「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 ナチスと「靖国」は、これほど違う!
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成21年(2009年)3月13日(金曜日)貳
通巻第2524号
~~~~~~~~~~~~~~
ドイツの現代政治は二大政党が機能するが、政治家の質は劣化
迷妄ドイツを一刀両断する爽快さと未来への憂鬱さを併記
(評 宮崎正弘)
♪
川口マーン惠美『日本はもうドイツに学ばない?』(徳間書店)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
小生のようにドイツを知らず、漠然とした技術大国=ドイツの印象を身勝手に抱いてきた者にとって、この評論集は新鮮な驚きのパケッジであり、あのメルセデス・ベンツをつくる器用なドイツ人が、他方では奇妙な思考体系をもつことなど想定外のこと。またドイツおよびドイツ人の意外な側面を知り、本書はとても有益である。
一般的に日本人のドイツの印象は良い。いや、良かった、と過去形で書くべきだろう。
森鴎外が留学し、伊藤博文はプロシア帝国憲法を範にとって明治欽定憲法を起草、制定した。ゲーテ、トーマスマン、ヘルマンヘッセ、ワグナー。
手塚富雄、高橋義考という人たちの名訳でドイツ文学にしたしみ、西尾幹二の新訳でニーチェに親しむことができだ。三島由紀夫も第二外国語はドイツ語だった。
ところが現代日本ではドイツがまるで語られなくなった。
大学ではドイツ語を第二外国語に選択する学生は稀となり、中国語へ語学ブームは移った。
ドイツ政治を分析する論客も目立って減少した。
日本の戦後政治は混沌としてきたが、ドイツもご多分に漏れず混沌そのもの、いや東西ドイツ統一以後は、旧東ドイツの貧困を旧西ドイツが吸収し、そのためドイツの経済優等生の質が劣化した。さらには欧州通貨統一によって、ドイツ経済は中国に抜かれるほどに疲弊した。米国、日本に次ぐGDP世界三位は北京が獲得した。
ドイツにも政治家の右往左往、右顧左眄、売国奴の跳梁跋扈があり、構図的にいえば、ちょうど日本に売国的媚中派と保守派とに二分され、さらにその保守が真性保守、体制保守、偽装保守などに細分化されるように、ドイツの政治は、ロシアの利益と通底する二流の政治家がいる。
言うまでもなく売国奴的政治家とは、シュレーダー前首相である。
川口さんは舌鋒鋭くこう批判する。
「シュレーダーは首相在任中、毎年中国を訪れたが、当地では、徹頭徹尾相手の嫌がることには口を噤み、大型商談をまとめることだけに心を尽くし、中国人のやんやの喝采を浴びて満面の笑みを浮かべているのが常だった。そして、このシュレーダー外交を、官邸で、裏からしっかり支えていた」男が、後述するシュタインマイヤーというニヒルな政治家だった。
戦後、アデナゥワーは米国と協調したが、ブラント政権で東方外交へ急傾斜をはじめた。そしてブラントの個人秘書は東ドイツのスパイだった。
後継シュミット時代に「ドイツ経済は完全な停滞状態にはいったしまった。それを引き継いだのがCDUのコール首相。行き過ぎた福祉にブレーキをかけ、19990年には華々しく東西ドイツを統一下」(本書140p)
だが、いまやドイツ統一の偉業をなしとげたコール首相は顧みられず、現首相メルケルへの罵詈雑言が左派からなされる。仕掛け人は現連立政権にありながら次期首相の座を虎視眈々と狙うシュタインマイヤーらSPDの面々である。
現ドイツ政権は左右大連立で「十五の大臣のうち8つがSPD」。外交を取り仕切るのは左派なのである。
▲ナチスと「靖国」は、これほど違う!
日本との比較で二点、異なるポイントがあると川口さんは指摘する。
「ドイツには日本とは決定的に違う二つの負い目がある」、それは「ホロコーストと戦時賠償未払い」
東方外交をすすめたブラント元首相はユダヤ人慰霊塔に跪き、ヒトラーを擁したドイツ軍がなした狼藉を謝罪したが、「ヒットラーの率いたドイツと自分とを同一視していない」。
いや一般的にも「ドイツ人政治家の謝罪はヒットラーが起したことに対する謝罪であり、自分や国民の罪に対するものではない」。
つまり「親族に人非人がいたことに対する悲しみの表現のようなものであり、つまり『あいつのしたことは本当に悪いことだった。恥ずかしい、許してくれ』と誤っているのだ。日本は幸いなことに、あとにも先にも身内にこのたぐいの人非人を持たなかった」(本書73p)。
本書にはホーネッカー(旧東ドイツの独裁者)が、旧東ドイツ市民が秘密警察に監視されつつ、生活がうまく行かずモノもなく、途端の苦しみを味わっていても、一人だけ核戦争にも生き残り、モスクワへ逃げる場合に備えた豪華な核シェルターを築いた事実が暴かれる。その妄想ともいえる塹壕が、ドイツ統一後、埋められる前の見学ツアーが行われ、川口女史はでかけて、壮大な無駄と独裁の虚無を見いだす。
それにしても直撃取材のフットワークの良いこと!
