「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成20年(2008年) 11月25日(火曜日)
通巻第2398号 (11月24日発行)
このアジア通貨劇安状況で、なぜ人民元だけが暴落しないのか
海外華僑の最後の砦は人民元投機
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韓国ウォンは55%安。ソウルの最高級・新羅ホテルが一万二千円で泊まれる。
97年アジア通貨暴落のときも中国だけは被害を免れた。今回も、対米輸出激減、失業増大、株と不動産価格大暴落を演じている中国だが、なぜか通貨・人民元だけが暴落をしていない。
理論的に言えば一ドル=8・2(05年)から6・8に為替レートが修正されているものの、世界の通貨の相対比較において、割高なのである。
アメリカを中心に海外華僑と、バミューダを経由した、「米国籍だが、本当は中国の洗浄資金」が株と不動産に投資して、これまでにしこたま儲け、昨今は最後の砦の人民元投機を、依然として継続しているからだ。
もしこの巨大な海外華僑の投機資金が中国から引き上げたら人民元はアジア通貨同様に暴落する。
アメリカにいる華僑は人民元がまだまだ強くなると信じているようだ。
しかし中国の経済の実態を勘案すれば、どうしても一ドル=8・00人民元前後に、或いは現行の一人民元=15円が、12円程度までに落下することになるだろう。
中国の外貨準備高世界一のからくりは人民元投機であり、ユーロが突如165円から120円に崩落したように、ユーロ同様の27%暴落が起これば、一人民元=16円は12円強になる。
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(読者の声1)貴誌2397号で「オバマが直接、UAW(全米自動車労連)に乗り込んで諄々と説得すれば良いのです。雄弁と言われる政治家なら、スタート時点でそれくらいの芝居が出来なければ、次期オバマ政権は一期でお終いでしょう」
と書かれました。
理想的にはそのとおりと思いますが、相手の頑迷さと必要とされる説得能力の巨大さから考えてまず無理でしょう。
ところでビッグスリー倒産による消費需要低迷を危惧して日系自動車企業の株価が下がっていますが、これは的外れの相場です。
ビッグスリーが倒産すれば、米国やヨーロッパで、トヨタやホンダの自動車の売上が急上昇することでしょう。
そこには、2つの危険があります。
(1)怨み、嫉妬をかうおそれがある。
(2)元UAW組合員を雇うよう圧力がかかる。
これらを回避する妙策があります。
新規に工場を建設しアフガニスタンやイラクから帰国する米兵や英兵を優先的に雇って、かれらの社会復帰に貢献すると宣言して実行するのです。
評判が良くなるだけでなく元UAW組合員を雇うよりはるかによい労働力が得られます。
さらに、新しく「Patriot」(愛国者)と名づけた車を売り出すのです。「Icocksia」(アイコクシャ、愛国者、愛国車)と名づけても良いかもしれません。
こういいアイディアを受け入れる度量が、トヨタやホンダの経営陣にあるなら、株の買いがおすすめです。
下手をすると、現代自動車やJeelyにアイディアを先取りされかねませんが。
(ST生、神奈川)
(宮崎正弘のコメント)うーん。卓見ですね。このメルマガにアイディアをだすと、どこか競合相手に出し抜かれるかも。
冗談はさておき、GM倒産となれば日本企業が下請けで、ブレーキなど多くのGMの部品を作っていますから、被害は甚大となり株はさらに下がるというのが証券マンらの見方です。
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(読者の声2)田母神論文問題について一言させていただきます。
先日、産経新聞で阿比留瑠比氏が,左翼陣営が目的達成のために取る手段が巧妙,狡猾で,かつ卑劣さをも厭はないのに対し,保守陣営のそれはあまりに真っ正直すぎる,と書いてをりました。
確かにそれは言へます。
左翼は目的のためには手段を選ばず,どんなことでもするし,また手段をよく研究してゐます。
三島由紀夫の『豊穣の海』第二巻、『奔馬』の中で,要人暗殺計画が漏れて捕まった飯沼勲に対し,看守が理解ある態度を示し,一方拷問を受けて呻ってゐる左翼運動家を「あの赤の連中ときたら」,と言って口を極めてののしる場面があります。
これを聞いた勲は「自分が許されてゐる!」と知り,足摺をして悔しがるのですが,この勲の直情径行と左翼人士のねちねちとしたカビのやうな行動との対比は一般に見られるものでせう。
阿比留氏は,安倍元総理が,村山談話を踏襲したことで保守派を失望させたのでは,と言ふ質問に対し,「確かに失望させたと思ふが,さうしなければ安倍内閣はその時点でつぶれてゐた」と答へたと書いてゐます。
安倍さんにすれば総理としてやりたいことがいくつもあり,村山談話や河野談話を否定すると言ふことによって足元を掬はれるのは馬鹿らしい,と考へたのでせう.確かに安倍さんは歴代の首相がなし得なかった多くのこと(国民投票法案の成立,防衛庁の防衛省への格上げ,教育基本法案の成立,公務員法の改正,など)を矢継ぎ早に成し遂げました.これらの”大事”の前には村山談話などのやうな”小事”は無視すべきだ,と言ふ判断でせう。
この作戦は成功したかに見えます。
しかしこの大小の判断は本当に正しかったのか。
