『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』戦略として決して間違っていなかったと思いますが、高級品が今 | 日本のお姉さん

『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』戦略として決して間違っていなかったと思いますが、高級品が今

2009年3月2日発行JMM [Japan Mail Media]  No.521 Monday Edition
▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』
■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
 Q:952への回答ありがとうございました。わたしは英語の学習を兼ねて、メール版NYタイムスのサマリーを毎日読んでいます。先週火曜(日本時間水曜)の「トップストーリー」のサマリーの見出しは、以下の3つでした。
★Obama Assures Nation: 'We Will Rebuild'
★Obama Favoring Mid-2010 Pullout in Iraq, Aides Say
★Time of Crisis, Urging Bold Action and Big Ideas
 そして、他のどこを探しても、メール版には"Prime Minister ASOU"という言葉を見つけることができませんでした。

 会見の後にオバマ大統領のはじめての議会演説があったとはいえ、情けないというより、アメリカ政府とメディアに対して、やり過ぎじゃないのか、とわたしは腹が立ってきました。わたしはナショナリストではありませんが、日本を軽く見ないで欲しいと思いましたし、なりふり構わず金の無心をするほど経済的に弱ったアメリカに対して、相応の、対等な距離をとらないと、将来的なリスクは高まるばかりだと考えました。
 アメリカに追従せず、対等な距離をとる経済・外交政策は日本政府にとって非常にむずかしいものです。経済的には輸出主導から内需主導に舵を切る中長期のビジョンと戦略が必要で、外交的にはアジア太平洋の諸国、とくに歴史的に外交に長けた中国と、利害が絡むさまざまな交渉をアメリカの庇護なしで行う必要があり、簡単ではありません。そう考えると、今の「アメリカ追従型」の経済・外交政策は、日本政府にとって非常に安易で、もっとも簡単な選択肢で、合理的ではないとわかっていても手放そうとしないことがよく理解できます。想像力と能力に欠ける個人や経営者や政府は、たとえそれがどんなに非合理だとわかっていても、自らにとって安易な戦略を選びがちです。

■次回の質問【Q:1001】
 内需回復の必要性が言われています。日本の内需を回復させる「特効薬のような」
政策はあるのでしょうか。
 村上龍
■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く 
 ■Q:952
 2008年10~12月期のGDP(国内総生産)は、年率換算でマイナス12.7%という数字で、前期比では、3.3%のマイナスであり、1%マイナスの米国や、1.5%マイナスの欧州よりも大きいようです。このことをどう考えればいいのでしょうか。
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授


 昨年10-12月期のGDP成長率を見ると、世界の主要国は殆どマイナス成長でした。ただ、年率マイナス3.8%だった米国や、同マイナス5.7%だったユーロ圏と比較して、わが国の同マイナス12.7%の大幅減少は目立ちます。

 マイナス幅が飛び抜けて大きかった主な理由は、三つ考えられます。一つは、わが国の経済構造が輸出依存型である点です。わが国は、既に人口減少局面に入っており、しかも少子高齢化が世界最速のスピードで進行しいます。人口が減り始め、年金生活者の割合が高まると、国内の個人消費には高い伸び率を期待することは難しくなります。

 その結果、わが国の経済は、どうしても海外の市場への輸出に依存ずる体質になります。わが国のGDPに占める輸出の割合は約18%であるのに対し、米国のそれが約半分の9%程度であることをみても分かります。

 2002年2月から2007年10月まで続いた、わが国の景気回復過程の多くの部分は輸出に支えられていました。具体的には、米国の消費ブームと中国の投資ブームによって、わが国の輸出が伸びたことが景気回復のエンジンだったといえます。そのため、世界経済が落ち込み、輸出が減少すると、わが国の経済に大きな悪影響が及ぶことになります。

 逆の言い方をすると、国内に強い消費セクターを持っていないわが国は、世界経済の動向の影響を受けやすいともいえます。金融危機の震源地である米国は輸出依存度が相対的に低く、しかも世界最大の消費地を抱えていることもあり、昨年10-12月期の景気の落ち込みは、我が国ほど大きくはなかったといえます。

 二つ目の理由は、わが国の産業構造に偏りがあることです。わが国は輸出に依存して回復過程を辿ってきたのですが、その輸出の中でも、自動車、電機、機械、鉄鋼の四つの業種が大きな比重を占めていました。つまり、わが国の産業構造が主力四業種に偏っていたともいえます。産業の分散の度合いが低いわけですから、今回のように、世界経済の下落によって、主要四業種の輸出が痛手を受けると、輸出全体に大きな影響が出ることになります。

