「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成20年(2008年) 12月7日(日曜日)貳
通巻第2417号 臨時増刊号
(日曜版 書評特集)<< 書評 >>
田母神俊雄『自らの身は顧みず』(ワック)
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緊急出版だが、充実した内容を網羅している。
田母神さんは、「日本はすばらしい国家であり、侵略国家ではない」と論文に書いたら航空幕僚長を解任された。
体制内サラリーマン=内局と事なかれ主義のエスタブリシュメント、防衛を危険視する面妖な政治家が左翼マスコミと共謀して『邪魔者』の発言を封じたのだ。
だが、愛国の基本精神に立脚すれば正論を主張し続けなければいけない。
「国益を損なうと思ったことについては、日本の立場をきちんと主張しなければならない。国家防衛の基盤は愛国心である」と正面から国益追求を基軸に論をすすめる。
ところが、「防衛省の内局というところは、いわば“政治将校団”で、欧米のような民主主義の国家より、中国や北朝鮮に近いシステムだ」。
爆弾発言はまだ続く。
「非核三原則? 核を持たない国家は最終的に核兵器保有国の意思に従属せざるを得ない」。
傾聴に値する論考が全編を流れる。
巻末に懸賞論文当選作ならびに国会での参考人招致議事録が付いている。保守陣営必読の書である。 (なお本書は来週半ばに店頭に並びます)。
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アブラハム・ラビノビッチ、滝川義人訳『ヨムキプール戦争全史』(並木書房)
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本書は浩瀚な歴史書であり、現代の中東政治のリアリズムが切実と伝わってくる。愛国心とは何かを具体的に考えさせてくれる好書である。
舞台はイスラエル。
通称「ヨム・キップル戦争」(ヨムキプール戦争)とは第四次中東戦争のことである。
連戦連敗のシリアとエジプトは、73年八月、秘密裏に合意していた。同時に北と南から奇襲をかけ、敵を挟み撃ちにしてユダヤ人を殲滅するにはどうしたら良いのか。
まず優秀なパイロットがそろうイスラエル空軍をどうやって無力化できるか。
両国は実に数百人のパイロットを密かにロシアへ派遣し激しい訓練をさせていた。
同時にインテリジェンス能力を高めるためにイスラエル軍の傍聴。このためにヘブライ語を特訓で学ばせていたのである。
1973年10月5日、贖罪の日だった。
よもや、この日に奇襲を受けることはないだろうとイスラエルは安眠しつつあった。油断があった。
イスラエルはシリアとエジプトの二正面から奇襲作戦を受け、ちょうど挟み撃ちされてあわや壊滅の危機に立たされた。
軍事力比較ではシリアとエジプト両軍に少数のイスラエル兵士が立ち向かう。
戦力は3vs1.
当時、イスラエル宰相は女性のゴルダ・メイヤ。国防相は六日間戦争の英雄モシャ・ダヤン。片眼の将軍として世界に名をとどろかせた男である。
いかにしてイスラエルは窮地から脱し、シリア軍を敗走に追い込んだか。エジプト軍を潰走させたか?
軍事力の劣勢をカバーしたのは優秀な戦場のリーダーシップと作戦だった。そしてインテリジェンスだ。
日本の自衛隊幹部全員は、この本を教科書のようにして読むべきだろう。
著者のラビノビッチは、この戦争では『エルサレム・ポスト』紙の戦争記者として従軍した。そして三十年の歳月をかけて、百人を超す軍人、戦場指揮者にインタビューをなしとげ、資料を丹念にあさり、この本を著した。現代史の第一級史料でもある。
ワシントンポストは「イスラエルの軍事政治思考と行動の核心に迫る名著。ヨムキプール作戦におけるイスラエルの経験を、これほど詳細かつ正確に記録した書はほかにない」と激賛した。
著者の出身母体でもあるエルサレム・ポストは「素晴らしいの一語につきる」と絶賛、まだ本書の推薦を書いた佐藤優(起訴求職中外務省事務官)は、 「イスラエルを知ることなく現代の国際政治について語ることは出来ない。とくにヨムキプール戦争(第四次中東戦争)は、イスラエルが国家存亡をかけて戦
った『関ヶ原の合戦』のようなものである。この戦争に勝利したことによってイスラエル国家の存続が担保された。今回のアブラハム・ラビノビッチ著『ヨムキプール戦争』が翻訳刊行されたことを心から歓迎する」 との讃辞を寄せている。
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(読者の声1) いつも素晴らしいメルマガ、どうもありがとうございます。拝見するたび、少し賢くなるような気がし(自画自賛?!)、毎号楽しみにしています。
