縄文塾通信 ◎「冬みず田んぼ」と「不起耕栽培」  中村 忠之 | 日本のお姉さん

縄文塾通信 ◎「冬みず田んぼ」と「不起耕栽培」  中村 忠之

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◎「冬みず田んぼ」と「不起耕栽培」  中村 忠之

■□ 「生きているリン鉱脈」とは?
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恥ずかしい話だが、筆者が「冬みず田んぼ」という言葉を知ったのはごく最近も最近、「縄文塾通信」の前号「感銘の1冊」として紹介した竹田公太郎著『幸運な文明』からである。
http://joumon-juku.com/books/2008_10.html
氏は同書の中で『生きているリン鉱脈』という章をもうけて、「文明を存続させる生態家循環」として、この「冬みず田んぼ」を紹介している。その理由として、いわゆる三大肥料要素「窒素・リン酸・カリ(加里)」の内、枯渇に貧しているのがリン酸肥料を製造するリン鉱石だという。リン鉱石とは、(グアノと呼ばれる)かつての鳥類の糞化石であり、間近に迫っている食糧難の前哨戦として、すでにリン鉱石の輸出ストップやら、熾烈な囲い込み合戦が始まっているのだという。

ここで氏がいう「生きているリン鉱脈」とは渡り鳥の糞であり、日本こそ世界有数の渡り鳥飛来地だから、この貴重な資産を活かさない手はないというのだ。そしてその決め手こそが「冬みず田んぼ」だという。「冬みず田んぼ」とは、文字通り冬場も田んぼに水を張るということなのだが、この利点としては、渡り鳥の糞(リン酸肥料)をタダで活用できる点にある。なぜなら「冬みず田んぼ」に渡り鳥が飛来するのは、そこが(カエルに代表とされる)エサ場として最適だからである。『幸運な文明』によると、歌川広重の浮世絵「名所江戸百景(箕輪金杉三河しま)」には、一羽は地上に、もう一羽はその手前に今にも舞い降りようとしている丹頂鶴が描かれているが、そこは水を張った田んぼなのだという。江戸時代には、すでに「冬みず田んぼ」が行なわれており、今の東京にまで丹頂鶴が飛来していたことがわかる。ここにも「バック・トゥ・ザ・トクガワーナ!」が生きていたのだ。 そこで早速「冬みず田んぼ」でネット検索したところ「めだかのがっこう」というサイトに出会った。
「めだかのがっこう」
 
http://www.npomedaka.net/fuyumizu_regeneration.html

■□ 「冬みず田んぼ」とは?
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「めだかのがっこう」に記載されてあることを要約すると、
  1.普通の田んぼでは、春に機械で田を耕してから水を張って田植えをするが、「(耕さない)冬・水・田んぼ」なら、水の中に棲む土壌動物やたくさんの菌たちが、冬の間から土を耕してくれ、イトミミズが機械で代かきするよりさらに柔らかいゲル状のトロトロ層を作ってくれるので人が耕さなくていい。

2.前年の切り株をそのまま残して田植えをするが、前年の根は分解され、その根穴がスポンジ状になって残り、地中は耕したような状態になっている。また、普通の田んぼより地表面が硬いため、イネが野生化し、太い根を張りめぐらす。そのメリットとしては、「農薬(除草剤・殺虫剤)・肥料が」不要だとある。ここまで来ると、これはまるきりあの岩澤信夫さんの提唱する「不耕起栽培」と同じではないかと気付いた。以前この「縄文塾通信」に、『日本を救う? 新旧農法あれこれ1~2として、ごく簡単に岩澤さんの「不耕起栽培」を紹介をしたことがある。
http://joumon-juku.jp/jiji_syouron/64.html
http://joumon-juku.jp/jiji_syouron/65.html  
ここで少し詳しく、岩澤信夫さんの提唱する「不耕起栽培」について紹介してみよう。

■□ 「不耕起栽培」とは?
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岩澤信夫さんは、1932年千葉県成田に生まれる。旧制成田中学(現・県立成田高校)卒業後農家の長男として家を継ぐが、家業を両親と妻に任せて果物や野菜の栽培法研究に没頭し、1960年代末から70年代初頭に、いち早くハウス栽培に近い技術を試し、スイカ、メロン、イチゴの栽培などで実績を上げる。その後70年代後半からコメ作りにも着目し、85年に「不耕起移植栽培」という栽培法考案、その後各地で農家への技術指導を行うが、次第にその実績が認められ、著書『不耕起でよみがえる』(創森社)が2008年度の吉川英治文化賞を受賞する。岩澤さんは試行錯誤を繰返しながら、次々に新しい工夫を生み出す。そして田んぼと河川の環境を守るために、冬の間も田んぼに水を張る「冬期湛水」を考えた。こうしてみると、岩澤さんがすでに江戸時代に行なわれていたという「冬みず田んぼ」を知らなかったがゆえに、随分回り道をしたことになるではないか。

