「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 イスラム諸国を「敵」に回してしまった中国 | 日本のお姉さん

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 イスラム諸国を「敵」に回してしまった中国

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成21年(2009年)7月15日(水曜日)
         通巻第2665号 

 イスラム諸国を「敵」に回してしまった中国
  アルカィーダはマグレブ諸国で『報復』(中国人殺害)を予告
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 全世界のイスラム諸国が立ち上がった。シーア派のイランでさえ中国に対して、やわらかに「調査団」の新彊ウィグル自治区への派遣を主張し始める。
 
 人口の多いインドネシア、トルコでは連日、数万の抗議、とくにイスランブールは十万人の集会が開かれ、これまで中国の顔色を窺ってきたトルコ政府もカディール女史の訪問にヴィザを発給した。
 中国の揚外相はトルコ外相と電話会談して、「あれは外部勢力と結んだ過激派の行動であり、イスラム教徒への差別ではない」と釈明した。
トルコのエルドガン首相が「あれはジェノサイトでは?」とした発言をトーンダウンさせた。

 ところが収まらないのはトルコ議会である。
 トルコは世俗イスラムとはいえ、ちょっと裏町へ入ればイスラム原理主義過激派がうようよいる。政局がかわればイスラムの爆発がある。過激派のテロ事件もかなりの頻度でおこることはエジプトに似ている。
 
 「コーサル・トプタン国会議長はアンカラ駐在中国大使を呼んで『この目で何がおきたかを確かめたいのでトルコ議員団の視察団を受け入れてほしい』と伝えた。中国側は本省に問い合わせると回答を避けた」(トルコの英字紙、ディリーニュース、7月14日)。

 湾岸諸国も調査団の派遣を検討し、米国の議会の一部にも同様の動きがある。
 旧ソ連アゼルバイジャンにも反中国ムードが拡がり、中国大使館へ押しかけたデモ隊から逮捕者もでた。
 西側で最も抗議運動が盛んなのはドイツで、ウィグル組織があるうえ、数万の移民がウィグル人コミュニティを形成しているからだ。

 また「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」は「アルカィーダが北アフリカ諸国で働く中国人を殺害すると予告した」ことを伝えている(同紙14日)。同紙は北京寄りのメディアで、マレーシア華僑の郭鶴年が経営のため、北京への警告ともとれる。

 しかし現実問題として、中国人技術者ならびに労働者は、マグレブ諸国にも溢れており、同時にイスラム過激派アルカィーダの支部が散らばるがアルジェリアが最大の拠点。

 中国のアフリカ援助は建設現場、石油採掘サイトでも、現地人を殆ど雇用せず、プロジェクトが決まると中国人労働者を大量に連れてくるので、新植民地主義、侵略者=中国というイメージがアフリカ諸国では強まっている。

 かくて中国はイスラム諸国を敵に回してしまったかのようだ。
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(宮崎正弘のコメント)貴誌のウイグルに関する皆様のお話を、心を痛めながら拝読しました。
ウイグルに関するドキュメンタリーはつい数日前にドイツWDRが緊急番組で、カデール女史の活動に焦点を当てたドキュメンタリーを流し、翌日にはドイツ語フランス語の文化TV局ARTEが番組予定を変えて、それをドイツ語とフランス語で流したので、私も見ました。
中国人ばかりではないですか!ウイグルの中…。ウイグル人は、小さく息をひそめて暮らしている。中国国内も統治できずして、なぜ、他国を侵略するのか、許せない。
ウイグルのモスリムのバック・グラウンドがトルコということは、昨日のオランダの新聞で初めて知りました。
ですからチベットや台湾の場合より、ヨーロッパは相当ウイグルに肩入れはしています。
ヨーロッパ各国、毎日のトップニュースは、中国のウイグル弾圧から始まり、中国批判が今回は、非常に高まっています。
これが世界各国一致団結して、一大反中国運動・中国弾圧へと発展していくか、或いはUSAや日本政府のように、中国に騙され続けるか(=中国を目先の欲で利用しようとした挙句、逆に侵略されてしまう)、ここが今後、私たちの住む地球が無事でいられるか否かの、大きな分かれ道のように感じています。
ともかく、あまりに酷い。ウルムチの人々は、今、続々と車で国を離れていっています。
   (Hana、在オランダ)