12月6日のメルマガで登場する「康有為」氏は、今読んでいる「紫禁城の黄昏」(もちろん渡部昇一先生の完訳版です)にも出てくることに思い当り、興味深く読ませていただきました。
今の中国は大嫌いですが、清朝の頃には多くの君主制を愛する人々がおり、そういう人たちが革命政権に封殺されていったのだということでしょうか。
両親は大正生れですが、父は若い頃満州にいたことがあり、当時の満州のことを時々聞いたことがあります。ジョンストンの描く古き佳き?時代のシナに惜別の情さえ覚える今日この頃です。今後も多方面のニュースや話題、楽しみにしております。
(Y生)
(宮崎正弘のコメント)ジョンストンの回想記にも康有為が出てくるのですね。ラストエンペラーにとって強い思想的影響があったというわけですか。御教示、有り難う御座いました。
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(読者の声2) 外交でもアメリカ・中国に振り回されるのでなく日本がどうするのかを自主的に考えてほしいです。
「国連の核廃止」の音頭を日本が取るのですから堪りません、「沈黙」すべき。
そして日本は「唯一の核被害国」である事のみを「主張」して置けば良いと思うのです。
「二度と許さない日本は(棄権)」とする度胸もないのですね。
田母神論文打ち消しに「岡本某」なる珍奇な男を遊説に行かす外務省の神経では無理なのでしょう。
(A生)
(宮崎正弘のコメント)岡本行男氏への批判がものすごいですね。あれで「外交評論家」のたぐいとは!という非難が強まっているようです。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成20年(2008年) 12月7日(日曜日)
通巻第2416号
新型「民工潮」は都会から地方へ逆流。すでに数百万人の環流流民
中国経済、いよいよ未曾有の大破綻、それも唐突に超弩級に
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▲この異常な帰郷ラッシュの群れ
先々月、上海から南京を長距離バスで往復した。
午前七時に上海駅北口の長距離バスターミナルで、チケット売り場に並んで、ようやく購入できたチケットは二時間後の九時半出発。つまり三十分ごとにある定期バスがずっと先まで満員なのだ。
帰路、南京からは早朝からチケット売り場に長い長い列。咄嗟の判断で、臨時便のチケットをダフ屋から買った。それでも午前7時にターミナルへ行って、乗ったのは八時半、上海着は午後一時過ぎとなった。
オフシーズンなのに、この異常事態は何事か、訝しんだ。
珠江デルタの生産基地(「世界の工場」と言われた)で工場閉鎖が相次ぎ、有名な玩具工場では倒産と給料未払いに激怒した工員ら二千人が、ロックアウトされた会社へなだれ込み、コンピュータをたたき壊し、駆けつけてきたパトカーを横転させて燃やした。
広東省では上半期だけで六万二千社が倒産し、台湾企業経営者は夜逃げ、香港系は逃げても追いかけてくるので米国へトンズラ。繊維、玩具、雑貨産業はとうにベトナムへ工場を移転させた。
中国の「人力資源・社会保証部」の伊セキ民・部長の推計では、江西省から各地への出稼ぎは680万人、このうち30万余がすでに江西省に帰省した(江西省は上海や浙江省への出稼ぎの拠点)。
湖北省には過去二ヶ月だけで、都会で失業した30万余が帰国した。湖北省の省都・武漢市当局の予測では最終的に80万人の労働者が、いずれ近いうちに湖北省に帰郷するだろう、としている。
中国の農民は8億人前後である。
都会への出稼ぎは1億3000万人と見積もられるが、このうち8000万人が帰省した場合、勿論、彼らには田畑がないから、事実上のルンペンとなる。
「もっか、安定社会を最大級に脅かしているのは、この民工の逆流現象である。かれらの最就労機会を地方政府が促進しない限り、安定社会は維持できない」(孟建柱・国家公安部長)
▲世界金融危機が中国を直撃している
上海郊外の工場地帯から広東一円にかけて閉鎖、企業倒産のあおりを受けて暴動が頻発、この激しい労働者の怒りの隊列は北京市内でも見られるようになった。北京五輪から僅か三ヶ月で、この惨状である。
第一に世界金融危機が直接もたらした悪影響だ。
アメリカの購買力減退や毒入り食品、玩具などで輸出が激減したことに加えて、NYの銀行が麻痺し、資金不足のためLC(銀行信用状)を開設出来なくなったか
らだ。
12月4日からの米中戦略的経済対話で、ポールソン財務長官と王岐山副首相との間の合意とは、お互いに信用枠をLCに替えて新たに政府が設定し、この危機を逃れようとするもので、米側が120億ドル、中国側が80億ドルの上限を設定したほどだ。