 特に、“20世紀最大の産業”といわれてきた自動車産業は、構造的な変化に直面していると考えられます。20世紀を通して相対的に安価であった原油に依存して、主要国の自動車メーカーは高い成長率を実現することが出来ました。ところが、原油価格の高騰や、人々の環境問題に対する意識の高まりによって、現在、大きな転機を迎えています。

 それは、米国のGM、クライスラーの経営状況を見ても分かります。すでに、両社は、政府の支援なしには業務の遂行が難しいところまで追い込まれています。2月中旬、GMの完全子会社であるスウェーデンのサーブが破綻しており、他の主要国の自動車メーカーの中にも、かなり厳しい状況に追い込まれている企業があるといわれています。金融市場の混乱が落ち着けば、主要先進国での自動車に対する需要は、ある程度回復すると見られるものの、かつてのような高い伸びを期待することは難しいかもしれません。それは、わが国の経済にとっても、大きなマイナスの要素になるはずです。

 そして三つ目は、わが国企業が世界景気の落ち込みに対し、迅速、かつ敏感に反応したことです。昨年9月、米国のリーマンブラザーズの破綻をきっかけにして、世界経済は急速に下落し始めました。日本企業の多くは、それに対し、かなり敏感に反応しています。自動車業界を見ても、設備投資を拡大していたこともあり、やや過敏と思うほど、迅速に大規模な生産調整を行っているように見えます。

 その背景には、90年代以降の景気低迷期の学習効果があると考えられます。企業経営者が、当時の厳しい状況を思い出して、早めに大規模な生産調整に走ったとも解釈できます。それが、世界主要国の中でも突出した景気の落ち込みとなって現れたともいえるでしょう。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

 ■ 水牛健太郎 :評論家

 内閣府の統計によりますと、前期比で実質3.3%のマイナスのうち、外需の寄与分が3.0%とほとんどを占めています(ここで外需と言うのは、輸出から輸入を引いた純輸出のことです)。昨年10~12月のGDPの落ち込みは純輸出の落ち込みがほとんど全ての要因だと言えます。純輸出の落ち込みは、輸出が大きく落ち込んだ
のに加え、円高の影響で輸入は若干増えたことによるものです

 日本経済は輸出に頼る傾向が大きいといいますが、実は単に割合のことを言うのであれば、それほど大きいわけではないのです。2007年10~12月のGDPのうち、純輸出の占める割合は5.2%でした。これが昨年10~12月には3.0%に落ち込みました。日ごろ日本は輸出依存であるという解説を目にしている読者の方々
からすると、「そんなもんなのか」と思われるのではないでしょうか。印象としてはGDPの2割とかあるいはそれ以上と思っていた方が多いのではないかと思います。
実際、純輸出がGDPのうち2割をも占めている国も世界にはあり、そういった国に比べれば日本はそれほど輸出依存とはいえません。

 要するに輸出は日本経済のごく一部を占めるに過ぎないのですが、それが心理的にはるかに大きく感じられるとすれば、輸出が世界経済と連動し、日本経済の成長の牽引役となってきたためです。特に近年は日本経済の成長はほとんど輸出に依存しており、輸出が伸びると景気がよくなり、輸出が落ち込むと景気も落ち込むという状況が続いていました。

 今回の世界的な不況は欧米が震源地でしたが、欧州やアメリカの経済よりも日本経済の落ち込みが大きくなったのは、輸出の落ち込みによるものです。それではなぜ、欧米経済の落ち込み幅以上に日本の輸出が落ち込んだのかと言えば、これは日本の輸出品が、景気が悪くなると買われなくなるようなものに特化しているからだと言えます。

 例えば自動車ですが、そもそも自動車自体、景気が悪くなると買い控えの対象になります。既に自動車を持っている人は、計画していた買い替えを延期し、今の車に乗り続けることを選びます。持っていない人は我慢します。それでも車を買おうという人はと言えば、より安い韓国車や中国車を選ぶかもしれません。日本車は世界的に見ると既に高級なものに位置づけられているのです。これは電気製品も同じです。

 高級化は、日本メーカーがここ数年熱心に追求してきた戦略です。他のアジア諸国の製品と競争し、高い利幅を確保するために、技術力を前面に押し出してブランドを確立し、高品質を打ち出すことをうたってきました。その分競合品に比べ価格も高めでした。戦略として決して間違っていなかったと思いますが、高級品が今回のような
不況に弱いということは盲点でした。

