「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成20年(2008年)10月20日(月曜日)
通巻第2352号
中国の少数民族支配と搾取には共通のノウハウ
「人権」の問題は本質ではなく、侵略者がそこにいまもいる、のが大問題だ
********************
欧米は中国の少数民族支配を「人権」の視点で捉えている。
ここで言う「少数民族」とはチベット、ウィグル、南モンゴルなど。
人権問題は、しかしながらコトの本質ではない。基本は他人の国を侵略し、略奪の限りを尽くした後も、その残忍な侵略者が、まだそこにいて、残虐無比な支配を続行しているという事実である。
中国共産党の少数民族「支配」のノウハウには下記の七つの共通項がある。
第一は言語政策と歴史教育である。徹底した普通語(北京語)教育を小学生から強制して教え込み、民族独自の言葉を若者から奪った。
チベットでもウィグルでも若者の多くが、いまや伝統的な言葉を喋れない。大学入試も公務員試験も、自動車免許も北京語である。
民族が伝統的な言語を失うと、歴史の記憶も希薄になり、やがて民族のアイデンティティを失う。
それが中国共産党の長期的戦略にもとづく少数民族支配の基本原理になる。
第二は党細胞が、侵略した地域の奥地に至るまで確立されており、行政が末端に及んでいると豪語している。
実態は漢族が基軸の党細胞で、田舎へ行けば行くほど都会で死滅寸前の「當案」(個人の監察プロフィル)が生きている。
したがって支配階級(=党)に反旗を翻そうと組織行動をとれば、すぐに弾圧される。
第三は資源の盗掘を「地域の経済発展」だと嘯いていることだ。
たとえばチベットでは「農奴」を解放してやったなどとして軍の侵略を正当化しているが、チベットは遊牧の民で農奴はいなかった。
チベットの水資源は長江、黄河に流れ込んでいる。
ウィグルは核実験場として、或る研究レポートでは19万人が被爆して死亡したという。広島の直接の爆死者より多い。そのウィグルで原油とガスを漢族の「企業」が盗掘し、上海など漢族の生活圏へ輸送している。
地元に利益還元は殆どされず、たとえ利益還元があっても、それは地元の共産党幹部しか潤っていない。
モンゴルからも石炭や鉱物資源が盗掘されている。
第四は徹底した宗教弾圧である。
ポタラ宮殿は千もの部屋があるが、いたるところに公安がいる。多くの仏教寺院には境内のなかに公安の詰め所、大伽藍のある宗教設備にはパトカーが常時駐機している。
モスクはかたちが残るだけで朝のお祈り風景は見られず、いやコーランが禁書であり、宗教音楽さえ聴くことは稀である。
だから人々は「どうせスパイが混入した表通りの寺院やモスクへは行かない」。キリスト教の多くは地下教会でお祈りをする。
第五は都市設計である。
フフホトではモスクの周囲に異民族の新しい移住があり、チベット仏教の周りはイスラム街区となっている。
ラサでもモスクが目を引く。ムスリムが大量にチベットに移住させられている。
こうして異教徒をモザイク状に配置して民族同士の紐帯を阻害し、分断し、支配を強固なものにするのである。
▲漢族以外の「少数民族」に対しては人間の尊厳が無視されている
第六は民族浄化。雇用差別である。
典型例がウィグルの少女達の「集団就職」である。山東省の工場に押し込められて外出の機会がほとんど無い。あげくは漢族男性との結婚を勧められ、長い期間をかけての民族浄化が巧妙なスタイルで行われるわけだ。
ウィグルには、革命後は多くの満州族が強制移住された。その後、漢族の移住が推薦され、省都ウルムチは90%が漢族の街となった。現地では漢族に就職が斡旋され、アパートが提供された。
このウィグルを十六年の長きにわたって支配しているのが王楽泉(新彊ウィグル自治区党書記)である。
この男は山東省出身で、かれの周りは山東マフィアが取り巻き、実弟らが利益集団を形成している。
「テロリストの対象になっている」と嘯いて大勢のボディガードに囲まれて移動する。民衆の怨嗟の的になっていることだけは自覚しているらしい。
漢族以外の「少数民族」に対しては「人間の尊厳」が無視されている(そもそも数百万のチベット族、ウィグル族、モンゴル族を「少数」と規定する語彙の使用そのものが、政治的意図をもった言葉による詐術である)。
欧米の唱える「人権」は、そうした文脈では有益な政治運動であるが。。。
第七は軍事優先ですべてがなされていることで、民主主義って、それ何?という感じである。チベット居住区(チベット自治区、四川省、青海省、甘粛省にまたがる)には合計五十万といわれる人民解放軍ならびに武装人民警察が駐屯している。
ウィグルには70万人と言われる。
反漢族への反乱が起きたとき、軍事的にひねりつぶすため、対外戦争の筈の軍が対内戦争の準備のために割かれているのである。
◎
♪♪♪
佐賀県および北九州在住の読者の皆さんへ
宮崎正弘独演会 二時間スペシャル
!!!!!!!!!!!!!!!!
