『アン・ヨンヒの韓国レポート』 第255回 | 日本のお姉さん

『アン・ヨンヒの韓国レポート』 第255回

韓国では、女優が所属事務所の性接待や虐待を苦に

自殺しても、全然、追及しないようだ。

残酷な事に慣れきっているのではないか?↓

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JMM [Japan Mail Media]   No.523 Friday Edition
 ■ 『アン・ヨンヒの韓国レポート』 第255回

「WBCと芸能界残酷物語」

 3月7日夜、日本の東京ドームではWBCの予選(日韓戦)が行われた。ちょうどその頃筆者は、寒風の中毛布に包まり300インチのモニターを凝視する人たちの表情を見ていた。モニターには東京ドームでの試合が生中継されていた。世界的な試合があると大規模な街頭応援をする韓国人を取材しようとしていたのだ。しかし、今回は当てが外れた。人が集まるどころか、応援する人の数よりその人たちを取材しようと集まった取材陣の数の方が多い。

 第一回のWBCは、2006年に行われ日本が優勝した。予選での日韓戦では日本に勝った韓国は優勝できなかったのでとても印象深い大会だった。韓国はこの時も応援はヒートアップした。本大会では、KBO(韓国野球協会)がスタジアムを無料公開し、球場のモニターに映る試合模様を見ながらの大規模な応援に発展した。2006年といえば、4年前の日韓共催のW杯で街頭応援が大規模なものとなり、韓国文化として定着し始めたこともあり、WBCの時もその勢いがあった。だが、今年は勝手が違った。

 韓国にも野球ファンはたくさんいて、当然世界的な試合に関心はある。だが、前年の米産牛肉輸入反対デモが尾を引き、「街頭での集会」=「デモ団体」という図式が成立していた。最初は純粋な気持ちでデモに参加していた人たちが多かったが、少しずつデモを煽動しそれを政治的に利用しようとする「デモ専門家」たちが出現することによって、市民たちは嫌悪感をおぼえた。つまり、昨年の集会が長すぎて、外にあまり出たがらない。次に、WBCの放映権料が高すぎて地上波で生中継されない可能
性が高くなり、中継もないのに街頭応援はできないと応援団たちがあきらめていたこと。これに関しては、予選前日、劇的に地上波での生中継が決定した。だが、WBCは大型スクリーンに関しても高額の放映権料を求めたので、結局「現代アイパークモール」というデパートだけがそれを独占的に流せる権利を得た。とにかく、生中継が直前に決まったことや中継する大型モニターがデパートの屋上ということ、それに気温は零下と最悪なコンディションでデパートの屋上に設けられた1500の観客席はガラガラだった。

 筆者は7日(土)の日韓戦の応援を見に行った。デパート側は、前日設けた1500席がガラガラだったため100席に減らした。前日もこの日も夕方になると急激に冷え込み気温は零下という寒さだった。席の回りをビニールで囲い、ところどころに縦型ストーブも設置した。さらにひざ掛けを無料で配り、キャラクターのぬいぐるみまで投入して場を盛り上げようとしていた。それでも、集まったのは80人足らず。
一生懸命応援するというよりは静かに観戦する雰囲気。テレビ的にいうと、はでな動きのないつまらない映像が続いた。そればかりか、この日韓国チームは日本チームにコールドゲーム負け。回を重ねるごとに帰宅する人たちが目立ち、最終的に残ったのは15人ほど。取材スタッフの方がずっと多かった。視聴率も人気ドラマに負けていた。

 翌日、起きてネットにアクセスすると、大きな見出しで「花より男子」で出演したチャン・ジャヨンさんの自殺が報じられていた。つまりWBCの結果はとても小さく扱われていた。この時は、自分の興味がWBCにあったので、この自殺が後に芸能界全体を揺るがす序曲になるとは思ってもみなかった。昨年から芸能人の自殺が相次ぎ、それが思ってもいない事件へ流れていったことを忘れていたのだ。

