日本は北京オリンピック後の中国の動きを鑑み、それを想定した外交政策や防衛政策を! | 日本のお姉さん

日本は北京オリンピック後の中国の動きを鑑み、それを想定した外交政策や防衛政策を!

中国とチベット、そして日本にとっての「北京オリンピック」の意味
                                    2008.05.08
広く認知されたチベット問題
 今年8月に開催される北京オリンピックの為の聖火リレーは、世界中で大混乱を巻き起こしています。チベット問題に対する抗議の意を伝える為、欧米各国や日本を含めたアジア諸国では聖火リレーに合わせて大規模な抗議行動が行われ、その光景は世界中に報道されました。既に今回の聖火リレーは、本来の目的よりも、チベット問題の存在を世界に知らしめ、弾圧政策を敷く中国政府に対する抗議の声を、世界中を廻りながら運ぶという意味に変わっています。

 これほどチベット問題、及び中国の人権弾圧政策が世界的にクローズアップされたことはかつてあったでしょうか。今まで中国のチベット侵略・虐殺・弾圧という事実は闇に隠され、公に語られることはあまりありませんでした。

 特に日本においては、チベット問題の存在さえ知らなかった人が多かったはずです。しかし、今回の騒動であらゆるメディアがチベット問題を取り上げました。詳細はともかく、中国には少なくとも“チベット”という問題が存在するということを今回初めて認知した人も多いことでしょう。

中国にとってのオリンピックとチベット問題の意味

 中国はオリンピックというイベントを、自国民に対してはもちろん、世界中に対して「中国という国の成功」を誇示する為の国家威信をかけたプロジェクトと捉えています。その為、今の中国にとって“オリンピックが失敗に終わること”は何よりも恐れることであり、かつ許し難い事なのです。

 その一方で、チベット問題というものは台湾問題と同じく、中国にとって最も触れられたくない政治問題です。中国は建国以来、その領土的・経済的野心を満たす為に徹底した覇権主義を取ってきました。その覇権主義によって侵攻された地域の民族は、領土を奪われるだけではなく、虐殺され、言葉や宗教などの文化を徹底的に奪われました。それがチベットやウイグルなどの実情です。中国にとって必要なのは領土と経済的利益のみであり、漢民族以外の少数民族などは不要であり、独立や反乱の可能性がある邪魔な存在でしかないのです。

 この中国の覇権主義政策は、スプラトリー諸島の軍事占拠や、日本との衝突となっている尖閣諸島や東シナ海ガス田問題等を見ると、近年においても全く変わっていないと言え、さらに極端に開放された資本主義による急激な経済成長を支えるため、莫大なエネルギー資源や市場を必要とする今の中国の現状を鑑みると、それはますます加速する可能性も十分にあると言って良いと思います。そんな中国において、覇権主義政策の代表例とも言えるチベットを否定することは国家の根幹を否定するに等しく、絶対に許すことはできない行為なのです。それは中国にとって歴史問題や靖国問題で日本と対立することよりもはるかに大きな問題です。

 つまり今の中国にとって、オリンピックが失敗することと、チベット問題を指摘されるというこの二つの事柄は、共に絶対に許すことのできない行為なのです。

絶妙だったチベット蜂起のタイミング

 今年3月に中国の弾圧政策に苦しむチベット民族の怒りが爆発し、住民が蜂起しました。そしてこの騒乱が、世界中で巻き起こるチベット問題への抗議活動のきっかけとなりました。偶然だったのか必然だったのかはわかりませんが、この事件がちょうどオリンピックを控え、また聖火リレー直前のこの時期に起こったのは、タイミング的には絶妙だったと言わざるを得ません。もし違う時期であったならば、これ程までにチベット問題が世界的にクローズアップされることはなかったでしょう。

 先にも述べた通り、オリンピックが失敗することと、チベット問題を指摘されることは中国にとって両方許すことができない事柄です。もしオリンピックという中国が待ち望む大きなイベントが控えていなかったら、チベットでは先の蜂起者は悉く虐殺され、さらに今まで以上の酷い弾圧が行われたでしょう。そしてその情報は封殺され、また世界各国でもこれ程までにチベット問題についての抗議活動が活発になることもなかったでしょう。

その意味を変えた聖火リレー

 さらに、ちょうど聖火リレーというイベントが開催されるタイミングも、このチベット問題を世界に認知させる大きな要素の一つとなりました。平和の祭典であるはずのオリンピックが、周辺国を力で侵略し、その民族を虐殺・弾圧している国家で開かれる。そこで使われる聖火が、わざわざ世界を廻って北京まで運ばれるのです。中国のチベット政策に不満を持つ世界各国の人々にとって、これ程抗議の意を示すのに適した場はありません。