佐賀恒例の「土曜セミナー」です。二年ぶりに小生が講演します。小誌読者にはお馴染みの中国経済と中国そのものの現状とこれから。冒頭に世界同時株安、大不況到来の分析があります。
記
とき 10月25日(土曜日) 午後二時(一時半開場)
ところ 佐賀市天神三丁目 アバンセハール
http://www.pref.saga.lg.jp/manabinetsaga/avance/riyo/riyo8-1.html
演題 金融危機以後の中国のゆくえ
入場無料 会合の名称は「佐賀土曜セミナー」
お問い合わせ (0952)23-5020 FAX(0952)23-5049
♪
(読者の声1) 貴著『最新版2008 世界大動乱――中国発暴落が始まる』(並木書房)を拝読し、感服しているところです。(近々貴著の別の中国に関する書物を拝読させて頂こうと思っております。)
殆どマスコミなどに登場されないのですが、お名前は何故か小生のどこかに記憶されておりました。
頁の最初から誌面に吸い込まれるようにページを捲っていきました。(小生にはかなり難しい内容の箇所もありましたが、とても勉強になりました。)
しかしエピローグ(262頁)、に船橋洋一氏の名前が出てきますが、氏は媚中派ではないかと思っており、そうであれば、中国での事象に関して真実、事実はお書きに成られないのでは、と思います。
もし、小生の理解が間違っていれば、改める必要があります。また、氏の書物で確認しなければなりません。ご教示願えたら幸甚です。
(TK生)
(宮崎正弘のコメント)船橋洋一氏が中国の暗部をえぐった『内部』は傑作です。その時点では中国における取材が大幅に制限されていて、ほかの中国のルポは取るに足らないほどつまらない作品の山でしたが、突撃取材をされた結果、傑作が誕生した。しかも船橋氏のインタビューに応じた匿名の中国人が、あとで公安当局から特定され、睨まれたという話を聞きました。
拙著当該書籍のエピローグ頁の前段をおよみください。「80年代」の話です。同時期にそこに出てくるのが伊藤正、西倉一喜氏らで、鋭利な批評精神で論壇に出てきました。
伊藤正さんは中国評論を二冊出されて注目され、共同通信から産経新聞へ移籍された。いま北京総局長です。産経に長く連載され、好評だった『トウ小平秘録』は、まもなく中国語版が出ます。快挙です。
西倉さんの【中国グラスルーツ】(大宅賞受賞作品)は、開高健が賞賛しました。あの時代に自転車で中国をぐるりとまわって庶民の生活を追いました。
上記三人(ほかにも毎日の辻康吾氏とか何人かいますが)は、80年代というきわめて中国取材が困難な折に語学力を生かして町中から庶民のなかへ突撃し、中国の実情をつたえてくれた。
西倉氏は、その後、ワシントン支局などを経て、いま京都の大学の先生をしています。三月の台湾総統選挙の取材のおり、台北のレストランでばったり。
それはともかく船橋さんは、ワシントン特派員時代の【通貨烈々】まで傑作が多いのですが、そのご、おそらく朝日新聞の社内政治で、いつしか立場が変わり、しかし、その結果、「主筆」になられましたが。
♪
(読者の声2)18日に拓殖大学で開催された「三民族連帯シンポジウム」に伺いました。
荒木和博教授の開会挨拶の後、チベットのダライラマ政府の大臣の演説をペマ・ギャルポさんが通訳されていました。
そのあと、ウィグル代表とモンゴル代表が発言され、宮崎正弘先生と藤井厳喜先生が身近なお話をされましたが、さて、ウィグル代表とモンゴル代表のお名前を司会が紹介されたのですが、聞き取れなかった。もう一度、聞かせていただけませんか?