結果として「冬みず田んぼ(冬期湛水)+不耕起栽培」は、田んぼを耕さないことと、イネの苗を寒さの中で鍛えることで、その強い苗を田んぼに移植すると、耕さない硬い土に根を張るうちに「野生化」し、病害虫にも強くなる。耕さないことで田んぼの生態系も回復してくる。残されたイネ株にサヤミドロという藻が増殖、それをエサに食物連鎖が始まり、タニシ・イトミミズ・カエル・クモ・トンボ・メダカ…など、田んぼの生き物が生息、それを狙って野生のトリが飛来して「生きているリン酸肥料を置き土産にする。生き物の活動が害虫の発生を抑え、水もきれいにする。従って労力も支出も軽減されるし、いいことずくめの農法である。岩澤さんは、苗を植えるだけの小さい穴をあけて田植えする苗植え機を改良・開発して省力化をはかっている。

しかも、これこそ「イーハトーブ」という、小学生の生きた自然教材としても最適な環境づくりにも繋がることになるではないか。最近トキの増殖に成功した佐渡では、野生化する試みを実行しているが、先日テレビでも、岩澤さんの指導の下に、「不耕起栽培」を実行する農家が増えてきている様子が放映されていた。問題は、農水省もだが、特にメリットを伴わないJAの協力が見込めないことである。なにしろ農薬も肥料も売れないとなると農家にとってはいいことでも、農薬・肥料メーカーやJAにとっては一大事となるからだ。私がJAのお偉いさんなら、早速岩澤式耕耘・苗植え機の専売を推奨するし、農水省責任者なら、すぐに補助金を付けて普及を図るのだが、どうも日本の農政は、生産者よりも農薬・肥料メーカーやJAの方を向いてばかりいるようだ。
 
■□ 渡り鳥以外の生きたリン鉱脈はあるか?
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もしこうした自然農法が普及して、「冬みず田んぼ」が増えてきたとき、渡り鳥がその全てをカバー出来るかという課題が残る。そうした場合、代わりにニワトリ(の糞)が、立派にその役割を肩代わりしてくれることになる。現在日本には、日本の人口とほぼ等しい採卵鶏が飼育され、それに加てかなりの肉用鶏もいる。当然だがニワトリは卵を産めば糞もする。ところがこの鶏糞が農家にあまり歓迎されていないという現実がある。なんでも鶏糞はイネの場合には強過ぎ(効き過ぎ)て、徒長したり倒伏したりする、根菜の場合も、葉っぱに栄養が行き過ぎるなどの理由から敬遠されているようで、むしろ肥料効果の少ない牛糞の方が重宝されているため、満足な価格で売れず、赤字を覚悟で出荷しているという現実がある。智恵を使わない農家にも困ったものだが、もし渡り鳥の飛来しない田んぼでも、「冬みず田んぼ」を採用し、そこに鶏糞を撒いてやれば、田んぼの植物や生物のエサになる、プランクトンの増殖に活用されるではないか。まさに一挙両得である。また「合鴨農法」も理屈は同様であるが、問題としてヒナの入手方法と、成長した合鴨の処分方法が課題となっている。また手塩に掛け、愛情を持って育てた家畜や家禽を、自分の手で処分することに、日本人なら誰でも抵抗を感じるものだ。そのために、ごく一部の農家で採用したとしても、中々定着にほど遠い感がある。この「冬みず田んぼ」は、寒いところでは不向きかと懸念していたが、東北でも北海道でも成功しており、岩澤さんの経験では、冷害でイネが全滅したムラで、冬期湛水した田んぼだけは、イネがたわわに稔った実例があると言っている。

■□ 終わりに……
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温暖化の進行は、当然ながら降雪の減少を招くことになる。このことは特に西日本において、田植えに大きな影響を及ぼすことになる。もし稲刈りが済んだ秋口から、早めに田んぼに水を張って置く仕組みが定着すると、なにも一度ではなく、徐々にでも灌水していくことで、春の渇水を防げることになる。たとえば『幸運な文明』で著者が提唱している「小型水力発電装置」と組み合わせると、発電だけでなく揚水によって、今までいたずらに海に流れ込んでいた真水を有効に活用することだって出来るだろう。 ⇒
http://joumon-juku.com/books/2008_9.html
狭隘な日本において、そもそも大農法など北海道を除いては成立できるはずがない。しかも温暖化現象は、北の大地、北海道を稲作他、野菜作りの適地にしていくことだろうになる。なにしろ世界中でスシバーや回転寿司、日本食レストランが激増している時代である。「冬みず田んぼ」と「不起耕栽培」によって作られた、安くて美味しくて、しかも安全なコメは、どしどし世界各国に輸出すればいいではないか。

<付 記>
もっともこの「冬みず田んぼ」に問題なしとはいえない。それは渡り鳥も波及したトリ・インフルエンザの問題である。下手をすれば日本の農水省あるいは環境省によって、渡り鳥撲滅作戦さえ起きかねない。とすれば、「冬みず田んぼ」と「不起耕栽培」という自然保護農法そのものの危機だと謂えるだろう。むしろ先手を打って、飛来元の国との協力作戦により、渡り鳥の保護活動に取り組む好機ではないか。
 「不耕起栽培」と岩澤信夫 
http://www.ruralnet.or.jp/ouen/meibo/016.html

 SENKI
 日本不耕起栽培普及会会長 岩澤信夫さんに聞く
http://www.actio.gr.jp/interview/20051115-1.htm
      
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