 原動機や産業機械、建設機械なども日本の主要輸出品です。これらの製品は消費財ではなく、生産者向けの設備です。生産者は景気が落ち込むとまず、設備投資計画を見直し、投資を凍結するものです。ですから、景気の落ち込み幅以上に設備投資は大きく落ち込みます。そのため、日本の原動機や産業・建設機械に対する需要は、輸出先である欧米その他の経済成長率の落ち込み以上に大きく落ち込むことになるのです。

 要するに、日本経済の成長率が世界不況の震源地である欧米経済以上に大きく落ち込むのは、輸出品の中でも高級消費財と生産設備という、景気が悪くなるとまず買われなくなるものに特化しているためです。そこには日本の産業構造の歪みがあると言っていいでしょう。

 労働者の所得の伸びを抑制することで、海外向けの競争力の維持を図ったことにより、内需を軽視し輸出に過剰に依存していたこと。そして、輸出の中でもサービス分野や大衆商品よりも高級品や生産設備に偏っていたことです。

 ここ数年、日本では「ものづくり」立国ということが叫ばれ、各メーカーは一様に「技術力を生かした高級化」を戦略としてきました。NHKの人気番組「プロジェクトX」が代表していたような価値観です。

 しかし、かつて日本が経済大国になるまでのヒット商品を見ると、トランジスターラジオやカラーテレビ、ウオークマンといった電化製品にしても、燃費のよい小型自動車にしても、決して当時の技術の粋を集めたものではありませんでした。最先端技術よりはむしろ柔軟な発想を生かした製品であり、価格と品質のバランスがよいもの
でした。日本製品は高級品とは見なされていませんでしたが、比較的安価の割に品質が優れ、何よりも故障が少なく長持ちしました。

 ここ数年の日本メーカーは、高級品志向に走るばかりに、価格と品質のバランスや柔軟な発想の大切さを軽視してきたのではないでしょうか。例えばソニーのウオークマンは、創業者の井深大が外国出張の際に飛行機の中で音楽を聴きたいとエンジニアに希望を伝えた結果作られたもので、技術的には簡単なものに過ぎませんでした。しかし井深という個人の要望が、世界の消費者の要望を先取りしていたために、大ヒット商品となったのです。

 最近の日本メーカーの技術偏重、高級品志向は、消費者の要望を無視した自己満足に陥っていた面がなかったでしょうか。考えてみる価値のあることだと思います。
                             評論家:水牛健太郎

 ■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

 昨年9月のリーマンショックを境に世界がグローバル金融危機から実物のグローバル経済危機へシフトした途端に、サブプライムローン問題の直接的な影響が先進国の中で最も小さかった日本が、過度に外需に依存した経済構造となっていたために、最大のダメージを受ける結果となってしまった、というのは最早、共通認識ではないでしょうか。

 既にQ:948への回答でも書いておりますが、バブル崩壊後のデフレ経済から脱却した日本経済は2003年から2007年までの5年間、毎年ほぼ2%のコンスタントな成長を記録しました。需要項目の中で輸出と設備投資の2つの成長寄与度を足しますと、これもほぼ2%となります。この間、設備投資計画が輸出の増加に見合っ
て策定されたと推測されますので、いかに輸出が直接、間接に経済成長に貢献していたかが分かります。

 デフレ脱却後の日本経済が過度に輸出依存になってしまった背景ですが、世界経済が特に中国を軸とする新興市場国の経済成長の高まりを反映して好調であったことが最大の理由だったのは紛れも無い事実でしょうが、ここではむしろ、何故に内需に成長を主導する勢いが無かったという点を問題視したいと思います。

 1つは地方経済の疲弊。小泉改革で公共事業に大鉈が振るわれました。公共事業を都市と地方との格差を縮める所得再分配のツールと考えると、公共事業の削減が地方経済の疲弊を強めたことは事実でしょう。しかし、税金の無駄遣いにメスを入れるという主旨から公共事業の見直しが進められてきたわけですから、その政策そのものに大きな落ち度があったとは言えません。

 さらに厳しさに追い討ちをかけたのがグローバル化の進展です。グローバル化は競争激化をもたらすとともに、工場立地の対象地域を国内から世界に広げる働きをしました。地方で生産するよりも中国など新興市場国で生産するほうが低コストであるため、日本企業の海外への工場移転が加速しました。

 この2つの条件の変化は時代の流れでもあり、反転できる性格のものではありません。問題はこのような公共事業の削減、グローバル化の進展という環境変化に対し、地方自身が適切な対応、すなわち、そのマイナスを補うだけの内需の掘り起こしができなかったことにあります。

