大挙して米住宅買いに走る中国人 | 日本のお姉さん

大挙して米住宅買いに走る中国人

大挙して米住宅買いに走る中国人
彼らは“世界経済の救世主”なのか

この10年で富を蓄えた中国人がついにNY、ロサンゼルスなどアメリカ不動産を買い始めた。中国は米国債の世界最大の保有国、その中国が今度はアメリカの住宅のオーナーになろうとしている。

 2月24日、北京発アメリカ行きの不動産買い物ツアーに多くのメディアが注目した。中国人が群れをなして買いに来るのは、アメリカ不動産市場においては初めてのことだからだ。

 中国最大の不動産ウェブサイトである「捜房網」が主催するこのツアーは、中国人の金持ちをロサンゼルス、NY、サンフランシスコ、ボストン、ラスベガスに連れて行き、金融危機で大幅に価格を落としたアメリカの不動産を買わせるというものだ。一体、どんな“富裕層”が参加したのか。北は北京から、南は深セン、広州まで、35~50歳台のニューリッチたちの姿を、「集まったのは民間企業経営者や多国籍企業の管理職、仕入れ目的の不動産人材、参加者の4人に1人はグリーンカードかビジネスビザの保有者だ」と報道は明かす。

米国メディアは
「グッドニュース」と歓迎

 予算は30万~80万ドル。このツアーには5000人が申し込んだが、「実際に買う意思があり、買う能力がある」という条件で512人に絞り込まれ、さらにビザなどの渡航条件に合致ということで絞り込まれた21人が第1陣のツアーを構成した。

 アメリカの住宅市場は壊滅的、390万戸が売りに出されている状況で、50万ドル~100万ドルの予算があれば、抵当流れの物件からコンドミニアムまでが買えると言われている。参加者は2分の1に落ちた戸建やタウンハウスに興味シンシン、だが、投資といえども半数が「アメリカに留学する娘、息子のために」というのが彼らの買い物の特徴で、とりわけ学校へのアクセスには高い要求が出されたという。

 彼らの物色ぶりに辛らつな意見もある。「『子どもをアメリカで育てたいから』とは、いかにも“中国人の親”らしい購入動機。成金丸出しの親バカぶりとしかいいようがない」(上海の有識者)

 ビジネスの成功者が娘、息子の留学のためにアメリカの不動産を買いに来る――、そんな美談に支えられてか、この不動産購入ツアーは歓迎を受け、アメリカの地元政府の高官もわざわざパンダのネクタイを締めて出迎えた。


米メディアも好意的だ。「買うにはいいタイミングだ」、「アメリカの市況は必ず回復する」など、中国人ツアー客のコメントを載せたCNNやabcNEWSなど現地の媒体は、これだけ壊滅的状況に陥ったアメリカ不動産市場に、中国人投資家が豊富な現金とともに流れ込んでくるのは「グッドニュース」だと評価する。「中国人は賢いね」、「歓迎だわ」などの現地市民のコメントを挟み込むなどして、11日間の「ショッピング」を前向きに取り上げた。

 2月25日の「上海証券報」は「中国人もついに海外不動産市場を転がすようになった」とコメント。ここ数年で膨張した中国の住宅市場、世界経済のスローダウンの影響で価格が下落したと言いつつも、アメリカほどに落ちないことから、「投資先を失った資金がアメリカ住宅市場に向かった」と受け止めている。

 結果的に、このツアー第1陣では、成約まで至ったケースはなかった。その原因として、物件にそれほどの魅力がなかったこと、マスコミが騒ぎ立てたり、個人情報が漏洩するなど買い手にとって不利な状況が存在したことが伝えられている。だが中国人による米不動産買いは、今後大きな奔流となっていくはずだ。


一方で買われる側に
中国人への警戒心も

中国人によるアメリカ不動産の購入について、エコノミストの田代秀敏氏はこうコメントする。

「中国は米国債の世界最大の保有国、言ってみれば米国に対する最大の債権者。中国が(米国債の)担保代わりに優良不動産を寄越せと言っているのと同じようなものです」。そしてこう続ける。「彼ら中国人が買った不動産の売り抜け先は、中国国内と見るべきでしょう」。時期が到来したときに中国共産党がそのカードを切り、中国国内のしかるべき先がそれを引き受ける、つまり、中国人金持ちを経由してまんまと不動産を手に入れるという筋書きだ。

 アメリカ側にも、中国人相手に積極的に不動産を売ろうとする動きがある。「アメリカ人と中国人は好朋友(いい友達)」―と語るのは、ライオンズプロパティ・デベロップメントグループ(本社:NY)の創設者Chaim Katzap氏。

彼は08年9月、北京市内のビルにオフィスを開き、中国のニューリッチに向けたアメリカの高額不動産商品の販路を開拓中だ。目下、平米単価6万元(約84万円、1元=約14円)でマンハッタンのビル3棟を売り出している。昨年だけですでに200人の中国人が、彼を経由してNYに見学に行ったと言う。アメリカだけではない。ロンドンの不動産会社もまた中国人のバイイングパワーに注目。ロンドン中心街のおよそ1200ポンドの住宅の販売代理を始めた。(「第一財経日報」)

 買われる側のアレルギー反応もある。米メディアの歓迎ぶりに水をさすかのように書き込まれたのは次のようなコメントだ。「トロントでも20年前に同じようなことがあった。中国からの合法、非合法の移民が押し寄せ、結果として劣悪な労働条件の工場を増やし、数十億ドルもの金を送金するアンダーグラウンド経済をもたらした。現金を持つ香港の富裕層の投機買いで不動産市場は骨抜きにされた」。

 04年前後、同じことが上海でも起きた。商売上手な浙江省温州人がその豊富な資金をして転がしたのが上海不動産。フロア買いや1棟買いで上海の不動産市場に「平米単価5万円超」の物件を出現させたのも彼らだったが、05年には投売りをはじめ再び市場を狂わせた。上海市民からは「手の届かない不動産市場にした元凶だ」といまだに恨みを買っている。

 一方で、ダイエーがアラモアナショッピングセンターを、三井不動産がハレクラニホテル、三菱地所がロックフェラー・ビルを買収したように、バブル景気の80年代は多くの優良不動産の名義が日本企業に変わった。「世界の優良不動産をその時代、その時代の金持ちが所有するのは、世の流れともいえる」(前出の田代氏)。

 4月2日の「第一財経日報」には、これら一連の不動産購入の動きに「中国の需要が世界を救う」のタイトルが踊った。本当に中国は救世主になれるのか。「そもそも、中国では自由な資本移動が認められていない。資本の移動が自由化されていない。人民元はハードカレンシーではないし、たとえ米ドルだとしても持ち出し規制がある。そのため、カネの流れは地下に潜るし、実際に彼らが不動産をどうやって買うのかが見えてこない」と経済記者は見る。「ツアー参加者も中国政府によってお墨付きを与えられた人物だろう」(同)。

 3月末、奇しくも筆者は上海の百貨店で「中国語版モノポリー大会」を見学した。NY、ロンドン、東京――。土地やホテルを買占め、自らが世界に君臨しようとゲームに熱狂する中国人。その背中に、現実の「今」が重なる。

http://diamond.jp/series/china_report/10024/?page=3