▼プーチン首相(皇帝)は、メドベージェフ大統領更迭を決めたのか?法治独裁国家ロシアの苦悩と矛盾。
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▼プーチン首相(皇帝)は、メドベージェフ大統領更迭を決めたのか?法治独裁国家ロシアの苦悩と矛盾。(じじ放談)
11月7日付け日本経済新聞は「ロシア紙報道:プーチン首相大統領復帰計画」と題する以下1,2,3の記事を掲載した。
1.ロシア紙べドモスチは6日付けトップで「2009年中にメドベージェフ大統領は自ら辞任。プーチン首相が大統領に復帰する」と報じた。メドベージェフ大統領が5日の年次教書演説で大統領任期を4年から6年に延長することを提案した背景にはプーチン氏による長期政権シナリオがあると報じた。
2.同紙はクレムリン筋の話として、大統領は任期延長の憲法改正を自らの手で実現したうえで辞任し、09年に大統領選挙を実施する可能性があると伝えた。プーチン氏が立候補、当選すれば、最大2021年まで12年間(2期)大統領として君臨する道を開く。同紙はシナリオを描いているのは、プーチン氏に近いとされるスルコフ大統領府第1副長官と指摘した。これに対し、首相の報道官は「大統領が任期中に辞任する理由はない」と否定した。
3.人気と実力を兼ね備えたプーチン氏の復帰観測が消えないのは確か。プーチン氏の出身母体である治安機関の影響力が一段と増し、メドベージェフ氏が主張する民主化、市場経済推進、汚職防止などが骨抜きになるのを警戒する向きもある。報道をきっかけに双方の権力争いが表面化する可能性もある。(モスクワ=坂井光記者)
第1:グルジア戦争の収束を巡る意見の対立
唐突といえば唐突な記事ではあるが、全く予想外ともいえない。グルジア戦争の対応を巡り、プーチン首相が北京五輪を早々に切り上げ、北オセチアでロシア軍の陣頭指揮をとったことは周知のとおりである。メドベージェフ大統領はフランスのサルコジ大統領の斡旋案を受け入れ「ロシア軍をグルジア領から撤退させる」サルコジ提案を受諾した。メドベージェフはグルジアでの戦争を直接指揮していたプーチン並びにロシア軍との意思疎通を行わず独断先行した疑いが濃い。プーチンとロシア軍が2階に上がったところで、メドベージェフが梯子を外した雰囲気なのだ。メドベージェフの停戦合意は数週間にわたり無視された。ロシア軍はグルジア領内で検問所を設け、駐留を継続した。大統領が外国と交わした停戦合意が何週間も放置された。グルジア戦争の収束で見せたメドベージェフの「政治音痴、戦略軽視」に激怒したプーチンとロシア軍は「メドベージェフには国家運営を任せられない」と確信を持ったと思う。売名屋で騒がしく動き回るサルコジの手の平で踊るなど「大国ロシアの大統領にあるまじき軽率な言動」とみなしたはずだ。グルジア戦争直後からモスクワ株式市場は外人売りで暴落を続けた。一時取引停止に追い込まれたこともある。かつ西側の盟友である独・仏・伊との友好関係を損なうことはできないから、さすがのプーチンも「ロシア軍のオセチアとアブハジア自治区を除くグルジア領からの全面撤退」を認容せざるをえなかった。大統領が締結した「停戦合意をいつまでも無視することの政治的デメリット」を考慮せざるをえなかった。反面、プーチンとロシア軍は、現場の意向を無視したメドベージェフに怒りをつのらせたはずだ。
第2:外交にも精を出すプーチンの思惑
プーチン首相はフランスを訪問しサルコジ大統領と会談した。国賓待遇で歓迎された。グルジア戦争直後に開催された上海協力機構の首脳会談に出席したプーチンは「ロシア支持」を取り付けることに奔走し成功した。本年末には、我が国の招請に応じて訪日する予定である。ロシアの外交は「大統領の専権」とされるところ、プーチンは積極的に首脳外交を展開している。外交が大統領府から首相府に移管した気配もある。プーチンから見ると「青二才のメドベージェフに任せておけない」ということかもしれぬ。「出しゃばらざるをえない」という心境かもしれぬ。諸国も「ロシアの事実上の指導者はプーチン」と理解しているから、「プーチン首相さん、ぜひ、我が国にお越しください」と招請する。北京五輪の開会式にもプーチンが国家元首格で参列した。北京も「プーチンがロシアの最高実力者」とみなしている。かくして、「実力者の首相」と「おんぶにダッコの大統領」というねじれ現象が生まれる。不安定な「権力の二重構造」が露呈した。