 それは中央集権体制の元、地方が未だ自立できておらず、中央から提供される糧に過度に依存している点に問題があるからです。EUで採用されている"principle ofsubsidiarity"(補完性の原理)、すなわち、地方に出来ることは地方に任す、国は国がやったほうが効率が高い仕事に限定する、という考え方があります。正にその通
りであって、いま検討されている地方分権改革を推進して真の意味で地方を自立させること、そして、その土地に根ざした産業の掘り起こし、新たな商品を開発することを通して、地方の活性化を実現させること、これしか抜本的な対応策はないかと思います。

 第2は消費の低迷です。2003~2007年の回復期の消費の伸びは平均1%程度と低いものでした。これは賃金がほぼ横ばいであったことが影響していますが、その背景には繰り返しになりますが、急速なグローバル化の進展があります。2003年に資産デフレから脱した日本企業にとり、グローバル競争の激化という環境変化を
前提とすれば、圧倒的な差別化製品を有する企業は別にして、多くの
企業はコスト削減のために思い切って海外に工場を移転するか、国内の賃金を抑制するかの選択しかなかったものと思われます。この条件は今でも基本的に変っていません。とすれば、消費押し上げには賃金以外の要素が重要になってきます。

 それがイノベーションなんだろうと思います。すなわち、内需が弱かった第3の要因は構造改革が道半ばだったという点です。構造改革、規制緩和と言えば、現下の不況をもたらした元凶のように言う人がいます。確かに派遣切りに代表される規制緩和の負の側面に注目が集まっていますが、本来、規制緩和は新規ビジネスを誘発して内需を刺激する原動力です。規制緩和は掛け声は大きいのですが、その進展度合いは極めてスローで、満足の行くものから程遠いのが実情です。

 政府の規制改革会議でこれまで長時間検討が積み重ねられてきましたが、最近の報告書でも指摘されているように、保育、医療、農業、運輸などまだまだ規制改革の遅れが目立つ分野も多く、新規ビジネス創出の足かせになっています。規制改革が悪の如く、吹聴されるこのごろですが、改革がなければ明日の成長は得られません。改革を更に推進して日本経済の活性化、内需主導の経済成長を実現し、グローバルショックに強い経済構造を築いていくことが必要です。今回のGDP成長率マイナス12.7%というショッキングな数値は正にそのような取り組みを我々に強く迫っているものと思われます。
 伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 GDPは他の経済統計から推計できる事後的な数字なので、通常サプライズは起きにくいものです。10-12月期の実質GDP成長率は、事前に前期比年率10%前後のマイナスになると予想されていました。-12.7%という数字に大きなサプライズがあった訳ではありませんが、発表後はご質問のように欧米に比べて悪すぎる、
日本はサブプライム関連の損失が小さいはずだったのに何かおかしいと日本に対する否定的な見方が相次ぎました。中川前財務大臣の辞任劇もありましたので、日本は政治も経済もだめだとの見方が広がり、外国人投資家は2月第3週まで6週連続で日本株を売り越しました。

 GDPは何でみるかによって、見え方が異なります。日本のGDPは昔、前年同期比変化率を見ることが多かったですが、近年は米国流に前期比年率の変化率で見る方が増えています。物事の瞬間風速でみる短期志向の現れといえるでしょう。

 10-12月期の実質GDPの前期比年率変化率を日米で比べると、日本の-12.7%に対して、サブプライム問題の震源地である米国は-3.8%に留まりました。日米で最も違いが出たのが、純輸出(輸出-輸入)です。米国では輸出が-19.7%に留まったのに対して、輸入も-15,7%となり、純輸出の実質GDPへ
の寄与はプラスでした。日本は輸出が-45%と大幅減になった一方、輸入は12%増だったため、実質GDPへの寄与は大幅なマイナスでした。

 日本の輸出減少が米国より大きかったのは、輸出地域の違いというより、輸出品目の違いによるといえます。日本最大の輸出品目は輸送用機器(自動車など)ですが、世界中で自動車が売れなくなっています。一方、輸入の増加は不思議な感じがします。
財務省の貿易統計では、10-12月期に数量も金額も減少しているからです。実質GDPはデフレーターで実質化されて、季節調整される訳ですが、そうした統計的なやり方に問題があったのかも知れません。