第二は中国が制定した新雇用法(労働合同法)に関係する。
十年以上のベテラン社員には終身雇用待遇を義務づけたほか福利厚生の強化が謳われた。その結果、企業はベテラン社員の首切りを始めたのだ。
「アジア製靴連盟」の推計では、同法施行直後から毎月5,6000メーカーが操業短縮、工場閉鎖。零細企業六万社がビジネスをやめたという。
「香港製造商業連盟」に拠れば、新法制定以来、工場の製造コストが15%程度はねあがり、このまま福祉や休暇増大、そのうえ賃上げを認めれば、とても製造業は立ちゆかないとの結論に達したという。
第三に社会を覆う不穏な空気だ。
REIT(住宅投資信託)のインチキ商法や原野商法に引っかけって投資家らの「金返せ運動」が各地で暴動を引き起こしたのは既に日本のマスコミも報じた。
新型の一例がタクシーの連続的ストライキである。とくに新興都市のタクシーは農家出身者で高利貸しや親方から資金を借りての深夜営業組が多く、そこへやくざが絡む「白タク」が当局と警察に賄賂をおくって不法な営業を始めるから揉めるのだ。
▲タクシーのストライキが地方都市の交通を麻痺
タクシー・ストの端緒となったのは重慶市で、白タクの存在に抗議した正式のタクシー乗組員が8000台のタクシーを動かさなくなったため、交通が麻痺状態に陥った。
この動きは海南島の三亜市に飛び火し、次に湖北省刑州、甘粛省蘭州、広西省北海、福建省甫田、広東省潮州、仙頭、東莞、茂名など合計十五都市にまたたくまに広がった。
これらの地域はやくざが多い場所としても知られる。
第三は農地法改正である。
或る農民によれば「農地へ課税させるんが毎年3500人民元もあっぺ。これで家族五人は食べられないべ。だから月給800元でも、都会へ出稼ぎに出んだべ」と語っている(台湾の有力紙『自由時報』、12月3日付け)。
農薬と肥料付けの中国農業は金融の問題がきわめて不透明、くわえて農地の所有権や転売規制の緩和などがあって、畢竟するに農民が裨益せず、利権を独占するマフィア、地方幹部の暗躍が、法改正をむしろ法改悪へと結果させている。
ひとしきり「二月危機」が懸念されるけれど、二月の旧正月を待たずして、中国経済は未曾有の混沌に陥るだろう。
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(読者の声1)何時もアメリカは中国を見る目で狂うのです。日本人も同じ様なものですが、何回失敗すれば中国が見えるのか?不思議で仕方が有りません。
戦前も戦後もメクラ(何でも不適切語と言うらしいのですが)のマスコミに踊らされる政治家・経済人・加担する外交には呆れはてます。
(X生)
(宮崎正弘のコメント)おっしゃる通りアメリカの外交は大概が失敗の連続です。中国ばかりではなく対露西亜、中東、イスラエル政策もおかしい、完全な誤謬は対台湾政策でしょう。
180度の転換を何回もやりながらテンとして恥じない。
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12月25日に田母神前空幕長を招いて緊急講演会
「日本は侵略国家だったことは一度もない」
爆弾発言とマスコミが命名し国会喚問も行われながら、その訴えの本質をなに一つ論議されなかった田母神論文。
国防の本質とは何か? 我々は何を何から守るべきなのか。
本人からすべてを聴きましょう。
いわば三島事件のごとき、静かな精神的クーデタを言えるかも知れないのです。
記
とき 12月25日(木曜日) 午後六時半
ところ 内幸町ホール
http://www.uchisaiwai-hall.jp/data/koutsu.html
会場分担金 おひとり2000円、学生1000円
主催 国防研究会
後援 三島由紀夫研究会
どなたでも予約なく、ご自由に参加できます
◎
◆
宮崎正弘の新刊予告
『やはり、ドルは暴落する! 世界と日本はこうなる』(ワック文庫)
(予価933円。12月26日発売予定!)
宮崎正弘の最新刊
『中国がたくらむ台湾沖縄侵攻と日本支配』(KKベストセラーズ 1680
円)
『トンデモ中国、真実は路地裏にあり』(阪急コミュニケーションズ)
(全332ページ、写真多数、定価1680円)
『北京五輪後、中国はどうなる』(並木書房、1680円)
『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との共著。徳間書店、1575円
) 『崩壊する中国 逃げ遅れる日本』(KKベストセラーズ、1680円)
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