【谷口徹也の「北緯22度通信」】 大規模な経済変調は中国をどう揺るがすか? | 日本のお姉さん

【谷口徹也の「北緯22度通信」】 大規模な経済変調は中国をどう揺るがすか?

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▼【谷口徹也の「北緯22度通信」】 大規模な経済変調は中国をどう揺るがすか?
これって、もうダメじゃないの?」
頭を殴られたような衝撃を受け、直感的にそう思ったのはちょうど3年前、2005年9月のことだった。
日経ビジネスの2005年10月17日号特集「津波経済――世界一蓮托生バブルが弾ける時」。日米中3極の記者が共同執筆し、「景気は踊り場を脱却した」という政府の見解に疑問を投げかける経済リポートに、香港駐在記者として参加していた。衝撃を受けたのは地球の裏側、ニューヨーク支局から届いた原稿のゲラを読んだ時だ。

・予見可能なことに対処できないのがバブルの怖さ
米国の住宅ブームを牽引し、消費ブームを演出していた「インタレストオンリー(金利だけ)ローン」や「変動金利型ローンのオプション付き(オプションARM)」などのカラクリを実例を交えて克明に解説していた。不動産の値上がりを前提とした錬金術であるとしか思えなかった。これらのローンが暴走し、本来なら貸付先にならない低所得者層まで巻き込んでいったのが俗に言うサブプライムローン問題である。世界的なカネ余りが続くうちは宴が続くが、一度足を踏み外せば、すべてが逆回転を始めて致命的な金融危機に陥る――。 果たして、その直感は3年後に現実のものになった。 資金を供給していた米住宅公社が政府の管理下に置かれたのに続く、証券大手リーマン・ブラザーズの破綻。そしてメリルリンチが身売りに追い込まれ、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)も米政府の管理下に入ることになった。増幅され、世界経済を揺るがす金融不安は十分に予見可能で、傷を深める前に対処できたはずだと思うのだが、それがバブルというものの怖さなのだろう。 こうした世界経済の大きな流れを見る時、2001年にニューヨークで起こった「9・11テロ」を1つの起点にしている。経済への打撃を抑えるための金融緩和策が世界的な「カネ余り現象」を招いた。今回の米国発金融不安はその帰結点の1つである。

・金融緩和策で見失った「ならず者国家」という一面
もう1つ、金融緩和策によってもたらされた民主主義先進国の「痛恨」は、中国の台頭を許したことだろう。 基軸通貨にあぐらをかいた米国の消費拡大が輸入を拡大し、「世界の工場」として存在感を示し始めていた中国への投資を誘発した。そして中国でカネが回り始めると「有望市場」だともてはやし、内需目当ての外資が次々と進出する――。この過程については、日経ビジネス2005年1月17日号特集「ここまで来た中国バブル――調整ショックに備えはあるか」で自分なりに分析した。 消費するモノの供給基地として、あるいは、作ったモノの売り先として、人口大国である中国は都合の良い存在であったことは分かる。しかし、その過程で民主主義先進国は大切なものを失ってしまった。中国の「ならず者国家」としての一面に目をつぶったからである。 世界がこぞって経済制裁をかけるきっかけとなった天安門事件の総括と反省はどうなったのか。新彊ウイグル自治区やチベットを舞台とした人権問題の解決に道筋はついたのか。膨張する軍事費に世界が納得する説明はあるのか。世界の共有財産である大気や海洋の汚染を本気で止める意欲があるのか。
国そのものを敵視しなくても、一つひとつの問題には毅然と対応できたはずだ。ところが、それはいまだにできていない。その理由を一言で言えば、声を上げるべき国がカネに目がくらんで問題を棚上げしたからであろう。  “震源地”である米国や欧州が地球の裏側であったことが感度を鈍らせた面もあると思う。だからこそ、隣国である日本の役割は大きかったはずなのだが、腰の定まらない政治体制もあって、全くの役立たずだったのは情けないの一言だ。

