産経新聞の【 主張 】リーマン破綻 米国は危機の連鎖断て 公的資金投入で政治決断を | 日本のお姉さん

産経新聞の【 主張 】リーマン破綻 米国は危機の連鎖断て 公的資金投入で政治決断を

【米金融危機】公的資金注入せず 問われる米政府判断の妥当性  (1/2ページ)
2008.9.16 20:52ワシントン=渡辺浩生】米国景気を減速させた低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題はついに、創業158年を誇る老舗証券リーマン・ブラザーズの経営破(は)綻(たん)に発展、株式市場は連鎖破綻の恐怖におびえている。米政府は公的資金注入によるリーマン救済を拒否、民間主導の危機克服という一線を越えなかった。だが、世界に動揺が広がる米国発の金融恐慌は回避できるのか。政府の下した判断の妥当性が問われている。
 「政府はお金を出さない」-。14日のニューヨーク連銀の周囲には、黒塗りのリムジンが何台も横付けされた。週末の12日夜から始まった金融当局と欧米の大手金融機関首脳との緊急協議も3日目に入ったが、ポールソン財務長官は同じ言葉を繰り返したという。
 「世界最大のポーカーゲーム」と呼ばれた会議は、リーマン買収の最有力候補だった米銀大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)が前日に交渉から身を引き、買い手は英銀大手バークレイズのみとなった。
 だが、最終的に公的支援はないと悟ったバークレイズは同日午後、撤退を決断。この瞬間、リーマン破綻が事実上決まった。
 「次(の破綻)はメリル」。矛先が直ちに証券大手メリルリンチに移ったとき、同社はバンカメと身売り交渉の成立を急いだ。
 「ポールソン長官は救済の是非に線引きをした」。ラインハート元米連邦準備制度理事会(FRB)金融政策局長はこう指摘する。
 3月に破綻寸前に陥った大手証券ベアー・スターンズに、FRBは焦げ付きのリスクを負う形で290億ドルを特別融資し、米銀大手JPモルガン・チェースによる買収を支えた。市場はリーマンにも「ベアー並みの支援」を期待した。しかし、FRBは突然の資金繰り悪化で金融市場を大混乱させたベアー救済の反省から、リーマンを含む証券会社に幹部を常駐させて財務状況を監視する一方、商業銀行向け緊急貸出制度を証券会社にも適用を広げた。つまり、打つ手は打ったと自負する金融当局は何でも救済するのでなく、ケース・バイ・ケースに態度を変えていたのだ。
 リスクを無視して収益を追求しながら、見込みがはずれるや住宅ローンの借り手を差し押さえに追い込むウォール街の身勝手さに、国民感情は厳しい。相次ぐ金融機関の救済は「税金で貸し手や株主を救済した」との政権批判に直結する。1週間前の7日には、政府系住宅金融2社の資本注入を発表したばかりで、大統領選を11月に控えた政治状況も無視できない要素だ。
 ただ、市場は次の標的を探し、危機の連鎖は止まらない。政府のかたくなな姿勢は、民間に自助努力を促す半面、体力のない金融機関に退場を迫りかねない。
 「軽く考えていないが、2度とない、とは受け取らないでほしい」。ポールソン長官は今後の公的資金適用には含みを残した。サブプライム問題の表面化から約1年1カ月が過ぎ、政府は最大の試練に直面した。
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■リーマン・ブラザーズ ニューヨーク・ウォール街に本拠を置く名門証券会社。創業は1850年。綿取引から始まって証券業に進出し、国際的に事業展開した。1984年、アメリカン・エキスプレスに買収されてシェアソンと合併したが、93年に社員が株を買い取って再び独立した。
 日本との接点は、日露戦争開戦の1904年。戦費調達の国債を引き受けた証券会社クーン・ローブを、後に吸収合併したのがリーマンだ。86年に東京支店を開設し、日本企業の資金調達や投資運用など対日ビジネスを強化していった。
 注目されたのは、ニッポン放送株の買い占め事件。ライブドアが発行した800億円の転換社債型新株予約権付社債を引き受ける形で、同社の軍資金を支えた。その後、転換したライブドア株を市場で売却、手数料以外にも巨利を得るしたたかさを見せつけた。http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/080916/fnc0809162100035-n1.htm


