摩擦のタネは、経済より国際貢献 (日経) | 日本のお姉さん

摩擦のタネは、経済より国際貢献 (日経)

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摩擦のタネは、経済より国際貢献 (日経)
▼「思想より行動」のオバマ新大統領が本に課すもの
米国の次期大統領に決まった民主党のバラク・オバマ上院議員。米国初の黒人大統領は、100年に1度と言われる金融危機やイラク戦争などの内外の課題に迅速に対処しなければならない。そして、米国民が失いつつある超大国としての誇りを取り戻すという重責を負う。国民の期待は高いが、それゆえにハードルも高い。
 ―― オバマ氏を大統領に押し上げた要因は何だったのでしょうか。

久保  今回の大統領選では、最初のうちは意外なことが多かったと思うんですね。民主党の中ではヒラリー・クリントン氏が圧倒的に優勢と考えられていました。民主党のエスタブリッシュメントであり、人脈や知名度から言って、オバマ氏では到底かなわないと思われていました。 ついでに言えば、共和党でもマケイン氏が公認候補に選ばれることを予想できた人はあまりいませんでした。穏健派のマケイン氏は、共和党では反逆児。共和党で圧倒的に強いのは、保守層でしたからね。 オバマ氏が勝った1つの要因には、無党派層やインテリ、若者など比較的学歴の高い人々の強い支持があったと思います。オバマ氏を当選させることでアメリカのイメージを変えたい、もっとよいアメリカを実現したい、という想いですね。ヒラリー・クリントン氏はそういう印象が薄いですから。

金融危機が追い風に

―― 確かにオバマ氏はチェンジ(変革)という言葉を強調してきましたが、その言葉だけで選挙民が動かされたのでしょうか。

久保  もう1つは、やはり金融危機が大きかったのでしょう。選挙戦を振り返ると、オバマ氏が民主党の公認候補になった後も初めのうちは接戦でした。9月前半の時点では、マケイン氏の方が世論調査で上位だった時期もあったほど。ただ、その後の金融危機はオバマ氏に追い風となりました。 政策ではなく、指導者のパーソナリティーや経験が投票行動の争点になれば、マケイン氏に分があったかもしれません。ただ、金融危機によって、経済政策に対する信任投票になってしまいました。その結果、オバマ氏の支持率がどんどん上がっていったわけですね。 これまでに大統領候補同士の直接討論会は3回ありました。その場でもオバマ氏は冷静沈着で、争点をよく理解していて、大統領となる資質と能力を持っているということを国民に印象づけることができました。それまでは「オバマ氏に任せて大丈夫なのか」、と不安感を持っていた人が多かったわけですが、そういった人々に対して、大丈夫と示すことができたのは大きかったですね。 選挙戦そのものを見ても、オバマ氏はより戦略的でした。ネットでの集金力は凄まじいものがありましたが、オバマ氏を勝利に導いたのは、ネットだけではありません。重要な州には有給の運動員を数多く配置し、戸別訪問でオバマ氏への投票を訴えるどぶ板選挙を展開していました。 テレビCMなどは「空中戦」と言われますが、地上戦でもこれまでのどの候補よりも規模の大きな地上戦を仕掛けたのがオバマ氏です。その結果、共和党が圧倒的に強いと思われていた州、バージニア州やアイオワ州、ニューメキシコ州、コロラド州などで支持率を上げることに成功した。

 ―― 現職大統領の支持率の低さもありますよね。

久保  もともと金融危機の前からアメリカの経済はあまり良くなかった。それに、ブッシュ大統領の支持率も25~30%とかなり低い。そこにきて、外にうまくいっていない戦争を抱えている。イラクもそうですが、アフガニスタンもそんなにうまくいっていない。こういう状況では与党は圧倒的に不利ですよね。 しかも、与党が3期目を狙うのは難しい。2000年の選挙で民主党は勝てなかった。2000年の経済情勢は好調でした。海外で戦争を行っていたわけでもない。クリントン大統領の支持率も60%前後でほぼ完璧だった。 8年ぶりの民主党への政権交代は、日米関係にも様々な影響を及ぼす可能性を持つ。もともと、霞が関や経済界は共和党との関係が深い。一方でかつて民主党のクリントン政権時代には、2国間で深刻な貿易摩擦が生じたことから、民主党政権に警戒感を抱く関係者も少なくない。オバマ政権によって、両国間はどのようになるのか。現代米国政治に詳しい東京大学の久保文明教授に聞いた。