第3:法治独裁国家ロシアの構造的矛盾
「ロシアは強くあらねばならない」と考えるプーチンのスラヴ魂は独裁志向である。一方、プーチンの近代的理性は「法治国家ロシアの建設」である。ここに、プーチンの「心のゆらぎ」が生まれる。プーチン大統領時代末期、プーチン側近の一部に「プーチンは憲法改正し、終身大統領になるべし」との意見が出ていた。筆者も当時「プーチンは第二次ロシア王朝を築くのではないか」と想定していた。だが、プーチンは憲法を改正して皇帝になる道を拒否し、首相に横滑りした。若輩の子分であるメドベージェフを後継大統領に指名し、背後から「若輩の大統領を支援・統御する道」を選択した。なお、プーチンは「権力のイスが権力者をつくる」ことも熟知していたからメドベージェフの台頭を恐れた。メドベージェフがプーチンを超える存在とならないよう「共和国政府の知事の任命権限」を大統領から首相に移管した。さらに、メドベージェフの側近をプーチン配下の治安機関出身者で固めた。謀反を起こさないよう監視した。プーチンとしては「万全の態勢」を整え、メドベージェフを傀儡政権として自由自在に操れると考えたはずである。法治国家の体裁を残しながらプーチン独裁を継続することができると想定した。だが、メドベージェフは操り人形ではない、生身の人間である。自分の理念を持っている大人である。大統領権限を活用して「独自の判断で政治をやる」こともある。グルジア戦争の停戦合意のときこれが表面化した。権力の二重構造が弱点をさらけ出した。仮に、メドベージェフが憲法の定め通り4年も大統領職に留まった場合、木は育つし根は張る。権力に群がる連中が新たな側近グループとして誕生する。自然の流れだ。4年後、メドベージェフが「権力の魅力に取りつかれ」、プーチンへの権力返上を渋っても不思議ではない。「傷は浅いうちに治せ、木は小さいうちに移植せよ」とプーチンが考えたとしても不思議ではない。時間がたてば、メドベージェフを追い出すことが困難になる。以上、法治独裁国家ロシアの構造的矛盾は、プーチンの「心の矛盾が反映した矛盾である」ことが分かった。プーチンの中途半端さが招きよせた矛盾である。
第4:なぜ、いま「メドベージェフ辞任論」が出てきたのか?
1)プーチン又は側近にとって「メドベージェフ大統領は不都合な存在」になった。
プーチンが思い描くロシア像は「威厳に満ちた強いロシア」である。当面の世界戦略は「米国の一極支配は認めない。米ドルを基軸通貨の地位から引きずり落とす」ことである。この世界戦略にそって、米国への対決姿勢を貫徹している。米国がポーランドとチェコに「ミサイル迎撃システムを配備する」件に対抗してロシアは、バルト海に面する飛び地(カリーニングラード)に、最新型核ミサイルを配備することを決定した。「力には力で対抗する姿勢」を明確に打ち出した。グルジアへの米国の軍事支援に対しロシアは軍事的反攻作戦で対決した。これらすべては「米国の一極支配を認めない」というプーチンの世界戦略から出た行動である。メドベージェフはプーチンの思い描く「威厳に満ちた強いロシア」並びに「米国の一極支配を打破する」との世界戦略を理解していなかったか、もしくは軽視していたのではないか。メドベージェフがサルコジ大統領のグルジア戦争停戦案にたちまち合意したのも、その場の対症療法であった。国家戦略もなく、火勢に恐れをなして火消しに努めただけであった。メドベージェフという法律家は、プーチンの抜擢で立身出世をした男である。何の政治的基盤もなく野望もない小市民であった。メドベージェフは6か月前の2008年5月7日、大統領に就任した。最重要課題として「市民と経済の自由」を掲げた頭でっかちの法律屋に過ぎない。プーチンはソ連国家保安委員会(KGB)の中堅官僚として旧東ドイツに赴任中ベルリンの壁が崩壊するのを目撃し「東独軍はなぜ阻止しない」と激怒したといわれる。プーチンは世界政治の暗黒面も熟知し「政治は綺麗ごとではすまない」ことを理解している。プーチンだけではなく、大統領府を固めている元KGBの同志もこれを理解している。法律専門馬鹿の理想家に過ぎないメドベージェフとは体質が異なる。
