豪州に入り浸る中国を傍観する日本(フォーサイト)
ようちゃん、おすすめ記事。↓
▼豪州に入り浸る中国を傍観する日本(フォーサイト)
資源大国オーストラリアで中国が国を挙げて資源確保を図る中、「労働党とのパイプなし」の日本。“善き隣人”を失う危機に――。
[シドニー発] ケビン・ラッド自身、これほど反発が出るとは思いもしなかっただろう。いわゆる「日本素通り」だ。ラッド率いるオーストラリアの労働党は昨年十一月の総選挙でジョン・ハワードの保守連合(自由党、国民党)政権を破り、政権を奪還した。労働党政権は十一年九カ月ぶりだ。そのラッドが三月下旬から四月半ばにかけ、関係主要国を歴訪する長期外遊に出た。新首相としての「あいさつ回り」とも言える旅は、まずは外交の基軸である米国に飛んだ。それから元宗主国の英国。そして欧州からの帰路、アジアに寄った。アジアは日本でなく、中国である。
「日本軽視だ。四日間も中国に行くのなら、一日でも日本に寄るべきだ」。出発前から野党保守連合から批判が噴出した。日本は豪州にとって最大の貿易輸出先。しかも、「同じ価値観を有し、アジア太平洋で日本ほど親密なパートナーはいない」(ハワード前首相)として、対日関係を重視してきたからだ。国内外のメディアからも「なぜ日本に行かないのか」と再三、質問攻めにあったため、ラッドは米国滞在中に急遽、「六月訪日」の調整に入り、実際に六月八日から十二日の五日間、初の訪日を果たす。ここで注目すべきなのは、最初からラッドの頭には、すっぽり「日本行き」が抜け落ちていたことだ。長期外遊に先立ち、豪政府が日本政府との間で訪日を調整した形跡はない。地元紙の言葉を借りれば、「首相は日本に無関心」(オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー)と表現するのが適当かもしれない。
・勢いが違う日中ラッドが中国を訪れる理由は二つある。
一つは豪州の現在の好景気を作り出しているのが、まさに中国であるからだ。中国からの需要急増を受け、主力輸出品の石炭や鉄鉱石など鉱物資源の価格が高騰し、BHPビリトンやリオ・ティントといった豪州系の資源会社の業績は絶好調が続いている。鉄鉱石や石炭の一大生産地を抱える西オーストラリア州やクイーンズランド州では、中国からの需要に対応するため、開発が急ピッチで進む。開発現場での人手不足は著しく、資源関係の労働者は年収がいずれも十万豪ドル(約一千万円)を超え、プロジェクト・マネージャー(現場監督)クラスでは二十万―三十万豪ドルにもなる。これが全体の経済に波及し、失業率は約三十年ぶりの低水準。不動産価格や株の値上がりで個人の平均資産はこの十年で約二・五倍に膨らんだ。中国との貿易額はここ数年、年二ケタのパーセンテージで増加している。貿易総額(輸出と輸入の合計)では日本が長らく第一位だったが、二〇〇七年には勢いで優る中国が初めて日本を上回った。日本は輸出先としてはトップを維持しているが、中国のこのペースが今後も続けば、数年で抜かれるのは間違いない。観光でも日本人旅行者が毎年減少している中、急増しているのが中国人旅行者。年間三十五万人(〇七年四月―〇八年三月)という数字は、上得意の日本人(五十一万人)とはまだ二十万人近い差があるが、中国人旅行者は五年前のほぼ二倍。近い将来、日本人に取って代わってトップになるのは間違いないだろう。この動向に合わせ、豪航空最大手カンタス航空は九月からシドニー―東京便を週九往復から七往復に減便し、週三往復のメルボルン―東京便を廃止する。この減便が「日本人観光客の減少に拍車を掛けるのは間違いない」(日系の大手旅行会社)。一方でカンタスは三月からそれまでのシドニー―北京線(週三往復)、シドニー―上海線(週五往復)に加え、メルボルン―上海線(週二往復)を新たに就航させている。日本便減便の表向きの理由は「燃料費の高騰」としているが、豪企業の「日本離れ」を端的に表している。
そして、中国訪問の理由のもう一つが、ラッド本人が根っからの「親中派」であることだ。ラッドは大学で中国史と中国語を学び、外務官僚時代には北京のオーストラリア大使館に駐在した。中国語の流暢さは、実際に会談した中国の胡錦濤国家主席をも驚かせるほどで、西側先進国の中でこれほど中国に通じた首脳は初めてであろう。ラッド本人は「親中派」のレッテルを貼られることを極度に嫌い、日ごろの言動にも注意しているという。しかし、今回の「日本素通り」騒動で、図らずもラッド政権がアジアでは日本よりも中国を重視していることが浮き彫りにされた。豪州での中国の存在が大きくなる中での「親中派」首相の登場は、時代を象徴する出来事かもしれない。
・閣僚すら訪問せずただ、ラッドの日本素通りは、実は「素通りされた側」にも問題があった。