むしろ村山談話を否定し,歴史認識を正すことの方が重要なのではないか.実際歴史認識問題,東京裁判史観問題を解決しない限り,憲法改正などできないし,日本の再生などもまったく見えてこないではないか。
田母神氏に対し,地位を弁へない愚か者として,マスコミのみならず自民党の議員(特に麻生総理)までもがバッシングに余念がない。
しかし影響力のある地位の人が言ふからこそ効果があるのである.田母神氏と同じやうな考への人はいくらでもゐるし,同じやうなことを雑誌に書いてゐる。
しかし誰もそれを問題にしないではないか。
麻生総理は田母神論文問題にうまく乗っかり,この歴史認識問題の解決に向けて動くべきであった。困難を乗り越えて,身を犠牲にしてでもこの問題の解決を図ることは日本と言ふ国の重大事であり,誰かがやらねばならないし,総理大臣が旗幟を闡明にするのが一番効果的なのである。
そのために首相の座を降りることになってもよいではないか。
しかし村山談話はあっさり踏襲し,田母神氏に対しては慌てて首を切って臭いものに蓋をしようとする.麻生首相にすれば迷惑千万なことをしてくれた,と言ふ気持ちが強いのであらうが,最近この人の精神の軽さと志のなさに幻滅するばかりです。
(NN 生,横浜市)
(宮崎正弘のコメント)吉田茂の孫ということで買いかぶり過ぎた側面が大きいですね。
しかし吉田茂も又歴史上の大失策をやらかした。自主憲法のチャンスがあったのに、しなかった。歴史の神髄に関しての認識が浅かったとしか言いようがありません。
さて蛇足ですが、26日発売の『WILL』は、田母神さんの反論50枚の特集です。
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(読者の声3)貴誌2397号、「読者の声2」のST氏の厳しいご指摘、たしかにその通りだと思います。
以前、ネットで日銀の若手行員と思われる人とやりとりしたことがありますが、私の考え方は現実の日銀にとっては夢にすぎないと。
ただ夢であっても夢と認識されるだけでもまだましだと、その時、心中思ったことがあります。
現実の銀行は冷酷そのもの。日銀などさらにその上にある雲の上の存在であり、冷酷の牙城、まさにバスティーユ牢獄を襲撃する代わりに、日銀を襲撃するのが日本革命の本筋でありましょう。
しかしどんなに詐術の牙城であっても冷酷の鉛色に輝く禁断の砦であったとしても、彼らは血の通った日本人であり、その意味で夢にすぎないと語ってくれた行員に私は感謝しました。
皆、冷酷な現実を前にして厚い組織の壁に囲まれ、日々そこで仕事をし、生活の糧を得ている以上、個人の力は微小であり脆弱です。分かっていてもどうにもならない。
私もかつて大企業の壁に泣かされた男の一人です。ただ金融の素人である私に誠実な受け答えをしてくれた、その日銀マンに感謝したのです。
日銀を現実で語ることと夢で語ること、その両方があっていいと思うのです。実体経済と金融経済の両方があって国の経済は成立しているからです。
それからST氏、宮崎様、お二方にお尋ねしますが、円建て米国債の発行に伴う、ST氏の懸念されるご指摘を回避するために日本の造幣局の機能を一部、米国に移転して特別な協力機関として米国の円建国債の発行を担うということはできないのですか。
そこまで踏み込んで米国オバマ政権に協力することが、今回の金融危機で、日本に求められていることではないかと思うのですが。
空母を差し押さえるより現実的だと思います。ただイランとの戦争は絶対してはならない、また、イスラエルにさせてはならない、そのような日本国の本音をオバマ氏に直言できる日本であることは、造幣機能一部移転を世界から許容されるべく、世界の信用を得る、そのためだけではなく客観的な状況においても絶対に必要とされるでしょう。
すなわち地球環境は、新たな戦争を開始することは許さない。
福田ヴィジョンを本年、立ち上げた日本は、そのことを米国に断固、自国の利害得失を抜きにして通告すべきです。それができなければ抜け目のない、いやらしい経済大国の汚名を真に払拭できないと思うのです。
またビンラディン一派でさえ対話は可能とオバマ氏は本音では、そう思っているのではないか。ただそこまでやるには軍産複合体の存在とその軍事力に影響される無鉄砲な米国人が出てきますからUAWなるものと同様、中身を改善していかないと弾丸が大統領の頭に降ってきかねない。
野蛮な国なのですね、米国は。
この際、全米ライフル協会を全米ミサイル協会にでも格上げして、代わりにすべての銃を取り上げることはできないかなどと思ってしまいます。ただしミサイルは拳銃サイズのプラモデルですが。
(W生、武蔵野)
(宮崎正弘のコメント)円建て米国債の発行は圓ブロックを拡大するという日本の戦略のもとで、世界の通貨体制の一角を日本の通貨が占めるという意図がなければ、ただの為替リスク回避策でしかなく、しかしどうであれ、アメリカがこの話に乗ることはアメリカ人がもっと弱気になるとき以外ないでしょうね。
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(読者の声4)シティ・グループの株価は10月だけでも53%も暴落したわけですが、大企業の株価が5ドルを割りますと、大方、救済か合併の対象になると思います。その内、ゴールドマン・サックスとの合併のお話しが再開するのではないでしょうか。
お金持ちの日本からは三井住友銀行あたりの支援も予測されます。
