▼グルジア問題で急加速する~「米ロ新冷戦」水面下の構図(ダイヤモンド社) | 日本のお姉さん

▼グルジア問題で急加速する~「米ロ新冷戦」水面下の構図(ダイヤモンド社)

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▼グルジア問題で急加速する~「米ロ新冷戦」水面下の構図(ダイヤモンド社
ロシアのお膝元、旧ソ連諸国の一国であるグルジアで紛争が勃発した。ロシアのプーチン首相は、「戦争の張本人は米国共和党政権」と実質的に名指しで批判。米国、ロシアの関係は急速に悪化している。しかし、この角逐はなにも今に始まったことではない。多極化する世界情勢のなかで再び対立姿勢を深める「米ロ新冷戦」の構図を解き明かす。(文:国際関係アナリスト 北野幸伯)北京オリンピックの開会式を翌日に控えた8月7日、中央アジアのグルジアで紛争が勃発した。発端は、グルジアの自治州・南オセチアの独立運動。独立を阻止したいグルジアは、南オセチアの州都ツヒンバリに進攻し、1600人の民間人が犠牲になったと報じられている。南オセチアを支持するロシア軍は即座に反撃を開始し、戦闘状態に突入した。小国グルジアに勝ち目はなく、ロシアの圧倒的優勢が続いた。8月12日、フランスのサルコジ大統領が6項目の和平案を提示する。内容は(1)武力不行使、(2)戦闘全面停止、(3)人道支援の保障、(4)グルジア軍の常駐地点への撤退、(5)ロシア軍の戦闘開始前の地点への撤退。国際メカニズムの導入までは、ロシア平和維持軍が追加的な安全措置を履行、(6)アプハジア自治共和国、南オセチア自治州の安全と安定に関する国際協議の開始――である。16日までに両国大統領は、サルコジ提案に沿った停戦合意文書に署名した。この紛争を、グルジアの国内問題にロシアが首を突っ込んだあげくの出来事ととらえるのは安易に過ぎよう。グルジアにとって、南オセチア攻撃は「ロシアと戦争する」に等しい自殺行為。グルジアのような小国が、独断で大国ロシアに仕掛けるとは考えにくい。では、誰がこの紛争を仕掛けたのか。答えは「米国」である。今回の紛争で注目すべきは米英、特に米国メディアの露骨なロシア批判だ。紛争の期間中、グルジアのサアカシビリ大統領はCNNなどに出演。「ロシアは世界の目がオリンピックに集中しているときを狙って、グルジアへの侵略を開始した」と繰り返し発言した。だが、最初にグルジアが南オセチアと、そこにいるロシアの平和維持軍を攻撃した事実はほとんど報道されていない。8月7日といえば、プーチン首相はオリンピック開会式に出席するために北京におり、メドベージェフ大統領も休暇中でボルガ川の川下り船に乗っていた。そんな都合の悪い時期に攻撃され、泡を食ったのはロシア側だろう。ロシアのラブロフ外相は「グルジアの冒険主義に米国の軍事支援が利用された可能性がある」と名指しで米国を批判したが、情報戦においては「悪の帝国ロシア」を印象づけることに成功した米国に軍配が上がった。

・資源争奪で燃え上がる米国・ロシアの「憎悪」
1991年にソ連が崩壊し、冷戦が終わった今、なぜこのような米ロの敵対関係が生まれているのか。ソ連崩壊後の歴史をたどれば、答えが見えてくる。エリツィン大統領時代、米ロ関係は良好だった。「良好だった」とはつまり「ロシアが従順だった」という意味。なぜ従順だったかというと、当時のロシアの国家財政は国際金融機関や欧米からの借金で回っていたからだ。プーチン大統領の時代になっても、悪くない関係が続いていた。実際、ロシアは2001年、米国のアフガニスタン攻撃を支持している。しかし、2002年頃から両国関係はギクシャクし始めた。米国がイラク攻撃を画策し始めたからだ。ロシアはこの戦争に反対し、米国に異を唱えた。米国は当時、「フセインがアルカイダを支援している」「大量破壊兵器を持っている」とし、イラクを攻めた。しかし、この二つの言い分が大ウソだったことは、今では中学生でも知っている。では真の狙いは何だったのか?いくつかの理由が考えられるだろう。最初に、ドル基軸通貨体制を守ること。フセインは2000年11月、原油の決済通貨をドルからユーロに変更し、「ドル」に脅威を与えていた。次に、米国経済を立て直すこと。ITバブルが崩壊した後の米国経済は一時的に冷え込んだが、アフガン、イラク戦争により回復を遂げた。さらに、イスラエルをイラクの脅威から守るためという理由もあっただろう。これらは、どれも一理あるが、もう一つ、あの「大御所」がこんな理由を挙げている。

