軍事情報の本の紹介 「海をひらく」著者は桜林美佐さんです。出版社:並木書房
◎◎ 本の紹介 ◎◎
■この本
まず目に入るのが、表紙の写真です。
海上で行動するわが掃海艦「ゆりしま」(668)の勇姿です。
表紙写真には、わが自衛艦(軍艦)旗を手前に「ゆりしま」が映っています。
海の青と自衛艦旗の赤と「ゆりしま」の灰色がいいコントラストを出してます。
自衛艦旗とゆらしまの間に「海をひらく」の大きな題字。
そして黄色い帯には著者の顔写真と「初公開の海上自衛隊資料が明かす朝鮮戦争特別掃海隊の真実!」の文字が踊ります。ページを繰ると見返しのクリーム色の紙が目に入り、さらに繰ると、機雷を爆破した瞬間の水柱とそばにいる掃海艇の写真がデザインされた表題紙とともに、「海をひらく」の題名がドンと目に入ってきます。
内容と表紙が実にマッチした上品で印象深い装丁です。
■著者は?
桜林美佐さんです。
知っている人はよくご存知でしょうが、ご存じない方のために、本著から著書紹介を転載します。
<桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年4月26日生まれ。日本大学芸術学部卒業後、フリーアナウンサーとして始動。テレビ東京「さわやか彩の国」リポーター等を経た後、平成8年から番組ディレクターとして活動の場を広げ、TBS「はなまるマーケット」等
の番組を制作。現在は、執筆活動に加えTV・ラジオに出演(ニッポン放送「上柳昌彦のお早うGood Day」他)。また国のため戦う人たちの姿を描いた創作朗読ライブ「ひとり語りの会」を展開中。著書に『奇蹟の船「宗谷」』(並木
書房)。桜林美佐の日記(安全保障や自衛隊の話題を中心に更新中) http://www.geocities.jp/misakura2666
>
出版社さんから頂いたお手紙によれば、<今後期待の著者の一人>とのことです。
■朝鮮動乱特別掃海史という資料
本著のキモは、海幕防衛部が「秘」封印をはじめて解いた『朝鮮動乱特別掃海史』にあります。著者はこの資料をはじめ膨大な資料と関係者への丹念な取材を積み重ねるなかで、わが戦後掃海史を書き上げる、という試みに挑戦しました。
強く感じるのは、海国日本にとって機雷が意味すること、掃海部隊が意味することをわかりやすく伝えておられる点です。一般向けの掃海啓蒙書としてもオススメできる内容です。読んで感じるのは、読み手を大きく包み込むような、ふっくらした文体だということです。
真剣に描き出される掃海の歴史やドラマを読む中でも、どこかほっと安心させてくれる何かがあります。
この印象をもたらしたのは、著者ご自身の個性が大きいと思いますが、女性であることも大きく関係していると思います。これだけの内容を女性が書き上げた意味合いは、非常に大きい気がします。
■戦死者
朝鮮戦争時のわが掃海部隊の活躍について弊マガジンでは、「ある通信兵のおはなし」や、退役海将補の田尻さんがWEB上で公開された資料などを通じて紹介してきました。
作戦参加最大の意義は、戦後日本の主権回復と国軍創設への道を開いた活動であったことでしょう。前者は達成され、後者は未だ達成されてません。
最大の問題は、戦後日本が、作戦で戦死した方へのケジメを国家としてとっていないことです。朝鮮戦争時にこの作戦に参加したわが掃海部隊は、戦死者を出しています。そのときの模様も、本文中で詳細に描き出されています。
この事実を言葉遊びで「戦死者ではない」としておくことが、驚くことに戦後日本では可能かつ通用するようです。でも現実は日本海軍として作戦に参加した結果としての「戦死」であり、それ以外の何者でもありません。
現在もこの英霊は、国家が顕彰する施設に祀られていません。
■印象に残ったところ
ほんの一部ですが紹介します。
<さらなる悲劇は、この機雷による「飢餓作戦」によって、すでに窒息寸前であった日本に対し、原子爆弾が落とされたことである。この実被害の大きさもさることながら、この原爆によって、日本を真の敗戦に追いやった原因である海洋政策の不備・不足は将来の戒めとして分析されることがなくなってしまった。またそれが議論されるときは「陸軍が悪い」「海軍が悪い」といった犯人探しに終始しがちである。いつまでも終わらない言い争いに終止符を打つために「原爆投下」は、言うなれば敗戦の原因や責任を突き詰める上で、日本にとってもいい言い訳になってしまったのだ。原爆が落ちるより以前に、機雷によってすでに日本は敗れていたのである。
この「海上封鎖」の恐ろしさを忘れさせるためにも、原爆の力は大きかった。そして戦争は終わる。
その時、日本には、えも言われぬ虚脱感と無数の機雷だけが残っていた。日本海軍が敷設した五万五千個の防備用係維機雷と、米軍残存機雷六千個あまりが不気味に漂っていたのである。何はともあれ、ますはこの「戦争の落し物」を大掃除することから、日本の戦後は始められなければならなかった。>(P18)
<だが、それは長きにわたり語られることを許されなかった事実である。それゆえ日本国民の多くは、自然に港が再生し、>(P18)
<「人の命一万円で買います」これは新聞の見出しである。>(P51)
<朝鮮戦争における掃海部隊の活躍は、上陸作戦に先んじて行なわれた元山の掃海が最も緊迫した状況であったが、その他の水域でも苦労のほどは同様であった。
いずれも貧弱な木造船で、船体や機関は戦後の日本周辺の連続掃海によって老朽化しており、その整備は困難を極めた。掃海現場は、冬の季節風が吹き荒れる悪天候、極寒の日本海や黄海であった。補給も十分とは言えず、真水がなくサイダーで米を炊くこともしばしばであったという。>(P150~151)
<繰り返しになるが、自衛官はその担う任務に命を懸けるのである。それなのに、「憲法違反」と言われて死んでいく、その悲劇を我々はあの朝鮮特別掃海隊派遣の際にすでに経験しているのである。あれから四十年以上が過ぎたこのペルシャ湾派遣でも、そしてペルシャ湾派遣から二十年近く経った現在にいたっても、何も変わっていないということは、政治の怠慢と言う以外にない。>(P260)
<自衛隊は都合の良い「愛人」ではないのだ。命懸けで尽くしてもその位置付けが曖昧で「正妻」になれないなんて、不憫でなくてなんであろう。一刻も早く、国家との正式な関係を公言して欲しいと切に思う。>(P261)
■オススメです
要するに、
・膨大な資料、指揮官から兵士・技術者に至るまでの丹念な取材を通じ、
・戦後のわが国独立を見えないところで支えつづけてきた「掃海部隊」を、
・多面的切り口から「描ききった」
本です。
キーワードは「わが掃海への顕彰」です。
あわせて、著者ご本人の国防への熱き思い、わが自衛隊への愛情がビンビン伝わってきて、それも非常に好もしく感じられるところです。
「掃海」とはいかなるものか?
