軍事情報
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軍事情報 第359号9月8日
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■インドへの核禁輸解除
原子力関連資機材の輸出管理を行なう原子力供給国グループ(NSG)は、六日の臨時総会で、米とインドの原子力協定に関連した「インドへの核関連資機材移転」を全会一致で承認しました。七十四年の核実験以降三十年以上続いたインドへの禁輸措置が解除されることになります。NSGの指針ではIAEAの包括的保障措置(査察)協定の適用が求められますが、そもそもインドはこの協定を結んでいません。そのためNSGは「インドは例外」とすることにしています。これで米はインドとの原子力協定における最大の峠を超え、今日から始まる議会承認手続きに移り、ブッシュ大統領の任期中の協定発効を目指します。インドはNPT(核拡散防止条約)未加盟で、核武器を保有する国です。
⇒強ければ「いくらでも例外を認めてくれる」わけです。それが国際社会の現実です。近いところでいえば、北鮮や中共の姿勢こそが国際社会のスタンダードなんですね。周到に準備し、覚悟を決めてリスクを負った北鮮やイランは小躍りして喜んでいることでしょう。わが国はリスクを避けて「核武装論議」すら封印してしまいました。本当に愚かなことをしました。リスクを負わなければリターンを得ることは「絶対に」できません。
今回のインド米の原子力協力で、パキスタンがどう動くのかが注目されます。イラン、インド、パキスタンという地続きの隣国三つが大っぴらに核をもったわけですね。あまりピンと来ていない人も多いようですが、これは大変なことですね。世界の流動化が一挙に進む分岐点になるかもしれませんね。その上各国のバックからは、世界で名の知れた大親分が「おれの兄弟に何か用か?」と顔を出してきたわけです。パキの場合は、見えない形でEUが抑えている気がしますけれど、国内の原理主義運動が激化して統制が取れなくなった場合、シナが割り込んできる可能性は高いですね。イスラム原理主義と社会主義は親和性があると思いますしね。本来ならば、そういう事態に備えて、わが国あたりがアフガン・パキ等へ国軍地上部隊を大規模に派遣できればいいのでしょう。しかし、国家が軍事に真剣に取り組まず手をこまねいて放置してきた結果、憲法や自衛隊法等があるために自衛隊が出ると逆効果を生む状況になっています。同盟国からも「もうお前はいいよ。金だけだせよ。無理するな」とあてにされない体たらくです。備えを怠ってきたツケです。千載一遇のチャンスともいえるこの時期に、何も行動できないことは悔しいですね。実に惜しいことです。イランは周知のとおりロシアとの濃密な原子力関係があります。間に挟まれたパキスタンは今後どう動くのでしょう?軍事的に濃密な間柄にある中共が出てきそうな気がしますが・・・。各国の謀略がうずめく巷になりそうですね。アフガンの戦略的重要性は高くなる一方ですね。アフガンを制圧したものがパキスタンを抑えることになるからです。わが国と半島・満州の関係のようなものですね。核武装といえば、「ウランを売って貰えなくなるとわが国はどうするの?」という話が出てきます。この点で思い出したのが、先週ご紹介した北野さんの新刊で取り上げられていた「メタンハイドレート」です。これについては以前、自称専門家に「取り出すことが難しい」と後ろ向きな話を聞いたことがあります。その後の経過を見ますに、必ずしもこの言葉は正鵠を射ていないように感じます。シュンペーターのいう「企業活動における革新」の観点が欠落しているからです。この世に不可能なことはありません。この事業を前進させる必要を感じますね。あわせて、家庭レベルでは、太陽光発電などでエネルギーの自給自足を進める気概が大切な気がします。節約という戦術行動からは貧乏臭い気持ちしか生まれませんが、自給自足への取り組みという戦略行動からは、次のステージという視野が生まれます。国家も家庭のエネルギー自給を全力で推し進めなければいけませんね。それこそが、エネルギー安保の第一歩でしょう。
■米、ロシアとの原子力協定を破棄へ
上記ニュースが出る前日のことですが、グルジアへの軍事介入をしたロシアが南オセチアとアブハジアの独立を承認したことを受け、ブッシュ米大統領が今年五月に調印したロシアとの原子力協定発効の差し止め手続きに入った、という米国務省筋の話がリークされています。「事実上の協定破棄」との見方もありますが、実際どうなるかは分かりません。
