あらためて北方領土問題を考えてみる(外交と安全保障をクロフネが考えてみた)
あらためて北方領土問題を考えてみる(外交と安全保障をクロフネが考えてみた)
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ロシアを訪問していた小泉元首相に対し、ワレリー・ズボフ下院議員がわが国の北方領土の面積を折半してその半分を返還する案を説明、小泉氏は「大変に興味深い」と語った。
ソースが毎日だけに事実かどうかはわからないが、もし本当なら大変懸念される事態だ。
18日に日露首脳会談があったばかりだが、その裏で元首相がこういう二重外交みたいなことをするのは控えていただきたい。
ロシアが日本と話したがっている理由は単純明快で、原油相場が1バレル30ドル台にまで落ち込む中、原油・天然ガスといった天然資源の輸出に依存するロシア経済は危機どころの騒ぎではなくなっている。
ロシアが経済危機を乗り越えるためには、天然資源輸出オンリーというモノポリーから脱出し、世界的に競争力のある製造業を早急に育成する必要がある。
そこで日本からの投資と技術援助がノドから手が出るほど欲しいわけだ。
しかし、ロシアとしてはその見かえりとして日本から北方領土を要求され、それに応じざるを得なくなるのは面白くない。
だから、領土問題を棚上げにして日本から投資と技術援助という果実だけをもぎ取りたいという二兎を追うのがロシアの対日戦略である。
これがわかっていれば、日本が北方領土を取り返すためにするべきことは明らかである。
ロシアへ投資と技術を与えるのは、北方四島すべてを返還してもらってからだ。
北方四島は日本の大切な領土だが、今すぐ帰ってこなくとも日本が滅亡するようなことはない。
しかしロシアは早急に経済を立て直さなければ、国家破産もありうる。そのためには日本の投資と技術力が今すぐ欲しい。
どちらが外交交渉で有利か言うまでもないことだろう。
現在、時間も国際環境も日本に味方してくれているのだから、日本がどうして焦る必要があろうか。
あくまでも「ロシアへ投資と技術を与えるのは、北方四島すべてを返還してもらってから」というゆるぎない姿勢をロシア側に示して、外交交渉にあたるべきである。
しかしここ数年、新興国の好況で、欲に目がくらんだ日本企業が北方領土問題が解決していないにもかかわらず、ロシア市場めあてにどんどん投資を拡大させていた。
これがロシア側に「北方領土を返さなくとも、日本はロシアに投資して技術をくれる」という間違ったメッセージを与えてしまった。
しかも、新興国経済のバブル崩壊でロシアに投資した日本企業もさぞ利益回収に苦しんでいることだろう。
目先の小さな利益に惑わされて大事な領土問題をないがしろにして、あげくの果てに取らぬ狸の皮算用ならこんなザマはない。
原油価格も暴落した今、ロシア産の原油や天然ガスを急いで買わなければならない理由もなくなった。
それでも「原油価格が安い今のうちに、ロシアと長期契約しておけばよいじゃないか」という人もいるかもしれない。
だがそれは、契約をよく守る高信頼社会の日本人だけにしか通用しない考え方である。
例えばロシアと「今後5年間、1バレル40ドルで日本に原油を売る」という契約をしたとする。
もし2年後、再び原油の国際価格が1バレル100ドルになったとしたら、ロシアが40ドルのままで日本に売りつづけるなんてことはない。
契約書を堂々と破ってみせて、「1バレル当たり100ドルで買え!嫌なら日本には売らない」と言うだろう。
それが低信頼社会ロシアの人間、バザール商人ロシアの人間というものである。
他でもないサハリン2油田開発で日本企業がロシア政府にさんざん煮え湯を飲まされたのをお忘れだろうか?