・〈「イラク開戦の動機は石油」=前FRB議長、回顧録で暴露
【ワシントン17日時事】18年間にわたって世界経済のかじ取りを担ったグリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長(81)が17日刊行の回顧録で、2003年春の米軍によるイラク開戦の動機は石油利権だったと暴露し、ブッシュ政権を慌てさせている。〉(時事通信2007年9月17日)
米国の石油は、今後10年ほどで枯渇し始めると予測されている。ブッシュ政権は、アラスカや海底油田の開発、バイオエタノールの普及などに懸命になっているが、最も手っ取り早い方法は、「他国の石油を支配下に置くこと」だ。じつは、ロシア・フランス・中国が、最後まで戦争に抵抗したのも、この三国がイラクに石油利権を持っていたからだった。フセインとしては、「国連の安全保障理事会で拒否権を持つ三国に石油利権を与えることで、米国の侵略を防ぐ」意図があった。こうした反対を振り切り、米国は2003年、イラクを攻撃して石油利権を独占した。さらに当時、米国は別の巨大な利権を狙っていた。豊富な天然ガスや石油を有するロシアだ。具体的には、エクソンモービルとシェブロンテキサコが、当時のロシア石油最大手、ユコスの買収交渉を続けていた。しかし、ロシア最高検察庁は2003年10月、米国の動きを妨害するようにユコスのホドロコフスキー社長(当時)を脱税容疑で逮捕する。プーチンは、「イラクでは敗北したが、ロシアの石油利権は渡さない」という明確な意志を示した。ブッシュを操るネオコンは激怒し、「ロシア封じ込め」を決意する。結果として、米国の支援による革命が、旧ソ連諸国で次々と起こるようになった(左の年表参照)。新たな冷戦時代の幕開けである。
・米国が後押しした旧ソ連諸国の革命
 5年前、米国が最初のターゲットにしたのはグルジアだった。背景が複雑なので、解説が必要だろう。カスピ海西岸にアゼルバイジャンという国がある。19世紀後半から巨大な油田で知られている地域だ。アゼルバイジャンは1991年、ソ連からの独立を果たす。しかし、同国が石油を輸出するには、ロシアの黒海沿岸都市ノボロシースクをパイプラインで経由するしかない。そこで米国は、ロシアを迂回してアゼルバイジャンの石油を世界市場に出す方法を考えた。アゼルバイジャンの首都バクーから、西の隣国グルジアの首都トビリシを経由し、トルコのジェイハンに抜ける新パイプライン(BTCパイプライン)の建設で、2003年4月から工事が始まった。このパイプライン建設は、ロシアにとって大打撃である。しかし、下手に圧力をかければ、ますます米国寄りになってしまうから、ロシアはアゼルバイジャンには手出しできない。対策を迫られたロシアは、パイプラインが通過するグルジアに圧力をかけることにした。グルジアからの独立を目指す南オセチアやアプハジアを支援し、またグルジアへの電力・ガス供給制限にも踏み切った。グルジアの大統領は当時、ゴルバチョフの下で外相を務めたシュワルナゼだ。彼は、ロシアからの揺さぶりで米ロ間を行き来し始める。ユコス問題で激怒していた米国は、グルジアに「親米反ロ」の傀儡新政権を樹立するため、現大統領のサアカシビリに白羽の矢を立てた。2003年11月2日、グルジアで議会選挙が実施され、親シュワルナゼの与党「新しいグルジア」が、サアカシビリ率いる「国民運動」に勝利する。だが、野党は「選挙やり直し」と「大統領辞任」を求める大々的なデモを開始し、11月22日には国会議事堂を占拠。23日にシュワルナゼは辞任し、サアカシビリの親米傀儡政権が誕生する。いわゆる「バラ革命」だ。失脚したシュワルナゼは、以下のように断言している。

〈グルジア政変の陰にソロス氏?=シュワルナゼ前大統領が主張
【モスクワ1日時事】グルジアのシュワルナゼ前大統領は、11月30日放映のロシア公共テレビの討論番組に参加し、グルジアの政変が米国の著名な投資家、ジョージ・ソロス氏によって仕組まれたと名指しで非難した。ソロス氏は、旧ソ連諸国各地に民主化支援の財団を設置、シュワルナゼ前政権に対しても批判を繰り返していた。〉 (時事通信2003年12月1日)シュワルナゼは、12月28日の会見では「混乱の背景に外国の情報機関が絡んでいた」との見方も示した。「外国」が「米国」を指すことは言うまでもない。

米国の戦争介入に激怒するプーチン
 その後、米国は2004年末にウクライナでオレンジ革命、2005年3月に中央アジアのキルギスでチューリップ革命を成功させる。激怒したロシアは2006年6月からルーブル建てロシア産原油の先物取引を開始。またプーチンは2007年6月、「ルーブルを世界通貨にする」と宣言した。要するにドル基軸通貨体制の切り崩しにかかったのである。加えてロシアは中国と組み、上海協力機構(SCO)を反米の砦と化していった。現在ではインド、パキスタン、イラン、モンゴルもSCOの準加盟国であり、米英覇権主義に対抗する多極化推進の中核となりつつある。昨年来、ドルの信認は大きく揺らいでいるが、その原因は米国の住宅バブル崩壊とサブプライム問題だけではありえない。今回のグルジア紛争はごく短期間で決着したが、米国のネオコンにはいくつかの利益をもたらした。まずは秋の大統領選。あらためて米国民に「ロシア脅威論」を認識させることに成功したため、「ロシアをG8からはずせ」と常々主張している共和党の対ロ強硬派マケイン候補への追い風となった。同氏の支持率は急上昇し、八月半ばの世論調査で初めて民主党のオバマ候補を逆転した。戦争大好きなネオコンからすれば、オバマよりもマケインに勝ってもらったほうが都合がいい。CNNの単独インタビューに応じたプーチンは、「グルジア問題の張本人は米共和党政権」だと実質的に名指しで批判した。 ロシア脅威論の高まりによって、ミサイル防衛(MD)配備を2年間拒否してきたポーランドが態度を一変させ、導入に合意したのも、米国の「戦果」といえる。一方のロシアは、南オセチアとアプハジアを実質支配下に置くことに成功した。 いずれにせよ、グルジア紛争は米ロ新冷戦の過程で起こった一つのエピソードにすぎない。冷戦は今後も続き、想像を絶する事件が何度も起こることになろう。

北野幸伯(Yoshinori Kitano)
国際関係アナリスト 1970年生まれ。ロシア外務省付属モスクワ国際関係大学卒業。1999年、無料メールマガジン「ロシア政治経済ジャーナル」を創刊。著書に『ボロボロになった覇権国家』(風雲舎)、『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』(草思社)がある。
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