海国日本の独立・発展を図るうえで、掃海はいかなる意味を持つか?
戦後日本は掃海をいかなる形で行ってきたのか?
そういう問いかけに、地道な取材を通じて誠実に応えた労作です。
わが掃海隊が掃海ゴロといわれた時代から、落合将補指揮下の部隊ペルシャ湾派遣までを丹念な取材による「ナマの声」を多数紹介するなかで描ききった内容は、資料としても、とても貴重です。
<国家が窒息しないように、息を殺して毎日、毎日、休みのない訓練を続ける彼ら掃海部隊の存在を、国民の多くが「知らない」ことは申し訳がなく、多くの日本人に知ってもらいたいと強く思う。これから、わが国の誇るべき「掃海部隊」の軌跡を皆さんと一緒に辿ってゆきたい。>(まえがきより)
ともに辿ってまいりましょう。
心よりオススメします。
(エンリケ航海王子)
本日ご紹介したのは
『海をひらく』
著者:桜林美佐
出版社:並木書房
発行日:2008/9/25
http://tinyurl.com/4n6oxw
でした。
目次
はじめに
1.対日飢餓作戦
かくして「対日飢餓作戦」は始まった
なぜ日本は敗れたのか
掃海ゴロたちの戦後
劣悪な環境と夜の街
掃海部隊の悩み
2.充員招集
機雷と掃海の種類
掃海に使われた意外な船
磁気水圧機雷に挑んだ試航筏隊
引き渡された日本の残存艦艇
3.モルモット船
肉弾掃海
試試船乗りの覚悟
4.海上保安庁誕生の背景
日本の海の危機
手足を縛られての出発
たった四隻の観閲式
5.悲しみと喜びと
待ち望んだ「安全宣言」
風と涙の天覧観閲式
6.朝鮮戦争への道
仁川、元山上陸作戦
日本掃海部隊へ派遣要請
バーク提督と日本人
日本は「対日飢餓作戦」に敗れたのか
7.指揮官の長い夜
極秘作戦決行!
交錯するさまざまな思い
掃海部隊指揮官の仕事とは・・・
8.特別掃海部隊出動!
不安な夜と危険な掃海
MS14号職触雷す!
乗組員たちの怒り
能勢隊の離脱
撤退の後始末
9.朝鮮戦争の真実
寒くて辛い朝鮮掃海
鎮南海の掃海
大賀良平の場合
国連軍との微妙な関係
それぞれの朝鮮掃海
元山、その後
ソ連製機雷による被害
10.忘れえぬ男
弟からの手紙
運命の日
知られざる「戦死」
「靖国で会おう」という約束
靖国神社、苦悩の決断
慰霊・顕彰のあり方は曖昧なまま
「ある女性」のこと
日本の独立を早めた朝鮮掃海
11.海上自衛隊誕生前夜
軍隊のようで軍隊でない組織、生まれる
米国の掃海艇に乗って
活躍の場を広げる掃海部隊
12.水中処分員の仕事とは?
終わらない、EOD員の戦い
13.漁業と掃海
14.遥かペルシャ湾へ!
湾岸戦争と日本
窮地に追い込まれた日本
落合群司令とは
難航した要員確保
それぞれの出航
いざ、ペルシャ湾へ!
派遣部隊の心の内
いよいよ作戦開始!
機雷の海、緊張の日々
高まる焦燥感
機雷処分に成功!
最年少の艇長
寄港地での出来事
ペルシャ湾で育んだ「絆」
ありがとう、掃海部隊!
15.最後の木造掃海艇
日本が誇る、木造の掃海艇建造技術
あとがきに代えて
掃海部隊の残したもの
参考資料
本日ご紹介したのは
『海をひらく』
著者:桜林美佐
出版社:並木書房
発行日:2008/9/25
http://tinyurl.com/4n6oxw
でした。
次回もお楽しみに
☆ 編集・発行人:エンリケ
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おもしろそうな本ですね~。朝鮮戦争で
機雷の処理を日本がさせられていて、それで
日本独立が早くなったなんて、全然知らなかったな。