「宮崎正弘のニュース」資金面で行き詰まるアメリカが軍事力を後退させる。
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成20年(2008年)10月28日(火曜日)
通巻第2364号 (10月27日発行)
いつになったら底が見えるか?
11月15日のG24(NY)までもみ合いが続きそう
**********************
底値が見えれば世界同時株安はいったん安定(小康状態)になるという観測が各方面から上がりだしている。
日本は金融安定強化法の補正により10兆円の資金注入体制をとる。
すでにイギリスが9兆円、ドイツ11兆円、フランス6兆円。米国が7兆5000億円(いずれも一ドル=100円で換算)。
IMFはアイスランド救済に続き、ハンガリーとウクライナへの緊急融資を決めた。これで具体的数字が出てこないのは中国ぐらいだろう。
問題の本質をここでもう一度振り返ってみよう。
サブプライムの発端は、07年8月フランスのパリバ銀行である。ファンド運用の凍結を発表し、それが伏線となって08年3月のベアスターンズ救済、9月リーマンブラザーズ倒産、AIG救済へと繋がっている。
底値は米国の住宅価格である。
[V字型]回復は百分の一のシナリオだが、米国では基本的に住宅需要が高いため、いずれ住宅価格が底値を打てば回復する。
問題は、それが幾らなのか?
あと20%住宅価格が下落して、そこで回復基調となれば、連鎖的に企業業績も上向き、株価が回復する。その前にGMの倒産などが複合すれば、このシナリオは元の木阿弥に戻るが。。
日本は不動産バブルで損出がおよそ200兆円、このうち150兆円が不良債権と化して、回復が長引いたが、米国と異なるのは少子化、人口減少により住宅需要が見込めないこと。米国は九秒にひとりという新移民があり、まだまだ住宅需要は旺盛なのである。
しかも、サブプライムの発端から現在(10月27日現在)までに損出は100兆円であって、日本のバブルよりも「軽傷」である。
にもかかわらず、米国の株価破綻、大不況がなぜ産まれたかといえば、CDS(クレジット・デッド・スワップ)の底知れぬ規模が目の前に横たわっているからだ。
▲全体6200兆円の、何%が実際の損害を受けるのか?
デリバティブの規模が6200兆円。
ファニーメーとフレディマックの引き受けが570兆円。全米の四割。
AIGに対する政府金融支援が8兆9000億円。これで80%のAIGU株式取得とする。しかしAIGの資本金は8兆円、その六倍近い45兆円のCDSが世界に流れ出した。
CDSは、こまかく複雑に組み込まれて世界中のファンドに混入している。だから始末が悪く、全体像の具体的損害把握が出来ないのだ。
これらから、世界全体で“影響を受ける”債権市場は、およそ6200兆円と推定されるわけである。
したがって底値が見えるヒントは、これらの数字の中に隠れている。
となれば、IMFの損出見積もりが全世界で140兆円というのは、いかにも少ないシミュレーションでしかないことが分かる。この数字で済むのなら、日本一カ国のバブル破綻の全損害より少ないではないか。
もう二つほど論じられていない事柄がある。
第一は「戦争の錬金術」という視点。
第二は世界の安全保障システムと金融システムの裏のつながりです。
後者ふたつは稿を改める。
♪
(読者の声1) 10月10日から20日まで、ブラジル・サンパウロへパラグライダーツアーでした。
我々の到着する前日までは天候不順だったそうですが、到着以後 滞在した7日間は好天と良い風に恵まれて毎日サンパウロの青い空を飛翔しました。上級者達は連日のようにクロスカントリー、20キロ30キロにでかけましたが、私はそれは危ないのでエリアの周囲4、5キロの範囲をのんびりと飛んでおりました。
朝の牧場を散歩してオバサンに搾りたての牛乳を貰ったり緑色のインコが群をなして飛ぶ光景を眺めたり、ホテルの庭でHumming Bird を見たり(実物を見るのは生まれて初めてでした)、黒く熟したラズベリーを摘んで食べたり、、、とサンパウロの田舎の自然も満喫しました。
ブラジルに居た間、世界不況のニュースはTVやメンバーの一人・不動産屋が毎日チェックしていたパソコンで解っていましたが、持ち株が暴落しても売買しなければ、そして、当座換金する必要が無ければ、人間楽しく遊んでいられるのですね。
私が知っている日本のどん底は昭和20年の焼け野原ですが、あれに比べれば、TOTOのトイレに座っている日本人は誰も文句を言えないのではないか、と思います。
加藤寛さんは1929年の大不況を知っているそうですが、彼はあの頃と比べればいまはずっと良い(=概要)とコメントしています。 ピンチの時は過去の数々の悪い時代を知っている体験者の知力を借りるのがよろしい、でしょうか。
(AO生、伊豆)
(宮崎正弘のコメント)「恐慌」は心理状態で、正確には世界同時株安、大不況でしょう。
この金融危機を、しかしマスコミもおおかたの日本人も経済の視点でしか見ていない。もっとも大事な、マクロの観点は安全保障で、資金面で行き詰まるアメリカが軍事力を後退させるのは目に見えたシナリオ、日米安保条約が残存しうるか、どうか、という問題が、これから深刻化していくでしょう。
♪
(読者の声2) 26日にフジテレビのサキヨミLIVEの中で、毎年アメリカ政府から日本政府に手渡される「年次改革要望書」のことがとりあげられた。視聴された方もいたかと思いますが…。