にもかかわらず、3期目ということで民主党は勝てなかった。それを考えると、今回はそもそも民主党が有利だったということは言えるでしょう。ただ、その中でもヒラリー・クリントン氏を破って当選したのは、
オバマ氏の能力や選挙戦のうまさなどの要因は間違いなくありました。

日米同盟の重要性を強調している ―― 霞が関や経済界は元来、共和党とのパイプが強く、オバマ氏やその周辺にあまり人脈を持っていないと思われますが、オバマ政権ができた場合、日本に対する戦略はどう変わるのでしょうか。
久保 民主党政権が誕生する可能性は、外務省をはじめ日本政府もかなり感じていました。ですから、元国防次官補代理のカート・キャンベル氏のような日本をよく知っている民主党関係者との接触は、かなり前からやっていると思いますよ。 キャンベル氏はヒラリー・クリントン陣営にいましたが、オバマ陣営の人でも元海軍長官のリチャード・ダンジグ氏や元ダイアン・ファインスタイン上院議員スタッフのマイケル・シーファー氏など、日本のことをよく知っている人たちが、実はオバマ氏のまわりにはいます。
オバマ自身も安倍晋三首相(当時)や福田康夫首相(当時)が訪米した時に、上院議員としてはただ一人、日米同盟の重要性を強調するプレスリリースを出すなど、芸の細かいことをしている。こういったことを考えると、オバマ陣営が日本のことをよく知らないということはないでしょう。

―― オバマ氏のアドバイザーやブレーンには、ダンジグ氏やファインスタイン氏以外にどのような人がいるのでしょうか。

久保 たとえば、経済政策ではブルッキングズ研究所の上級研究員だったジェイソン・ファーマン氏やシカゴ大学ビジネススクール教授のオースタン・グールズビー氏などが挙げられます。 日本ではあまり知られていませんが、あちらではよく知られている人たちです(久保教授は東京財団の現代アメリカ研究プロジェクトで大統領候補者の選対本部や政策顧問を調べている。その詳細は以下。 彼らのほかにも、金融危機が起きて、ローレンス・サマーズ氏やロバート・ルービン氏といった財務長官経験者、元FRB議長のポール・ボルカー氏やアンドレア・タイソン氏などクリントン政権時代に重用された人たちが戻ってきています。


共和党人脈をどれだけ囲い込むのか―― ファーマン氏やグルーズビー氏はどのような考え方の持ち主なのでしょうか。
久保  保護主義ではありませんし、民主党の中道派でしょう。オハイオやペンシルベニアでヒラリー・クリントン氏と戦っている時、オバマ氏はNAFTA(北米自由貿易協定)批判を展開するなど、保護主義的な発言をしていました。その時、グールズビー氏は「オバマ氏の真意は違う」ということをカナダ政府に説明して物議を醸しました。ファーマン氏は市場重視型の経済成長を支持する若手経済学者でルービン氏にも近い。 今後のオバマ新大統領の人事で注目すべきところは、共和党の人をどの程度、組閣に含めるかでしょう。彼は民主党と共和党の壁を壊す、政党対立を壊すと言っているので、共和党の人を入れた組閣をすると思われます。ただ、それが1人になるのか、3人ぐらいになるのか、あるいは一番上の閣僚に加えるだけなのか、その下のスタッフまで取り込むのか。そのあたりは注目点でしょうね。 オバマ氏のレトリックを信じた人にとっては、「オバマは言ったとおりのことをしてくれた」と評価するでしょう。
ワシントンの長年の政党対立の壁を壊そうとしている、という意味でね。また、取り込まれた共和党も穏健派あたりはオバマをより強く支持する可能性があります。

 ―― 側近の人材などから考えると、日米間で経済摩擦が起きる可能性はあまりないのでしょうか。

久保 ただ、貿易摩擦は今後、大きな問題にはならないと思います。民主党政権の中には労働組合がいて、現状ではかなり保護主義的であることは確かですが、むしろ悪化するのは中国との関係でしょう。 前回の民主党政権の時、クリントン大統領は中国を「ストラテジック・パートナー」と呼びました。その後、特に2000年の選挙において共和党にずいぶん叩かれましたが、中国はあの時以上に強大な国になっている。経済的には相互に関係が深まっていますが、人権の問題はまだ残っているし、軍事力の強化も進んでいる。 ましてや通商問題がありますし、民主党政権でもそう簡単にストラテジック・パートナーとは呼べないのではないか、という感じがしますね。最初からクリントン時代のいろいろな政策が繰り返されると最初から断言する必要もないでしょう。