(LO生、杉並区)
(宮崎正弘のコメント)チベットからはテンジン・テトン元亡命政府主席大臣でした。
ウィグル代表はセイット・トムトルコ(世界ウィグル会議副総裁。総裁はカディール女史)。モンゴルはオルホルド・ダイチン(自由モンゴル連盟党幹事長)
中国共産党に抑圧され、くにを侵略された三民族が、日本で初めての連帯行動でした。翌日19日には多くの日本人支援者が応援してデモ行進も行われました。
尚、当日の拙講演を多少手直しし、書き直したのが、冒頭の文章です。
~~~~~~~~~~~
三島由紀夫研究会「公開講座」
@@@@@@@@@@@@@@
とき 10月31日(金曜日) 午後六時半
ところ 市ヶ谷「アルカディア市ヶ谷」四階会議室
講師 佐藤 優氏(起訴休職中外務省事務官)
演題 「ロシアから吉野へ 神皇正統記から三島へ」
会場分担金 おひとり 2000円
予約方法 聴講ご希望の方は下記へメールをください。当日、直接会場に来られても構いませんが、その節は立ち席になることがありますので、なるべく予約を!
***********************************
(1)お名前(2)郵便番号(3)御住所を書いて(10月31日公開講座希望)としてください。
yukokuki@hotmail.com
(なお当日、会場の座席数が限られており、先着80名様で締め切ります)。
◎
宮崎正弘の新刊
『中国がたくらむ台湾沖縄侵攻と日本支配』
KKベストセラーズ 1680円、ハードカバー
▲侵略と強奪と独裁の現代史を読む
▲ナショナリズムの狂気が凶器へ
▲ナチスベルリン五輪後のチェコ、ポーランド侵攻を忘れるな!
(↓すべてアマゾンから申し込めます。送料無料)
http://www.amazon.co.jp/dp/4890632298/
宮崎正弘『トンデモ中国、真実は路地裏にあり』(阪急コミュニケーションズ)
(全332ページ、写真多数、定価1680円)
宮崎正弘『北京五輪後、中国はどうなる』(並木書房、1680円)
宮崎正弘・黄文雄共著『世界が仰天する中国人の野蛮』(徳間書店、1575円)
宮崎正弘のロングセラー
http://miyazaki.xii.jp/saisinkan/index.html
『崩壊する中国 逃げ遅れる日本』(KKベストセラーズ、1680円)
『中国は猛毒を撒きちらして自滅する』(徳間書店、1680円)
『世界“新”資源戦争』(阪急コミュニケーションズ刊、1680円)。
『出身地でわかる中国人』(PHP新書)
『三島由紀夫の現場』(並木書房)
宮崎正弘のホームページ http://miyazaki.xii.jp/
◎小誌の購読(無料)登録は下記サイトから。(過去4年分のバックナンバー閲覧も可能)。
http://www.melma.com/backnumber_45206/
(C)有限会社・宮崎正弘事務所 2008 ◎転送自由。ただし転載は出典明示。