(2)ロシア紙「ベドモスチ」にメドベージェフ辞任のうわさを流した背景
ロシアのメディアはかってエリツィンの牙城といわれた。プーチンが大統領になってから各メディアを「違法行為を行った」として次々と摘発し落城させた。ほとんどのメディアがプーチン応援団になった。プーチンの私事を論じた出版社が「即日、廃刊処分」となったことは記憶に新しい。ロシアで政権を批判するメディアは廃刊を覚悟しなければならないほど言論統制が徹底している。「ベドモスチ」が、大統領教書演説に盛り込まれた「大統領任期を4年から6年に延長する提案」に関連し「プーチン氏の長期政権シナリオ」と報じた。さらに同紙はクレムリン筋の話として「大統領任期の延長について憲法改正した上で、メドベージェフ大統領が辞任する可能性がある」と伝えた。さらに「プーチン氏が立候補して当選すれば最大で2期12年間大統領として君臨するとのシナリオを描いているのはプーチン氏に近いとされるスルコフ大統領府第一副長官」と指摘した。大統領就任後わずか6か月。大統領を支えるべき大統領府第一副長官が「大統領は来年中に辞任する」とメディアに情報を流させたのも不思議な光景ではある。公然と「メドベージェフは早く辞任せよ」といっているに等しい。直属の部下から「ダメ上司」と烙印を押されたことになる。日本経済新聞坂井光記者は「プーチン氏の出身母体である治安機関の影響力が一段と増し、メドベージェフ氏が主張する民主化、市場経済推進、汚職防止などが骨抜きになるのを警戒する向きもある。報道をきっかけに双方の権力争いが表面化する可能性もある。」と解説している。法律家であるメドベージェフが標榜する「民主化・市場経済推進・汚職防止」は国家が繁栄するための一つの手段に過ぎない。情勢が変化すれば、いつでも「情報統制・保護貿易主義」に転じることができる。これはまもなく米国が実証してくれる。
憲法も法律も金科玉条・永遠不変なものではない。国家・国民が存立し繁栄するため「時々の必要性によって自由に修正される」ものである。法治国家は現行法を絶対視して国民を理念に縛りつけることを求めない。法が国家・国民のニーズに応じて臨機応変に修正されてこそ法の生命力も維持される。国家・国民のニーズに反する法律は死文である。憲法以下の法体系が国家・国民のニーズと遊離した場合、国家・国民は躊躇なく法治国家の看板を捨てる。坂井記者は「双方の権力争いが表面化する可能性もある」という。だが、メドベージェフはプーチンが抜擢した一法律家である。プーチンの後光があれば光ることができるが、支援がなくなれば「即アウト」だ。権力闘争が起こる余地は全くない。力が違いすぎる。相手にならない。権力闘争が起こる条件は「力関係が五分五分、又は四分六分」で、「もしかしたら勝てるのではないか?」という希望が持てる時だけである。100%勝てない喧嘩をする馬鹿はいない。メドベージェフが健常者であれば、権力闘争が起こることはない。
(3)プーチンの首相府は「大統領が任期中に辞任する理由はない」と上記の報道を否定した。
プーチンの側近にもいろいろな考えの持ち主がいる。プーチンにゴマをすり、抜擢してもらいたいと画策している者もいよう。だから、大統領府から流されたと見られる今回の情報について、プーチンが指示又は了解していたと断定することできない。逆に、プーチンが「暗黙の了解を与えていたかもしれぬ」という推定も成り立つ。というのも「ゴマすりが効果を上げるため」には、御主人の意向を忖度し、時宜にかなったゴマすりをしないと得点にならないからだ。その場の思いつきで発言し先走りしただけでは評価されない。プーチンの心境を察するに「池に石を投げ込んで、波の立ち方(世間の反応)や魚の動き方(メドベージェフ)を観察してみたい」ということかもしれぬ。何事にも慎重かつ緻密なプーチンであるから、最後まで自分の意見は言わない。側近がそれぞれの思惑で動きまわる。自ずから流れが定まるという仕組だ。
(4)メドベージェフはなぜ、いま「大統領任期を6年に延長する」と提案したのか?