 よく日本は輸出依存度が高いから悪いという議論がありますが、10-12月期は輸出等が名目GDPに占める比率は米国の12%に対して、日本は14%でそれほど大きな差はありません。米国の輸出企業はマイクロソフト、ファイザー、コカコーラなど、景気にあまり左右されない企業が中心であるのに対して、日本の輸出企業はト
ヨタ、ソニー、コマツなど世界景気に左右されやすい製造業が多いという産業構造の違いが、最近の輸出や企業業績の減少程度の違いに寄与したと思います。日本の長期内需低迷は嘆かわしいもので、政府はもっと景気対策や構造改革に頑張る余地があると思いますが、こうした産業構造の違いは一朝一夕に変わりものでありません。

 日本の個人消費が低迷しているといっても、10-12月期の実質個人消費は前期比年率で、米国の-3.5%に対して、日本は-1.6%と健闘しました。住宅投資は日本が24.6%のプラスだったのに対して、米国は-27.8%の大幅減少でした。設備投資は日本-19.5%、米国-19.1%と似たような落ち込み方でした。

 1月の鉱工業生産も米国が-10%だったのに対して、日本は-30%でした。足元的には悪い話ですが、良く考えれば生産調整や在庫調整が早いという見方もできます。2009年度の日本の実質GDP変化率予想は-4%程度がコンセンサスで、-6%以下という弱気の見方もありますが、弊社エコノミストは-1.8%と他社より
強気に予想しています。
 メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 GDPのマイナス3%自体は、事前に発表されていた貿易統計や機械受注の指標からおおよそ予想されていた数字なので、テクニカルな意味では驚きではありませんでした。しかし、これが4倍された年換算の数字で新聞の一面を飾るようになると、二桁のGDPマイナスということで社会的なインパクトのある数字となったようです
(四半期の瞬間風速の数字なので、これが一年続くとたしかに12.7%GDPがダウンしますが、そこまで行くことはまずないのではないかと思います)。

 問題の3ヶ月間にGDPは3.3%ダウンしたわけですが、GDPの約16.5%を占める輸出は13.9%ダウンしていますので、これだけで2.3%(=16.5%×13.9%)のマイナス効果があったことになります。明らかに、輸出の急減によるマイナスということになりますが、米国のバブル崩壊の影響をたどることができ
ます。

 世界の需要を支えてきた米国の消費需要は、住宅バブルが弾け金融危機に発展するとともにあからさまに急落します。米国に消費財や派生する生産財を輸出することで経済を成長させてきた日本や中国は大きな打撃を受けることになりました。中国のような内需の拡大がないぶん、日本のダメージが大きく感じられます。

 いまさらながら、日本経済が如何に米国の消費にたよっていたかを、印象付けられる結果となりました。米国の消費需要減がそもそもの原因なのに、米国の減速幅の方が小さいのは、感覚的には解せない気持ちが先に立ちますが、米国の場合消費財の多くが輸入品なので、その需要減は輸入が減るという形で現れ、自国のGDPにたいする影響は軽減されたというのが分かりやすい説明だと思います。

 米国の需要の減少にあわせて、輸出企業は必死に生産調整による在庫調整を続けているのですが、12月の段階では追いついていず、在庫がまだ積みあがっていたことが伺えます。1月の貿易統計等からすると、輸出による需要は1-3月も同じようなペースで減少を続けると思われますので、今はまだ生産調整の手を緩められる状況ではないのだとおもいます。

 明るい兆しとして、トヨタは5月から3割増産すると報道されていますので、業種や企業によっては、底を探る動きも出始めているようです。

 どこまでこのスパイラルが続くかは、最終需要の輸出の減少がどこで止まるかが鍵となり、当面は米国の消費がどこまで落ちるかという問題に帰結せざるを得ません。
もう少し中期的な構造変化の可能性まで視野にいれると、米国の消費以外の需要先、例えば、内需への転換や、中国など中進国の需要に活路を見出していくことになるでしょう。
生命保険関連会社勤務:杉岡秋美


 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 我が国のGDPの落ち込みの大きさが米国などよりも大きいことについては、日本銀行の「金融経済月報」2月号が納得的な分析を提供しています(特に15ページの囲みコラム「最近の鉱工業生産の大幅な減少について」)。

 コラムの指摘する要因は大きく三つあり、第一に日本の鉱工業生産にあって今回落ち込みの激しかった輸送機械(主に自動車)、電気機械類、一般機械(設備機械)のウェイトが高いことです。日本ではこれらの3業種が生産の5割を占めますが、米国では2割程度に過ぎません。

 第二に、これらの3業種は輸出比率が高く、輸出にあっては米国向けの落ち込みに加えて、これまで設備投資需要が旺盛だった新興国の輸入も落ち込んだために、円高の影響に需要の落ち込みが加わる形で、我が国の落ち込みが大きくなったと分析しています。