それにしても、不良債権漬けになっていたベアー・スターンズとWAMUを買収したJPモルガン・チェースと同カントリーワイドとメリルリンチを買収したバンク・オブ・アメリカの不良債権の割合が10%以下とは驚きです。どのような会計のトリックを使ったのでしょうか。
同様の手法で世界最強のゴールデン・シティの誕生を期待しております。
円建てによる米国債発行はマルクやスイス・フラン建て米国債(カーター・ボンド)の前例がありますから、かなり現実的な選択ではないでしょうか。これをオバマ・ボンドと称するようです。
http://www.atimes.com/atimes/Japan/JK19Dh01.html
共和党政権から民主党政権に変わったら、米ドル資金供給オペは止めますよ、というメッセージなのか。既に1144億ドルも供給しているようですから、色々な角度からオバマ政権にもラブ・コールを送ってもらいたいものです。
(X生)
(宮崎正弘のコメント)ワシントンは北京にカネをねだるために政治・外交上の妥協をしても、日本には「米国に協力するのが当たり前」という傲岸な基本姿勢を崩しません。
なぜ、あそこまで歴代米国政権は日本を見くびり、居丈高なのでしょうか。
こたえは実に簡単です。日米安保条約という名の下に米軍が日本を軍事占領し続けているからです。ですから日本がドル本位体制を守るのは当然という考えで、それが主権国家をみくびる行為であるとは気づいていないのです。オバマは、ひょっとしてそこが違うかも知れない。
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(読者の声5)最近ブログの往還(やりとり)をみていると、中国を正しくみている論客として渡辺昇一、櫻井よしこ、中嶋嶺雄、黄文雄の各氏らと並んで宮崎正弘氏の名前がありました。そこで検索エンジンで、ようやく御誌の存在を知り、読者になりました。なんだか、凄く得をした感じで、ときどきバックナンバーを見ています。
質問ですが、最近の米国の議会報告やシンクタンク予測は2025年ごろに中国が軍事力でも米国とならび、米国の一曲覇権は失われ、中国との併存時代が来ると盛んに言われていますが、宮崎さんの予測は?
(金太郎、足柄)
(宮崎正弘のコメント)ご質問の動機がよく分かりかねますが、米国議会調査局の日米中関係予測は、日米が中国に共通する迷惑要素として毒入り食品、大気汚染を挙げています。また他のシンクタンク予測でも、軍事的に米国に並ぶと言っているのは少なく、あっても、それはペンタゴンやCIA委託の研究で、予算を取るための副次的目標があり、中国の軍事力をやや過大に評価しています。
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(サイト情報) (A)米中経済安全保障調査委員会 (USCC) は、11月20日に年次報告書を議会に提出した。同報告書は、二国間の貿易と経済関係が米国の安全保障に及ぼす影響について調査し、核拡散や、中国が世界のエネルギー供給に与える影響、中国政府の情報統制などの懸念事項についてまとめられたもの。
2008 Report to Congress of the U.S.-China Economic and Security Review Commission、U.S.-China Economic and Security Review Commission、November 2008
http://www.uscc.gov/annual_report/2008/08_annual_report.php
プレスリリース
http://www.uscc.gov/pressreleases/2008/08_11_20pr.php
(B)米国家情報会議から11月20日、世界の展望についての報告書が公表された。今後約15年の世界情勢の変化と、米国への影響が分析され、ブラジル、ロシア、インド、中国の台頭による国際社会の枠組みの変動、西側世界から東側世界への富の移動の加速、人口増と経済成長によるエネルギー、食糧、水の不足、中東での紛争発生の可能性が予想されている。
報告書 : Global Trends 2025: A Transformed World、National Intelligence Council
http://www.dni.gov/nic/PDF_2025/2025_Global_Trends_Final_Report.pdf
プレスリリース
http://www.dni.gov/press_releases/20081120_release.pdf
宮崎正弘の三島由紀夫論 三部作!
『三島由紀夫の現場』
『三島由紀夫“以後”』(ともに並木書房)
『三島由紀夫はいかにして日本回帰したか』(清流出版)
宮崎正弘の最新刊
『中国がたくらむ台湾沖縄侵攻と日本支配』(KKベストセラーズ 1680円)
宮崎正弘のロングセラー中国論
http://miyazaki.xii.jp/saisinkan/index.html
『トンデモ中国、真実は路地裏にあり』(阪急コミュニケーションズ)
(全332ページ、写真多数、定価1680円)
『北京五輪後、中国はどうなる』(並木書房、1680円)
『世界が仰天する中国人の野蛮』(黄文雄氏との共著。徳間書店、1575円)
『崩壊する中国 逃げ遅れる日本』(KKベストセラーズ、1680円)
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