大統領就任から6か月。任期は3年6か月も残っている。メドベージェフが「大統領4年は短い。自らの構想を実現するには6年必要だ」と感じたからであろうか?だが、政権基盤も整わない、かつプーチン人脈にオンブニダッコの現状から判断すると「自らの大統領任期を6年に延期したい」と言い出す時期ではない。不自然すぎる。とすれば、メドベージェフは自己の政治的非力の限界を感じて「大統領職を辞する」覚悟をしていると見るほかはない。むろん、プーチンと敵対する意思はあるまい。力の差が大きすぎる。無謀な行為は命取りになる。英才の誉れ高いメドベージェフが現実の厳しさを認識できないはずはない。やはり「分相応」の大企業の経営者に復したいと考えているのではないか。権謀術数うずまくロシアの政界は一市民にとって心地よい場所ではない。冷酷非情の空気が支配する世界なのだ。3日もいれば、誰でも息がつまって死にたくなる。という訳で、親分であるプーチンに権力の座を返上するための最後の御奉公が「4年の大統領任期を6年に延長する」という憲法改正かもしれぬ。
(5)米国発世界金融危機・世界恐慌がもたらす勢力図の大変動
「平時の能吏・乱世の姦雄」という。これからの激動期は浮き沈みが激しい時代となる。有能な指導者を得た国家・企業は生き残り、さらに勢力を拡大できる好機となる。凡庸な指導者しか持てない国家・企業はさらに衰退するか、破産する厳しい時代となる。ロシアは世界大恐慌を想定し、「強力な布陣を敷く」と決めたのかもしれぬ。米国は「希望と変革」のオバマを選んだ。我が国では麻生太郎を選んでいる。小沢一郎という利権と政略本位主義者が「日本のオバマ」を喧伝しているが、とんでもない。月とすっぽん、瓜と茄子だ。誰も相手にしない。
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(まとめ)
世界の自動車産業はかってない大不況に襲われている。我が国の自動車企業はかろうじて黒字決算であるが、大幅減益を余儀なくされた。今後さらに大幅減産と工場閉鎖並びに人員整理に追い込まれる。自動車産業は裾野が広いから、全産業分野に悪影響が出る。鉄鋼をはじめ関連製造業の売上げは大きく落ち込む。第三次産業の売上げも落ち込む。赤字決算企業が続出する。サッカー、ゴルフなどプロスポーツ業界もスポンサーが見つからず苦戦する。マスメディアも広告がとれず値下げに追い込まれ採算が悪化する。廃業するメディアも続出する。最近、雑誌類が続々と廃刊となっているが、その兆しである。以上の状態は、周回先行する米国で発生している。ビッグ3は例外なく倒産寸前である。公的資金を注入(点滴・輸血)することでいつまで延命させることができるかという「集中治療室」レベルである。自力更生・自力蘇生できる力は残っていない。世界大恐慌は始まったばかりである。これから、次々と倒産企業が続出し失業者が急増する。治安は乱れる。暴動が多発する。世界は一斉に「大恐慌モード」に切り替え始めた。政治も経済も、そして若干遅れて我々庶民も生まれて始めて「大恐慌下の窮乏生活」を体験することになる。大都市圏では大量の失業者が生活の糧を求めて彷徨う。人口減少で悩んでいる北海道、東北、北陸、山陰、四国、九州地域の自治体は、都市の失業者を中山間地域に招き入れる政策を導入すべきである。農耕指導や山林作業員育成などの公的支援も欠かせない。
戦後、我が国は農業切り捨て政策を断行し、余剰労働力を大都市圏や工場で吸収してきた。結果、農村地域は人口減少、後継者不足に陥った。廃屋となっている住宅が半数を超えている農山村地域が激増している。結果、我が国の山間・僻地には数百万人を受け入れる自然空間が残った。大恐慌時の数年間、長くても10年を生き延びるため我が国が「農村から都市への労働力流出」を逆流させるならば、緊急避難対策となる。加えて、我が国の食糧自給率を大幅に向上させることができる。雑草で覆われた田畑や山林が蘇る。山村の小学校が復活する。戦後の農業切り捨て政策は「世界最低の食糧自給率をもたらした悪政」であった。怪我の功名というべきである。荒れ果てた国土、中山間地域の打ち捨てられた農地が、大恐慌対策の最大の社会資源となる。物事には何事にも「プラスとマイナス」がある。10年単位ではマイナスであっても、100年に一度の大恐慌場面ではプラスになることもある。人生は「曰く、不可解」というべきである。人間は短期の視点で優劣を判断するのであるが、長期の視点で見ると、優劣が逆転することもある。自然というのは誠にうまく出来ている。おそらく個人の人生も、それなりにうまくできているのではないか。火葬場で骨になっても、山塊で生き倒れ鳥に食われて骨になっても、それはそれで「一つの人生」とみなすべきである。諸行無常・南無阿弥陀仏の世界から見れば、それぞれに存在意義があるということだろう。
