【ポスト成果主義 スタンドプレーからチームプレーに】
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【ポスト成果主義 スタンドプレーからチームプレーに】 若手社員の可能性を阻害する成果主義
管理職や中堅社員が個人としての成果を上げることに汲々とし、部下や後輩の指導に手が回らなくなっている。その結果、若手社員が十分に教育を受けられず、なかなか育たない──。多くの企業の職場がこうした問題に直面している。成果主義型の人事評価制度の弊害とも言えるこの問題にどう対処したらいいのか。 一橋大学で人事マネジメントを研究している守島基博教授は、職場で人材育成が行われていない理由を分析し、問題解決への突破口を示す。最近、企業の職場で若手社員の育成が進まず問題になっています。上司や中堅社員が彼らの面倒を見なくなったからです。なぜ後進の指導が行われなくなったのでしょうか。 まずは、成果主義型の人事評価・報酬制度が多くの企業で導入されたことが挙げられます。個人の成果が問われるあまり、中堅社員が自分の仕事で結果を出すことに汲々となり、後輩の指導にまで手が回らなくなった。人によっては、後輩の指導に消極的ということもあります。教えた結果、後輩が力をつけて成果を上げるようになれば、自分の地位を脅かす存在になる可能性が出てきますから。
・採用抑制や非正規社員の増加も影を落とす
もっとも、原因は成果主義にとどまりません。例えば、バブル経済が崩壊した後に企業の多くが社員の新規採用を手控えた。このことも大きく影響しています。後輩が入社してこなかったため、そもそも部下を指導したことのない上司や後輩を教えたことのない中堅社員が増加した。そこへ業績の回復に伴って、再び新卒社員が入社してくるようになった。しかし経験がないので、新卒社員の面倒をうまく見られないわけです。新卒で入社してきた若い社員の側にも戸惑いがある。採用が抑制された結果、上司や中堅の先輩社員との間に大きな年齢の開きがあるからです。 例えば、隣の席に座っている先輩が前年に入社した人で1~2歳しか違わなければ、ものを聞きやすい。ところが現実には、すぐ上の先輩でさえ年が10歳前後も離れている職場が珍しくない。そうなると、新入社員は周囲に気軽にものを聞きにくくなります。さらに問題を深刻にしている要因があります。非正規社員が増えていることです。 企業の管理職は、派遣社員やパートタイマーといった短期間に入れ替わる可能性の高い非正規社員に対しては熱心に指導しない。一方、正社員と非正規社員の仕事の内容はさほど変わらないことが多い。こうした状況に非正規社員が不満を抱き、正社員との関係がぎくしゃくするというわけです。
・コミュニティーとして職場を取り戻せ
このように複数の要因が絡まり合って、企業の職場で人材の育成が行われなくなっている。これは、処遇のあり方を変えたり、新たな人事評価制度を導入したりといった“小手先”の対応で解決できるものではありません。職場における人材のマネジメントを抜本的に見直す必要があります。それは人材の育成だけに限りません。職場で働く人たちのコミュニケーションの取り方や、かつては「癒やしの場」としての機能も果たした職場の位置づけも含め、職場を再生させる取り組みになります。これは一朝一夕にできるものではない。長期戦になるのは必至です。そこでカギを握るのは、コミュニケーションの活性化だと思います。 上司や中堅社員が部下や後輩に対して「何でも聞いていいんだよ」と言っても、それだけでコミュニケーションが進むことはありません。もっと会話を交わすきっかけを意図的に作り、半ば強制的に職場でのコミュニケーションを増やす。そうすることによって、職場を再び働く人たちの「コミュニティー」にすることを目指すべきです。現状では、職場が単なる個人の集まりになっています。そして、成果主義型の人事評価・報酬制度の導入や非正規社員の増加に伴って、個人の間にシャープな格差も生じている。その結果、いろいろな面で職場の成果は上がっているものの、コミュニティーとしては機能しなくなっているのです。コミュニケーションを再活性化することによって、職場のコミュニティーとしての機能を復活させる。そうすれば、職場における人材の育成も自然と行われるようになるはずです。
・朝礼や社員旅行を復活させた住友商事
非正規社員については正社員化の動きも出てきていますが、彼らが職場から姿を消すことはないでしょう。雇用形態が異なるので限界はありますが、職場の仲間としてきちんと受け入れ、正社員と非正規社員を融合していかなければなりません。職場のそうした取り組みを企業の人事部はサポートしていく必要があります。そうした取り組みで先行しているのが総合スーパー最大手のイオンです。全国どこへでも異動する人と特定の地域内で働く人との間には待遇に差をつける一方で、正社員と非正規社員という雇用形態による差はなくしている。同じ仕事であれば、正社員も非正規社員も給与は同じ。育成の点でも同様に扱っています。職場を再びコミュニティーにする取り組みでは、住友商事が1つのモデルになるでしょう。 同社はまず、成果主義型の人事評価・報酬制度を修正しました。具体的には入社してから10年目までは年功序列で処遇し、報酬に大きな差はつけない。育成も全員に対して同様に行う。そして11年目から成果主義を適用して、社員を競わせます。修正を行った背景には、若いうちは短期的な成果にとらわれずにじっくりと勉強してもらうという狙いがありました。上司と部下との間のコミュニケーションも、朝礼などを通して頻繁に取る。さらに社員旅行や社員寮を復活させて、社員の交流を促しています。 こうした取り組みが唯一の解答ではないでしょうが、職場で後進の育成が進まないという悩みを抱える企業にとって、独自の解決策を見いだすヒントになるはずです。
