日本は何か見返りを要求したのでしょうか?
ロシア政治経済ジャーナル No.546
2008/11/17号
★G7(一極世界)からG20(多極世界)へ
全世界のRPE読者の皆様こんにちは!
いつもありがとうございます。
北野です。
11月14・15日、G20による金融サミットがありました。
サミットでは、共同宣言・行動計画が発表されました。
共同宣言の内容は、
・金融安定に向けあらゆる追加的措置を実施
・金融政策の重要性を認識。即効的な内需刺激の財政施策を活用
・IMF・世界銀行の十分な資金基盤を確保
・金融市場と規制の枠組みを改革。当局の国際連携を強化
・すべての金融市場・商品・参加者を適切に規制、格付け会社を強
力に監督
・保護主義は拒否し、今後1年間は新たな投資・貿易障壁を設けない
・金融市場の改革・規制で行動計画を採択
・09年4月末までに第2回金融サミット。行動計画の実施状況を点検
(毎日新聞11月16日より)
だそうです。
「第2ブレトンウッズだ!」
と騒がれたわりに、センセーショナルなことはなかったようですが。
いくつか気がついた点にふれておきましょう。
▼決定的に古くなったマケインの価値観
アメリカ大統領選挙で負けたマケインさん。
日本の親米保守派は、ずっとマケインさんを支持していました。
私もそうです。
なぜかというと、マケインさんは「日米同盟重視」で「中国・ロシア・
北朝鮮」などの脅威をきちんと認識しているから。
マケインさんは、二つの重要な提案をしていました。
1、独裁国家を排除した「民主主義連盟」を作りましょう
(中国・ロシアは排除)
2、ロシアは独裁国家なので、G8からはずしましょう。従来のG7体
制に戻りましょう
彼が敗北したことで、結局この案はとおりませんでした。
マケインさんは今回のG20を複雑な心境で眺めていたことでしょう。
なぜか。
1、G7だけで問題が解決できるのなら、G20は開かれなかっただ
ろう
2、G20の中には独裁国家も入っている
3、ロシアをはずしてG8をG7に戻すどころか、G20に拡大しなけれ
ば金融危機は克服できない。
マケインさんの「民主主義国家は結束し、独裁国家と対決する」と
いう冷戦的世界観は、決定的に現実離れしてしまったのです。
そうそう。
G20ってなんなのでしょうか?
G8は日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、ロシア。
それにアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、ヨーロッパ連合(EU)が加わります。
G20が世界GDPに占める割合はなんと約90%。
残り10%の富を90%の国々がわけあっているのですね。
なんという「格差世界」。
ここでも金持ち父さんの「90%の富を10%の人が握り、10%の富を残りの人がわけあう」という言葉の正当性が裏付けられています。
▼ブレトンウッズ体制見直しを求める声
今回のG20が注目されたのは、「新ブレトンウッズ」とか「ブレトンウッズ2」とか前評判が高かったからです。
ブレトンウッズ体制とはなんでしょうか?
1944年7月、アメリカ・ブレトンウッズで、連合国通貨金融会議が開かれました。
ここで何が決まったかというと、重要なのは二つ
1、国際通貨基金(IMF)と国際復興開発銀行(=世界銀行)を設立
2、米ドルを基軸通貨とする
具体的には?
1、アメリカは金(きん)1オンスを35ドルと交換することを保証します
2、米ドルと他国通貨は、固定相場とします
円は1ドル360円とされました。
しかし、ベトナム戦争や経常赤字の増加により、アメリカはこのシステムを維持できなくなった。
それで、ニクソン大統領は1971年、米ドルと金の交換を停止します。(ニクソンショック)
ブレトンウッズ体制はこうして崩壊。
1973年から、ドルは変動相場に移行しました。
これで、米ドルはただの紙切れになったのですが、「代わりがない」という一点で、その後も基軸通貨でありつづけたのです。そして、IMFと世銀も、現在にいたるまで存続しつづけています。
ドルは1999年にユーロが登場するまで安泰でした。
しかし現在、世界中でドル離れが加速していることは、皆さんもご存じのとおり。
現在、「基軸通貨の今後」については、3つの立場があるようです。
1、世界に5~6の基軸通貨が並立する状態
これを支持しているのが、フランスを中心とする西欧。
ルーブルを1基軸通貨にしたいロシア。
サルコジさんはこんなことをいっています。
↓
<「ドルは基軸通貨ではない」=金融サミットで表明へ-仏大統領
11月14日8時26分配信 時事通信
【パリ13日時事】フランスのサルコジ大統領は13日、
「米ドルはもはや世界の基軸通貨ではない」
と述べ、ワシントンで14、15の両日開かれる金融危機対策のための緊急首脳会合(サミット)でも、こうした考えを表明することを明らかにした。
AFP通信が報じた。
同大統領は、パリのエリゼ宮(大統領府)での演説で
「ドルは第二次大戦終結直後には世界で唯一の(基軸)通貨だったが、もはや基軸通貨だと言い張ることはできない」
と述べた。 >
メドベージェフさんやプーチンさんも同じような発言を繰り返していま
す。
たとえば、最近では。
↓
<<ロシア>米ドルに代わる基軸通貨多様化を提起へ
11月1日10時33分配信 毎日新聞
【モスクワ大木俊治】ロシアのメドベージェフ大統領は10月31日、今月15日に米国で開かれる世界20カ国・地域(G20)の緊急首脳会議で、米ドル依存に代わる基軸通貨の多様化などを柱とした国際金融システムの改革案を提起する意向を表明した。>
もう一国、多極主義陣営の中心である中国はどうなのか?