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11月7日付け日本経済新聞は「ロシア紙報道:プーチン首相大統領復帰計画」と題する以下1,2,3の記事を掲載した。
1.ロシア紙べドモスチは6日付けトップで「2009年中にメドベージェフ大統領は自ら辞任。プーチン首相が大統領に復帰する」と報じた。メドベージェフ大統領が5日の年次教書演説で大統領任期を4年から6年に延長することを提案した背景にはプーチン氏による長期政権シナリオがあると報じた。
2.同紙はクレムリン筋の話として、大統領は任期延長の憲法改正を自らの手で実現したうえで辞任し、09年に大統領選挙を実施する可能性があると伝えた。プーチン氏が立候補、当選すれば、最大2021年まで12年間(2期)大統領として君臨する道を開く。同紙はシナリオを描いているのは、プーチン氏に近いとされるスルコフ大統領府第1副長官と指摘した。これに対し、首相の報道官は「大統領が任期中に辞任する理由はない」と否定した。
3.人気と実力を兼ね備えたプーチン氏の復帰観測が消えないのは確か。プーチン氏の出身母体である治安機関の影響力が一段と増し、メドベージェフ氏が主張する民主化、市場経済推進、汚職防止などが骨抜きになるのを警戒する向きもある。報道をきっかけに双方の権力争いが表面化する可能性もある。(モスクワ=坂井光記者)
第1:グルジア戦争の収束を巡る意見の対立
唐突といえば唐突な記事ではあるが、全く予想外ともいえない。グルジア戦争の対応を巡り、プーチン首相が北京五輪を早々に切り上げ、北オセチアでロシア軍の陣頭指揮をとったことは周知のとおりである。メドベージェフ大統領はフランスのサルコジ大統領の斡旋案を受け入れ「ロシア軍をグルジア領から撤退させる」サルコジ提案を受諾した。メドベージェフはグルジアでの戦争を直接指揮していたプーチン並びにロシア軍との意思疎通を行わず独断先行した疑いが濃い。プーチンとロシア軍が2階に上がったところで、メドベージェフが梯子を外した雰囲気なのだ。メドベージェフの停戦合意は数週間にわたり無視された。ロシア軍はグルジア領内で検問所を設け、駐留を継続した。大統領が外国と交わした停戦合意が何週間も放置された。グルジア戦争の収束で見せたメドベージェフの「政治音痴、戦略軽視」に激怒したプーチンとロシア軍は「メドベージェフには国家運営を任せられない」と確信を持ったと思う。売名屋で騒がしく動き回るサルコジの手の平で踊るなど「大国ロシアの大統領にあるまじき軽率な言動」とみなしたはずだ。グルジア戦争直後からモスクワ株式市場は外人売りで暴落を続けた。一時取引停止に追い込まれたこともある。かつ西側の盟友である独・仏・伊との友好関係を損なうことはできないから、さすがのプーチンも「ロシア軍のオセチアとアブハジア自治区を除くグルジア領からの全面撤退」を認容せざるをえなかった。大統領が締結した「停戦合意をいつまでも無視することの政治的デメリット」を考慮せざるをえなかった。反面、プーチンとロシア軍は、現場の意向を無視したメドベージェフに怒りをつのらせたはずだ。
第2:外交にも精を出すプーチンの思惑
プーチン首相はフランスを訪問しサルコジ大統領と会談した。国賓待遇で歓迎された。グルジア戦争直後に開催された上海協力機構の首脳会談に出席したプーチンは「ロシア支持」を取り付けることに奔走し成功した。本年末には、我が国の招請に応じて訪日する予定である。ロシアの外交は「大統領の専権」とされるところ、プーチンは積極的に首脳外交を展開している。外交が大統領府から首相府に移管した気配もある。プーチンから見ると「青二才のメドベージェフに任せておけない」ということかもしれぬ。「出しゃばらざるをえない」という心境かもしれぬ。諸国も「ロシアの事実上の指導者はプーチン」と理解しているから、「プーチン首相さん、ぜひ、我が国にお越しください」と招請する。北京五輪の開会式にもプーチンが国家元首格で参列した。北京も「プーチンがロシアの最高実力者」とみなしている。かくして、「実力者の首相」と「おんぶにダッコの大統領」というねじれ現象が生まれる。不安定な「権力の二重構造」が露呈した。