 加えて、米国では部品調達にあって輸入品に依存する比率が高く、需要減のショックが輸入が減る形で海外に流出する度合いが大きくなっています。これは、GDP統計上、日本のような対米輸出国のGDPを減少させる一方で、米国のGDPの下支え要因となることを指摘しています。「この点は、韓国や台湾などでも同様」とコラム
は言っています。

 要は、日本の生産が、景気と輸出(つまり海外の景気)の影響を受けやすいセクターに集中していることから、外国の需要(いわゆえう「外需」)が景気をサポートする場合もある一方で、外国が不景気になった場合の影響が非常に大きいということです。

 株式市場では、一般機械のような景気変動の影響を大きく受ける業種の銘柄を「景気敏感株」と称することがありますが、日本経済全体が良くも悪くも景気敏感株的なのだ、と考えることが出来るでしょう。

 日本の景気の安定を目的と考えると、輸出中心の「ものづくり」に対するウェイトが高すぎることが問題ですが、こうした産業構造は意図的に修正すべきものというよりは、個々の企業や個人の環境適応の結果として変化するものなのでしょう。現実に、こうなる前は海外経済の成長率が高く、また政策的に為替レートを円安に誘導した時代もあり、こうした環境に対して企業が適応してきた結果が、期間的には「いざなぎ越え」と呼ばれた先般の景気回復でした。しかし、これまでプラスに働いていた環境要因が逆転したので、今回、日本の落ち込みが大きいことはやむを得ません。

 経済政策について敢えて一言言うと、「円安になる」のは構わないけれども、介入で「円安にする」政策には、経済の不自然な歪みを温存する問題があったのではないでしょうか。不景気である方が経済構造の転換が促されるから良いのだ、という不景気礼賛論に与したくはありませんが、市場を歪めるような経済政策は、結局、あとか
らそのツケを払わざるを得なくなるように思えます。
 経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 ( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )


 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部准教授

 先週、財政制度等審議会の一委員として欧州に出張し、ローマにも滞在して財政当局の方と議論し話を詳しく聞いて参りました(納税者の皆様には、この出張の成果を色々な形で有効に還元させて頂きたく存じます)。中川前大臣についてイタリアの報道では(マイナーな扱いのようですが)、どちらかというと同情的であの理由で辞め
させられてかわいそうにといったところのようです。イタリア人らしい感想という気もします。
イタリア経済も、日本に負けず劣らず経済成長率の急激な低下に苛まれつつあるとのことです。

 さて、日本の経済成長率ですが、確かに外需依存の影響が顕著に出た結果になっているとは思いますが、2007年までの日本経済が、プラザ合意以降「空前の円安」の恩恵を存分に受けていたことを忘れてはならないと考えます。つまり、この急激な経済成長率の下落は、単に世界同時不況の影響を受けたというより、これまで「空前の円安」の恩恵を受けていて実力(ファンダメンタルズ)以上に輸出で稼げていた要因が剥げ落ちたことも重なったために、大きく下落したように見える、と考えます。

 この数年間、一見すると、円ドル為替レートは、2005年から2007年まで1ドル110~120円で、特別に「空前の円安」というレートには思えないかもしれません。しかし、アメリカのドルだけでなく、ユーロなど日本の主要な貿易相手国の通貨に対する円の価値を示した「実質実効為替レート指数」でみると、この数年間は
1990年代後半以降最も円安になっていました。ちなみに、2005年から2007年にかけての実質実効為替レート指数の値は、1985年のプラザ合意以前の水準(実勢では1ドル=約240円の時期)に相当します。実は、最近の急激な円高が起こる直前までは、1980年代前半の時期に匹敵するほどの円安水準だったのです。
そして、直近の急激な円高で、実質実効為替レート指数も急激に円高に振れています。

 この「空前の円安」が輸出の増加を後押ししたことは間違いなく、極言すれば、この金融危機がなくても、急激な円高が起きただけでかなりのマイナス成長が起きた可能性があります。そういう意味では、単に年率にして二桁のマイナス成長と騒ぎ立てるのではなく、実態として経済で何が起きているかを経済指標に照らして客観的に捉えた上でマイナス成長の本質を議論すべきです。

 確かに、この急激な経済成長率の低下は、日本の労働者の3分の1を占める非正規労働者から見ると、生活不安を惹起させるでしょう。しかし、今春、ローマには、春休みを謳歌する学生(中にはこの4月に就職する者も含む)を中心に日本人が怒涛の勢いで観光に訪れていました(多分に円高の影響が大きい)。日本経済が年率で二桁のマイナス成長だということを実感すらしていないかのようです。