また、ここに来て「こちらが四島、ロシアが二島と言っていたのでは交渉が進まない。北方領土の半分でも返ってくれば」みたいな発言が日本側から出てきているが、バザール商人との交渉法として最悪である。
例えば、日本人夫婦がロシア商人が経営する魚屋に入ったとする。
ロシア商人は相場が1匹1000円のサケを4000円とふっかけてきた。
日本人の奥さんが「いくらなんでも高すぎる。500円以下じゃないと買えないわ」と言っているそばから、旦那の方が「別に4000円でもいいじゃないか。それなら間を取って2000円ぐらいでどうだ」なんて言い出したら、私がその奥さんだったら店の外に旦那を連れ出して、ほっぺたをギュ~っとつねってやる。
せっかくの値切り交渉の苦労が水の泡だからだ。
ロシア商人は初めから断られるのは想定内、買ってくれたらしめたものとして4000円とふっかけてきており、日本人夫婦のうち奥さんはそれがわかっていて何とか相場の1000円でサケを買うべく、こちらもふっかけで「500円でしか買えない」と言ったのである。
にもかかわらず旦那が「4000円でいいじゃないか。2000円でいいじゃないか」なんて言ったら、ロシア商人はそこまでふっかけられると確信して、奥さんが何と言おうとも絶対に2000円以下で売ろうとしなくなる。
これで相場の1000円でサケを買おうと思ったら、交渉は暗礁に乗り上げて、にっちもさっちもいかなくなるだろう。
「ロシアとの交渉が進まない。北方四島のうち半分でも返ってくれば」という考えもそれとまったく同じで最悪の交渉術だ。
さらに外務省は、拿捕された日本漁船の問題や北方四島へのビザ無し渡航援助の問題でロシアを刺激すると、領土返還交渉が難しくなると考えてビクビクしているように思える。
先日ロシアに拿捕された日本漁船も、会社が巨額の保証金を支払ってようやく釈放された。
漁船拿捕やビザ無し渡航援助の問題は、四島返還の問題よりも動く利害ははるかに小さいものである。
漁船拿捕やビザ無し渡航で日本がロシアの顔色をうかがってビクビクしなければいけない弱い立場だとすれば、どうして北方四島を返してもらうことができるだろうか。
領土返還交渉に差しさわるからと考えて日本漁船拿捕やビザ無し渡航の問題でビクビクするなんて、全くナンセンスだと言わざるを得ない。
漁船拿捕問題でこちらが譲歩したら北方四島すべてが日本に帰ってくるなんてあり得ないのに、どうしてそんな簡単なことがわからないのであろうか。
しかも、ビザ無し渡航で日本側が北方四島のロシア人住民に援助してやっているのに、なんで「ビザ無し渡航で日本にロシアを援助させてください」みたいな話になっているのかワケがわからない。
日本人はめっぽう腕の良い職人民族だが、せっかく1万円で売れる商品をつくっても、口八丁手八丁の商業民族に言いくるめられて5000円以下で買い叩かれてしまい、自分が損をしたことにも気づかない。
日本人がモノづくりの腕を誇りに思うのは良いことだと思うが、もうちょっと(というか相当)商談のテクニックを磨かないとだまされる一方だ。
日本が焦る必要まったくない。
日本が官民一丸となって、あくまでも「ロシアへ投資と技術を与えるのは、北方四島すべてを返還してもらってから」というゆるぎない姿勢で外交交渉にあたるべきである。
日本側の誰かが「北方領土の半分でも返ってくれば、それでいいや」みたいなことをおくびにも出すのは禁止。
ロシアがビザ無し渡航を認めないなら、北方領土への援助がストップしてもやむをえない。
ロシア経済がガタガタな今、ロシアとて四島への経済援助は難しいだろう。
四島の過疎化・無人化が進めば進むほど、こちらが有利だ。
第二次大戦の末期、日ソ中立条約を破って日本を侵略したのはロシアであり、北方領土を含む千島列島すべてを奪い、”戦利品”として約60万の日本人をシベリアに連行、6万人近くが帰らぬ人となったことを絶対に忘れてはいけない。
たとえロシアが北方領土の半分を返したとしても、もとは日本から盗んだモノで元手はゼロだ。