【閉ざされた日本の空】 最終回 需要生まない空港は廃止も | 日本のお姉さん

【閉ざされた日本の空】 最終回 需要生まない空港は廃止も

ようちゃん、おすすめ記事。↓
【閉ざされた日本の空】 最終回 需要生まない空港は廃止も
「伊丹空港の廃止も含めて検討し、きちんと方向性を出さないといけない」。さる7月31日、大阪府の橋下徹知事が予算陳情のために訪ねた財務省で記者団にこう話した内容が物議をかもしている・・・。「伊丹空港の廃止も含めて検討し、きちんと方向性を出さないといけない」 さる7月31日、大阪府の橋下徹知事が予算陳情のために訪ねた財務省で記者団にこう話した内容が物議をかもしている。かねて苦戦が伝えられる関西国際空港の援護射撃なのか。あるいは単に伊丹空港に関する自治体負担に対する抵抗だろうか。 常日頃から極めて実現の難しい政策をぶち上げる橋下知事にとって、これも独特の観測気球には違いないだろうが、問題が問題だけに、航空関係者の胸を衝く発言だったと言える。無駄な空港の廃止論もあながち絵空事ではない。空港を取り巻く環境は、それほど急激な変化を余儀なくされているのである。

・大幅な路線見直しに踏み切るJALとANA
航空界の変化は、国交省の政策や航空会社の運営にも如実に表れている。例えば羽田空港の国際化については、本連載を開始した当初の4月、国交省は2年後の再拡張による増枠は年間3万回としていたが、わずか1カ月足らずの間に6万回に増やすと方針転換した。 また、原油燃料の高騰が航空会社の経営を直撃、日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)が揃って、国内外の大幅な路線の見直しを発表してきた。JALは今年度内に21路線、ANAも今下半期に11路線の減便・廃止を決定した。 結果、国内では、関空をはじめ福島や仙台といった赤字空港の路線が廃止され、このままでは経営の成り立たない空港が目白押しになりそうな状況だ。全国津々浦々に97もある日本の空港再編時代に突入した、という声が上がっている。橋下知事の衝撃発言には、そうした日本の苦しい空港事情が背景にある。 それだけに、単なる仮定の話とは受け取れないのである。 これまで見てきたように、日本の地方空港は近隣のアジア諸国との便を結んで活路を見いだそうとしてきた。韓国の仁川国際空港路線や台湾の桃園国際空港を結ぶチャーター便の開設などがその典型だ。最近では、マレーシアの格安航空会社「エア・アジアX」が、羽田など8空港を対象に路線開設の協議に入っているという。

・オープンスカイが根底に
が、もともと就航数の少ない地方空港にとっては、海外の航空会社が路線を1つや2つ開設したとしても、それで空港経営を十分に賄えるわけではない。燃料高や世界経済の減速の影響を受けて、むしろ今は、運航数の縮小や撤退を持ち出してくる。 こうした寒風が吹き荒ぶ中で、日本の空港は逆境に立ち向かうだけの準備を整えているのか。この連載で何度も指摘してきたように、世界の航空界には米国が進めてきたオープンスカイ政策が広がってきている。 JALやANAが踏み切った不採算路線の縮小・撤退は、マクロ経済環境の悪化以外にも、自由化に伴う世界的な競争激化が背景にある。 アジアの中では、最も自由化が進んでいるシンガポールにマレーシアやタイが続き、中国や韓国といった日本と隣接する東アジアの国際空港はアジアのゲートウエイ争いを展開している。そんな中、日本の空港には、将来に向けた経営戦略が見えてこないのである。

・関心の中心は成田、羽田の開放
内外の航空関係者にとって、最大の関心事は成田や羽田といった需要のある首都圏空港の開放である。世界中が成田や羽田の開放を望んでいるのは間違いない。 「日本路線の場合、我々として魅力があるのは、現在就航している東京、大阪、名古屋、福岡の4空港で、これで十分です。中でも、成田をもう少し開放してほしい。羽田は難しいかもしれませんが」  タイのタイ航空(TG)のパンディット・チャナパイ副社長はそう言い、韓国・アシアナ航空の朴東勉営業企画部次長は次のように話していた。 「日韓路線では日本へ向かう利用者の47%が首都圏の空港を使っています。ですから、2010年の羽田や成田の増枠には期待しています。現状ではソウル・東京便は1日6便ですが、とりわけ金浦・羽田便をプラス2便、できれば4便増やしてもらいたい」
これに対し、首都圏の年間発着回数について、2年後に羽田の6万回と成田の2万回の合計8万回を新たに国際線に開放するというのが、日本の答えだ。目下、40カ国が就航の順番待ちをしている成田空港の年間発着枠20万回にこれをプラスすれば、28万回になる。成田空港の森中小三郎社長は言った。 「機能的には30万回の発着枠を設けることができます。状況を見ながら22万回で足りないなら、25万回、30万回と増やすことも検討します」
とすると、羽田を加えた首都圏の国際線発着回数は、36万回になる。これにチャーター便を加えると38万回程度。従来、20万回程度の発着では3400万人の利用客数だったので、単純計算では6000万人に増えることになる。 これをタイのスワンナプーム空港と比べると、「現在の4500万人の容量から2014年までに6000万人が利用できるよう拡張する」(タイ空港サラジット・サラポルチャイ副社長)とほぼ同クラスになる。韓国の仁川空港は現状で、41万回の発着枠で4400万人。このままならば日本の首都圏空港が仁川を凌ぐが、仁川もこの先の4本目の滑走路建設を計画している。これが実現すれば、51万回で1億人の旅客を運べるマンモス空港になるという。 むろん規模だけが空港の価値ではないが、日本の場合、これらの海外の空港と大きく違うのは、1つの空港ではなく成田と羽田を合わせた数字である点だ。タイではドンムアン、韓国では金浦と、両国とも新空港の近くにもう1つの国際空港の運営を続けているが、あくまで暫定的な措置だ。だが、本来、スワンナプームや仁川は拡張を前提として建設されており、単一空港として要求される近代国際空港の要素を備えている。日本が将来的に苦しい立場にある現実は否めない。