さらなる貢献を求められるアフガン問題―― 日本も含めて東アジア政策全体では、どのような変化が起こるでしょうか。
久保 今度のオバマ政権には、あんまり強烈なイデオロギー性はないと思うんですよ。オバマ氏の上院議員としての出発点は民主党のリベラル派でしたが、彼は右にしろ、左にしろ、そんなに強いイデオロギーは持っていないと思われます。そういう意味では、かなりプラグマティックでしょう。 ブッシュ政権が行った北朝鮮との最近の取引についても、むしろ共和党のマケイン氏の方が批判的で、オバマ氏の方が前進していると評価していますね。ですから、北朝鮮政策はこのままブッシュ政権の対話・交渉路線を引き継ぐのではないでしょうか。 日本についても、アメリカの対アジア政策は日本との同盟関係が基盤であり、アメリカと中国の関係とは質的に異なるということが大前提になっている。ただ、対日関係で難しいのは、オバマ氏がアフガニスタンでの戦いを重視すると言っている点でしょうか。 イラクからの撤退を始める一方、アフガニスタンへは増派し、テロとの戦いに集中する――。オバマ氏はこう言っているわけですが、アフガニスタンは厳しい戦いになっており、そう簡単には決着がつかない。
だとすると、アメリカにとって嬉しいのは同盟国が協力してくれることでしょう。

 NATO(北大西洋条約機構)は軍事的にアメリカと一緒に戦っていますが、日本が一緒に戦うわけにはいきません。インド洋の給油活動という形で協力してきましたが、法案はまだ通っていない。給油活動を延長できないとなると、あるいは短期間で終了してしまうと、アメリカは失望するでしょう。 「それ以上の協力ができないのか」という素朴な疑問はアメリカには常にある。それに対して、「できません」となると、同盟国としてあんまり役に立ちませんね、ということになってしまう。アフガニスタンにおけるテロとの戦いがうまくいかなければいかないほど、日本への協力を求める声は強まると思いますね。 ヘリコプターを使用して輸送などでアフガニスタン本土において何か貢献できれば、アメリカが高く評価することは間違いないところです。しかし、日本の中でそれは難しいのかもしれません。人道・復興支援でもある程度は評価される。 ただ、危険が伴うことは言うまでもありません。あるいは、パキスタン西部において、アメリカやイギリスなどと協力して公立学校の建設・運営を財政的に支援するといった方法もあります。貧困に対する援助であるとともに、中長期的なテロ対策という側面も持ちえます。 日米関係では、アメリカが日本に対して何をしてくれるのかを問うだけでなく、日本は何をしたいのか、するべきなのかも、主体的に考えることが必要でしょう。

チームプレーを重視する―― オバマ新大統領は、同盟国たる日本に強い期待感を持っているのでしょうか。
久保  「日本はNATOとは全然違う。憲法上の制約を持っていて、軍事的には助けてくれない」ということは側近がたたき込んでいると思いますよ。もちろん、スタッフの中には日本の役割を十分に理解してくれている人もいれば、同盟国としては格下と思っている人もいますけど。 たとえば、ヒラリー・クリントン氏が政権を取れば国務長官になると言われていたリチャード・ホルブルック氏などは日本を格下と見ていますね。国連大使の経験者で民主党の外交の専門家の中では有能と言われている人です。オバマ氏はチームプレーを重視しますから、国務長官には起用されない、とも言われていますね。まあ、民主党系の政策専門家は今、オバマ氏の周辺に食い込もうと必死です。 オバマ氏が今、考えているのは少しでも圧勝したいということでしょう。それも、ノース・カロライナ州やジョージア州、フロリダ州、インディアナ州など共和党が強いレッドステートで。それによって、自分は超党派の支持を得た、国民からの信託を得たということを国民やメディアに主張したいでしょう。 統計的にも米国大統領の成功度は、その勝ち方が重要になります。やはり接戦で勝つと、うまく政権運営ができません。カーター大統領以来、民主党の大統領で、得票率が50%を超えた人はいません。オバマ氏が今回、50%を超えたかどうか。これが今後の政権を占う1つの注目点でしょう。