一端があると説明したいのか、弁護人は飲酒の話を強調する》

 「そして、競馬新聞を読んだりして準備をしながら外を見たら、被害者が植木の手入れをしていました。被告は被害者と、何年かの間、顔を合わせないようにしていましたから、被害者が家に入るのを待っていました。『30分以上は待った』と被告はいっています。ですが、家の中から何度か外をうかがいましたが、たまたまその日は、被害者がなかなか手入れをやめませんでした

 「11時40分ごろ、もういないだろう、と外をうかがうと偶然、被害者と目が合ってしまいました。被告は仕方なく外にサンダル履きで出ていって、庭から道路に出ました。そして、『ペットボトルを倒したら直してくれ』と被害者に注意しました。そこで、気をつけます、と被害者が言えばよかったのでしょうが、被害者は『オレじゃねえ、てめえがやってんのに、人のせいにするな、バカ野郎』と言いました。被告は『あんた以外に誰がやるんだ』と言い返しました。しばらく、被告と被害者の口論は続きました」

 《被告は一切、表情を変えない。裁判員たちも、変わらず手元の資料を見続ける》

 「被告はかっとなって自宅に引き返し、ナイフを持ち出しました。そして被害者のいる植木鉢のあたりまで行きました。ナイフはかつて、亡くなった長女が、海でサザエを捕ったりするのに使っており、被告はこれをダイバーナイフと思っていました。被告は危害を加えるつもりはなく、ナイフを見せれば、驚いて家に帰るだろうと思っていました」

 =(5)に続く

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《弁護人による冒頭陳述が続く。女性裁判員のひとりが、弁護人をじっと見つめる》

 弁護人「『ぶっ殺す』という言葉は言っていなかった。これは争点になっています。被告人は、さやを抜いて被害者の前まで行っても被害者はひるむことはしませんでした

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記事本文の続き 《ここで弁護人は傍聴席の方を向き、さやを抜く動作をした》

 弁護人「『やるのか、やってみろ』。逆につかみかかろうとしたんです。被告人はナイフで脅そうと思っただけです。逆につかみかかってきたために刺すしかないと思い、左胸のあたりを刺しました。狙ったわけではありません。何回刺したか、どこを刺したかも覚えていません」

 《じっと下を向いて聞いていた藤井勝吉被告は、当時を思いだすようにぎゅっと目をつぶった》

 弁護人「人が死ぬかもしれない行為だと認めざるをえません。ただ、死んでほしいとは思いませんでした。その程度の殺意だったと主張します」

 《主張の要点を映し出したモニター画面が切り替わり、下を向いていた女性裁判員の一人が目を見開いてモニターを見つめた》

 弁護人「被告人は自宅に戻り、指や肘のケガの治療をしています。出頭しようとしましたが、逮捕されるといろいろと購入しなければなりません。なけなしの4万円をおろしました。家の後始末を頼める人を探そうと考えて大井競馬場に行き、午後5時半まで知人を捜しましたが見つかりませんでした。仕方なくバスに乗り、小学校時代の同級生を訪ねました。一緒に警察に向かったその道で、逮捕されました」

 《藤井被告は逃げ隠れしたのではなく、任意出頭しようとしていたと訴える弁護人。2人の女性裁判員が顔を上げ、じっと弁護人を見つめた。表情は真剣そのものだ》

 弁護人「犯罪の正否は争いませんが、量刑が問題になります。近隣紛争は被害者側に原因があって、被害者が少し近隣に気をつけて生活していれば事件は起きなかったのです。被害者の誘発的な言動もあった。よっぽど腹に据えかねた突発的な犯行で、決して計画的ではありません。確実に殺そうとしたわけではありません。この法廷での被告人の態度、どう被害弁償するかで証明していきます」