中国は非常に賢く、表だってアメリカと争うことはありません。
しかし、裏ではこっそりドルはずしをしています。
↓
<中露首脳、世界の金融取引で使われる通貨の拡大提唱10月28日23時34分配信 ロイター
[モスクワ 28日 ロイター] 中国・ロシアの両首脳は28日、世界の金融取引で使用される通貨の拡大を提唱した。ロシアのプーチン首相はモスクワで開催中の中露フォーラムで、ドルよりもルーブルと人民元による2国間取引を提案。
「現在、ドルを基盤とする世界は深刻な問題に陥っている。世界の金融市場は依然として困難な状態だ」と指摘した。
「このような状況のなか、われわれは2国間取引の支払いシステムの改善について、自国通貨の使用を含めて考える必要がある」と話した。
中国の温家宝・首相は「異なる通貨の使用を通じた安定化支援に向け、世界の通貨システムの多様化が求められている」と語った。>
2、現状(=ドル基軸通貨体制)維持
これを支持しているのが、もちろんアメリカ。
アメリカはドルが基軸通貨であるかぎり、いくらでも借金できるので、現状を維持したい。
前号で書きましたが、バイデンさんは・「オバマさんの大統領就任後、6か月以内に国際的危機が起こ
る」・「危機は、中東あるいはロシアから起こる」と「約束」「保証」しています。
中東ではイランが、原油をドルではなくユーロ・円で売っている。
ロシアは、
・ルーブルを世界通貨にすると宣言している
・原油をルーブルで売っている
・二国間貿易でドルを使用しないよう、中国・ベトナム・ベラルーシなどと協議をすすめている
等々。
イランとロシアは「ドル体制最大の脅威」なので、バイデンさんの予言は、「力でドル体制崩壊を防ぐのではないか」と予想されます。
もう一カ国、けなげに「米ドル基軸通貨体制」を守りたいのが、我が国日本。
↓
<金融サミット】英など3カ国首脳「麻生提案」への支持表明11月15日10時28分配信 産経新聞
【ワシントン=高木桂一】訪米中の麻生太郎首相は14日午前(日本時間15日未明)から、市内でブラジルのルラ大統領、英国のブラウン首相、インドネシアのユドヨノ大統領とそれぞれ個別に会談し、同日夜(15日午前)にホワイトハウスで開幕する緊急首脳会合(金融サミット)で提案する
「ドル基軸体制の維持」や「国際通貨基金(IMF)への最大1000億ドル融資」などの提案を事前説明した。>
まあ、日本は米国債保有世界1位、外貨準備世界2位。
米ドルが暴落すると、もっとも被害が大きい。
しかし、米国債保有世界2位、外貨準備世界1位の中国が、日本と全然反対の動きをしているのは興味深いです。
3、世界統一通貨
これを支持しているのが、イギリスのブラウンさん。
具体的にはIMFを強化・発展させ、「世界中央銀行」化したい。
以上3つの可能性。
1、5~6の基軸通貨が並立する
2、ドル体制がつづく
3、世界統一通貨ができる
このうち、ドル体制は事実として崩壊しつつある。
短期ではわかりませんが、長期的にもりかえす方向にはいかないでしょう。
もっとも可能性があるのは、5~6の基軸通貨が並立する状態。
事実として、こっちの方向にむかっています。
たとえば、
・ユーロ
・ルーブル(たとえば独立国家共同体の基軸通貨)
・湾岸共通通貨(中東産油国の共通通貨)2010年導入予定
・南米共同体共通通貨
・東アフリカ共同体共通通貨
等々。
世界統一通貨はどうなのでしょうか?
これは、全世界から反対が出るでしょうし、つくるべきではないですね。
なぜでしょうか?
世界統一通貨ができるということは、それを印刷する「世界中央銀行」ができるということ。
米英が主導するにしても、中ロが主導するにしても、「通貨発行権」を得るグループはとてつもない権力をもつことになります。その権利を得たグループが潔癖であればいいですが、権力はかならず腐敗する。
もし、世界通貨発行権を得た人々が、「おれらが世界の王になろう!」と考えたら、誰がこれを阻止できるでしょうか?
