謎の中国マネー、パシフィックHDの息の根止める
謎の中国マネー、パシフィックHDの息の根止める
3月10日、東京地裁に会社更生法の適用を申請したパシフィックホールディングス。中国企業に対する増資で再建を目指したが、ファイナンス計画は頓挫。息の根を絶たれた。負債総額は連結で3265億円。先日破綻したSFCGに次いで今年2番目の規模。猛烈な逆風が吹く不動産市場を象徴する出来事である。昨年から続く不動産関連企業の経営破綻と考えれば見慣れた光景である。だが、この数カ月の経緯を見ると、腑に落ちないところも少なくない。
実現しなかった470億円の増資
2008年11月期決算を控えた11月末、パシフィックHDは破綻の瀬戸際にいた。米国発の金融危機で壊滅的な打撃を受けた不動産市場。2006~08年初めにかけて2000億円近い物件取得を進めてきたパシフィックHDも深い傷を負った。2008年11月期では53億円の債務超過に転落している。
破綻必至――。そう囁かれていたパシフィックHDを救ったのは産業再生機構の元COO(最高執行責任者)、冨山和彦氏率いる経営共創基盤だった。期末を目前に控えた11月26日。パシフィックHDは複数の中国企業に対するファイナンスを発表した。経営共創基盤が資本金50万円で「中柏(ちゅうはく)ジャパン」を設立。この会社を窓口に、中国企業が出資していく、というスキームである。
「実現の可能性は高いと見ている」。ファイナンス計画の発表後、ある金融機関の融資担当者はこう語っていた。金融機関がパシフィックHDのリファイナンスに応じたのは経営共創基盤の冨山CEO(最高経営責任者)と、中国企業との橋渡し役だった中国人を信用したからにほかならない。
この出資は3段階で行われることになっていた。12月19日にパシフィックHDが中柏ジャパンに対して第三者割当増資を実施、約6億5000万円を調達する。そして、12月26日に270億円の社債を発行、2月末までに合計470億円の優先株を発行するという計画だった。
事実、12月19日の第三者割当増資は実行された。これによって、中柏ジャパンは29%の筆頭株主に躍り出ている。だが、26日の社債発行は実現しなかった。
「中国政府による投資の許認可が下りないため」。社債発行が延期になった理由をパシフィックHDはこう述べた。この段階では許認可が下り次第、中国企業の資本参加が成立するような印象だったが、徐々に雲行きが怪しくなっていく。
社債発行が延期になった12月26日、パシフィックHDは資金の出し手として10社の中国企業を公表した。ところが、その中の数社は自社のホームページで明確に否定。そのまま470億円の増資話は雲散霧消した。
今回の会社更生法の適用申請を発表したパシフィックHDのリリースを見ると、ファイナンスが実現しなかった事実について、中柏ジャパンは以下のように説明している。「2008年11月期の決算内容が投資契約に定める『資産若しくは負債の状況、財政状態又は経営成績に重大な悪影響を及ぼす事象』の発生に該当し、引き受け義務発生のための前提条件を充足しない」と。わかりやすく言うと、「資産超過を前提に投資契約を結んだが、債務超過に陥ったため、増資の引き受け義務はなくなった」ということだ。
一連のファイナンスに翻弄された市場
確かに、1月以降、パシフィックHDを取り巻く環境は悪化の一途を辿った。1月27日の決算発表で債務超過に転落。2008年11月期決算で「継続企業の前提に関して疑義がつけられた」旨を発表した。さらに、金融機関の財務制限条項に抵触、債務超過によって東証1部から2部に指定替えとなっている。
だが、パシフィックHDは昨年11月末で破綻していてもおかしくなくない状況にあった。中国企業による出資が発表された直後、パシフィックHDの内情を知る外資系金融機関の幹部は「470億円では足りないと思う」と漏らした。2008年5月末の販売用不動産と仕掛かり不動産の合計は約2700億円。株主資本は約580億円である。その後の不動産市況の落ち込みを考えれば、債務超過に陥る可能性は十分にあった。こうしたパシフィックHDの劣化を、企業再生にかかわった冨山氏や経営共創基盤が気づかなかったとでもいうのだろうか。
さらに、監査法人の監査不表明は債務超過もさることながら、増資計画の実現性を疑ったことも一因だ。これは、中柏ジャパンが中国マネーを集めなかったため。穿った見方をすれば、中柏ジャパンが引き金を引いたということだ。債務超過が確定していなかった12月末の社債発行は「中国政府の許認可が下りなかったため」と言い、1月末は「決算で債務超過に転落したからだ」と主張する――。本当に、中国マネーが存在したのか。今となっては疑問が残る。
一連のファイナンスに市場は翻弄された。11月26日、2220円だった株価。中国企業の資本参加を受けて、翌年の1月5日には1万6600円の終値をつけた。今では1914円である(3月10日終値)。中柏ジャパンだけでなく、生煮えのIR(投資家向け広報)を許した東証の責任も重い。「今回の中国企業のファイナンスは中柏ジャパンに任せていた」。10日の会見でパシフィックHDの織井渉社長は繰り返した。今回のスキームの背後には何があったのか。関係者は事情を明らかにしてほしい。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090310/188712/?P=1
陳さんのお勧め記事でした。