「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」  | 日本のお姉さん

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
    平成20年(2008年)10月3日(金曜日)
         通巻第2337号 (10月2日発行)

 全米一の投資家ウォーレン・バフェットが乾坤一擲の賭けにでた
   ゴールドマンサックスへ50億ドル、GEへ60億ドルの投資
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 先駆けて血の海へ飛び込み、大胆にして犠牲をおそれず、新しい血路を開く。
 よほどの勇気がなければ、誰も真似の出来ない行為である。世界一の投機家ジョージ・ソロスはリーマン・ブラザーズへの株投資で失敗し数億ドルの損出をだした。
M&Aで日本にもやってきて小糸製作所に仕掛け「黒船来航」と騒がせ、全米有数の乗っ取り王といわれたブーン・ピケンズも衝撃的損出を更新し、低迷した。
ピケンズはメサ石油会長を兼ね、暴騰した原油先物、商品デリバティブに果敢に投機資金を投入したが、原油価格の大下落によって十億ドルを失った。このうちの2億7000万ドルは自己資金だった。メサ石油は84%の株価下落に陥った。

 米国のカブヤたちは逃げた。
 リーマン・ブラザーズへの前会長ファルドはコネチカット州に大豪邸を構えるが、倒産直前に自社株を売却したインサイダー取引の疑いをもたれている。
 ファルドは仇敵ゴールドマンサックス会長からブッシュ政権入りしたポールソンと犬猿の仲だった。だからポールソンはリーマン・ブラザーズを救済しなかったと囁かれた。

 次に何が起きるか、近未来どころか明日の見通しが出ない。
米マスコミには近未来の「不確実性」を、ともかく建設的曖昧さが訪れることだろうなどと書いた(Constructive Ambiguity)。

 これでは何のことだか分からない。
一般投資家は指標を失い、何をして良いか分からない。狼狽が続き保有株と債権を投げ売り、ともかく資金を手元におく行為を取る(キャッシュポジションを高める)。
この結果、世界的におきている事態とは資金不足、運転資金がなくなり、カネの貸し手がいきなり市場から消えてしまった。

 これほどの世界同時株安と金融危機のリスクを目撃しながらも、一方で個人金融資産はうなるほど堆積されているのだ(手元資金不足に悲鳴をあげるアメリカ企業の実態は、日本のバブル破綻後期とはまったく逆で、あのとき日本にはカネの貸し手がいても、借り手がいなかった)。

 危機はむしろ深化している。
危機は地下に潜った。
 銀行や保険会社への取り付け騒ぎはヴィジアルにはあらわれない。だから映像にならない。
 事実上の取り付け騒ぎは、コンピュータネットワークのなかで起きている。
つまり、当該の銀行や証券会社へでかけて取り付けの列に加わらなくても、近くのATMから現金をおろすことが可能、eバンクならコンピュータの操作だけで資金をA口座からB口座へ、いとも簡単に移動できる。

 資金が不在となって、日欧は緊急に連携しドル資金の貸し出し態勢を急ごしらえで発足させ、とくに日銀が主導権をとって、資金供給を続ける。ドル資金である。

 じつはリーマン・ブラザーズもAIGも“黒字倒産”である。突如、運転資金が不足して、どうにもならなくなったのだ。
 その資金不足の衝撃と余波が米国の大手メーカー、老舗名門企業を襲った。
 GMが秒読み状態、かつて世界一のエクサレントカンパニィと賞賛されたGEまでが、資金不足に陥った。
 現に日産・トヨタ・ホンダは全米での販売台数を前年同期比で35%-26%もの激減ぶりを示した(2008年10月2日速報)。

 乾坤一擲の賭にでて、未来は大丈夫、アメリカ経済は安定して維持されるだろうと自身の判断を満天下に明らかにして、自らの行為をもって示した人物がウォーレン・バフェットだ。

 全米最大の投資企業「バークシャー・ハザウェイ」を率いるウォーレン・バフェットはビル・ゲーツトと組んで世界最大の慈善団体に寄付をしたことでも知られるが、さきにゴールドマンサックスへ50億ドルの出資に応じると発表したばかり。
今度はGEへ合計60億ドルの増資を決断した(GEは総額180億ドルの増資、のこり120億ドルを一般投資家から集める)。