⇒グルジア云々は後付けの理屈でしょうね。NSG決定発表の伏線だったのでしょう。上記のインドとの原子力協定と同じく、ロシアとの協定も議会承認を待つばかりの状態でした。さすがに同時期にロシアもインドもというわけには行かず、当面は、南アジアをシメているインドを舎弟に取り込んだほうが得策と見たのでしょう。インドはロシアともイランとも近いですしね。ロシアには「悪いのう。ちょっと待ったれや」という感じでしょうかね。当然ロシアは「わかるが、面子もあるからちょっと言わせたれや」と怒りを表面化させるのでしょう。とはいえこれで抗争が起きることはないと思います。笑米の選択の背後には何があるのでしょうか?パキスタン封じ込め政策があるのでは?という気がします。直接関係ないですが、五日のノーボスチ通信が「海上原発(FNPP)」に関する興味深い話を紹介していました。英語ですが、興味ある方はどうぞ。
http://en.rian.ru/analysis/20080905/116585296.html
■米国務長官、リビアを訪問
リビアを訪問したライス米国務長官は五日、カダフィ大佐と会談しました。会談後の会見でリビアのシャルガム外相は「対立の時代は終わった」と明言し、ライス国務長官も「カダフィ大佐との会談は有益だった」と述べています。二〇〇三年にリビアが大量破壊兵器の廃棄を表明して以来両国は関係改善を図ってきましたが、軌道に乗り始めたというのが一般的な見方です。
■マウントホイットニー、ポチに到着
複数メディアによれば、米海軍六艦隊旗艦の揚陸指揮艦「マウント・ホイットニー」が、三日水曜日にボスポラス海峡を通過、五日、グルジア黒海沿岸の港「ポチ」に到着しました。任務は米によるグルジアへの人道支援物資輸送です。先日お伝えした駆逐艦「マクフォール」と沿岸警備隊の「ダラス」は、バツミ港に停泊しています。搭載貨物についてロシア黒海艦隊筋は「同艦は武器を多数運搬している」としています。情報筋も「現在ロシア側が荷物を精査中で、まもなく詳細があきらかになるであろう」といっています。一方米軍欧州集団の報道官は五日「ロシア軍平和維持部隊にグルジア領内で荷物検査を行う権限はない」と述べています。マウント・ホイットニーは揚陸指揮艦で、現在黒海で展開しているNATO艦隊(米・独・西・波)の統制を行なっているとされます。ロシア外務省は五日「NATO艦隊は十分自重しており、わが方が軍事行動をとるつもりはない」としています。
⇒ポチという名前を聞き、なんともいえない思いになるのは私どもだけでしょうか。
■日韓海洋調査実施
五日時点で、二〇〇六年と二〇〇七年に行なわれた、わが領土竹島周辺海域を含む海域での日韓共同調査が今年も行なわれるそうです。目的は「放射性廃棄物による日本海の汚染状況を調べること」とのことです。
⇒二〇〇六年にわが国が単独で行なおうとしたところ韓国が反発して、韓国が単独で調査しました。わが国は引き下がったみたいですね。同じ年の十月に共同調査がはじまり、昨年九月にも共同で調査が行なわれています。そもそも、なんでわが領海周辺を調査するのに相手の「許し」が要るのでしょうか?なぜ共同ありきなのでしょうか?それぞれが独自にやればいいじゃないですか。必要なら、ちょっと衝突して非難しあえばいいじゃないですか。結局は「軍を出すぞ」というレベルで対応できないからなんですよね。「そういうならこちらも出すぜ。一回沈めたろか?」と返せず「まあまあ」とヘタレこくからです。これでは相手も「何だか勝手が違うなあ」と思いつつ、突っ走ってしまうしかなくなります。国際社会で、相手に自分と同じ価値観を求める姿勢は、非常によくないです。戦争は、常にこの種の人が「堪忍袋の緒を切らせて」起こします。ふと思いましたが、健さんや鶴田浩二の仁侠映画は常にそういうパターンでしたね。わが国の風土なんでしょうかね?
■ウッドワード氏、イラクでの諜報活動を暴露
米ワシントンポスト紙のボブ・ウッドワード氏といえば、湾岸戦争時の政権の意思決定を内部から描いた「司令官たち」などで有名な大物記者です。ウッドワード氏は本日八日に新刊「The War Within: A Secret White HouseHistory 2006-2008」を出します。五日のワシントンポストが抜粋を伝えていますが、それによると、
・ブッシュ大統領はイスラム各派の利害が錯綜するイラクを統治し、宗派間抗争に厳しき対処するためにマーリキー首相の指導力に頼るようになった。
・そのため、マーリキー首相や側近に対する盗聴など、大規模な諜報活動を開始した。
・米側は「イラク首相が話すことは何でも知っている」と豪語する状態に至っている
・イラク側に気付かれると信頼が失墜するため、このことは部内でも一部しか知らず、活動を知った複数の高官はビックリ仰天していた
といったことが書かれているようです。
⇒人ごとではありませんよ。わが国も同じことされてますよ。笑 英語が苦にならない方は、早めにお求めになったほうがいいようにおもいます。本とともにCDも出ています。面白いマーケティングですね。
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■防衛白書を報告・了承
林防衛大臣は五日、二〇〇八年版防衛白書を報告・了承されました。白書は来年の予算請求と密接に関連しており、軍事力整備の重心を省はどう考えているかが明らかになる書類といえます。エッセンスは以下のとおりです。