 ドイツでも似たような話を聞いたのですが、GDPで見た経済の実態は既に急激な減速局面に入っていながら、それに直撃した人々は景況悪化のひどさを切実な思いで実感しているのに対して、そうでない人々はいまだに何が起こっているのかすらよくわからないような状況ではないかと思います。

 空は晴れていて(今のところ)波も穏やかだから安心して楽しめる、と思っていたら、そのとき実は沖に津波が迫っていてそれに気づかないでいると、波が来たと気がついたときにはあっという間に津波にさらわれる、というような景況になるかもしれない、と予想する方もいました。まさに「津波シナリオ」が今の世界経済を襲う恐れ
も無きにしも非ず、といった印象を受けました。
慶應義塾大学経済学部准教授:土居丈朗
                  <http://www.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ >

 ■ 津田栄   :経済評論家

 今回の2008年10~12月期の実質GDP成長率が-12.7%(季節調整済前期比-3.3%を年率換算)と、1974年1-3月期の-13.1%(年率)に次ぐ戦後の記録的な悪化を見せましたが、主因は急速な世界同時不況により輸出が大きく落ち込んだことにあり、その悪影響を設備投資や個人消費も受けた形になってい
ます。

 それは、輸出を前年同月比でみると10月-7.7%、11月-26.7%、12月-35.0%と減少幅が拡大し、それに合わせて貿易赤字が徐々に増大、10-12月で6143億円となったことに表れています。そして、その内容をみると、自動車、機械、電機などを中心にアメリカ及び欧州向けが落ち込み、その悪影響を受けて
電子部品などを中心に生産拠点となっている中国や東南アジア、そして中東やロシアなど新興国へと輸出の減少が広がる形で急速に悪化しているのが見受けられます。この流れは、今年に入っても変わらず1月は輸出が-45.7%、貿易赤字も9526億円と過去最大の悪化となっています。

 こうした輸出の悪化が、生産においても表れ、調整を強めています。鉱工業生産を季節調整済前月比でみると、10月-3.1%、11月-8.1%、12月-9.6%と悪化しています。そして、やはり09年1月は-10.0%と過去最大の低下を記録しています。このことは、雇用にも表れ、失業率の上昇、有効求人倍率の下落と
なって、派遣社員や契約社員の解雇や雇い止めなどにつながり、生産調整の影響で残業代の減少を通じて正社員の所得も減ったことから、家計調査の消費支出でみるとこれまでも弱かった個人消費が一段と委縮しているのがうかがえます。それも、この1月には、-5.9%(前年同月比)と減少幅を拡大させています。

 さて、このように、日本経済がアメリカの前期比-1.6%(年率-6.2%)や欧州の同-1.5%(年率-5.7%)に比べても先進国の中で最悪となったのは、弱体化した内需と依存比重を増した外需という日本の経済構造の脆弱性が原因であり、図らずも金融・経済危機でそれが顕在化したといえます。

以前から指摘してきましたが、日本は、バブル崩壊以降のデフレ不況から脱するなかで、リストラを進めて、正
社員を減らして非正規雇用を増やす一方、労働者への所得分配を減らし続けて国際競争力を高め、アメリカや欧州などの先進国のほか、その生産輸出拠点として恩恵を受けた中国などのBric's諸国や東南アジアなどの世界の堅調な経済と円安という追い風に乗って輸出を伸ばしてきた結果、輸出依存を高めてきました。

 そのことは、構造改革のなかで、コスト削減のために賃金抑制や非正規雇用の増加で労働者分配率を下げたこともあって国税庁の調査にありますように勤労者の給与実態が下落し続けてきたことで個人消費の伸び悩みが続いた一方、堅調な世界経済に対して、円安とリストラなどで競争力を回復した企業は、輸出にシフトしてきたともいえましょう。

その弱い内需から強い外需に依存せざるを得なかったという結果は、企業自ら招いたともいえ、またやむを得ず選択したともいえますが、一方で、個人、企業、地域の間で経済格差が拡大し、そのセーフティネットを十分整備せず、むしろ実質増税などで悪化させて弱い内需の状態を放置した政府の責任も大きいといえます