 案の定、聖火リレーが開催される土地では、徹底的な抗議が行われ、聖火リレーはまさに、チベット問題を世界中に知らしめ、そして世界中から集めた中国へ対する抗議の声を北京へ届ける“チベット問題に対する抗議リレー”へと姿を変え、今現在もその役割を着実にこなしています。

 「聖火リレーを政治に利用するな」との声もありますが、そもそも聖火リレーを政治に利用しようとしたのは中国だったのです。聖火ランナーがチベットを通り、そしてヒマラヤへ登頂することで、チベットは中国領であると世界中へ宣言するつもりだったのです。中国という国家とその成功を世界に知らしめ、また同時にチベットは中国の一部であると宣伝する役割だった聖火リレーが、皮肉にもチベット問題を世界に知らしめ、また中国へ対する世界中の抗議を集める結果となったのです。
 
 これらの動きを受け、オリンピックを失敗させることだけは絶対に避けたい中国は、先日になって「ダライ・ラマと対話の用意がある」と発表しました。もちろん形だけの可能性も高いですが、1歩とは言えなくとも半歩の前進とは言えるかも知れません。3月14日、オリンピック開催直前に命を賭して立ち上がったチベット民族の勇気は決して無駄にはならなかったのです。

オリンピック前に日本がすべきこと

 チベット問題の一方で我々が考えなければならないのは、我が国日本のことと、オリンピック終了後の事です。日本も中国の覇権主義の被害を大いに受けています。今現在一番顕著なのは東シナ海のガス田問題でしょう。中国は日中中間線ぎりぎりの所で既にガス田を完成させ、生産に入っています。今まさに日本の資源が盗掘されているのです。しかしながら、日中間の対話は一向に進展しません。小泉政権時代には調査船を派遣し、民間企業に試掘権を与えるなど日本側もある程度の牽制行動を取ったものの、「相手の嫌がることはしない」という徹底した事なかれ主義を取る福田政権の元では、何の具体的行動も取られることはなく、ただただ意味のない対話を続けようとするだけです。一度「試掘をしてみる」と発言したところ、「軍艦を出すぞ」と脅されて黙ってしまう始末です。

 私はかねてから、対話を進めるためには今すぐにでも「試掘」を実施し、「そちらが共同開発のテーブルに載らないのであれば、日本は完全独自開発をするぞ」という強硬姿勢を見せるべきであると主張しています。そしてそれをするタイミングはオリンピック前である今がベストなのです。中国もオリンピックを控えた今、軍艦を出して他国の船を攻撃するなどという行動をとるわけにはいかないでしょう。しかしオリンピックが終わってしまえば、中国が何かをする上で国際社会の目を気にする最大の理由はなくなります。そうなれば東シナ海ガス田問題に対して中国が譲歩することはまずないと考えて良いでしょう。オリンピック開催前の今が、ガス田問題を対等な立場で解決する最後のチャンスかもしれないのです。

オリンピック後に待ち受けるシナリオ

 またガス田問題の他にも、尖閣諸島の領有問題、中国海軍の原子力潜水艦による南西諸島の領海侵犯、沖の鳥島周辺のEEZでは中国海軍の軍艦が無断で測量を繰り返すなどの行為が頻発しています。これらは全て中国の海洋軍事戦略の一環であり、東シナ海一帯の制空・制海権を確保し、さらには太平洋奥深くまで進出するための準備を着々と行っていることの現われです。そしてその中には来るべき台湾侵攻も視野に入っているのは間違いありません。

 恐いのは、オリンピックが終わった後です。オリンピックが終わり、怖いものがなくなった中国は東シナ海の権益を奪い、同時に一帯の制海権・制空権を確保し、合い言葉である「一つの中国」の完遂を目標として、台湾統一を目指す。そんなシナリオが描かれているのは想像に難くありません。中国にとってガス田の占領などはほんの手始めにすぎないのです。

 先の台湾総統選挙で対中融和政策を取る国民党の馬英九氏が当選したことを利用し、表向きは平和的に占領するかもしれない。また中国のバブル経済崩壊により生じた国内の不満の声を対外的に変換し、その勢いで台湾へ侵攻するかもしれない。もしくは、台湾で何か政情不安が起きた時に、国内への治安出動という名目で台湾派兵を実施するかもしれない。中国が台湾に侵攻するシナリオはいくらでもあるのです。

 もしこの地域の制海権・制空権を握られ、台湾までもが中国の手に落ちてしまえば、日本のシーレーンは完全に分断され、日本はこれまで経験したことのないほどの危機に陥るでしょう。

 日本は北京オリンピック後の中国の動きを鑑み、それを想定した外交政策や防衛政策を今のうちから策定し実施することが急務です。オリンピック前にやらなければならないこと、そしてオリンピック後にしなければならないこと。北京オリンピックは8月です。もう時間はあまりありません。「人形町サロン」http://www.japancm.com/sekitei/sikisha/2008/sikisha36.html