【主張】リーマン破綻 米国は危機の連鎖断て 公的資金投入で政治決断を2008.9.17 03:38
津波のように押し寄せる金融不安は、大手民間金融機関の破綻(はたん)と再編を伴う新しい段階に入ったようだ。金融市場の混乱と経済への打撃を最小限に抑えるため、米政府は破綻の連鎖を止める責任を十分に認識してほしい。
 昨夏に始まった米サブプライム問題は、沈静化するどころか一段と深刻化している。
 経営難に陥っていた米証券第4位のリーマン・ブラザーズが連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を裁判所に申請し、実質的に破綻した。米欧の大手金融機関との間で身売りや出資受け入れなどの交渉が不調に終わった。同じく経営悪化が表面化していた米第3位のメリルリンチも、米大手銀行バンク・オブ・アメリカによる買収が決まった。
 また、米保険最大手のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は増資と部門売却に向けた再建策について、米政府と米連邦準備制度理事会(FRB)、大手金融機関との間で協議を重ねている。
 金融危機の深化は、米政府がリーマンに対する公的資金投入を拒否したことが背景にある。
 今年3月に米証券第5位のベアー・スターンズが実質破綻した際には、FRBが最大300億ドル(約3兆1000億円)の特別融資を行った。今月初めの住宅金融最大手2社の経営危機では、世界中の政府や金融機関が、2社の社債を大量に保有していることから、巨額の公的資金を使って救済に出ている。
 ≪放置は恐慌の引き金に≫
 その違いについて、ポールソン米財務長官は記者会見で、ベアー・スターンズ支援に乗り出したときの状況とは異なっており、リーマンに対する公的救済は「一度も考えなかった」と強調した。
 サブプライム問題が収束する気配が見えない中で、常に政府が巨額な公的資金を投入して救済を続ければ、金融機関の経営に対するモラル低下を助長すると懸念したようだ。
 米国の他の大手金融機関の中にも資産が劣化して巨額の損失を抱えているところが多い。破綻の連鎖によって米国の金融システムが機能不全に陥れば、米国経済は崩壊し、世界的な恐慌の引き金を引きかねない。
 米政府が今回、リーマンの破綻とメリルリンチの救済買収を同時発表したのも、それにより破綻の連鎖は断ち切れると踏んだからかもしれない。
 しかし、金融情勢はそれほど甘くはない。リーマン破綻後の世界の金融市場は、ドルと株価の急落で応じた。米財務省やFRB、証券取引委員会(SEC)などが総出でかかわったリーマン支援の協議が不調に終われば、市場が米当局の危機管理の姿勢に疑問を抱くのは当然である。
 金融危機の背景には、サブプライム問題の根本原因である住宅価格の下落がある。金融機関は、保有しているサブプライムローンを加工した証券の価値が時間の経過とともに下がって、損失処理とともに資本増強をせまられる悪循環に陥っている。
 ポールソン財務長官が、「米国の金融機関は安全かつ健全だ」といくら強調しても、世界中の金融機関や投資家は信用はしまい。疑心暗鬼が広がっているのが実態なのだ。
 ≪日欧の対応策にも限界≫
 さらに、この問題を厄介なものにしているのは、株価下落やドル安などの市場の反応を招くだけでなく、損失を抱えた銀行が融資を渋り、米国だけでなく世界の実体経済を悪化させる要因になっていることだ。
 日本や欧州各国は、今年の成長率見通しを下方修正し、世界経済を支えてきた中国やインド、ブラジルなどの新興国も成長に陰りが出始めた。
 米国の金融危機に際して、日欧がやれることは限られている。日本の金融機関は計16億7000万ドル(約1700億円)をリーマンに融資しているが、すでに引当金を積んでいる分もあって、破綻の影響はそれほど大きくない。日銀も金融機関同士の資金の貸借を円滑にするため、大量の資金を市場に供給し、対応している。
 これに対して米国の政策はあいまいで後ろ向きだ。市場を安心させる抜本策は金融機関の資本増強にある。米政府には公的資金投入の果敢な政治決断を求めたい。http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/080917/fnc0809170338006-n1.htm