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【佐久間陽一郎の資源配分から考える経営戦略】 第9回 日本の成果主義は“まがい物”
このままでは成果主義で会社がつぶれる──。 昨年12月、こんな衝撃的な見出しの記事が、日経ビジネスオンラインに掲載された。成果主義型の人事評価・報酬制度を取り入れた会社の現状を知る目的でアンケートを実施。4日間で1000人を超える読者から回答を集めたという。見出しは、回答の自由記入欄に記された読者の声を基にしたものだ。回答を寄せた読者の多くが「成果主義は自分の成長に結びつかず、自分のやる気を低下させている」と答えた。これを受けて、成果主義には大きな問題があると言わざるを得ないと指摘している。このような成果主義に対する批判が後を絶たない。
日本で成果主義は始まっていない
だが、是非を議論する以前に、日本では成果主義は本格的に始まっていないと私は考えている。 なぜか。前回の宿題の解答について説明しながら、その理由を明らかにしていこう。
【宿題】 国内最大手の製薬会社である武田薬品工業は今年5月、米国のバイオ医薬品メーカーを約9664億円で買収した。これだけ巨額の買収を実行できたのは、同社が日本一のキャッシュリッチ企業だったからである。 同社は武田國男社長(現会長)の下で1990年代後半に改革を断行。食品など医薬品以外の事業を整理して経営資源を本業の医薬品に集中し、超高収益企業に生まれ変わった。 改革の一環として同社が導入したのが成果主義型の人事評価・報酬制度である。武田社長は日本経済新聞に連載した「私の履歴書」で「本当に努力した人が報われる会社にしたかった」と記している。 実際、武田は成果主義の導入に成功した数少ない日本企業の1つと言われる。果たして同社が成功した要因は何にあったのだろうか。
・トップの正確な理解なしに始まらない
武田が成果主義の導入に成功した要因はいくつかあるが、最も大きかったのは、社長として導入を決めた武田國男氏(現会長)が成果主義についてきちんと理解していたことである。同氏は米社との合弁会社の副社長としてシカゴに駐在していた時に、米国企業の経営をつぶさに見て、成果主義への理解を深めていたのだ。このことは、同社が成果主義の導入に先立って、本社部門の簡素化と機能強化という組織改革を行っていることからも分かる。武田氏の下で成果主義の導入を陣頭指揮した元専務の柳下公一氏は、著書『武田「成果主義」の成功法則』(日経ビジネス人文庫)に次のように記している。 「リストラは先ず組織から始めなければならない。一つひとつの職位について、果たすべき役割・機能を明確にし、Report toをはっきりさせる。そのためには、今いる人をどうするか、あるいは現在の組織をどうするかという現実にとらわれることなく、白紙から組織を考えることが必要になってくる」ここに、日本企業の多くが成果主義の導入に失敗している真の理由が隠されている。一つひとつの職位について、果たすべき役割・機能、すなわち職務(job)の内容について明確にしなければならないと柳下氏は指摘しているが、多くの企業はこれをきちんと行わずに成果主義を取り入れようとした。職務の役割や機能を明確にすることは成果主義の大前提であり、それなくして成果主義の導入は本来あり得ない。日本企業の大半は、成果主義のスタートラインに立たなかったわけだ。だから、日本で成果主義は始まっていないと冒頭で主張したのである。
・“人ベース”で無駄なポストが増える日本の組織
実際、日本企業の多くでは職務の役割や機能が明確ではない。それは、日本企業の組織や仕事の分担が人を起点に考えられているからだ。「今いる人」に仕事や役職を割り振るから、「副○○」や「○○代理」といった職責の曖昧な肩書きが氾濫することになる。米国企業の組織や仕事の決め方は全く異なる。この連載コラムの第7回「戦略を生かす組織、殺す組織」で紹介したように、「組織は戦略に従う」という原則を貫いているからだ。まず明確な戦略があり、それに最も適した組織を設計する。その組織は、役割や機能がはっきりとした職務で構成され、それぞれの職務に適任の人が就く。日本企業が「人ベースの組織」であるのに対し、米国企業はあくまで「職務ベースの組織」なのである。