(宮崎正弘のコメント)トルコのエルドガン首相は、「ウィグルは独立するべきである」と公式に発言しました。すると中国は早速「トルコ領内のクルド族も独立すべき」と応酬しましたが。
 「土耳其指示彊独、中国応挺庫爾徳」(多維新聞網、7月14日)。
 (「土耳其」はトルコ、「彊独」はウィグル自治区の独立、、「庫爾徳」(クルド)です)

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(読者の声2)私が朝日を手に取らないのは気分が悪くなるからですが、13日朝の新聞を見ると朝日は「中国を批判せぬ諸外国に失望感 日本のウイグル人組織」の見出しで、13日のウィグル支援の記者会見(外国人特派員協会)をベタですが報じています。
 「?」
 金正雲訪中のスクープを徹底否定した中国政府への意趣返しをウイグル騒乱に絡む事件報道でしているのでしょうか? 
   (NH生、有楽町)

(宮崎正弘のコメント)かの『朝日新聞』の中国報道、ときどき「あれっ!」と思うことがありますね。
 さて解散、投票日の決まった日本の政界。麻生必勝の法則とは。
 じつは簡単なんです。国内的窮地になったときは外交を手段化し、敵を設定して目標化し、いきなり団結力をはかるのです。簡単に言えば、たとえば中国を活用するとすれば、ウィグル人問題をとりあげ、人権で非難する。尖閣諸島の日本帰属を明確化し当該海域に自衛艦を遊弋させて見せる。そして、切り札は八月十五日、おりしも選挙中ですね。靖国参拝。これで麻生さん、復活です。
 やるか、やらないか。男は一か八かの勝負が出来るか、出来ないかで政治家の器量がとわれる。安部前首相は公家のようでしたから出来なかったけれど、やんちゃ坊主なら度胸があるかも。

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(読者の声3) 一昨年、東トルキスタンを訪ねたときは、朝ウルムチ市内を散歩すると共産党幹部らしい4~5人の門番が監視する大豪邸に違和感がありました。
ウイグル人の中年女性ガイドに王楽泉の名を言うと、しかめ面をして何も言わず話題を変えます。15歳と17歳の2人の娘への衣装の着付けや立ち振る舞い等の躾を通じて民族の誇りを植えつけようとしている様が印象的でした。
   (KU生、世田谷)

(宮崎正弘のコメント)その豪邸、どなたの? 王楽泉の官舎ですかね。

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(読者の声4)ある韓国の新聞では、次のような見方です。
 「(ウィグルの覇王とされる)王楽泉・書記は政治的には胡錦濤国家主席の系列に分類される。王書記も胡主席と同様に共産主義青年団(共青団)出身で、90年代にチベット自治区の書記を務めていた胡主席の推薦で新疆ウイグル自治区に赴任した。
 しかし、前例のない大規模暴動で王書記の権威に大きな傷が付いたとの指摘もある。米ニューヨーク・タイムズは11日、胡主席が主要8カ国(G8)首脳会議の日程をキャンセルし、急きょ帰国したのは、今回の問題をめぐる政治局内の対立を防ぎ、窮地に立った王書記を支持するためだったとの見方」
これは宮崎先生の分析と異趣ですね。ご感想は?
   (KF生、山梨)

(宮崎正弘のコメント)書記になる前を含めて合計十七年間、王楽泉は新彊ウィグル自治区にいます。異例の長さです。つまり利権がビルトインされ、動きに動けない、動かせない。ごますりもうまい。赴任期間の半分以上が江沢民時代です。江沢民の反対派だったら、とうに更迭されている筈でしょ? 「団派」出身と言うだけでセクトの色分けは危険であり、王書記が誰に忠誠を誓っているか、江沢民か、胡錦涛か? いやそれとも短絡的にカネだけ?
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樋泉克夫のコラム