 《弁護側の冒頭陳述が終わり、裁判長が公判前整理手続きの結果を報告する》

 秋葉康弘裁判長「殺意の内容とそれに関わる被告人の言動について争いがあります。証拠関係については、証拠書類が検察側請求のもの24点、弁護側請求のもの2点、証拠物は検察側請求のもの11点、証人は4名でそのうち1人は双方の申請によるものです」

 《ここで休廷前の予定が終了し、裁判長が休廷を告げる》

 裁判長「ではここで30分間休廷します。再開は2時50分です」

 《傍聴席から見て裁判長の右隣に座っていた男性裁判官が鍵を開け、補充裁判員と裁判員が中央のドアから退廷した》

 裁判長「手錠をしてください」

 《裁判員が手錠姿を見て予断を抱かないための配慮で、裁判員の退廷を確認した後、2人の刑務官が藤井被告に手錠と腰縄をする。裁判長は藤井被告が手錠をされるのを確認して退廷した》

 地裁の男性職員「(傍聴席に)休廷中はお手洗いに行っていただいて結構ですが、再入廷の時は所持品検査を受けていただきます」

 《弁護人がほほえみながら何か話しかけ、藤井被告はやや緊張が和らいだ表情を見せた。しばらく弁護人の横に座っていたが、やがて左側のドアから退廷した》

 =(6)に続く

 《約30分の休廷を挟み、書証調べに移った。直前に藤井勝吉被告が入廷し、腰縄と手錠を解錠され着席。続いて裁判長に促され裁判員が入廷した。検察側、弁護側が起立したため、傍聴人も起立しようとするのを書記官が「傍聴人はそのままで」と制止した。裁判長が審理の再開を告げ、女性検察官が説明に立った》

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記事本文の続き 裁判長「検察官は書証の内容を説明してください」

 検察官「証拠は1から8まで8点あります。説明には30分いただきます」

 《傍聴人は検察側、弁護側双方の頭上にある大型モニター画面を、裁判官と裁判員は手元に設置された小型モニター画面を見ながら説明を聞く。証拠1として犯行現場を示した地図が示された》

 検察官「画面は小島さん(被害者の文春子さんが日本で使っていた名前)の家付近の路上です。小島さんの家と被告人の家は路地を挟んで斜め向かいです。南は丁字路になっています」

 《法廷のモニターには、はす向かいにある2つの家を示した図が現れた》

 検察官「これは事件直後の状況を示しています。小島さんの家の前には植木鉢が並び、藤井被告の家の前と路地に男性用サンダルが片方ずつ、路地に女性用サンダルが1足落ちています。小島さんの家の前には血痕があります」

 《検察官はモニターの画面に現れる印を確かめながら、慎重に現場の状況を説明していく。藤井被告は弁護側席のモニターにも目を向けず、うつむき気味でじっとしている》

 《続いて文さんと藤井被告の家の前の路地の写真が示された。文さん宅前の植木鉢は2つ倒れて土がこぼれている。路地には男物と女物のサンダル2つが重なるようにしてひっくり返っている。検察側は、犯行直後の写真で現場の様子や血痕などを詳細に映し、激しく争った状況を裁判員に示す考えのようだ》

 検察官「路地の幅は約2・3メートルです。この奥に原付(ミニバイク)があり、立てかけられているマットに血痕がついています。原付にも点線で囲んだところに血痕がついています。さらに、(原付の奥に止めてある)もう1台のスクーターにも点々と血痕がついています」

 《次に示された地図には、犯行現場から、文さんが力尽きて座り込んだ場所までをつないだ線が描かれている》

 検察官「犯行現場から小島さんが座っていた所までを測ったところ、61・2メートルでした」

 《さらに検察官は別の図で、藤井被告の家の南にある証人宅の前にもう片方の女性用サンダルが落ちていたと説明し、サンダルの右側の路上に血痕が残っている写真を映し出した。丁字路の突き当たりの証人宅前にも血痕が確認されたことを示し、現場状況の説明を終えた》

