住宅バブル崩壊の予言者が激白! 「金融危機の警鐘はなぜ無視されたか」(ダイヤモンド)
住宅バブル崩壊の予言者が激白!
「金融危機の警鐘はなぜ無視されたか」(ダイヤモンド)
ロバート・シラー イェール大学教授インタビュー
金融危機の予言者は多けれども、住宅バブル真っ盛りの2005年からサブプライムローン問題のリスクを体系的に分析し、金融システムや実態経済への影響について警鐘を鳴らしていた人物はイェール大学のロバート・シラー教授をおいて他にはいない。世界的に著名な経済学者であり、かつてはITバブル崩壊を言い当てていたにも関わらず、彼の警告ははぜ政権中枢に届かなかったのか。本人がその理由を考察し語ってくれた。
ロバート・シラー イェール大学経済学部教授 |
―あなたは、住宅バブル崩壊に伴う金融危機や景気減速のリスクについて、2005年から警鐘を鳴らしていた。規制当局や政権関係者はなぜ耳を傾けなかったと思うか。
耳は傾けていた。議会の公聴会にもよく呼ばれて話したし、規制当局や政権関係者と議論する機会も多々あった。ただ、彼らは、耳を貸しただけで、アクションを起こさなかった。聞こえのいい予測を出す、政権内外にいるエコノミストたちの意見を尊重したからだ。
―エコノミストたちはなぜリスクの大きさを見誤ったのか。
同じ職業にある私が言うのもなんだが、エコノミストたちはこの間、二つの点で過ちを犯した。
一つは予測の際に、過去10~30年あまりのデータに依存したこと。実際には、第二次世界大戦前の世界大恐慌時、さらにその以前にまでさかのぼる必要があった。
第二に、経済活動の心理的側面を軽視し過ぎた。
おおかたのエコノミストが考えている以上に、経済は心理で動いている。しかも、その心理の影響は年々強まっている。かつては自己を労働組合員や善良な市民として規定していた庶民が今では頭の切れる投資家や資本家でありたいと願っている。この傾向は、ソ連の崩壊や中国の資本主義化で、世界的に強まった。経済活動の変動性が高まるのは当然の帰結だ。
―しかし、そうした考え方は行動経済学の発展で認識され始めているはずだが。
確かに、アカデミアの世界ではそうだ。しかし、政府の内側にまで届いているわけではない。さらに踏み込んで言えば、経済政策を担う政府中枢にいるエコノミストたちの発想とはなっていないということだ。そうした人々が従来の殻を破り、発想を解き放たなければ、今回の危機は簡単には収まりそうにない。
―そもそも今回の危機とは何であると捉えているのか。
大元は当然、サブプライム問題そして住宅バブルの崩壊を経た金融危機にある。しかし、今となっては、金融危機である以前に、コンフィデンス(自信、信認)の危機であると考えている。
1930年代の大恐慌時と同じく、マイナスの空気が人びとの心に巣くい、自己増殖している。危機になるぞと言いながら危機に向かう「自己達成的な予言」のようでもある。
―米国経済のマイナス成長の幅と期間はどれくらいになると予想しているか。
経済活動がこのような心理に陥っているときに、明確な予測など立てられるものではない。
ただ、これだけは言える。信用創造の大元となっていた住宅価格が下げ止まらなければ、消費の回復も期待できないうえ、金融機関の損失もさらに膨らみかねないということだ。
―では、住宅価格はいつごろ底を打つと見ているか。
住宅価格(主要都市圏)の下落傾向はすでに2年以上続いているので、来年にも底を打つと言いたいところだが、そうも断言できない状況だ。回復基調にあったボストン(マサチューセッツ州)やシャーロット(ノースカロライナ州)も秋口以降、金融危機の影響で暗転の兆しを見せているからだ。
住宅価格指数(S&Pケース・シラー住宅価格指数)を開発した当事者としては具体的な予測はできない。ただ、シカゴ商業取引所のシラー指数先物価格が今後さらに10~20%の下落があると示していることは、参考になるのではないか。
―オバマ次期大統領は公共事業を柱とする大規模な景気刺激策を打ち出す見通しだが、効果は期待できないと見ているのか。
こう答えよう。巷には今年春にブッシュ政権が実施した財政出動の効果に対する懐疑論が根強いようだが、第2四半期の成長率はプラスを維持した。財政出動がなかったらどうなっていたのか考えるだけで恐ろしい。
同じことは、金融機関への公的資金注入の道を開いた金融安定化法にもいえる。問題の解決策ではないが、事態の悪化を防ぐためには必要な策だ。政府は、今はとにかく経済活動のコンフィデンスが戻るような施策を打ち出し続けるしかない。
ロバート・シラー
(Robert Shiller)
イェール大学経済学部教授 住宅価格関連指数としては最も注目度の高いS&Pケース・シラー住宅価格指数の開発者で、株価変動研究の第一人者。ITバブルと住宅バブルの発生と崩壊リスクについていち早く警鐘を鳴らしたことで知られる。主な著書に『投機バブル 根拠なき熱狂―アメリカ株式市場、暴落の必然』(ダイヤモンド社)『新しい金融秩序―来るべき巨大リスクに備える』(日本経済新聞社)などがある。http://diamond.jp/series/worldvoice/10034/