・さらにはけ口を求める民衆の“マグマ”
その中国も米国発「サブプライムショック」の影響は免れず、経済に変調を来し始めた。「どこかで生じた変調が増幅しながら伝播し、(世界)全体に打撃を与える」と指摘した特集「津波経済」の理屈からすれば、これも当然の成り行きである。 さて、ここまでは「後出しじゃんけん」的な記述になってしまったので、1つ未来予測に挑戦してみたい。 それは、近く中国を揺るがす大きな変化が起こるとすれば政乱や動乱の類であって、そのきっかけとなるのが今回の「世界金融崩壊」ではないかということだ。 株価や地価の下落、輸出鈍化による貿易黒字の縮小などで中国は転機を迎え、次なる改革に迫られる、といった当たり前のことは起こらない。その程度の不満や矛盾なら、強大な権力を持つ政権が一刀両断に解決してしまうからだ。 しかし「経済成長がすべての問題を癒やす」という前提が揺らぐと怪しくなってくる。中国政府は6年7カ月ぶりに金利を引き下げ、景気対策を優先する姿勢を見せたが、深刻な問題になっているインフレ対策は後回し。中流層から貧困層が受ける圧力は強まり“マグマ”はさらにはけ口を求めるようになるだろう。 民主主義の国でさえ、経済の変調は様々な混乱のもとになる。選挙や政権交代、言論の自由によるベクトル合わせといった安全弁を持たない中国で何が起こるのか、興味深い局面が訪れることだけは間違いない。
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BusinessWeek】 AIGはなぜ破綻の危機に陥ったのか「保険の基本」を忘れた事業展開
保険会社はリスクの専門家だ。リスクを理解して最小化し、またそうしたリスクを補うべく値段を付ける。しかし、世界最大の保険会社である米アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG、本社:ニューヨーク)は、自社が抱えるリスクにはあまりに無頓着だったようだ。 AIGは今や、信用市場崩壊の新たな犠牲者として注目の的になり、住宅ローン担保証券(MBS)などの取引による損失拡大の泥沼化にあえいでいる。 9月15日、AIGの経営陣はこうした損失を穴埋めするため、政府筋やほかの金融機関などの支援先を必死に探し回った。過去1年間の最高値で70ドルをつけたこともあるAIGの株価は、結局4.76ドルまで落ち込んでこの日の取引を終えた。わずか1年足らずで、時価総額にして1760億ドルもの資本が消えたことになる。当局が破綻回避へ向けた資本注入手段探しに急ぐ中で、格付け機関による相次ぐ信用格下げにより、AIGの資金調達は一層厳しさを増すことになった。 昨年度は1100億ドルの収益を上げ、資産1兆ドルを誇るAIGが、今では生き残りをかけてもがいている。業界トップ企業の突然の転落に、従業員や顧客、多くの業界関係者が衝撃を受けている。 「こんな短期間にこれほど急変するとは信じ難い」と、保険業界ニュースレターの米シフズ・インシュランス・オブザーバーの編集長で、長年AIGに対し批判的な立場を取っているデビッド・シフ氏は言う。 さらに驚くべきは、同社が支払い義務を果たすために必要な資本の推定額が増加し続けていることだ。「恐ろしいことだ。表面化していないだけで、金融業界には同じような危機に瀕している企業がほかにもたくさん潜んでいるかもしれない」(シフ氏)。

ニューヨーク州知事が救済策を実施
確かに、一体どれほどの資金を注入すれば、AIGがこの苦境を脱し、世界を代表する保険会社として存続することができるのかは不明だ。AIGは今年5月、新株や社債の発行により200億ドルの資本増強を行ったが、それでも不十分だった。 9月15日、AIGには新たに200億ドルの資本金の利用が認められた。デビッド・パターソン米ニューヨーク州知事が保険規制を緩和し、子会社の資金の利用を承認するという思い切った措置を講じたのだ。
だがそれでも十分とは言えない。パターソン知事は、ニューヨーク州の措置が呼び水となり、連邦政府が直接支援するかほかの企業に支援を要請するなどして、もっと大規模な解決策を打ち出してくれることを期待すると語った。 数時間後には、米連邦準備理事会(FRB)が米ゴールドマン・サックス(GS)と米JPモルガン・チェース(JPM)に対し、AIGへの700億~750億ドルの融資を要請したと米ウォールストリート・ジャーナル紙が報じた。それでも十分かどうかは分からない。 「簡単に言えば、実態を理解しないままにサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)関連証券のリスクを取り過ぎたということだ。とはいえ誰もそのリスクを本当に理解などしていないだろう。分かっていると言っても、それは口先だけだ」と、米調査会社グラディエント・アナリティクス(本社:アリゾナ州スコッツデール)のアナリスト、ドン・ビッカリー氏は言う。同氏は2月からAIGに対する懸念をリポートで述べてきた。 数日前から、AIGは格付け機関による格下げの回避に躍起になっていた。格下げが行われれば、クレジットデリバティブ(金融派生商品)の一種であるクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のポートフォリオに絡む問題がさらに深刻化する恐れがある。 追加資金を調達したにもかかわらず、9月15日の夕刻には問題拡大の阻止に失敗したようだ。米保険格付け会社AMベストは、AIGの子会社の大半を格下げし、AIGの格付けも「a+」から「bbb」へ引き下げた。その1時間後には、米格付け会社フィッチ・レーティングスもAIGの長期発行体デフォルト格付け(IDR)と債務格付けを引き下げている。