第3:法治独裁国家ロシアの構造的矛盾
「ロシアは強くあらねばならない」と考えるプーチンのスラヴ魂は独裁志向である。一方、プーチンの近代的理性は「法治国家ロシアの建設」である。ここに、プーチンの「心のゆらぎ」が生まれる。プーチン大統領時代末期、プーチン側近の一部に「プーチンは憲法改正し、終身大統領になるべし」との意見が出ていた。筆者も当時「プーチンは第二次ロシア王朝を築くのではないか」と想定していた。だが、プーチンは憲法を改正して皇帝になる道を拒否し、首相に横滑りした。若輩の子分であるメドベージェフを後継大統領に指名し、背後から「若輩の大統領を支援・統御する道」を選択した。なお、プーチンは「権力のイスが権力者をつくる」ことも熟知していたからメドベージェフの台頭を恐れた。メドベージェフがプーチンを超える存在とならないよう「共和国政府の知事の任命権限」を大統領から首相に移管した。さらに、メドベージェフの側近をプーチン配下の治安機関出身者で固めた。謀反を起こさないよう監視した。プーチンとしては「万全の態勢」を整え、メドベージェフを傀儡政権として自由自在に操れると考えたはずである。法治国家の体裁を残しながらプーチン独裁を継続することができると想定した。だが、メドベージェフは操り人形ではない、生身の人間である。自分の理念を持っている大人である。大統領権限を活用して「独自の判断で政治をやる」こともある。グルジア戦争の停戦合意のときこれが表面化した。権力の二重構造が弱点をさらけ出した。仮に、メドベージェフが憲法の定め通り4年も大統領職に留まった場合、木は育つし根は張る。権力に群がる連中が新たな側近グループとして誕生する。自然の流れだ。4年後、メドベージェフが「権力の魅力に取りつかれ」、プーチンへの権力返上を渋っても不思議ではない。「傷は浅いうちに治せ、木は小さいうちに移植せよ」とプーチンが考えたとしても不思議ではない。時間がたてば、メドベージェフを追い出すことが困難になる。以上、法治独裁国家ロシアの構造的矛盾は、プーチンの「心の矛盾が反映した矛盾である」ことが分かった。プーチンの中途半端さが招きよせた矛盾である。
第4:なぜ、いま「メドベージェフ辞任論」が出てきたのか?
1)プーチン又は側近にとって「メドベージェフ大統領は不都合な存在」になった。
プーチンが思い描くロシア像は「威厳に満ちた強いロシア」である。当面の世界戦略は「米国の一極支配は認めない。米ドルを基軸通貨の地位から引きずり落とす」ことである。この世界戦略にそって、米国への対決姿勢を貫徹している。米国がポーランドとチェコに「ミサイル迎撃システムを配備する」件に対抗してロシアは、バルト海に面する飛び地(カリーニングラード)に、最新型核ミサイルを配備することを決定した。「力には力で対抗する姿勢」を明確に打ち出した。グルジアへの米国の軍事支援に対しロシアは軍事的反攻作戦で対決した。これらすべては「米国の一極支配を認めない」というプーチンの世界戦略から出た行動である。メドベージェフはプーチンの思い描く「威厳に満ちた強いロシア」並びに「米国の一極支配を打破する」との世界戦略を理解していなかったか、もしくは軽視していたのではないか。メドベージェフがサルコジ大統領のグルジア戦争停戦案にたちまち合意したのも、その場の対症療法であった。国家戦略もなく、火勢に恐れをなして火消しに努めただけであった。メドベージェフという法律家は、プーチンの抜擢で立身出世をした男である。何の政治的基盤もなく野望もない小市民であった。メドベージェフは6か月前の2008年5月7日、大統領に就任した。最重要課題として「市民と経済の自由」を掲げた頭でっかちの法律屋に過ぎない。プーチンはソ連国家保安委員会(KGB)の中堅官僚として旧東ドイツに赴任中ベルリンの壁が崩壊するのを目撃し「東独軍はなぜ阻止しない」と激怒したといわれる。プーチンは世界政治の暗黒面も熟知し「政治は綺麗ごとではすまない」ことを理解している。プーチンだけではなく、大統領府を固めている元KGBの同志もこれを理解している。法律専門馬鹿の理想家に過ぎないメドベージェフとは体質が異なる。