 《証拠2は総合捜査報告書だ。凶器の発見状況や計測結果を説明する。まず藤井被告宅の敷地の見取り図が映された》

 検察官「被告人の家の前には自転車が止めてあり、置かれていたペットボトルのうち3本が倒れていました。サバイバルナイフは、玄関を入って左手の和室で見つかりました。この部屋のごみ箱からは血がついたティッシュも発見されました」

 《モニターには、スポーツ紙の上にサバイバルナイフが置かれている様子が映った。モニターは人数分はないようで、裁判員が斜めに顔を向けて2人で1つを見る様子もあった》

 検察官「これが凶器が発見された状況です。ナイフに血痕が付いていたことから、小島さん殺害に使われたものと分かりました」

 《さらにサバイバルナイフの絵が現れ、全長が21・5センチ、ナイフ上部の刃渡りが約9・3センチ、下部の刃渡りが約10・4センチ、刃幅2・7センチだったことが示された》

 =(7)に続く

《証拠調べの手続きが続く。女性検察官が、凶器となったサバイバルナイフが入った透明のビニール袋を手に持った》

 検察官「証拠番号3番、サバイバルナイフ1本です。サバイバルナイフの実物をお示しします」

 《両手に白い手袋をゆっくりとはめると、ビニール袋からサバイバルナイフを慎重に取り出し、証言台の前に立った。女性検察官は裁判官や裁判員に向けてよく見えるように、ナイフを顔の高さで横向きに掲げた》

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記事本文の続き 検察官「証拠番号3番、サバイバルナイフを示します」

 《裁判員の視線がナイフに集まったのを確認したかのように、女性検察官は一拍おいて席へと戻り、ナイフをゆっくり袋に戻した》

 検察官「証拠番号4番、小島さん(被害者の文春子さんが日本で使っていた名字)が着ていた衣服が刃物によって破れている状況です。一番上に着ていた黒いシャツの前側です」

 《文さんが刺された当時に着ていた衣服を撮影した写真が、法廷の大画面モニターや、裁判員席に設置されたモニターに映し出される。一番左側の女性裁判員は伏し目がちになりながら、モニターの写真を見つめた》

 検察官「近くから撮影されたもので、次に同じシャツの背中側です。丸の部分が破れた部分です」

 《ナイフで刺されたときにシャツが破れた様子が分かるように、刺された部分を丸く囲った図が描かれている》

 検察官「縦に長く切れていますが、これは傷の治療のために切れたもので、ナイフによって切れたものではありません」

 《文さんの救命治療行為の際、裁断された部分も丁寧に説明していく。画面が切り替わり、文さんが黒いシャツの内側に着用していた赤い半袖シャツの写真が紹介されると、続いて致命傷となった部分を接写した写真がアップで映し出された》

 検察官「赤い半袖シャツの背中側です。ナイフによって破れた部分が2カ所あります。写真右側の破れた部分は致命傷の位置と合致します」

 《続いて、モニターに映し出された写真は、犯行当時の凶行を生々しく物語るものだった》

 検察官「赤いシャツの中に来ていたキャミソールです。もともとは薄い茶色ですが、血で染まっています」

 《キャミソールのほぼ全体が血で染まっていた。時間が経過し、血痕は焦げ茶色に変色している。もともと白色だった下着の写真も示され、全体が血の焦げ茶色に染まっている様子も紹介された。悲惨な凶行の様子がありありと伝わってくる証拠に、ある裁判員は口をゆがめつつ、モニター画面を注目していた》