また“ドイツの良心”などと左翼ジャーナリズムに持て囃された“ドイツの大江健三郎的な作家”ギュンター・グラスが青年時代はナチの「太鼓持ち」だったこと、シュレーダー前首相がプーチンの代理人のごとき政治屋ロビィストであること、ダライラマとの関係でベルリンが北京へ頭を下げるのも、日本と同様であり、北京とはビジネスさえ旨くいけば中国に叩頭しても構わないと考えているのがドイツ人の大半であること等々。
次々と暴かれるドイツの真相を知れば知るほどに、表題のようにドイツに学ぶことなんぞ、もはや無いという結論が出てくるのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
♪
樋泉克夫のコラム
――やはり君たちの目も節穴でしかなかった、ということだ
『中國の顔』(野間・亀井ほか 社会思想研究会出版部 昭和35年)
△
昭和35年5月30日、野間宏、亀井勝一郎、松岡洋子、竹内実、開高建、大江健三郎、白土吾夫の7人からなる日本文学代表団は「インド国際航空機に登場して、ネオン瞬く東京から香港へと飛び立った。
日本の安保反対運動、南朝鮮の李承晩政権打倒、トルコのメンデレス政権反対デモ、アフリカの民族独立運動、キューバの反米闘争、ラテン・アメリカの民族独立運動、米U2型機の対ソ・スパイ飛行、東西首脳会談の決裂等々、うずまく世界の潮の中をスーパー・コンステレーション機が進む」。激動する国際情勢の中での訪中。「ネオン瞬く東京」などというレトロな表現に、却って一行の高揚した気分が感じられる。
以後、6月6日の「(香港より)英国海外航空機で東京着」までの40日弱。彼らは北京、上海、蘇州、広州などを回り、各地で「中国の人民、労働者、農民、学者、文学者、政治の中心にある方々すべての人々から心のこもった歓迎を受け、日本の安保反対のたたかいにたいする大きな支持を得ることが出来た」。
だが招待したのは中国人民対外文化協会に中国作家協会だ。中国側の政治的意図は明白。所詮、代表団は猿回しの猿にすぎなかった。
6月21日は旅行のハイライトともいえる毛沢東との会見である。
緊張する一行を前に、毛は「日本のような偉大な民族が長期にわたって外国人の支配をうけるとは考えられない。日本の独立と自由は大いに希望がある。勝利は一歩一歩とえられるものであり、大衆の自覚も一歩一歩と高まるものである」と檄を飛ばす。
かくて7月1日の送別宴は、「日本人民の安保反対闘争、ハガチーの来日、アイゼンハワーの訪日中止、岸の退陣声明など、激変する日本の政局、世界の動きの中で、ささやかではあったが、日本文学代表団のはたした役割は永久に日中文化交流史の数ページを飾るであろう。再見、再見と繰りかえし握手をかわし、いつまでも去りがたい」ものだった・・・そうだ。
だが日本では、6月15日に全学連主流派が国会突入の挙句に女子東大生が死亡し、18日には安保条約は国会で自然承認されていた。
つまり一行の政治的原則に立つなら、明らかに安保闘争は敗北であり、「再見、再見と繰りかえし握手をかわし、いつまでも去りがたい宴」などという甘酸っぱい子供じみた感傷に浸っていられる情況ではなかっただろうに。
「中国革命が成立してから十年、私はちょうどいい時に中国へ来たと思った」という亀井は、「毛沢東のような人物は再びあらわれないだろう」と感歎の声を挙げる。
松岡は「根の深かった外国勢力の支配、戦争、内戦、腐敗、甚だしい貧困、飢饉という絶望的にみえた悪循環をよくもこう短期間に打ち切ったものだ」と深く感心し、団員中最も若かった25歳の大江は「僕がこの中国旅行でえた、最も重要な印象は、この東洋の一郭に、たしかに希望をもった若い人たちが生きて明日にむかっているということだ。・・・ぼくらは中国でとにかく真に勇気づけられた。・・・一人の農民にとって日本ですむより中国ですむことがずっと幸福だ、とはいえるだろう」と中国を讃える。
中国側の政治的狙いはドンピシャだ。
だが、毛沢東が推し進めた大躍進という人災によって当時の中国、殊に農村部は絶望的な飢餓地獄に陥っていた。
とてもじゃないが「一人の農民にとって日本ですむより中国ですむことがずっと幸福だ」などと口が裂けてもいえなかったはず。やはり日本文学代表団の目は節穴だらけ。
アゴ・アシ付の超豪華・無責任ツアーだ。
人騒がせな話である。
《QED》
~~~~~
日本保守主義研究会より、講演会開催のお知らせです。
「宮崎正弘先生講演会のお知らせ」
サブプライム・ローン問題に端を発した金融危機の中、新たな大統領にオバマを迎えた大国アメリカが今後世界に与えていく影響とはいかなるものか?