1.極東ロシア軍の脅威度がアップ:昨年は極東ロシア軍が旧ソ連軍時代の規模に戻る可能性は低い、と書かれていましたがそれがなくなっており、「訓練の減少傾向に歯止め」「わが国への近接飛行等活動が活発化」と分析されています。
1.北鮮は重大な脅威: 二〇〇六年の核実験を踏まえ、核兵器の小型化・弾頭化が比較的短期間に行なわれる可能性あり。動向に注目する要あり。
1.シナの軍事力への懸念:射程八千キロのSLBM(潜水艦発射型弾道弾)搭載の新型原潜建造、ASAT等宇宙における軍事活動・利用、サイバー戦専門部隊の編成など近代化が進展。地域やわが安保にいかなる影響を与えてゆくか懸念される。
1.竹島については現状維持:「わが国固有の領土である北方領土や竹島の領土問題は依然として未解決」との表現を維持
1.インド洋の給油活動:「長時間、安定して洋上補給ができる国は限られ、わが国にふさわしい貢献」「資源の多くを中東地域に依存するわが国の国益にもかなう」ことから「活動継続が必要」
1.恒久法制定の必要性.自衛隊の海外派遣を随時可能とする恒久法制定が必要。
1.省の抜本改革に取り組む姿勢を強調
⇒空の優先度が高まるということかもしれません。脅威=能力×意図ですから、「日本を攻撃する」と明言している北鮮が脅威というのは分かりますね。ちなみに自公の「新テロ対策特措法改正に関するプロジェクトチーム」の初会合が三日に行なわれており、来年一月期限切れとなるインド洋の給油活動を一年間延長する改正案を臨時国会に提出することで合意しています。明日九日の第二回会合で正式決定され、党内手続きに入る見通しです。民主党に協議を呼びかけることも確認しています。とはいうものの、成立の見通しはまったく立っていないのが現状のようです。この会合では「アフガンへの地上部隊派遣」についても議論が行なわれ、「現時点では問題点が多い」との認識で一致しています。
■パキスタンでは
前号でパキスタン連立政権崩壊をお伝えしましたが、同国では六日に大統領選挙が行なわれ、暗殺されたブット元首相の旦那さんが当選しました。汚職で悪名高い人で、手腕もほとんどないといわれています。同日北西部のペシャワル近くで幹線道路にある検問所に車が突っ込む自爆テロが発生し、二十名以上が死亡しています。現在北西部では、イスラム原理主義過激派勢力の掃討作戦が展開されており、地元勢力が報復テロであることを認めています。この三日前の九月三日、パキスタン政府はアフガンの連合部隊が北西辺境州の南ワジリスタン地区を攻撃し、少なくとも二十名が死亡したと国営通信を通じて明らかにしています。なお注目されるのは、「特殊部隊が地上投入された」と報じている点です。地上部隊による越境攻撃をパキスタン側が指摘したのはこれが初めてです。ちなみに、在アフガンの米一〇一統連合任務部隊、ISAFはこの攻撃を確認していません。関係ないかもしれませんがふと思い出したのが、9.11テロ直後に配信した「パキスタンは領空通過は認めるが地上部隊の通過は認めないであろう」という情報と、ある人から聞いた「パキスタンに連絡なく米がアフガンを空爆し、現地にいたパキスタン軍将校多数が死亡した」という話です。一〇一統連合任務部隊http://www.cjtf-a.com/
■マケイン氏、アフガン増派を主張
一日に行なわれた米共和党大会で次期大統領候補のマケイン氏は、事実上の公約となる「党綱領」を採択しました。最も目立つのは、グルジア侵攻、南オセチア・アブハジアの独立承認を行なったロシアへの批判ですね。ドイツのナウマン将軍の著書にもあった「ロシアとは深刻な価値観の相違がある」ことがここでも書かれています。得意の安保分野では
・イラクでの勝利はわが安保にとり死活的に重要である、早期撤退などもってのほか
・アフガンにおけるテロとの戦いでわが国がすべきことは多い、と増派を主張
・イランを「ならず者国家」と呼び、各種圧力が必要と主張。無条件での首脳レベル対話には反対。
わが国との関係については
・日米同盟はアジアの繁栄と安定の礎
・日本に地域での主導的役割を期待する
と書かれています。
⇒あわせて、エネルギーの外国依存率を軽くすべきとし、米本土周辺海域の油田開発再開を提唱しています。
■イラク駐留米海兵隊移駐へ
前号でお伝えした米海兵隊総監の「アンバル州駐留海兵隊部隊のアフガン移駐用意あり」が具体化しそうです。一日、イラク駐留米軍はイラク中西部のアンバル州の治安情勢が改善したとして、治安維持権限をイラク部隊に委譲しました。同州はスンニ派が多数を占める州としてはじめて治安維持権限が委譲されています。郊外の基地で駐屯する米軍部隊は、市街地パトロールをイラク軍に任せて支援に回ります。
⇒しばらく様子を見て、どの程度減らせるかを確認するのでしょう。
(おき軍事情報部)
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