(2)ロシア紙「ベドモスチ」にメドベージェフ辞任のうわさを流した背景
ロシアのメディアはかってエリツィンの牙城といわれた。プーチンが大統領になってから各メディアを「違法行為を行った」として次々と摘発し落城させた。ほとんどのメディアがプーチン応援団になった。プーチンの私事を論じた出版社が「即日、廃刊処分」となったことは記憶に新しい。ロシアで政権を批判するメディアは廃刊を覚悟しなければならないほど言論統制が徹底している。「ベドモスチ」が、大統領教書演説に盛り込まれた「大統領任期を4年から6年に延長する提案」に関連し「プーチン氏の長期政権シナリオ」と報じた。さらに同紙はクレムリン筋の話として「大統領任期の延長について憲法改正した上で、メドベージェフ大統領が辞任する可能性がある」と伝えた。さらに「プーチン氏が立候補して当選すれば最大で2期12年間大統領として君臨するとのシナリオを描いているのはプーチン氏に近いとされるスルコフ大統領府第一副長官」と指摘した。大統領就任後わずか6か月。大統領を支えるべき大統領府第一副長官が「大統領は来年中に辞任する」とメディアに情報を流させたのも不思議な光景ではある。公然と「メドベージェフは早く辞任せよ」といっているに等しい。直属の部下から「ダメ上司」と烙印を押されたことになる。日本経済新聞坂井光記者は「プーチン氏の出身母体である治安機関の影響力が一段と増し、メドベージェフ氏が主張する民主化、市場経済推進、汚職防止などが骨抜きになるのを警戒する向きもある。報道をきっかけに双方の権力争いが表面化する可能性もある。」と解説している。法律家であるメドベージェフが標榜する「民主化・市場経済推進・汚職防止」は国家が繁栄するための一つの手段に過ぎない。情勢が変化すれば、いつでも「情報統制・保護貿易主義」に転じることができる。これはまもなく米国が実証してくれる。
憲法も法律も金科玉条・永遠不変なものではない。国家・国民が存立し繁栄するため「時々の必要性によって自由に修正される」ものである。法治国家は現行法を絶対視して国民を理念に縛りつけることを求めない。法が国家・国民のニーズに応じて臨機応変に修正されてこそ法の生命力も維持される。国家・国民のニーズに反する法律は死文である。憲法以下の法体系が国家・国民のニーズと遊離した場合、国家・国民は躊躇なく法治国家の看板を捨てる。坂井記者は「双方の権力争いが表面化する可能性もある」という。だが、メドベージェフはプーチンが抜擢した一法律家である。プーチンの後光があれば光ることができるが、支援がなくなれば「即アウト」だ。権力闘争が起こる余地は全くない。力が違いすぎる。相手にならない。権力闘争が起こる条件は「力関係が五分五分、又は四分六分」で、「もしかしたら勝てるのではないか?」という希望が持てる時だけである。100%勝てない喧嘩をする馬鹿はいない。メドベージェフが健常者であれば、権力闘争が起こることはない。
(3)プーチンの首相府は「大統領が任期中に辞任する理由はない」と上記の報道を否定した。
プーチンの側近にもいろいろな考えの持ち主がいる。プーチンにゴマをすり、抜擢してもらいたいと画策している者もいよう。だから、大統領府から流されたと見られる今回の情報について、プーチンが指示又は了解していたと断定することできない。逆に、プーチンが「暗黙の了解を与えていたかもしれぬ」という推定も成り立つ。というのも「ゴマすりが効果を上げるため」には、御主人の意向を忖度し、時宜にかなったゴマすりをしないと得点にならないからだ。その場の思いつきで発言し先走りしただけでは評価されない。プーチンの心境を察するに「池に石を投げ込んで、波の立ち方(世間の反応)や魚の動き方(メドベージェフ)を観察してみたい」ということかもしれぬ。何事にも慎重かつ緻密なプーチンであるから、最後まで自分の意見は言わない。側近がそれぞれの思惑で動きまわる。自ずから流れが定まるという仕組だ。
(4)メドベージェフはなぜ、いま「大統領任期を6年に延長する」と提案したのか?
