【世界の新聞「101紙」の視点】
独断と偏見はご容赦!
【最近の社説の、ここに注目】
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タイにおける混乱について、最近の社説から見てみる。
国内紙の他、タイのメディア「ネーション」紙の社説からも引用した。
朝日。
『タイ当局がなぜ有効な規制を行えなかったのか理解しかねる。』
『そもそも一連の首脳会議はタイの政治混迷によって昨年末の開催を持ち越したものだ。開催国として中止は大きな失態だと言わざるをえない。』
『今回、不況脱出の先導役を期待されるアジアがどう足並みをそろえるのか、注目されていた。』
『会議の中止によって金融市場にすぐ混乱が広がるとは思えない。しかしその影響を過小評価してはなるまい。』
『米国発の不況の波が世界に広がった昨年秋以降、アジア首脳は一度もこの問題について全体的な討議の場を持ちえていない。』
『日中韓がASEAN支援策を持ち寄って議論を戦わせるどころか、アジアは自らの声を国際社会に発信する場をまた失うことになった。』
『タイの反タクシン派とタクシン派との政治対立は深まるばかりだ。』
『この事態で、アピシット政権のかじ取りは一層難しくなるだろう。』
『アジアが直面するのは経済不況だけではない。ミサイルを発射した北朝鮮や、軍事政権の支配が続くミャンマー(ビルマ)に加えて、人身売買や麻薬問題、地域紛争など、解決を急がねばならぬ課題を抱えている。』
『首脳会議の中止によってタイの信頼は失墜した。しかしそれ以上に深く傷ついたのは、アジアの安定と発展のイメージである。関係国は信頼回復の取り組みをすぐに始めねばならない。』
産経。
『タイにとっては昨年12月の同首脳会議延期に続く不祥事であり、国際的信用の失墜は計り知れない。政治的対立の打開と収拾が急務である。』
『今回は元首相タクシン派(中略)がアピシット首相の退陣を求めたデモ。
昨年(中略)は、反タクシン派(中略)の国際空港占拠などによる混乱が原因で、ちょうど反対の構図である。』
『従ってこの対立に終止符が打たれない限り、混乱の再燃は免れないだろう。』
『微笑(ほほえ)みの国・タイではこれまで王室と軍の存在が非常事態発生への最後の歯止めとなってきた。』
『共に「民主」の名を掲げた今回の運動は皮肉にも民主化の進展の側面もないではない。しかし、民主化は暴力ではない。』
『経済的には途上国を卒業したとも言えるタイは、より成熟した社会を目指して政府、反政府派とも冷静に対応すべき時だ。』
『今回の事態が及ぼす影響はタイのみにとどまらない。まずASEANへの
影響が深刻である。』
『昨年、ASEANは初めてASEAN憲章を発効、機構としての体裁を整え、2015年をめどに政治・安保、経済、社会・文化を3つの柱とする共同体を目指している。また現下の金融危機にも一層の協力が不可欠だ。』
『内政不干渉の原則に逃避することなく、加盟国にはASEAN創設以来の危機との認識が必要ではないか。』
『日中韓米などいわゆる関係国にもこの混乱は見過ごせない。』
『とりわけ日本はASEANとの関係を「戦略的パートナー」と位置づけ重視してきた。(中略)ASEANの安定と繁栄は日本にとっても同義語と言ってもよいのである。』
『日本の外交力はこうした時こそ発揮されねばならない。対ASEANを重視する日米など主要関係国が先に新設したASEAN担当大使の枠組みを生かすのも一法であろう。』
『タイは現在、ASEAN議長国を務めている。タイ当局は内外への責任を自覚し、早急な事態収拾を図ることが望まれる。』
東京。
『影響はもはやタイ一国では済まない。暴力の応酬を即時に止める手だてを尽くしてほしい。』
『攻守入れ替わっただけの構図で、この半年近く、混乱の収拾に向けて何ら進展していない。』
『タクシン元首相の貧困救済策を今も支持する農村部と、経済発展で生活にゆとりができ、元首相の金権ぶりを批判する都市部との国内の格差は確かに深刻だ。』
『しかし、国民の多くは長引く混乱に危機感を抱き、安定を願っている。』
『タクシン派、反タクシン派ともデモ隊に中心となって加わるのは一部の支持者にすぎないが、双方の政治家たちが権力闘争に利用してきたのが元凶といえる。』