日豪関係は、資源貿易を中心に経済分野では緊密な関係がもう四十年以上も続いているが、政治分野ではそれほどでもなかった。急速に接近したのはここ二、三年。〇五年二月に小泉純一郎首相(当時)がイラク南部サマワで活動する自衛隊の警護をハワード首相(同)に要請したあたりからであろう。小泉とハワードとはウマが合った。この二人の個人的つながりから、自衛隊と豪軍の協力関係の素地が出来上がり、〇七年三月の「日豪安全保障共同宣言」へと発展する。これは自衛隊と豪軍が共同訓練や情報交換などで協力することが目的。日米安全保障条約のような軍事同盟の色合いは薄いが、日本が米国以外の国と安保分野で二国間協定を結ぶのは初めてだ。そして、昨年には外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)がスタート。2プラス2も日本は米国以外とでは豪州が初めてだ。アジア太平洋の安全保障問題を協議する日米豪の三国首脳会談も始まった。だが、「日本政府はいまの労働党政権にまったくパイプを持っていない」――。在豪の日本企業からはこのような嘆きが聞こえてくる。しっかりとしたパイプがあれば、少なくともラッドの長期歴訪の際、「日本行き」の調整ぐらいはしたはずだ。ラッドは昨年十二月の首相就任と前後して、米国のブッシュ大統領、英国のブラウン首相、インドネシアのユドヨノ大統領、中国の温家宝首相と相次いで電話会談を行なっている。しかし、福田康夫首相との電話会談は五月半ばになってから。「互いの時間の調整ができなかった」(日本政府関係者)というが、これは福田首相自身が豪州に関心がないからか、あるいは、日本の外務省の調整能力が欠如しているか、どちらかだろう。加えて、アンバランスな往来の問題もある。「豪州政府は政権発足以来、これまで七人以上の大臣を日本に派遣している。しかし、日本からは大臣が来ましたか? まだ一人も来ていないじゃないですか」。ラッドは訪日中の日本記者クラブでの会見で、「日本素通り」を追及され、こう言って反論した。そもそも日本の首相の来豪は、〇二年四月の小泉首相(当時)以来、ない。昨年九月には安倍晋三首相(同)がシドニーに来ているが、あくまでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合出席が目的で、公式訪問ではなかった。大臣さえもこの半年間で一人も寄越さないのに、そんなに素通りを批判される覚えはない、と言うのがラッドの本音なのだろう。日本の民間企業が懸念するのは、豪中関係が経済分野で結び付きを強めている中で、豪州の鉱物資源やエネルギーを今後どのように確保していけるかだ。豪州からは鉄鉱石、石炭、液化天然ガス(LNG)、アルミニウムなどを大量に日本に輸出している。鉄鉱石と石炭に至っては日本で使われる六割を豪州産に依存している。中国はアルミメーカー、中国アルミ(チャルコ)がリオ・ティントに出資するなど、国有企業あるいは国有ファンドがこぞって豪州の資源会社や鉱山プロジェクトに投資し、国を挙げて資源確保を図っている。豪財務省によると、中国からの豪州への直接投資額は〇五年から二年間で約九十九億豪ドルだった(日本からは約六十八億豪ドル)のが、今年はこのわずか半年間で三百億豪ドル(申請額ベース)にも達しているという。胡錦濤国家主席が〇七年九月のAPECでシドニーを訪れた際は、鉄鉱石の開発現場を視察するため、わざわざ豪西部の西オーストラリア州から豪州入りした。その前年四月には温家宝首相も豪州を訪問。キャンベラでの首脳会談の前に、やはり西オーストラリア州を訪れ、資源関係の施設を視察している。
このように将来の資源の安定確保に向け、トップ自らが積極的に豪州にアプローチする中国の動きは、日本とは対照的だ。日本政府は、これまでの日豪の強固な経済関係に安穏としていていいのだろうか。ラッドの日本素通りは、むしろ日本政府の危機感の欠如を露呈してしまった感がある。ラッドは現在、地元紙の世論調査で七〇%前後の記録的な高支持率を維持している。国民の長期政権志向の強い豪州では、新しい首相が一期で交代したのは、戦後わずか二例だけ。人気のラッドがよほどの失政をしない限り、政権は二期、三期と続く。発足当初、人気薄だったハワード政権でさえ四期にわたった。ラッドの関心を日本に向かせない限り、しばらく日豪関係は退潮の時代が続くことになる。
筆者:ジャーナリスト・犬飼 優 Inukai Masaruフォーサイト2008年8月号より
------------------------------------------
ようちゃん。↓
★資源大国オーストラリアで中国が国を挙げて資源確保を図る中、「労働党とのパイプなし」の日本。“善き隣人”を失う危機に――。首相は日本に無関心。ラッドが中国を訪れる理由は二つある。一つは豪州の現在の好景気を作り出しているのが、まさに中国である事。もう一つが、ラッド本人が根っからの「親中派」。日豪関係は、資源貿易を中心に経済分野では緊密な関係がもう四十年以上も続いているが、政治分野ではそれほどでもなかった。急速に接近したのはここ二、三年。だが、「日本政府はいまの労働党政権にまったくパイプを持っていない」アンバランスな往来の問題もある。「豪州政府は政権発足以来、これまで七人以上の大臣を日本に派遣している。しかし、日本からは大臣が来ましたか? まだ一人も来ていないじゃないですか」
ラッドは現在、地元紙の世論調査で七〇%前後の記録的な高支持率を維持している。国民の長期政権志向の強い豪州では、新しい首相が一期で交代したのは、戦後わずか二例だけ。人気のラッドがよほどの失政をしない限り、政権は二期、三期と続く。日本の 外務省も 何やってんでしょうね。