その中で、「アメリカが日本に401Kの拡大を要求してくるのは、日本の公的年金の崩壊を狙っているのでは…。」と言う評論家がいました。
私は徒らにアメリカの年次改革要望書を拒否するのではなく、毎年アメリカ政府から日本政府に来る「年次改革要望書」を日本語に翻訳し、広く国民に公開し、国民の議論の中で受け入れるのか受け入れないのかを決め手欲しい。
諸氏のお考えはいかに…。
(T33)
(宮崎正弘のコメント)当該テレビ番組、小生は見ていません。なにしろテレビを見る習慣がありませんので。
関岡英之さんの書かれた文春新書など下記二冊により、多くの人が当該ペーパーの存在を知るようになりました。
『拒否できない日本』(文春新書)
『アメリカの日本改造計画』(イーストプレス)
まさに『NOと言える日本』になるべきでしょう。けれど。
2008年の年次改革要望書のコメントが下記サイトにもあります。
http://newthrees.blog18.fc2.com/
♪
(読者の声3)不定期船の運賃レートが急落しているのはご指摘の通りですが、バラ積み貨物船はバルク・キャリアー(鉄鉱石運搬船はオアキャリアー)が一般的呼称で、バージ船(業界用語では、単にバージ)と呼ばれるのは、河川や内海を航行する平底の荷物運搬船、通常はしけ、と呼ばれる船です。プロペラが付いたものもありますが、自力で航行できず、タグボートで引かれたり、プッシャーで押されて航行しています。
私は商社マン時代船舶輸出を担当しておりましたが、不定期船のチャーター相場は乱高下が激しく、それに伴って、2~3年後に出来上がる新造船の相場も大きく動きます。
現在のチャータレージが2~3年後まで続く保証なんかどこにも無いにも拘らず、数年先の新造船の船価まで高くなるのが一般的です。
ですからここ数年は船会社も造船所も大いに潤っていましたし、造船所も後2年ぐらいは受注を抱えている筈ですが、受注が二流三流船主のものだと、完成までにアウトになることが多く、少々の前金を取っていてもとてもカバーしきれない損失を造船所がかぶることになります。
私が昔、ロンドンに駐在していた4年間で受注した3万トンのバラ積み貨物船の船価は、仕様の違いはありますが、最安値が19億円、最高値が43億円でした。しかも19億円の船の受注は43億円の船の2年後で、明らかにインフレが進んでいるのに、半値以下、それでも造船所は船台を空けさせないために、泣く泣く赤字注文を受けたものです。
その後、海運市況は好転しましたから、19億円で船を造った船主は大儲け、先を見通す眼力のあるオナシスのような船主が金の力に物を言わせ、ケネディ大統領元夫人のジャクリーヌを後妻に迎える、という逆シンデレラ物語が出来上がるわけです。
株と同じで人の行く裏に道あり、宝の山、というところでしょうか。
(MT生)
(宮崎正弘のコメント)『百年に一度の危機』は百年に一度のチャンスでもあります。JFK王国を築いたケネディ一家とて大恐慌を逆梃子に浮き上がってきたのですから。
♪
<< 今月の拙論 >>
(1)「新しい金融国際体制とは」(『月刊日本』11月号、発売中)
(2)「米国債権デフォルトなら空母を差し押さえよ」(『WILL』12月号、発売中)
(3)「その後の南京大虐殺記念館をゆく」(『正論』12月号、11月1日発売)
(4)「シャンハイ最新事情」(『エルネオス』11月号、10月31日発売)
(5)「グルジア問題にみるロシアの本質」(『修親』、12月号、10月中旬発行)
(6)「金融恐慌の本質」(西部遇、藤井厳喜氏らと。『撃論ムック』11月5日発売)
(7)「世界大恐慌の闇に一条の光」(『自由』12月号、11月10日発売)
(((((( 編集後記 )))))))
●おしらせをふたつほど。(1)来年の話で気が引けるのですが、1月24日(土曜日)、午後一時から五時まで。拓殖大学日本文化研究所が大シンポジウムを開催します。「昭和維新から平成維新へ」。パネラーは桶谷秀明、ヴィルピッッタ・ロマノ、佐藤優、宮崎正弘、司会は井尻千男の予定です。場所を含めての詳細はいずれこの欄でも。(2)明後日29日(水曜)桜チャンネルで「金融危機」の緊急テレビ討論会を行います。宮崎正弘も出演します。インターネットで放映されます。
宮崎正弘の新刊
『中国がたくらむ台湾沖縄侵攻と日本支配』
KKベストセラーズ 1680円、ハードカバー
宮崎正弘『トンデモ中国、真実は路地裏にあり』(阪急コミュニケーションズ)
(全332ページ、写真多数、定価1680円)
宮崎正弘『北京五輪後、中国はどうなる』(並木書房、1680円)
宮崎正弘・黄文雄共著『世界が仰天する中国人の野蛮』(徳間書店、1575円)
宮崎正弘のロングセラー
http://miyazaki.xii.jp/saisinkan/index.html
『崩壊する中国 逃げ遅れる日本』(KKベストセラーズ、1680円)
『中国は猛毒を撒きちらして自滅する』(徳間書店、1680円)
『世界“新”資源戦争』(阪急コミュニケーションズ刊、1680円)。
『出身地でわかる中国人』(PHP新書)
『三島由紀夫の現場』(並木書房)
宮崎正弘のホームページ http://miyazaki.xii.jp/
◎小誌の購読(無料)登録は下記サイトから。(過去4年分のバックナンバー閲覧も可能)。
http://www.melma.com/backnumber_45206/
(C)有限会社・宮崎正弘事務所 2008 ◎転送自由。ただし転載は出典明示。