北朝鮮の隠れた鉱山資源を狙う欧米(元外交官・原田武夫の国際政治経済塾) | 日本のお姉さん

北朝鮮の隠れた鉱山資源を狙う欧米(元外交官・原田武夫の国際政治経済塾)

北朝鮮の隠れた鉱山資源を狙う欧米(元外交官・原田武夫の国際政治経済塾)

http://money.mag2.com/invest/kokusai/2008/10/post_83.html

北朝鮮の鉱山開発は終わっているのか?

北朝鮮に不穏な空気が流れている。金正日総書記の健康状態の悪化が囁かれ、後継者に関する憶測報道が流れたほどである。


また、対外関係でもメディアを賑わせている。北朝鮮は2008年6月、寧辺(ヨンビョン)にある冷却塔を爆破し、それに続いて核計画申告を提出した。米ブッシュ大統領は、北朝鮮をテロ支援国指定及び対敵国通商法適用から除外すると米連邦議会に通告し、「とうとう米朝和解」といった期待感が抱かれた。しかし、それをピークに米朝関係は再びこう着状態へと逆戻り。米国が北朝鮮による核計画申告が不十分であるとテロ支援国指定解除を先延ばしにすると、対する北朝鮮は「核施設無能力化」を中断した。

ところが、去る10月2日、ヒル米国務次官補が再び訪朝した。そして、北朝鮮に再度チャンスを与えたというのだ。その内容はまだ明らかではないが、米国が北朝鮮側に譲歩したとの報道もある。


なぜ、米国は北朝鮮を相手にそこまで焦るのだろうか。


私は対北朝鮮外交の最前線で働いた経験から、北朝鮮外交の真実は大国間による経済利権、特に鉱山資源の取り合いであることをこれまで繰り返しご説明してきた。これについては、例えば2005年4月に出した拙著『北朝鮮外交の真実』で詳しく述べたとおりだ。それに対し、「北朝鮮の鉱山資源はすべて開発され尽くしており、そうした分析は全くの事実誤認だ」と述べる論者がまだいる。確かに、北朝鮮自身は正式なデータを公表していない。


しかし、だからといって北朝鮮を巡る経済利権が全く無意味だとは言えないのだ。経済利権の塊としての北朝鮮の素顔を知っている米国だからこそ、焦りを見せていると考えるのが正しい。実際、米国は衛星によって朝鮮半島の鉱脈を探る一方、つい数年前、日本にある旧植民地統治下での資料を、特に鉱山関連を中心に調査したばかりなのである。


なかなか見えてこない北朝鮮と各国との関係で、どのようなやり取りが行われているのかだろうか。実はその答えは、公開情報分析によって判明する。


まだまだ北朝鮮に流れ込む開発ビジネス

マネーが織り成す「世界の潮目」を日々追い続ける中、この関連で気になるニュースが1つあった。北朝鮮の金永南最高人民会議常任委委員長は、フランスの「ラファージュ社」社長とエジプトの「オラスコム建設社」社長をはじめとする一行と会談を行ったというのだ(24日付朝鮮放送、平壌放送=ラヂオプレス参照)。


北朝鮮を訪問していることが明らかになったフランスのラファージュ社は、フランスを代表する建材メーカーで、世界に拠点を持っている。他方のオラスコム社はエジプトのゼネコン大手である。これら2つの会社は、既に資本提携を行っている間柄だ。


それでは、これら2社が訪朝した目的は一体何であろうか。去る2008年2月、オラスコム社の子会社であるCHEOテクノロジーは、北朝鮮で第3世代携帯電話ネットワークを建設する許可を得ている。このことから、オラスコム社は通信分野を通じて以前から北朝鮮に接触していたものと容易に予測がつく。