保険の基本を忘れたAIG
さらに同日遅く、米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P、BusinessWeek同様、米マグロウヒル・カンパニーズ(MHP)の事業部門)も、追加担保ニーズを満たす柔軟性の低下や住宅ローン関連損失の拡大が懸念されるとして、AIGの信用格付けを引き下げた。S&Pによると、現在の市場環境が続いた場合、AIGは引き続き追加的な流動性資金が必要な状態が続き、さらなる投資損失分を穴埋めするため特定事業部門を売却する必要性も予想されるという。 「あと数年もすれば、問題の本質は米国のサブプライムローン危機や住宅バブルではなく、一流と呼ばれる金融機関のリスク管理体制があまりにずさんだったということになっているだろう」と、米デューク大学フュークワ経営大学院のキャンベル・ハービー教授(金融論)は言う。こうして窮地にはまったAIGの事例から、典型的なリスク管理の失敗の教訓を何らかの形で生かすとしたら、シフ氏の言う「保険の基本」に立ち返ることだ。リスクの分散こそ保険会社の仕事である。地震保険を引き受ける場合、カリフォルニア州だけで引き受けたりはしないだろう。そんなことをすれば、たった1度の地震で事態が急変するようなリスクに事業全体をさらすことになる。 AIGはそうした心得を無視して、サブプライムローンで上記の地震保険の例さながらの危険な賭けを行っていたようだ。少なくとも2005年までは、AIGの様々な事業部門で、サブプライムローンの引き受け、借り手への不動産ローン保険の販売、サブプライム関連の債務担保証券(CDO)のデリバティブ取引、保険預かり金の住宅ローン担保証券(MBS)への投資など、サブプライム層の住宅ローンに偏重した事業展開が行われていたのである。 AIGの住宅ローン保証部門である米ユナイテッド・ギャランティー(本社:ノースカロライナ州グリーンズボロ)は昨年来、巨額の損失を計上している。2008年初頭には、デリバティブ取引でも巨額の損失発生が明らかとなった。 そんな中、AIGの監査法人である米プライスウォーターハウスクーパースから、デリバティブ取引の評価に関する会計処理方法を変更するよう指摘を受けた。これがグラディエントのビッカリー氏の目に留まり、AIGの利益の実情に疑問を持つきっかけとなる。同氏は米証券取引委員会(SEC)への申告書類を時系列で調査し、デリバティブ取引の累積評価損が、2007年9月30日時点の3億5200万ドルから2007年11月30日には59億6400万ドルまで増加していることを突き止めた。 AIGは、カリスマ的存在だったハンク・グリーンバーグ前CEO(最高経営責任者)を辞任に追い込んだ不正会計問題で、そのとき既に大きな打撃を受けていた。そのうえさらに、深刻化する住宅ローン危機による損失の規模に多くのアナリストが疑念を抱くようになり、経営の健全性に厳しい目が向けられることとなった。

本業以外の部門売却の憶測
春になるとAIGの株価は下落を続け、6月には批判が一層厳しくなっていく。その頃、元社外取締役のイーライ・ブロード氏、さらにほかに2人の著名投資家、米資産運用会社デービス・セレクテッド・アドバイザーズのシェルビー・デービス氏と米資産運用大手レッグ・メーソン(LM)のビル・ミラー氏が、マーティン・サリバンCEOの解任を求める書簡を送る一方、調査委員会が新たなCEOを指名。今なおAIGの大株主であるグリーンバーグ氏も、経営陣を批判する書簡を送っている。  6月、AIGの取締役会長ロバート・ウィルムスタッド氏がCEOに任命された。同氏は、かつてシティグループ(C)の幹部も務めた人物である。 8月には2008年第2四半期決算を発表、デリバティブ取引の評価損は累積で250億ドルに達した。これを受け、AIGは解体を余儀なくされるとの憶測も出始めた。あるいは、5月に実施した200億ドルの資本増強に加え、少なくとも資産の一部を売却して資金調達することが必要になる恐れが噂されるようになった。 損害保険事業の営業利益が54%の減益となるなど、中核の保険業務の一部においても低迷が明らかになると、保険業以外の事業部門が売却されるとの見方が広がり始めた。AIG傘下の航空機リース会社、米インターナショナル・リース・ファイナンスは、しばしば売却候補として名が挙がる。同じく傘下の消費者金融部門、米アメリカン・ジェネラル・ファイナンス(総資産約290億ドル)も、部門売却の可能性が取り沙汰されている。
今のところAIGの経営陣から事業再建計画の発表はない。外部からの資本注入の可能性の模索はまだ続いている(編集部注:9月16日、米政府・FRBから救済策が発表された)。世界有数の大企業であるAIGの先行きの不透明感が払拭されないため、投資家心理も冷え込んだままだ。AIGの混乱は収束に向かっているのか、あるいは最悪の事態はまだこれから訪れるのか、誰も確信を持てずにいる。
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