『タイの政治家たちが国民に平静を呼び掛け、自ら話し合うしか道はない。民主主義の基本である総選挙を実施し、国民に信を問うのも選択肢の一つだろう。』
『東南アジアの盟主としての自覚を忘れないでほしい。』
日経。
『タイの国際的な信頼は地に落ちた。信頼を取り戻すため、アピシット政権は断固として秩序回復につとめるしかない。』
『もともと今回の会議は昨年暮れにタイの首都バンコクで開く予定だった。しかし当時バンコクでは反政府デモが盛り上がっていたため、延期したうえでパタヤで開くことにした経緯がある。』
『要人たちの安全確保のためにも、万全の警備体制を敷くのが当然だったはずだ。』
『それだけにタイ政府、特に警察当局の対応は理解に苦しむ。』
『タイ暦の正月を控えて「デモは盛り上がらない」との甘い見通しがあったとすれば、政府、当局が緊張感を欠いていたと言わざるを得ない。』
『「デモに厳しく対応できない弱みがアピシット政権にはある」との指摘も出ている。』
『昨年、バンコク国際空港などを占拠して当時のソムチャイ政権を崩壊させたのはタクシン元首相に反対する勢力で、野党の党首だったアピシット氏は反政府活動に同情的だった。』
『就任後、アピシット首相は訪問先の日本などで法秩序の回復につとめると強調したが、実際には反タクシン派の違法行為への処分は停滞している。』
『そのためタクシン派による今回のデモに対しても断固とした姿勢を打ち出せなかったという。』
『タクシン元首相を支持するかしないかで国が分裂し、いずれの勢力が政権についても反政府デモが繰り返される状況は悲劇的だ。』
『昨年来の騒動は主力産業の観光業界に打撃を与え、外国企業の投資意欲をそいでおり、世界不況による景気の衰退に拍車をかける結果となっている。』
『アピシット首相は口先だけでなく、タクシン派、反タクシン派を問わず違法行為を処罰し、行動で秩序回復を進めるべきだ。国外から反政府デモをあおっているタクシン氏は、タイの国益を考えるべきだろう。』
『タイは日本企業にとって重要な投資先で、政治・社会の混乱は日本の国益を損なう。日本政府は激励の意味を込めてタイ政府に苦言を呈することも必要ではないか。』
毎日。
『信じ難い不祥事というほかはない。』
『今回の会議は、ロンドンで開かれた金融サミット(G20)を受けて、「アジアで何ができるか」を話し合うという重要な意味があった。』
『このような政治的、経済的なチャンスを雲散霧消させてしまった悪影響が、東南アジア全体に広がりかねない。タイの責任は極めて重いと言うべきだろう。』
『一時は衰退の雲行きだったタクシン派が勢いを盛り返した。権力闘争の中で何が起きたのかは判然としない。国民に敬愛される王室が、どういう立場なのかも不透明だ。』
『ただ、空港占拠の余波で延期された今回の一連の会議を、アピシット首相が政権浮揚のテコにしたいと考え、タクシン派はこれを妨ごうとしたという構図は、ほぼ間違いあるまい。』
『騒乱の悪影響は計り知れない。空港占拠でひどく傷ついたタイの国際的イメージはさらに失墜した。』
『ASEANの中でタイの影響力は長期的に高まり、発言力が増す傾向にあったが、これも低落を免れまい。』
『タイは名誉回復のためにも、泥沼状態の政治的混乱を速やかに収拾すべきだ。この際、改めて選挙で民意を問えばどうかという意見も、国民の間にはあるのではないか。』
読売。
『アピシット首相にとって、文字通りの“非常事態”である。タイの国際的イメージダウンを払拭するためにも、一刻も早い事態の収拾と混乱の拡大防止が急務だろう。』
『ASEAN史上でもまれな異常事態である。』
『混乱は事前に予想されており、警備体制に不備があったことは明らかだ。発足してから4か月のアピシット政権の失態だ。』
『旧財閥や都市部住民のほか、軍部や国王の暗黙の支持を受けているとされるアピシット政権側と、新興財閥や貧しい地方の農民を支持基盤にするタクシン元首相派との権力抗争が、終息する気配はうかがえない。』
『海外亡命中のタクシン氏は、力を失うどころか、国王側近のプレム枢密院議長を名指しで批判するなど、最後の攻勢に転じている。タイ式民主主義は、先行きが全く不透明な状態だ。』
