頂門の一針 | 日本のお姉さん

頂門の一針

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元米大統領、米女性記者と帰国
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古澤 襄

AP通信社によれば、帰途についたクリントン元米大統領の特別機には、釈放された2人の米女性記者が同乗したという。2人はほぼ半年ぶりの帰国となるので、マスコミから質問攻めに会うのは間違いない。

一方、北朝鮮は朝鮮中央通信の報道文でクリントン・金正日会談で「米朝間の諸懸案をめぐり”対話の方法”で問題を解決することで見解一致がなされた」と会談の成果を誇示している。

米政府が否定しているオバマ大統領から金正日総書記に宛てた親書の存在について「両国間の関係改善方法と関連した見解を盛り込んだオバマ大統領の口頭メッセージをクリントン元米大統領が伝えた」と述べた。
形式はどうであれ、オバマ大統領が北朝鮮に和解のメッセージを伝えたことになる。

日本では早くもクリントン訪朝に見習って、小泉元首相の訪朝を期待する声があがっている。しかし2人の米女性記者の釈放と、いまなお未解決な日本人の拉致被害者の救出は、その困難さにおいて性格が異なる。

クリントン訪朝に当たっては、米朝間で極秘交渉を重ね、表面には出ない米側の譲歩があったと想像するに難くない。

手ぶらで小泉元首相の訪朝を期待するのは間違っている。迂遠の様だが、北朝鮮に対する経済制裁を維持して、6カ国協議の場でねばり強く拉致解決を求めるしか方法はない。

民主党は拉致解決の方策を示していない。あれば野党として独自の外交を展開してきた筈である。手詰まり感をどう打開するか、予想される民主党政権にとっても、重い課題が横たわる。

<【平壌、北京共同】北朝鮮の朝鮮中央通信は5日、金正日総書記が、不法入国などの罪で拘束されている米国人女性記者2人に対し「特別恩赦を実施、釈放するとの国防委員会委員長としての命令を下した」などとする報道文を発表した。4日に会談したクリントン元米大統領の訪朝結果として伝えた。

同通信はまた、5日午前6時前(日本時間同)に元大統領一行が平壌を離れたと報じた。解放された2人を連れているとみられ、2人は3月半ばに拘束されて以来、ほぼ半年ぶりに帰国することになった。

報道文はまた、会談で米朝間の諸懸案をめぐり「対話の方法で問題を解決することで見解一致がなされた」とし、元大統領が「両国間の関係改善方法と関連した見解を盛り込んだオバマ大統領の口頭メッセージを伝えた」と指摘。

元大統領の訪朝は、両国間の「理解を深め信頼を醸成するのに寄与するだろう」と評価した。「諸懸案」の具体的内容には触れなかったが、元大統領は核やミサイル問題を、金総書記は米国の「敵視政策」を取り上げたとみられる。(共同)>



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これがアメリカのやり方だ
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花岡 信昭

クリントン元米大統領が北朝鮮を訪問、金正日総書記と会談した。クリントン時代の1994年にやったカーター訪朝とまったく同じパターンだ。

これがアメリカのやり方である。もっといえば、米民主党政権の基本パターンだ。

それにしても、金正日という人は、類稀な国際政治パワーを持つといっていい。一連のミサイル発射、核実験はアメリカを引き出すことに最大の狙いがあった。それを実現させてしまったのだから、その国際戦略はけた外れのものがある。

北朝鮮に拘束されている米人女性記者2人の釈放交渉のための私的訪朝だというが、元大統領が私的なことをやるわけがない。

カーター訪朝ではKEDOの枠組みが合意され、軽水炉供与と引き換えに北朝鮮は核開発をやめることになっていたが、みごとにだまされた。

それと同じ状況が、いま現出しようとしている。

このニュースを聞いて気になったのは、日本政府に事前連絡があったのかどうかということだ。私的外遊だからという建前で、おそらくは日本側になんらの通告もなかったのではないか。

アメリカは自国の国益、国家の威信の保持を、当然ながら、最大の行動指針とする。日本ではおよそそういう意識がない。だから、一般にはこのクリントン訪朝を理解できないかもしれないが、国家とはこういう動き方をするものだ。

日米同盟とはいっても、旧ソ連との冷戦が続いていた時代には、日本は盾の役割を果たした。いま、アメリカにとって日本の地政学的な重要性は薄れつつある。

まして、沖縄米軍基地の移転問題など10年たってもまったく進展のないような日本だ。集団的自衛権の行使容認にも踏み切れないのが日本だ。

そういう日本をいざというときに守るべきなのかどうか。アメリカにそうした同盟意識が薄れているのは事実だろう。都合のいい時には日米同盟強化をうたうが、応分の国際貢献にも消極的で、反米・嫌米機運が満ち溢れているような日本を、どこまで守りきる気になるか。

アメリカとしては、テポドンが米本土に届くのかどうかが最大の懸念材料である。核実験の精度が高まって、ミサイル積載可能な小型化に成功したのかどうか。そこをアメリカは慎重に見ている。米政府にとって国家の安全確保が最大の使命だからだ。

これによって、6カ国協議の枠外で、アメリカとの直接交渉を行うという北朝鮮の悲願が達成された。元大統領となれば、最高ランクである。
金正日の面目躍如たるものがある。

こうなったら日本の拉致問題など、もう完全に蚊帳の外である。日本の国際戦略の希薄さを改めて痛感しなくてはならない。

さあ、この「電撃的」クリントン訪朝が、来るべき総選挙で、自民、民主のいずれに有利に働くか。マニフェストで外交・安保の扱いがきわめて乏しかった民主党は、国家運営とはいかなるものか、改めて厳しく認識しなおすべきだろう。

アメリカは自国の安全のためならば、中国とも北朝鮮とも、日本の頭越しで手を結ぶのである。それをいぶかってはいけない。それが国家というもののあり方そのものだからだ。

★花岡信昭メールマガジン★★742号[2009・8・5]から転載。