【佐藤優の地球を斬る】新帝国主義の時代（下）日本は立場を毅然と主張せよ
ロシア・グルジア戦争後の米露対立を新冷戦と規定する論者が日本にも外国にもいる。筆者はこのような見解はポイントを外していると考える。
東西冷戦においては、自由民主主義と共産主義というイデオロギー（思想）対立があった。しかし、現在のアメリカとロシアの間にイデオロギー対立はない。それに冷戦の場合、実際の戦争を極力避けるというベクトルが働くが、今回、ロシア・グルジア間では熱い戦争が展開された。新冷戦という名称では、国家間紛争を戦争によって解決する際のハードルがロシア・グルジア戦争を契機に低くなりつつあるという危険性が過小評価されてしまう。そこで筆者は現状を新帝国主義と呼ぶのが適当と考える。
■強まる保護主義的傾向
１９世紀後半から２０世紀初頭の主要国が自らのエゴイズムを最大限に主張して、平和的に妥協することを試みるが、戦争に訴えた方が国益を著しく増大することができるという場合には、躊躇（ちゆうちよ）なく戦争に訴えるという時代を彷彿（ほうふつ）させるような時代が再びあらわれているように思える。それと同時に、国家と経済の結びつきが強まる。ＷＴＯ（世界貿易機関）でも各国による輸入規制の撤廃がこれまでの重要懸案であったが、すでに穀物については輸出規制をどう抑えるかが深刻な問題になりつつある。リーマン・ブラザーズの破綻（はたん）を契機に、アメリカを含む各国で保護主義的傾向が強まるかもしれない。
これからはいくらカネがあっても食糧、石油、天然ガス、レアメタルが買えなくなるような時代がやってくるかもしれない。日本国家がインテリジェンス能力を最大限に発揮し、予断と偏見を排して、５～１５年くらい先の中期分析を行う必要がある。
■世界第２の大国
その大前提として重要なことがある。日本は、世界でも有数の帝国主義国家であるという等身大の認識をもつことだ。「帝国主義は、植民地支配と結びつくという印象があるので、そういう認識はもちたくない。日本は民主主義国で、帝国主義国ではない」というような常識をつき崩さなくてはならない。植民地から収奪することで本国が潤うならば、帝国主義国は植民地をもつ。逆に、植民地統治にコストがかかり、手放した方が自国にとって有利ならば、植民地をもたない帝国主義国になる。それだけのことだ。
日本国家、日本人には底力がある。日本はＧＤＰ（国内総生産）世界第２位の大国だ。国際秩序が帝国主義的に転換する中で、日本人が好む、好まざるとにかかわらず、帝国主義的な転換が求められているのだ。日本国家は、もっともっと自己主張を強めなくてはならない。そして、「これ以上、日本の立場をゴリ押しすると、関係国の反発を買い、結果として日本が損をすることになる」というような状況で、はじめて国際協調路線をとればよい。情緒や感情に流されるのではなく、自らの力を正確に認識し、国際情勢を的確に把握し、自国の立場を毅然と主張する乾いた外交が求められる。欧米諸国に対して卑屈になったり、アジア諸国に尊大な態度をとるような卑怯（ひっきょ）な帝国主義国家になってはならない。道義を重んじる日本人の伝統にもとづいた品格ある帝国主義国家になることが求められている。現下のふにゃふにゃした国家としての体をなしていない日本に背筋を通す必要がある。そのためには、現場で外交にあたる外務官僚に対して、国民、マスコミ、政治家が三位一体になって気合を入れる必要がある。国家の原理原則問題について外務省がもっと毅然（きぜん）とした態度をとるように圧力をかけることだ。
■領土・拉致の解決を
まずは領土問題だ。わが国の領土である北方四島がロシア、竹島が韓国によって不法占拠されている状態にある。北方領土については、日露間で領土問題に関する交渉が行われているが、韓国は、外交交渉から逃げ回っている。逃げる韓国の首根っこをつかんで、きちんと外交交渉のテーブルにつかせなくてはならない。領土問題と同等に重要なのが、北朝鮮による日本人拉致問題を完全に解決することだ。拉致問題は、日本人の人権が侵害されるとともに北朝鮮政府の工作員によって日本領内で日本人が不法に拉致されるという日本の国権（主権）に対する侵害である。自国民の人権に対する侵害と自国の主権に対する侵害を回復できないような国家は、存在する意味がない。この基本哲学を外務官僚に叩き込んでおかないと新帝国主義の時代に日本国家が生き残ることが難しくなる。（外務省分析官＝休職中）
＝毎週木曜日掲載（iza!)
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