 闇に一条の光が見えた。

 ところで、日本でこれほど度胸を据えての投資行為を敢行できる人、いますか?
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<< 短評 >>
 富坂聡・司会構成『中国官僚覆面座談会』(小学館)
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 これは中国の軍、外交部など中国の現職官僚数人の覆面座談会で、行われた場所は北京、座談はグループ分けで、しかも三回以上にわたったという。
 三部構成の裡の第二部以下は、『週刊新潮』に分載されたが、それを大幅に書き込み、新たに第一部を語りおろしのために北京へ司会と本書の構成を編んだ富坂氏は赴いた由。
 小生の知らない情報がいくつかあった。
温家宝が四川省の地震被災現場に急行したが、犠牲が次々とでる現場で、あまりに軍が動かないので携帯電話を投げつけて烈火のごとく怒ったという話は聞いていなかった。
でも、人殺しの訓練をしていても災害救助の訓練をしたこともなく、解放軍には救助用の機材もなかった。素手で鉄骨やコンクリートを除去したため、犠牲は増えるばかりだった。
しかも温家宝は行政のトップであっても、軍のなかで、いかなる地位もない。軍事委員会主任は胡錦涛である。次世代を担う習近平とて、軍事委員会副主任でもない。軍は胡の命令がないと動かないのだ。
本来、党に従属するはずの人民解放軍、それが党のトップの言うことを聞かないと言うのだから四川省大地震は中国のもつ大いなる矛盾をも露呈させたのだ。
また官僚達がチベット鎮圧部隊が四川省の奥深き被災現場にそのまま、救出にまわったという話は、偶然の結果でしかなく、しゃべった官僚に作為があると思える。
地震の現場で地中にうまった銀行の金庫が襲われていたという噂も、官僚達が公然としゃべるという秘密に対する感覚の変化が面白い。


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日下公人・高山正之『日本はどれほどいい國か』(PHP)
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 この本を読むと白人優位とか、アメリカ人へのコンプレックスをまだ抱く戦後インテリなんて、馬鹿ではないかと思う。
対談の中味も、切り込み方も傑作だが、衝撃的内容は二人の歴史感覚の集大成であり、大東亜戦争に詳しい日下さんと、世界をまわって日本への期待がいかに大きいかをしる高山さんの外国情報の本質に眠る闇(反日という仕掛け)が浮かびあがってくる。
 読後感? 「嗚呼、日本人に生まれた良かった」。


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村田良平『村田良平 回想録(上下二巻)』(ミネルヴァ書房)
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 元駐米大使の村田氏が精魂傾けてつづった日本外交の回想。上下二巻ボリュームたっぷりで、これは読み終えるのに時間がかかりそう。したがって今回は出版の紹介だけにとどめ拝読後、詳しく論じたい。
とりあえず記して謝意を表します。



 以下に列記するのは今週、寄贈を受けた書籍ですが、いずれ書評をさせていただくとして、とりあえず羅列し謝意を表します。

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塚本勝一『自衛隊の情報戦 陸幕第二部長の回想』(草思社)
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西尾幹二『真贋の洞察――保守、思想、情報、経済、政治』(文藝春秋)
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福田恒存『福田恒存評論集(9)独断的なあまりに独断的な』(麗澤大学出版会)
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中村彰彦『鬼官兵衛烈風録』(新版。会津歴史春秋社)
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(読者の声1)最近のネット言論において 左翼・左傾のものが増えている・・・・ように見える。また保守系のものでも 反自民のものが増えている・・・・・ように見える。
保守も <なんでも保守>と<冷静保守> に 二分されつつあるように見える。
 世界に類のない「思想のブラウン運動」が展開されているように見えます。
さしづめ 界(kingdom)→門(phylum)→網(class)→目(order)→科(family)→属(genus)→種(species)の7段階分類ではカバーしきれず、さらに下位の分類が独自に浮遊しているのみならず、分類は7段階分類のごとく階層樹形あるいは直線的ではなく、多次元に拡散しているの感あり。
 昨今の自民党の為体(テイタラク)では 積年のウミを抱えて凋落も避けられまい。サブプライムもあってか小泉賛歌は皆無といっていい。
 
(注 ブラウン運動( - うんどう、Brownian motion)とは、1827年(1828年という記述もあり)、ロバート・ブラウンが、花粉が水の浸透圧で破裂し水中に流失し浮遊した微粒子を顕微鏡下で観察中に発見した現象。液体中のような溶媒中(媒質としては気体、固体もあり得る)に浮遊する微粒子(例:コロイド)が、不規則(ランダム)に運動する現象である)。
   (TK生、世田谷)

(宮崎正弘のコメント)保守思想家にはエドモンド・バークや、イギリスのピム元首相がかいて、ペンギンブックスの入っていたピムの『保守主義とは何か』などから小生は多くを学びましたが、ネットの保守って、そういう状況ですか。
 ネット議論を見ないので、よく把握しておりませんでした。