 検察官「証拠番号5番、聴取報告書です。小島さんが亡くなった時間や場所などが書かれています」

 《女性検察官は、文さんの死亡が確認された東京女子医科大学の病院や時刻を淡々と述べた後、文さんの遺体を解剖した際の鑑定書の一部と捜査報告書を読み上げる》

 検察官「死因は、左前胸部刺創による肺動脈起始部の損傷です」

 《難解な医学用語の意味を一つずつ説明していく》

 検察官「医学の言語で傷のことを『創』と呼びます。8つの傷のうち、2番と4番の創が致命傷となりました」

 《検察側は死因を立証するため、3次元(3D)画像のコンピューター・グラフィックス(CG)を使ったイラストを使用した。分かりやすい公判を目指す裁判員裁判を意識した試みの1つだろう》

 検察官「それでは体内の状況のイラストを示します」

 《凶器となったナイフが心臓につながる心臓の近くの肺動脈起始部に突き刺さり致命傷となったことがわかるよう、立体的に表現されている。イラストは臓器や骨が色分けされており、肋骨は緑色で描かれていた》

 検察官「中央下の丸いものが心臓です。左胸に刺さったナイフの先端が心臓から肺動脈につながっている部分、つまり、肺動脈起始部に刺さっている様子です」

 《女性裁判員の一人は、あごに手を当てながら、イラストを興味深そうに見つめていた》

 =(8)に続く

《大型モニターには殺害された文春子さんの傷口がコンピューターグラフィックのイラストとして映し出される。検察側はモニターに沿って致命傷になった胸や背中の傷について説明を加えた。その後、検察官は遺体の写真説明に移ると、遺族感情などに配慮して大型モニターでは表示せず、裁判員の手元に置かれた小型モニターだけに映し出して説明を始める。相次いで映し出される生々しい画面に、一部の裁判員は目を背けた》

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記事本文の続き 《検察官は、殺された文さんの写真説明に入る前に、裁判員にある“注意事項”を告げた》

 検察官「これから説明する小島(千枝)さん(文さんが日本で使っていた名字)の遺体写真は、裁判員によっては目を背けたくなるようなものかもしれませんが、事件の重要な証拠になると考えますので、ぜひ見ていただきたいと思います」

 《法廷の両側に設置された大型モニターは消され、法廷内は静けさに包まれた。法廷内の様子を報道するため頻繁に出入りする報道陣も、文さんの遺体写真に裁判員がどんな反応を示すのか、その視線を追った》

 検察官「全部で4枚の写真を小型モニターに表示します。1枚目は胸の刺し傷です」


 《法廷内が静まる中、男女6人の裁判員は目の前の小型モニターに目をやるが、女性裁判員の1人の視線が漂っているのがうかがえる。影響を受けたのか、その隣の女性裁判員もモニターから顔を一瞬そらした》

 《肩口や手などの傷口を映し出した2、3、4枚目の遺体写真が次々とモニターに表示されると、裁判員の一部はモニターを見たり、見なかったりと明らかに動揺した様子がうかがえる。一方、残りの裁判員は裁判員としての職責を感じてか、時折、眉間(みけん)にしわを寄せながらもモニターに見入っていた。6人の裁判員には報道陣や傍聴人の視線が一斉に注がれた》

 検察官「モニターでの写真表示をこれで終わります」

 《検察官の声が響くと、一部の女性裁判員の表情からは、安堵(あんど)したような様子が一瞬うかがえた。裁判員は、非日常である事件の現実を目の当たりにして何を思ったのだろうか》

 《その後、今度は弁護側が、事件直後に撮影したという藤井勝吉被告の自宅周辺や文さん宅の写真計8枚を大型モニターに表示し、説明を淡々と加えていった》

 《説明が終わると、弁護人は書類を書記官に渡し、すっと自席に座った。当初は書証調べに1時間程度を予定していたが、20分ほど早く終わってしまったようだ。秋葉康弘裁判長が、なにやら書記官と相談をしている》

 裁判長「証人は予定より早く来ることは可能ですか」

 検察官「すでに来ていますが…確認してみますか」

 裁判長「予定より15分ほど早くできますか」

 《すんなりと終わった書証調べ。結局、午後4時から再開することを決め、秋葉裁判長は一時休廷を宣言した》 

 =(9)に続く

《公判再開直前の午後3時57分、藤井勝吉被告が入廷する。手錠と腰縄を外されると、一瞬、顔をしかめて首をかしげ席に座った。続いて、裁判官3人と裁判員6人が入廷する。裁判員はみな、無表情だ》