『タイ経済が、頼みの輸出の不振であえぐなか、アピシット政権は減税や貧困者対策などを矢継ぎ早に実施している。これが好感されているのか、国民の支持は6割を上回っている。』
『こんな時期に、国内政治が再び大混乱に陥っていては、海外からの投資離れも含め、不況脱出の時期はますます遠のくばかりだ。』
『タイは今年、ASEAN議長国である。7月には定例外相会議が、年末には東アジア首脳会議などが予定されている。事態混乱が長引けば、タイ国内での開催は難しくなるだろう。』
ネーション。
『タイはひどく面子を失った。』
『アピシット首相の指導力が損なわれただけでなく、タイ全体が恥をかいた。』
『首相は首脳会議のかなり前から、バンコクとパタヤで抗議者を阻止するためもっと大胆に行動すべきだった。首相が非常事態を宣言したのは、デモ隊が既に会場を襲った後であり、遅すぎた。』
『赤いTシャツ姿のタクシン支持者たちは、反タクシン派が昨年、バンコクの2空港を占拠した際には、タイに打撃を与えるものと非難していたにもかかわらず、同じ恥ずべき戦術をとることを決めたのだ。』
『中国、韓国、日本の外相はホテルを出ることができず、予定された外相会談は取り消しになった。すると、抗議者の1人は記者会見を開き、勝利を宣言してタイをさらに困惑させた。』
『指導者の1人は、会議中止を歓迎し、被害は会場のホテルのガラスが割れただけだった、と述べた。彼らは正気なのだろうか。』
『彼らは、タイの評判を完全に失墜させただけでなく、タイの民主主義もさらに危険にさらした。』
『首相が、彼らをタイの敵と呼んだのは正しい。首相は今後、法の支配と秩序を回復するため、もっと大胆かつ断固とした態度をとるべきだ。』
『不幸なことに、タクシン支持派の指導者たちは、ホテルのガラスを壊したこと以外に、単にタイだけでなく、アジア地域の人々の抱える問題を解決するため地域として協力する努力にも打撃を与えたことを認識できていない。』
『タクシン氏の支持者たちは、タイの国益を常に考える代わりに、一個人の個人的問題のために戦うという非常に無分別な選択をしたことを示している。』
『今回の会議中止は多分、ASEANの首脳会議の歴史で最悪かつ最も深刻な事態だった。他のASEAN諸国は、このような事態が起きることを許さないであろう。』
『特にこの会議中止は世界に報じられたため、タイがその信用を以前のレベルまで回復するのは容易ではない。』
『ASEANと東アジアの首脳たちはタイ政府への連帯と信頼を示すためタイへやってきた。しかし、タイ国民が、首脳たちの善意と努力を完全にぶち壊したのである。』
日本紙でもタイ紙でも、その見解はおおむね一致しているようだ。
しかし、日本の新聞が、アピシット首相やタイ当局の責任を重く見ているのに対し、ネーション紙では「国民が悪い」としているように見受けられる。
ちなみに、ネーション紙の社説表題も、『国民に再び裏切られたタイ』だ。
ネーション社説文面では、国民の中でもとりわけ「タクシン支持派」を非難しているように受け取れる。
しかし、「ウィキペディア」によれば、ネーションを抱える「ネーション・マルチメディア・グループ」は、『タクシンの主催するタイ愛国党の幹事一族が筆頭』とされている。
その後、グループの運営者に何か変化があったのだろうか。
ネーション紙の「立ち位置」が気になるところだ。
日本国内紙の多くが、「タイが何とかしろ」との論調だが、産経紙には
『日本の外交力はこうした時こそ発揮されねばならない』
日経紙には
『日本政府は激励の意味を込めてタイ政府に苦言を呈することも必要ではないか』との一節がある。
「日本に何ができるか」という視点は、個人的に好感が持てる。
(桐鳳)
【編集後記】
タイ。
数年前に、観光旅行で訪れたことがあります。
「トゥクトゥク」の運ちゃん連中にボラれかけたりもしましたが、食事もおいしく、とても楽しめました。
現地ガイドさんの日本語がとても上手だったことも印象的です。
ただ、熱くなるときはかなり熱くなってしまうお国柄のようで、今回のような混乱も、さもありなんといった感があります。
余裕ができたら、また行ってみたいです。
混乱が収まるよう、祈っております。
(桐鳳)
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