大統領就任から6か月。任期は3年6か月も残っている。メドベージェフが「大統領4年は短い。自らの構想を実現するには6年必要だ」と感じたからであろうか?だが、政権基盤も整わない、かつプーチン人脈にオンブニダッコの現状から判断すると「自らの大統領任期を6年に延期したい」と言い出す時期ではない。不自然すぎる。とすれば、メドベージェフは自己の政治的非力の限界を感じて「大統領職を辞する」覚悟をしていると見るほかはない。むろん、プーチンと敵対する意思はあるまい。力の差が大きすぎる。無謀な行為は命取りになる。英才の誉れ高いメドベージェフが現実の厳しさを認識できないはずはない。やはり「分相応」の大企業の経営者に復したいと考えているのではないか。権謀術数うずまくロシアの政界は一市民にとって心地よい場所ではない。冷酷非情の空気が支配する世界なのだ。3日もいれば、誰でも息がつまって死にたくなる。という訳で、親分であるプーチンに権力の座を返上するための最後の御奉公が「4年の大統領任期を6年に延長する」という憲法改正かもしれぬ。
(5)米国発世界金融危機・世界恐慌がもたらす勢力図の大変動
「平時の能吏・乱世の姦雄」という。これからの激動期は浮き沈みが激しい時代となる。有能な指導者を得た国家・企業は生き残り、さらに勢力を拡大できる好機となる。凡庸な指導者しか持てない国家・企業はさらに衰退するか、破産する厳しい時代となる。ロシアは世界大恐慌を想定し、「強力な布陣を敷く」と決めたのかもしれぬ。米国は「希望と変革」のオバマを選んだ。我が国では麻生太郎を選んでいる。小沢一郎という利権と政略本位主義者が「日本のオバマ」を喧伝しているが、とんでもない。月とすっぽん、瓜と茄子だ。誰も相手にしない。
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(まとめ)
世界の自動車産業はかってない大不況に襲われている。我が国の自動車企業はかろうじて黒字決算であるが、大幅減益を余儀なくされた。今後さらに大幅減産と工場閉鎖並びに人員整理に追い込まれる。自動車産業は裾野が広いから、全産業分野に悪影響が出る。鉄鋼をはじめ関連製造業の売上げは大きく落ち込む。第三次産業の売上げも落ち込む。赤字決算企業が続出する。サッカー、ゴルフなどプロスポーツ業界もスポンサーが見つからず苦戦する。マスメディアも広告がとれず値下げに追い込まれ採算が悪化する。廃業するメディアも続出する。最近、雑誌類が続々と廃刊となっているが、その兆しである。以上の状態は、周回先行する米国で発生している。ビッグ3は例外なく倒産寸前である。公的資金を注入(点滴・輸血)することでいつまで延命させることができるかという「集中治療室」レベルである。自力更生・自力蘇生できる力は残っていない。世界大恐慌は始まったばかりである。これから、次々と倒産企業が続出し失業者が急増する。治安は乱れる。暴動が多発する。世界は一斉に「大恐慌モード」に切り替え始めた。政治も経済も、そして若干遅れて我々庶民も生まれて始めて「大恐慌下の窮乏生活」を体験することになる。大都市圏では大量の失業者が生活の糧を求めて彷徨う。人口減少で悩んでいる北海道、東北、北陸、山陰、四国、九州地域の自治体は、都市の失業者を中山間地域に招き入れる政策を導入すべきである。農耕指導や山林作業員育成などの公的支援も欠かせない。
戦後、我が国は農業切り捨て政策を断行し、余剰労働力を大都市圏や工場で吸収してきた。結果、農村地域は人口減少、後継者不足に陥った。廃屋となっている住宅が半数を超えている農山村地域が激増している。結果、我が国の山間・僻地には数百万人を受け入れる自然空間が残った。大恐慌時の数年間、長くても10年を生き延びるため我が国が「農村から都市への労働力流出」を逆流させるならば、緊急避難対策となる。加えて、我が国の食糧自給率を大幅に向上させることができる。雑草で覆われた田畑や山林が蘇る。山村の小学校が復活する。戦後の農業切り捨て政策は「世界最低の食糧自給率をもたらした悪政」であった。怪我の功名というべきである。荒れ果てた国土、中山間地域の打ち捨てられた農地が、大恐慌対策の最大の社会資源となる。物事には何事にも「プラスとマイナス」がある。10年単位ではマイナスであっても、100年に一度の大恐慌場面ではプラスになることもある。人生は「曰く、不可解」というべきである。人間は短期の視点で優劣を判断するのであるが、長期の視点で見ると、優劣が逆転することもある。自然というのは誠にうまく出来ている。おそらく個人の人生も、それなりにうまくできているのではないか。火葬場で骨になっても、山塊で生き倒れ鳥に食われて骨になっても、それはそれで「一つの人生」とみなすべきである。諸行無常・南無阿弥陀仏の世界から見れば、それぞれに存在意義があるということだろう。
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