   愛国教育基地探訪(18)
      ――「1.4m」が秘める歴史ロマン  

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 今回の河北省の旅でもそうだったが、入場料を払わなければならない観光地の入り口通路や柵には、ほぼ例外なく「1.4米」と書かれた棒や板が立てかけてある。
時に壁に「1.4m」と記されたり、時に丁寧に「一・四米以下児童免費」の説明が書かれていることもある。読んで字の如く、身長1.4m以下の子供は入場無料である。確かに、外見だけでは入場者が大人なのか、子供なのか中学生なのか、はたまた大学生なのか判然とはしない。

 だが1・4mと身長を限れば、年齢に関するイザコザは起こりようがない。
誰の目にもハッキリと見えるわけだから、四の五の文句はいわせない。年齢に関係なく、1.4mより大きければ大人、小さければ小人ということで、簡単明瞭このうえなし。
ならば大人とは人間的な度量とか器が格別に大きいというのではなく、単に背丈が1.4m以上を指すだけ。
なんとも味気ない話だが、万人にとって公平な入場料徴収方法であり、中国人の”合理性の一端”を見事に指し示している事例といえないこともない。

1970年代末には1.3mが大人と小人の境目だったというから、或いは中国では最近の30年ほどで大人の身長が10cm前後は延びた。やはり発展する経済は人民の体格をも向上させたということだろうか。
 この手の簡便な方法を、40年ほど昔の夏に訪れた台湾の田舎町の映画館でも、70年代前半に留学した香港の遊園地でも、80年代後半に住んだバンコクで足繁く通ったチャイナタウンに残る中国田舎芝居の常打ち小屋でも、90年代半ばに遊んだマラッカ海峡に浮かぶぺナン島のチャイナタウンで暇潰しに通った古びた映画館でも経験している。

ということは、万人の否定しようのない公平無比な入場料金徴収方法は現代の中国で行われているだけでなく、中国人のみならず華僑・華人社会でも時と所を問わず一般化している(或いは「いた」)。つまり漢民族共通の庶民文化の一端ということのようだ。

 ところで、この方法が、いつ頃から、どこで始まったのかはよく判らない。
だが、徴税の基準を年齢ではなく人民の背丈に置こうとしたのは秦の始皇帝の治世だったようだ。
 文革の最中、中国各地では遺跡発掘が盛んに行われたが、その背景には中国社会の先進性を内外に示そうという民族主義宣伝臭が色濃くあったことは否めない。四旧打破を打ち出し、旧い中国からの脱却を絶叫していた文革だったが、一方で文革推進派は優れた歴史的遺産を掲げることで民族の偉大さと自らの正統性を内外に誇示することを狙った。

そんな政治的狙いを色濃く秘めた遺跡発掘の一環として、1975年に長江下流に位置する雲夢睡虎地で戦国末から秦代までの墓を発掘しているが、12基の墓の1つである秦代のものから、多くの副葬品に混じって当時の法律を記した膨大な竹簡が発見されている。
これを「雲夢睡虎地秦墓竹簡」と呼ぶ。そこに「男なら六尺五寸(現在の約1.5m)、女なら六尺二寸(約1.4m)が納税の境界で、五尺二寸(約1.2m)を越えたら労役に応じなければならない」と、身長に応じた納税や労役が規定されていた。

 紀元前の秦代なら、庶民の生年月日など正確に記録されていたはずがない。
そこで背丈に着目したと考えられるが、確かに誰にも判り易く納得できる簡便で効率的な徴税基準といえる。
法家思想に基づく始皇帝の合理的な政治手法に「1.4m」の淵源を求めるとして、これぞ温故知新。それにしても軽々には見過ごせない「1.4m」だ。
《この項、続く》

(ひいずみ・かつお氏は愛知県立大学教授。京劇、華僑研究では第一人者)
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<< 今月の拙論予定 >>

(1)「胡錦涛の急遽帰国の真相とは」(『サピオ』7月22日発売)
(2)「ウィグル騒乱と権力闘争」(『月刊日本』、8月号、7月22日号)
(3)「中国・韓国の反日記念館とタイの親日記念館」(『BAN』、7月下旬号)
(4)「唐人ナショナリズムと漢族ナショナリズム」(『エルネオス』、8月上旬発売号)
      ▲
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