太田述正コラム
太田述正コラム#2757(2008.8.28)
<EU等の人口動態>(2008.10.6公開)
1 始めに
人口動態を考えると、50年後の世界は、全く現在と違った世界になっていることでしょう。
今回は、EUを中心に50年後の世界を垣間見てみましょう。
2 EUの50年後
英国の国土面積はフランスの半分以下でドイツの三分の二でしかなく、英国の人口は現在6,100万人ちょっとですが、それが2060年までには25%も増えて7,700万人近くになり、EU一の人口大国になると予想されています。
これは、英国の出生率がこのところ上昇してきており1.91に達していることと移民によるものです。
ちなみに、現在のEUの人口大国6カ国たるドイツ、フランス、英国、イタリア、スペイン、ポルトガル中、英国の出生率が一番高く、英国よりも出生率が高い国はルクセンブルグ、キプロス、そしてアイルランドしかありません。
ドイツは現在EUの中で最も人口の多い国であり、8,200万人以上の人口を擁していますが、2060年までには7,000万人に減ってしまうと予想されています。
フランスは家族政策と働く女性支援政策が功を奏して2060年までには人口が7,200万人になると予想されています。
一方で、人口が大幅に減少すると予想されているのが東欧諸国であり、ブルガリアやポーランドに至っては、人口が四分の一減少すると予想されています。
これは、東欧諸国の出生率が極めて低いこと、東欧諸国がEU内の経済的後進地域であること、EU内で基本的に移動の自由が認められていることによるものです。
出生率が極めて低いのは、共産主義下で、女性が働くことが当然視されていたことから、現在も東欧諸国の女性の就業率は高いにもかかわらず、ベルリンの壁が崩壊してから、働く女性の子育てを支える社会的ネットワークが失われたためです。
なお、EUの総人口は、現在の4億8,950万人(
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/world/ichiran/i_europe.html
。8月28日アクセス)が2035年には5億2,000万人に達するものの、2060年には5億600万人に減ってしまうと予想されています。
(以上、特に断っていない限り
http://www.guardian.co.uk/world/2008/aug/27/population.eu
(8月27日アクセス)、及び
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1836725,00.html
(8月28日アクセス)による。)
つまり、50年後においては、EUの総人口は(今後の加盟国増を考慮に入れなけ
れば)現在と余り変わらぬ約5億人であり、英国が最大の人口大国になる、とい
うことです。
3 終わりに代えて
ロシアの人口は、2050年頃には、現在の1億4,200万人より30%も減ると予想さ
れています(
http://en.rian.ru/russia/20080123/97616414.html
。8月28日アクセス)。
しかもその頃までには、イスラム教徒が多数になるとも予想されています(
http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/JH19Ag04.html
。8月19日アクセス)。
ロシアは、文明的消滅、ひいては人口的消滅という脅威に晒されているのです
(注)。
(注)当然のことながら、プーチンは大統領時代、出生率向上、死亡率低下、
移民受入政策を打ち出している。今次グルジア「戦争」は、ロシアの人口減に対
処するため、南オセチアとアブハジアの住民にロシアのパスポートを付与して彼
らをロシア人に仕立て上げた上でこれら地域をロシアに編入することをねらった
ものであるとともに、(旧ソ連から分離独立した国に取り残されたロシア人(
1991年当時は2,200万人もいた)のロシアへの「帰国」を促進するのもさること
ならがら、)グルジアのようにソ連から分離独立した国をこれらの国に取り残さ
れたロシア人ごとロシアに編入することをもねらった死にものぐるいの営みであ
る、と考えることもできよう。
また、米国の人口は、現在の約3億人が、大部分移民のおかげで、2060年には
4億6,800万人に増えると予想されています(
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1836725,00.html
上掲)。
してみると、21世紀中頃は、欧米の中で(一層)アングロサクソンの人口的な
存在感が大きい時代となり、アングロサクソンが欧米世界を付き従えて、支那、
そしてインドという人口大国と対峙する時代になりそうです。
アジアタイムスの奇才スペングラー(仮名)は、21世紀中頃の人口三極である
アングロサクソン(スペングラーは米国としている)、支那、インドが、いずれ
も多民族国家というより、種族や民族性を超越した超民族(supra-ethnic)国家
であることに注目しています(
http://www.atimes.com/atimes/Central_Asia/JH13Ag01.html
。8月13日アクセス)。
その頃の日本は一体どうなっていることでしょうか。
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日本のお姉さん。↓
「出生率が極めて低いのは、共産主義下で、女性が働くことが当然視されていたことから、現在も東欧諸国の女性の就業率は高いにもかかわらず、ベルリンの壁が崩壊してから、働く女性の子育てを支える社会的ネットワークが失われたためです。」
日本にあてはめてみてください。
日本の働く女性の子育てを支える社会的ネットワークは、「無い」のです。
幼稚園や保育園もいっぱいで、なかなか入れることができないし、お金がかかる。ベビーシャッターを雇わなくても、女性が働いた給料のほとんどが、子供の保育園代に消えるのです。
何のために仕事をしているのか分からない状態です。
子供を見てくれる親が近くにいない働く女性は、子供を育てながら働くのは難しいのです。
女性の給料は、男性に比べると極端に少ないので、父親が交通事故や病気や自殺で死亡した母子家庭の子供は、普通の日本人が味わっている豊かな生活ができなくなるし、大学進学もできなくなる場合が多い。
才能のある日本の子供たちが、父親の死をきっかけに、夢を実現する可能性が大幅に減るのです。
もったいないと思いませんか?
女性を粗末にすると、いろんな弊害が社会に出てくるのです。
これからの才能のある女性は、自分で企業を興すことを考えてください。
または、なるべく、女性を大事にする大企業に就職するか、男女差別のない教職につくかです。
それとも、給料は少なくても、旅行などに行きたいときや、子どもが病気をした時などに、文句を言わずに
有給休暇を使わせてくれる、人間関係がよくて残業が少なくてセクハラ上司がいない、気楽に働ける会社に就職するかです。