 ところが、アメリカや欧州は、こうした輸出に左右される経済体質ではありません。
むしろ、アメリカでは、本質的に経済の中心は個人消費にあり、内需主導型経済といえます。もちろん、アメリカの輸出もある程度のウェイトを占めていますが、それは日本の自動車やテレビや機械といった景気に敏感な製品よりも、ITなどのソフトや特許、食料品あるいは農産物、映画、武器、航空機など景気とはあまり連動しない商
品です。また、欧州はドイツ中心に輸出主導型経済ですが、7割近くが域内貿易であることを考えると相互に支え合う面があって実質内需型経済ともいえます。そういった点で、外需依存度が高い日本は、アメリカや欧州と比べてはるかに海外の経済に左右されやすく、こんなに大きく成長率の違いがとなって表れたといえます。

 では、外需が好調で景気がいい時に内需型に経済構造をシフトすべきだと以前から言いましたが、それが今やれるかというと、そうは簡単にいかないでしょう。ここまで多くの個人が所得減少から貯蓄を減らし、今企業の雇用調整が本格化するかもしれないなかで、消費を増やす余力は小さいといえます。

また政府が、経済を内需型にシフトするために、セーフティネットの構築を図るべきですが、そのための費用が相当いるでしょうし、企業に雇用確保、賃金確保と言っても、企業はそれを受け入れられるわけではありませんし、結果的にそのコストを税金で行うことになりますから、最終的に国民が負担しなけれななりません。その負担に国民が耐えられるのか今少し不安があります。

 とはいっても、企業も外需から少しでも内需にシフトさせるために、政府は、無駄を最大限排除する一方、個人消費が幾分でも回復するための減税措置を含めた内需刺激策を行い、またアメリカのオバマ大統領のように、クリーンエネルギーや環境技術のさらなる開発に注力するなどして、資源の選択と集中を図れるように内需を振興する政策を財政的に支援していくことが求められるのではないでしょうか。ただし、決して定額給付金や公共投資など一過性で効果が低い政策は採るべきではありません。

 最後に、最近の論調で、アメリカが回復すれば、日本経済も輸出回復で底打ちするかのように言われていますが、そうした期待から日本経済が内需へシフトせず外需依存を続けるのは問題ではないかと感じています。むしろ、今回の金融・経済危機で、欧米を中心とした世界経済の成長ステージが変わり、もはや輸出に依存することが難しいのではないでしょうか。

これまで世界経済を牽引してきたアメリカでは、金融を通じての信用創造による個人消費の拡大という成長モデルは、金融市場の崩壊でもはや元に戻らず、堅実な消費経済による緩やかな成長に変質してしまう可能性があります。また欧州の経済も、相互依存による成長モデルでしたが、金融危機でイギリス・ドイツ・フランス経済が打撃を受け、東欧経済などが悪化して、全体で支えきれなくなれば、もはやかつてのような成長モデルには簡単には戻れない可能性があります。

 一方で、うちに13億人の人口を抱えている中国は、大がかりな内需刺激策を採用して、景気を浮揚させようとしており、その効果が表れれば、世界経済への影響が大きくなります。それと同様に11億人の人口を抱えるインドや、急速に発展しているブラジルなど潜在的成長力のある振興国が同様に内需拡大を図れば世界経済に好影響を与えるかもしれません。その時は、世界の経済で新興国のウェイトが高まってくる可能性があります。

 しかし、日本はその恩恵を簡単に受けることができないのではないでしょうか。日本は、トヨタが円安を利用して欧米などで全体の7割以上を数百万円もする高級車などを中心に販売して利益を出してきたように、高品質であるがゆえに高価格の製品でも売れる欧米を中心とした先進国への輸出で稼ぐという外需依存型経済成長モデルを取ってきました。しかし、世界経済が新興国を中心に回復するならば、こうした国では品質がそこそこでこれまでの半分あるいは数分の1以下の低価格品が製品の中心となりますから、日本は輸出で稼ぐことができなくなるのではないでしょうか。つまりこれまでの高価格品の輸出による成長モデルでは対応できず、相当の痛みを伴いますが、低価格品の製品輸出で稼ぐか、内需を中心とした成長モデルに変更することを求められるのではないでしょうか。ただし、成長モデルを変える前に、日本が得意とする製品で新興国から低価格品が入ってくるようになれば、日本は否応なしに再びデフレになり、更なる苦境に直面することになるかもしれません。
経済評論家:津田栄
JMM [Japan Mail Media]  No.521 Monday Edition
【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
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嫌なことばかり書かれていましたが、

経済学者はアメリカがダメになるということを

先に言ってくれないとね~。

何のために学者をやっているのだろうか。

アメリカがダメになると最初から

言っていた人はこれからも

信用できそう。