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(読者の声2)マスコミの言論統制問題について
1:中山大臣の発言についてマスコミから三つの問題が指摘され騒ぎになりました。
小生が不思議に思ったのは、サンケイを含めて新聞が、自らの指摘点がなぜ問題なのかを読者に伝えずに、一斉に中山大臣にレッテル貼りをして非難したことです。
これは3点への言及が日本マスコミのタブーになっており、各社の編集権以上に強い統制が各新聞に行われていると考えられます。国民にとっては大臣発言以上に大きな問題です。
中山大臣の発言は日本人を守るための発言ですから、反対勢力は外国ということでしょう。ソ連の崩壊で分かったことは日本の左翼はソ連KGBから工作資金をもらっていました。
マスコミは言論の自由があるので、労連などの組織は禁止すべきでしょう。そうでないと上から言論を統制されるからです。

2.反日教組国民運動:日教組の解体については、早速全国運動が始まります。
村山内閣で文部省が反日勢力の手に落ちて以来ユトリ教育の名前で偽装した日本人の教育破壊が政府の手で税金を使って進行してきました。その結果は驚くような学力と道徳低下です。
世代全体が滅ぼされたわけで今後の悪影響は想像も出来ません。これをも不問とするのでは、日本の新聞はおしまいです。
新聞記者や文科省の役人は、子女を荒廃した公立にいれず私立学校に通わせているという話も聞きます。

3.抗議殺到:各社の読者サービス係には読者を馬鹿にした報道統制への怒りの電話が殺到していると思います。

4.新聞の終わり:これで日本の新聞の信用はあらためて失墜し、新聞離れはさらに進み、
世論のインターネットへの移行が急速に進むでしょう。
    (MC生)

(宮崎正弘のコメント)ちょっと話が飛躍しますが、朝日新聞の『論座』や講談社の看板雑誌『現代』が休刊(事実上の廃刊)に追い込まれた原因は、やはりネット議論の急速な保守化に適応能力を欠いたため読者を失ったということではありませんか?

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(読者の声3)貴誌だけが指摘できるのは以下です。
「(引用開始)中国は静かに「ある時」がくるのを待っている。国家ファンドをねらって、米国が次の条件を出してくるのを、北京はひたすら待っているかのようである。おりから来日したCIA元幹部アーサー・ブラウンは「北朝鮮の核武装を米国は黙認する」「中国が台湾に物理的行動にでても、米国は静観する」「尖閣諸島に関しても同様、米軍はなにも出来ないであろう」と、驚くべき米国覇権の大後退という未来図を示唆した。連関が浮かび上がる。中国は米国が提示する次の条件を待っているのである。ウォール街が悲鳴を上げれば上げるほどに中国のカネが政治的に有効に利用されるという千載一遇のチャンスが、いま、そこにある。日本の安全保障にとって、たいそうな危険な方向が透けて見えるようである」(引用止め)。

 媒体も国政を託かる者も、上掲の怖いシミュレーションにとんと気付いていないようで、憂慮します。
(SJ生)

(宮崎正弘のコメント)こんなときにオザワとかアソウとか、解散とかの話をしている場合なんでしょうか。オザワの視野狭窄、アソウの近視眼、自民党も野党も、歴史感覚が鈍っています。
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(C)有限会社・宮崎正弘事務所 2008 ◎転送自由。ただし転載は出典明示。

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参院代表質問で首相「解散よりも政策優先」


麻生太郎首相は2日午前、参院本会議の代表質問で、「衆院解散という政局より景気対策などの政策の実現を優先したい」と答弁し、平成20年度補正予算案を早期に成立させた上で、消費者庁設置関連3法案や新テロ対策特別措置法の延長法案成立を目指す考えを改めて示した。

  この日、参院は前日の衆院に続き首相の所信表明演説に対する各党の代表質問を開始。民主党の輿石東参院議員会長は「補正予算は不可欠との信念があるなら、成立後に解散するのがあなたの役目だ」と述べ、首相に早期解散・総選挙を迫った。輿石氏は補正予算案の対応について「いたずらに審議を引き延ばし、妨害しようとは考えていない」と主張。首相は「感謝している。早急に結論も出してほしい」と答えた。

 続いて自民党の山崎正昭参院幹事長も質問に立った。午後は衆院で代表質問を再開し、公明党の太田昭宏代表らが質問する。

10月2日11時54分配信 産経新聞

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081002-00000523-san-pol