 《現場のそばに住んでおり、事件を目撃した女性への証人尋問が始まる。女性が、証言台に立ち宣誓を読み上げると、裁判員はみな顔を上げ、女性の表情を凝視した》

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記事本文の続き 検察官「5月1日の昼ごろ、あなたは何をしていましたか」

 近所の女性「家で出かける準備をしていました」

 検察官「自宅ですか」

 近所の女性「はい」

 検察官「何か変わったことはありましたか」

 近所の女性「外でケンカするような声が聞こえました」

 検察官「家のどちら側から聞こえましたか」

 近所の女性「西側からです」

 検察官「手元のモニターで、あなたの家のおおよその場所を四角で囲んでもらえますか」

 《証人が、手元のモニターで自宅の場所を四角で示す》

 検察官「赤で囲ったのがおうちですか」

 近所の女性「はい」

 検察官「西側は画面の左側でいいですか」

 近所の女性「はい、そうです」

 《裁判員にわかりやすいように、検察官が補足を入れる》

 検察官「あなたは、家には誰といましたか」

 近所の女性「弟と2人です」

 検察官「ケンカの声に気づいて、その後、あなたはどうしましたか」

 近所の女性「西側の窓を開けて、声を聞いてみました」

 検察官「弟さんはどうしましたか」

 近所の女性「一緒に聞いていました」

 検察官「窓の位置を丸で示してください」

 《証人がモニターの、窓の位置を丸で囲む》

 検察官「外の状況は見ましたか」

 近所の女性「見てないです」

 検察官「弟さんは見ましたか」

 近所の女性「見ました」

 検察官「顔を出して、見なかったのはなぜですか」

 近所の女性「こちらに気づかれて、怒りの矛先が向かってきても困るので…」

 《ここで少し声を落とした。気になったのか、女性裁判員の一人が、証人の表情を見やる。藤井被告は視線を落とし、無表情だ》

 検察官「見られたら嫌だったんですね」

 近所の女性「はい」

 検察官「声はどんな声でしたか」

 近所の女性「女の人の、『なんとかでしょ』、というのと、男の人の『ぶっ殺す』という声が聞こえました」

 検察官「なんとか、とは」

 近所の女性「聞き取れませんでした」

 検察官「『ぶっ殺す』は1度ですか」

 近所の女性「2度聞きました」

 検察官「『なんとかでしょ』、と、『ぶっ殺す』は、はっきり聞きましたか」

 近所の女性「聞きました」

 検察官「聞き間違えはないですか」

 近所の女性「ないです」

 《証人は記憶が鮮明なのだろう。はっきりとした口調で話した》

 検察官「女性の声で他には何か聞こえましたか」

 近所の女性「どなってましたが、女性か男性かは分からなかったです

 検察官「『やれるならやってみろ』、といった挑発のような言葉はどうですか」

 近所の女性「ないです」

 検察官「『おー、やるのか』というのは?」

 近所の女性「ないです」

 《被害者が『やるのか』といったとする弁護人の主張と、食い違いを見せる》

 検察官「『ぶっ殺す』の声の大きさはどうでしたか」

 近所の女性「怒鳴るでもなく、小さくもなく…」

 検察官「2回続けて言ったのですか」

 近所の女性「何秒か…間がありました」

 検察官「どう思いましたか」

 近所の女性「…言ったな、という感じ…です

 検察官「警察に通報はしましたか」

 近所の女性「はい、しようとは思いました」

 検察官「すぐにはしなかったのですか」

 近所の女性「けんかが誰なのかも分からず、夫婦かもしれないと思いました。なのでしませんでした」

 検察官「その後はどうしましたか」

 近所の女性「静かになったので窓を閉めました」

 検察官「閉める前に何か気づきましたか」