【米金融危機】「VTRのよう…」日本の危機と酷似 (3/3ページ)
2008.9.17 00:13
大手証券の一角を占めるリーマン・ブラザーズの経営破(は)綻(たん)に発展した米国の金融危機は、日本が平成9年から10年にかけて経験した危機と、その歩みが酷似してきた。日本は公的資金の投入に躊躇(ちゆうちよ)し、結果として国民負担が膨らみ、「失われた10年」と呼ばれる長期低迷を余儀なくされた。米政府も、公的資金の本格投入には依然として及び腰で、日本の二の舞となる懸念がぬぐえない。
 「さしずめ今年3月に経営危機が表面化したベアー・スターンズが三洋証券なら、リーマンは山一証券だ。まるでビデオテープをみているようだ」
 ある日銀幹部は、リーマン破綻に強い既視感を感じている。
 平成9年11月に日本は戦後最悪の金融危機に見舞われた。3日に三洋証券が会社更生法を申請したのを皮切りに、17日に北海道拓殖銀行が当時の大蔵省から業務停止命令を受け、24日には四大証券の一角の山一証券が自主廃業を申請し、次々に破綻した。
 破綻の連鎖の原因は、現在の米国の金融市場で起きている信用不安だ。金融機関が資金をやり取りする短期金融市場では、破綻による回収不能を恐れた疑心暗から誰も資金を出さなくなった。経営が悪化している金融機関は資金繰りに行き詰り破綻に追い込まれた。日本の金融危機の根底には、バブル経済時代に競うように貸し込んだ不動産関連融資が大量に焦げ付くという不良債権問題があった。米国も低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)問題に象徴される住宅バブルの崩壊が根底にあり、その構図は「二重写し」だ。
 日本政府も米国と同様に公的資金の投入には及び腰だった。7年に住宅金融専門会社(住専)の破綻処理に6850億円の公的資金を投入し、世論の強い批判を浴びたことが「後遺症」となっていたためだ。
 しかし、9年の破綻連鎖を受け、ようやく重い腰を上げる。10年2月に30兆円の公的資金枠を設けた金融安定化法が成立。同10月の日本長期信用銀行(現・新生銀行)、12月の日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)の破綻では、一時国有化により公的資金が活用された。
 不良債権処理問題を先送りしてきた結果、破綻処理による国民負担はすでに確定しているだけで10兆円超に達している。
 さらに、日本は破綻処理だけでなく、大手銀行への公的資金による資本注入にも踏み切る。巨額の不良債権処理で資本不足に陥った銀行による貸し渋りが深刻化したためだ。資本注入額は、経営悪化で実質国有化されたりそな銀行を含め最終的に総額12兆4000億円に上る。米政府は、ベア・スターンズに加え、政府系住宅金融2社には公的資金を活用し救済するが、リーマンに対しては公的資金を使わず見殺しにした格好だ。市場では「リーマンも救うべきだった」との声が強い。
 米銀はサブプライム関連の損失処理による資本不足から貸し渋りを強めており、実体経済に深刻な影響が及んでおり、解消には日本と同様の資本注入が不可避だ。
 クレディ・スイス証券の白川浩道チーフ・エコノミストは「米国の次は、日本の拓銀だ。つまり商業銀行の破綻が本格的な米金融危機の引き金となる。そうなれば米政府も動かざるを得ない」と指摘する。
 しかし、破綻の連鎖による米国発の金融危機が世界経済に及ぼす影響は、日本発とは比較にならない。日本の経験を生かせるかが問われている。(本田誠)


http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/080917/fnc0809170013002-n1.htm