いずれにしても、今回のG20で、国際通貨体制に関して「歴史的」といえるような出来事はありませんでした。
ただ、「ドル体制にかわるシステムを!」という声は日ごとに大きくなっています。
▼国民に2兆円、他国に10兆円の日本政府
さて、日本政府はIMF強化のために10兆円出すと宣言しました。
↓
<日本の10兆円拠出を歓迎=IMF専務理事11月15日11時28分配信 時事通信
【ワシントン14日時事】国際通貨基金(IMF)のストロスカーン専務理事は14日、日本がIMF強化のため最大1000億ドル(約10兆円)を拠出することを歓迎する声明を発表した。>
いや~実にすばらしい!
このお金は、危機に陥っているアイスランド・ウクライナ・パキスタン・韓国等々の救済につかわ
れるのでしょう。
ただ。。。
定額給付金総額2兆円。(景気対策の柱!)
一人あたり1万2000円。
に対し、他国支援にさくっと5倍の
10兆円(!)
~~~~~~~~~~
この10兆円を国民にまわしてくれれば、一人当たり1万2000
円ではなく、
7万2000円もらえる(というか戻ってくる)のです。
(定額給付金の効果云々については、ここでは考察しません)
しかも政府は、「財政再建をするため、3年後に消費税を倍増させる!」と宣言しています。
苦しいわりには、えらい余裕ですよね。
ちなみに、民主党の議員さんがいうには、農家の所得保証に必要な額は年1兆円だそうです。
10兆円あれば、10年間農家の人たちを養えるのにね。
どうなんでしょうか。
私は前々から、「日本以外の国は自分の利益を求める企業と同じ」
「日本だけは慈善団体だ!」
と書いていますが、今回の大盤振る舞いにはまったく驚きました。
苦しんでいる自国民を犠牲にして、他国を助ける。
日本はまさに
「神の国」 (^▽^)
と呼ばれるにふさわしい。
ちなみに、私たちが日頃「共産党の一党独裁国家だ!」とバカにしている中国。
中国は現在、57兆円(!)の景気刺激策を実行しています。
しかし、外貨準備世界1、米国債保有世界2のこの国は、IMFへの支援増額には応じませんでした。
私が得ている情報では、(世界統一通貨導入を狙う)ブラウンさんが、熱心に中国首脳部を口説いているそうです。
で、中国は「金を出すのはいいが、出した金に見合った地位をIMF内で与えてもらおう!」と交渉している。
日本は何か見返りを要求したのでしょうか?
産経新聞11月16日に、こんな記事があります。
<金融サミットで協調確認するも、日本に財政・金融政策打つ手なし>
この中にこんな一節があります。
<日本の長期債務は国と地方合わせて778兆円。景気低迷で税収増は見込めず、今年度の税収は大幅な落ち込みが確実だ。ユーロの統合で財政健全化を進めてきた欧州に比べても、新たな財政出動に踏み切る余力はない。>
10兆円寄付する余力はあっても、自国民を救うために財政出動する力はないようです。
私は、世界の人々を助けるのことには、もちろん賛成です。
しかし、「自国民を犠牲にして」というのに反対なのです。
私なら麻生さんに、「10兆円分減税して、2兆円IMFを支援したらどうですか?」と提案しますが。
皆さんはどう思われます?(おわり)
●PS
「うわ~なんてひどいことが起こっているんだ!」
「日本に希望はないのか?」
ご安心ください。
日本にはバリバリ希望があります。
詳しくはこちら↓
★「僕が生まれたのは、中華人民共和国
小日本省です・・・」
~~~~~~~~~~
アメリカの衰退により、放り出される
天領日本。
~~~~
戦後60年以上「自分で決定したことがない」
依存政治家は、
次の依存先を探し始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
日本には二つの道があります。
1、中国幕府の天領(小日本省)になるのか?
2、真の自立国家になるのか?
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PS
本の一番最後に「北野の夢」が書いてあります。
しかし、前から順番にお読みください。
★編集後記
<テニス>クルム伊達「来年は全豪に挑戦したい」
全日本を制し「世界復帰」へ
11月15日16時45分配信 毎日新聞
15日行われたテニスの第83回全日本選手権の女子シングルスで、16年ぶり3回目の優勝を果たしたクルム伊達公子選手(エステティックTBC)は、「年が明けたら全豪にチャレンジしたい」と、国内サーキッ
トから、再び4大大会を含めた世界への進出を明言した。>
↑
すごすぎ。
おめでとうございます!!!
私は、伊達公子さんと同じ年。
ちょっとがんばろうかなと思いました。
RPEジャーナル
北野幸伯
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