 今韓国のトレンディードラマで一番人気があるのは、「花より男子」(日本のマンガが原作)だ。F4役のイケメンたちが女性たちを魅了し、30%以上の視聴率を記録している。彼らは新人ながらCMに引っ張りだこだ。今回自殺した女性タレントは、つくし役(ヒロイン)をいじめる悪女役の一人。ドラマの後半では出演しないのだが、まだ新人で人気ドラマの準主役だったので、なぜ自殺するのか意外な気がした。
通夜には、続々と「花より男子」のメンバーがかけつけ、ワイドショーは色めき立った。

 彼女が自宅で首をつって死んでいたのを見つけたのは彼女の姉。警察の調べでは、遺書はないが、他殺の痕跡もないので自殺と断定した。しかし、翌日から「彼女の心境を告白した文書と録音テープがある」と、側近が伝えた。側近とは、彼女の所属事務所の元マネージャーだった。文書は直筆で彼女の拇印があるという。一体そこには何が書かれているのか、彼は遺書を公開すると家族に迷惑がかかるので、全部を公開することはできないが、彼女を自殺に追い込んだ人がいるので、その人は罰せられる
べきだと主張した。これに対し、警察は「彼女の死は明白な自殺であり、事件性は認められないので捜査しない」と発表した。

 韓国の芸能界では、芸能人のかばん持ち兼運転手として働いていた人が、担当していた芸能人を連れて独立することがよくある。担当していた芸能人が大物になればなおさらのこと。多くの事務所を知っているわけではないが、芸能人の担当マネージャーだった人が次に会ったときは芸能プロダクションの理事や社長になっていて、以前の事務所は大物俳優を逃したことで消えていったことが何度もあった。今回の事件には、入れ替わりの激しい韓国の芸能事務所の実態やそれと関連し、所属事務所を鞍替
えする芸能人の裏事情が絡んでいる。文書を持っていた元マネージャーのユ氏は、すでに他の事務所を立ち上げ、以前の事務所にいた大物タレントをほとんど引き抜き、前事務所には一人しか残っていない。

 ユ氏がマスコミに公開した文書には芸能界残酷物語ともいえる、闇の部分が書かれていた。事務所の社長が強要する酒の接待や夜の接待、部屋に閉じ込めての殴打、罵詈雑言、担当マネージャーへの給料はタレントが自腹で払うなど、衝撃的なことである。また、接待相手に関しては実名で書かれているので、芸能界の外へ波紋が広がる可能性がある。これは、遺書というよりは、所属事務所を告発するための内容証明だという。それにしても、昨年芸能界の裏話を題材にして大ヒットしたドラマ「オンエア」の一部の内容とも酷似している。

 マスコミが騒ぎ出し、人々の関心が集まると、最初は自殺に口出しはしないと突っぱねていた警察も重い腰を上げ、この文書の真偽から捜査することになった。そして、文書を所持していたユ氏を参考人として調べた。しかし、出頭したユ氏は、文書の内容に関して全く口を開かず、帰宅してから自殺未遂で病院に運ばれた。故チャン・ジャヨン氏の所属事務所の社長は現在日本におり、マスコミとの電話インタビューで、文書に関してはユ氏が作成したものだと主張している。これでは益々ミステリーが深まるばかり。

 韓国放送映画公演芸術人労働組合は3月16日、故チャン氏の自殺と関連し、「検察は事件を厳重に捜査し、実態の真実を明かしてほしい」と徹底した真相究明を促した。17日警察は、拇印とサインのある文献の筆跡を韓国科学捜査院で鑑定した結果、「故チャン氏の直筆である可能性は高いが、入手した文書がコピーだったため確かではないと発表した」。それまでは、文書にある人たちの実名が書いてあるので、直筆が確認されれば彼らを召喚し、取り調べると意気込んでいた警察だったので、故チャン氏の文書が芸能界および有力者たちの「デスノート」とも呼ばれた。が、真相はいまだ究明されない。真相を知る故チャン氏は、「死人に口なし」である。

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Younghee Ahn(アン・ヨンヒ)
韓国生まれの韓国人。小学4年から高校1年まで大阪在住。韓国外国語大学同時通訳大
学院日本語修士課程卒業。同時通訳からスタートして、現在は会議通訳、及び、韓国
梨花女子大で、日本語の講師も務める。著書に『シナブロ(知らぬ間に少しずつ)』
(小学館)(
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