人ベースと職務ベースの組織のどちらが効率的か。それは火を見るより明らかだろう。柳下氏も著書でこう書いている。「職務の機能・役割にスポットをあて、その職務に期待される成果責任(アカウンタビリティー)を明確にしていくと、人の処遇を中心に考えてきた従来の組織の矛盾点・非効率性が明確に表れてくる」実際、人ベースから職務ベースの組織に変われば、職責の曖昧な役職がなくなり、人件費を削減できるだけでなく、指揮命令系統もすっきりして社員が働きやすくなる。さらに、それぞれの職務に最適な人が就くことで、企業にとって最も重要な経営資源である人を有効に活用することにもなる。読者から寄せられた回答では、「淡白に結果だけを見ず、努力した姿やチームとしての行動も一緒に評価したのではないか」「客観性よりも納得性を優先した」というように、評価の仕方に着目したものが目立った。 残念ながら、武田が成果主義に先立って組織を改革し、職務の役割や機能を明確にした点について言及したものはなかった。その一方で、次のような回答が目を引いた。 「経営トップをはじめとする役員にも目標管理制度による成果主義を適用するとともに、会社の抱える課題を解決する手段として成果主義を活用した」 「会社が従業員と何度も話し合いを持ち、会社と従業員の双方が理解したうえで導入した」 これらも、武田が成果主義の導入に成功した要因に挙げられるので、宿題に対する正解である。
成果主義は進化し続けている
成果主義型の人事評価・報酬制度が一般的になっている米国でも、これまで制度の欠点が幾度となく修正されてきている。ここでは2つの大きな修正を紹介しよう。 1つは、個人の成果を測定する評価項目の見直しである。従来は、売り上げや利益の増加、コストの削減といった財務上の数値目標にどうしても偏りがちだった。こうした傾向を緩和するために利用されているのが、「バランスト・スコアカード」という経営管理の手法である。これは、組織の業績や個人の成果を、財務上の数値だけでなく、(1)顧客の満足度、(2)業務の効率化といった社内における業務プロセスの改善、(3)社員と組織の能力の向上、の3つの視点も加味して多面的に測定しようとするもの。米ハーバード大学経営大学院教授のロバート・キャプランと経営コンサルタントのデビット・ノートンが開発した。
もう1つは、個人がスタンドプレーに走りすぎてチームワークを乱すのを防ぐ取り組みである。ここで注意しなければならないのは、チームが単に人が集まっただけのグループとは別物であることだ。 1993年に出版した著書『「高業績チーム」の知恵』(ダイヤモンド社)でチームの重要性を説いたのが、マッキンゼーの経営コンサルタント、ジョン・カッツェンバックだ。彼はチームを、「ある特定の目的のために多様な人材が集まり、協働を通じて、相乗効果を生み出す少人数の集合体」と定義している。
・チームを活性化するファシリテーション
このように多様な人材が集まったチームのメンバーの発言を促したり、会議の話の流れを整理したりして、有意義な成果を引き出すスキルが、「ファシリテーション」である。私がかつて所属した米経営コンサルティング会社のアーサー・D・リトルでは、1994年にファシリテーションを全社に導入し、チームワークを格段に向上させた。 このコラムと同じ日経ビジネスオンラインの「Executive College」のコーナーで連載しているコラム「ポスト成果主義 スタンドプレーからチームプレーに」では、成果主義の是非を巡る識者の論考とともに、成果主義の導入によって失われたチームプレーを取り戻そうとする企業の実例などを紹介している。ところが、成果主義の本家である米国の企業は、既に15年以上前からチームワークの向上に取り組んできたのである。成果主義が始まっていない日本と本家との間に開いた差はあまりにも大きい。もともと個人に差をつけることが好まれない日本で、成果主義を導入することは並大抵のことではない。だが、個人の差を認めない姿勢は、得てして悪平等を招き、組織の中に不満が充満する。業績が右肩上がりに伸び、すべての社員にそれなりのポストを用意できた時期なら、それでも不満は生じなかった。しかし、高い成長を続けることが望めなくなった今、年功序列型の人事制度を維持して無駄な役職を増やすことはもはや不可能だ。成果主義の導入は必然なのである。その大前提として、日本企業は人ベースから職務ベースの組織へ移行しなければならない。 さて、次回は米ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・ポーターが体系化した競争戦略論の後に登場してきた戦略論の新しい考え方を見ていく。読者の方々には予習を兼ねて、以下の宿題に対する答えを100字以内で記して送信していただきたい。
【宿題】ファクトリーオートメーション(FA)向けのセンサーなどを販売し、「驚異の高収益企業」と言われるキーエンス。2008年3月期の売上高営業利益率は51%に達した。ところが、同社の基礎研究は必ずしも強くない。研究開発の投資額は同じ制御機器メーカーのオムロンや横河電機の4分の1以下だ。にもかかわらず、驚異的に高い利益を上げられる秘密は何か。また、競合他社はなぜ同社のような高い収益性を達成できないのだろうか。