他方で、いま一つの大国、中国はアメリカ一極主義が崩壊しつつある中どのような動きを見せるのか? そしてこれら両大国にはさまれた日本は外交・内政、政治・経済それぞれにおいて何をなすべきか?中国ウォッチャーとして名高い宮崎正弘先生が、目まぐるしく変化する世界情勢を大胆にかつ鋭く分析する!
日にち:3月20日(金・祝日)
時間:14時開会(13時半開場)
講師:宮崎正弘先生(国際問題・中国評論家)
演題:「激動の世界情勢を読み解く~中国・アメリカそして日本」
場所:杉並区産業商工会館(杉並区阿佐ヶ谷南3-2-19)
アクセス:JR中央線阿佐ヶ谷駅南口より徒歩5分
※中杉通りを南に向かい、フレッシュネスバーガーの次の信号を右折
東京メトロ丸ノ内線南阿佐ヶ谷駅より徒歩5分
※中杉通りを北に向かい、フレッシュネスバーガー手前の信号を左折
会場分担金:3000円(学生無料)
本メルマガより事前申込みを頂いた方は3000円を2000円に割引するハガキをお送りします。参加申し込みはこちら↓
http://form1.fc2.com/form/?id=398503
○○○○○
三島由紀夫研究会の次回「公開講座」の御案内
ケント・ギルバート氏を招いて「私の卒論もミシマ・ユキオだった」
http://mishima.xii.jp/koza/index.html
弁護士、タレントとして活躍のケント・ギルバートさんを招いての公開講座です。
ケント氏がたいへんな親日家であることはご承知の通りでしょうが、卒論がミシマ・ユキオだったのです。そのあたりから日本文化と米国文化の違いなどを雑談もまじえて語っていただきます。
記
とき 4月24日(金曜日) 午後六時半(六時開場)
ところ 市ヶ谷「アルカディア市ヶ谷」四階会議室
講師 ケント・ギルバート
演題 「私の卒論もミシマだった」
会費 2000円(会場分担金として)。賛助会員ならびに学生=1000円
事前予約の必要はありません。
なお終わってから懇親会があります。別途会費3000円を予定。これは希望者のみ。事前登録が必要です。懇親会も希望される方は、
yukokuki@hotmail.com
宛、お知らせ下さい。締め切り4月21日。
宮崎正弘の新刊 http://miyazaki.xii.jp:80/saisinkan/index.html
四月初旬刊行決定
宮崎正弘・石平『中国人論』(ワック。仮題)
宮崎正弘の近刊 絶賛発売中!
『やはり、ドルは暴落する! 日本と世界はこうなる』(ワック文庫、980円)
『中国がたくらむ台湾・沖縄侵攻と日本支配』(KKベストセラーズ 1680円)
『トンデモ中国、真実は路地裏にあり』(阪急コミュニケーションズ、1680円)
『北京五輪後、中国はどうなる』 (並木書房、1680円)
『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との共著。徳間書店、1575円)
『崩壊する中国 逃げ遅れる日本』(KKベストセラーズ、1680円)
宮崎正弘のホームページ http://miyazaki.xii.jp/
◎小誌の購読(無料)登録は下記サイトから。(過去4年分のバックナンバー閲覧も可能)。
http://www.melma.com/backnumber_45206/
(C)有限会社・宮崎正弘事務所 2009 ◎転送自由。ただし転載は出典明示。