では、ラファージュ社と北朝鮮の関係は何か。それを知るためには、同社の株主構成にも注意する必要がある。同社の株式のうち、その約20%をベルギーのグループ・ブリュッセル・ランベールが保有している。そして、注目すべきはこのグループ・ブリュッセル・ランベールの株式を25%保有しているのが、フランスの鉱物メーカーであるイメリス社である点だ。つまり、ラバージュ社の事業には鉱物関連セクターで幅を効かせるイメリス社が大きな影響力を持っているのだ。こう考えることで、バージュ社社長の北朝鮮訪問は最終的に資源の開拓であるというからくりが浮き出てくるのだ。


また、ラファージュ社が「フランス」の企業であることもキーポイントであろう。私はかねてより、ヨーロッパ諸国と北朝鮮の秘密裏の繋がりについて取り上げてきた。とりわけ、多くのヨーロッパ諸国が北朝鮮との外交を樹立している中、北朝鮮との国交を樹立していないフランスの動きがどうしても目につくのだ。


その例として、かつて北朝鮮が外国への借金を返済できなくなり、債務不履行となった負債の一部(約650億円分)を、フランスのBNPパリバ証券がアレンジして証券に転換し、市場に流通させたことが挙げられる。他の欧米諸国と並んで北朝鮮核問題を批判しているフランスは、過去において北朝鮮を危機から救い出していたのだ。そのフランスが北朝鮮における鉱山利権を獲得していないわけがないだろう。


このように他の大国、特に欧州が着々と北朝鮮における鉱山利権を獲得しているのを目の当たりにし、米国も焦りを感じずにはいられなかったのであろう。だから、北朝鮮にやや譲歩してでも、接近を図りたかったというのが米国の本心ではないだろうか。そう考えると、自然と最近の米国の動きにも納得がいくだろう。


他国への投資も行う北朝鮮

このような北朝鮮を取り巻く各国の最新の動向を含めた世界の「潮目」について、私は、10月18・19日に東京、横浜で、11月8・9日に東京、仙台で、そして11月29、30日に横浜、さいたま及び東京でそれぞれ開催するIISIAスタート・セミナー(完全無料)で詳しくお話したいと考えている。



ちなみに、北朝鮮を巡る経済利権は、何も国内の鉱山利権に限られてはいない。むしろ、北朝鮮は自ら大量の資金を用いて外国にも進出しているのである。この関連での気になるのが、北朝鮮政府とケニア政府が「両国間の親善・協力関係を促進し、強化するという目的」から、大使級外交関係を樹立する旨を示した共同声明に署名したという報道がである(9月28日付朝鮮中央放送=ラヂオプレス)。この2ヶ国は、1975年の時点で外交関係を樹立していたが、相互に大使館を設置していない。しかし今回の声明を契機に、2ヶ国は関係強化のための見直しを図っていると解釈されよう。


ケニアといえば、現在積極的に民営化を進めている国である。世界では米国スタンダードを押し付ける“破壊”のフェーズから各国独自の構造が生まれる“創造”のフェーズへと移行している中、一周遅れで「民営化」「上場」といった“破壊ビジネス”に突入している国だ。その例として、ケニアのキバキ大統領が2006年、国営テレコム・ケニアの株式の6割を手放すことを決定したことが挙げられよう。同様に、電力セクターや国営鉄道でも民営化や民間資本活用が動き出している。つまり、外国勢にとってみれば、今こそケニアに投資する絶好の機会なのである。ケニアにビジネスチャンスがあるからこそ、北朝鮮はケニアとの外交関係を強化する動きに出たのだろう。


北朝鮮は鉱山資源を各国に分配するだけの受け身な国なわけではなく、他国のビジネスにも進出する力を持っている。これは、必ずしも私たちが普段北朝鮮に対して抱いているイメージと重なるものではない。しかし、そうも言ってはいられない。なぜなら、もし米朝が接近することになれば、米国の圧力により日本も北朝鮮との距離を縮めざるを得なくなると考えられるからだ。その時に備え、私たち日本の個人投資家・ビジネスマンにとっても、北朝鮮を取り巻く環境とその潜在能力を知ることは非常に重要なことと言えよう。