 近所の女性「立ち上がったら、女の人の家の方の植木が揺れていました」

 検察官「女の人とは?」

 近所の女性「被害者です」

 検察官「その時は分からなかったけど、後になって被害者と知ったということですか」


 近所の女性「そうです」

 検察官「植木の場所を教えてください」

 《証人の女性がまた、モニターに印を付ける。裁判員も画面を見やり位置関係を確認する》

 検察官「北西側の植木ですね」

 近所の女性「はい」

 検察官「弟さんは何か見ましたか」

 近所の女性「『走っていった』といいました」

 検察官「誰が?」

 近所の女性「男の人がです」

 検察官「どちらからどちらに向かってですか」

 近所の女性「植木が何かにぶつかったように揺れていたので、そちらの方に…。右から左の方向に走っていきました」

 検察官「それを見て窓を閉めたのですか」

 近所の女性「はい」

 検察官「『ぶっ殺す』を聞いて植木が揺れるのをみるまで、どのくらいですか」

 近所の女性「1分…くらいです」

 《少しずつ、裁判員が顔を上げ、証人を見やるようになった》

 検察官「窓を閉めてからはどうしましたか」

 近所の女性「閉めて…出かける準備をしていたら外が騒がしくなって、また窓を開けました」

 検察官「外はどうなっていましたか」

 近所の女性「警察がいっぱいいました」

 =(10)に続く

《事件現場の近くに住む女性証人に対する女性検察官からの尋問が続く。検察官は証人の緊張を和らげるように、穏やかにほほえみながら問いかけた》

 検察官「犯人が捕まったかどうか分かりましたか」

 近所の女性「捕まってないと聞きました。怖いので、出かけた先々で交番に寄って捕まってないか聞きました」

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記事本文の続き 検察官「捕まったと聞いてどう思いましたか」

 近所の女性「ほっとしました」

 検察官「気持ちについておうかがいしますね。生活に変化はありましたか」

 近所の女性「夜怖いので、ベランダに出ることができなくなりました」

 検察官「ベランダは家のどちら側ですか」

 近所の女性「西側です」

 検察官「事件が起こった側ですね」

 近所の女性「はい」

 検察官「警察官や検察官に何度も話を聞かれて何か変化はありましたか」

 近所の女性「忘れたころにまた聞かれて、眠れなくなりました」

 検察官「近所で殺人が起こったことはどう思いますか」

 近所の女性「怖いので、余裕があれば引っ越したいと思います」

 《証人尋問を聞く間、裁判員6人のうち、4人は顔を上げて証人の顔をじっと見つめていた。ほかの2人は下を向き、証言内容を懸命にメモし続けていた》

 検察官「『ぶっ殺す』と聞いて窓を閉めて、騒がしくなってから開けたら警察が来ていたのですね」

 近所の女性「はい」

 検察官「どれくらい経ってからですか」

 近所の女性「10分くらいは経っていたと思います」

 検察官「終わります」

 《続いて弁護人が立ち上がり、反対尋問を始めた》

 弁護人「言い争う声を聞いたと言いますが、姿を見たのですか」

 近所の女性「見ていません」

 弁護人「男か女かは」

 近所の女性「分かりませんでした」

 弁護人「窓を開けて、だいぶ聞こえるようになった」

 近所の女性「はい」

 弁護人「最初に聞こえたのは」

 近所の女性「女の人の、『ナントカカントカでしょ』という声でした

 弁護人「高い声だったのですか」

 近所の女性「キンキン声でした

 弁護人「口調は強かったのですか

 近所の女性「そうですね、はい

 弁護人「言い返しているような声ですか

 近所の女性「そうですね、はい」

 弁護人「興奮しているような言い方でした?」

 近所の女性「怒鳴っているようでした