・「国際は成田、国内は羽田」の呪縛
こうした拡張余力のあるアジアの空港と、いかんともしがたい物理的制約のある日本の首都圏空港が競争していく1つの方法は、今できる範囲で拡張し、旺盛な需要を取り込んでいくしかない。連載の第6回で指摘したように成田は、潜在的に40万回の発着能力を持っている。騒音問題から容易に発着回数を引き上げることはできないが、工夫の余地は残っている。 羽田も改革の余地は残っている。国交省は2011年の国際線発着枠を6万回としたが、それには「国際は成田、国内は羽田」という利用目的へのこだわりからだ。冒頭のアシアナ航空の朴東勉営業企画部次長の発言のように、羽田の発着枠拡大を求める航空会社は多い。 韓国の航空会社は、日本の地方空港と積極的に路線を開設しているが、それは、あくまでも需要地である羽田路線の拡大を視野に入れた実績づくりの面も否めない。こうした海外からの需要があるにもかかわらず、国交省がそれに十分応えようとしていないのは、赤字に苦しむ国内の地方空港を配慮してのこと。地方空港にとって羽田は唯一、収益を計算できる路線で、羽田の発着枠の確保は死活問題になっている。
だがこうした“延命策”には限界がある。少子高齢化による国内旅客数の減少、加えて新幹線や道路網の整備が進めば、小手先の空港?延命策?は焼け石に水だろう。もちろん本連載で指摘した能登空港のように健闘している地方空港もあるが、概して国内路線は頭打ち。 地方と言うより基幹の福岡空港でさえ、赤字である。能登空港のある石川県の谷本正憲知事は、「航空会社とともに利益を上げていくという共存ができないなら、廃港することも検討すべきだ」と辛辣な指摘もした。

・静岡空港への冷めた見方
空港整備特別会計(現・空港整備特別勘定)というプール制の特別会計により、日本の空港は整備・建設されてきた。かつて地方自治体にとって空港建設は悲願だった。それを後押ししてきたのが空整特会だ。 その結果、全国に97の空港ネットワークが張り巡らされてきた。さらに来年には静岡空港がオープンし、再来年には茨城空港が開港する。静岡空港は、韓国のアシアナ航空が就航を決めたと関係者たちは喜ぶ。韓国・静岡路線については、韓国客に人気の富士山観光が目玉、だともいう。だが、先のアシアナ航空は、意外に冷めている。 「静岡空港はあくまでも首都圏空港の補完的な空港としての役割を担うものと理解しています。また航空会社にとって、観光目的は安定的な高収益路線とは言えません」(前出・朴東勉営業企画部次長) 一見、華やかに思える空港は、その実、ほとんどが経営難に喘いでいる。鳴り物入りでオープンした中部国際空港の利用者数は利用者数は1182万人(2007年度)と、福岡の1783万人を大幅に下回る。また、発着回数は10万回程度で、これも福岡の約14万人を下回る。こうした中で辛うじて2億 9600万円の利益を出しているにすぎない。関西空港の赤字体質は繰り返すまでもないだろう。 しかも、関空や中部、成田などの株式会社化された空港以外、空港は長らく個々の経営実態を公表せず、不明のままだった。ここへ来て、国交省は、ようやく個別空港の経営実態を公表する方針を発表した。だが、あまりにも方向転換が遅い。

・滑走路以外も建設する仁川の深謀遠慮
好む好まざるにかかわらず、日本が航空の自由化競争に巻き込まれるのは論をまたない。オープンスカイの進展で、航空会社の空港選別の目はますます厳しくなる。空港の収益環境はさらなる悪化が避けられない。 「「空港は社会インフラ。収支だけでその価値を判断すべきではない」という意見も一理あるだろう。しかし、大阪の橋下知事発言が示すように、日本の苦しい財政事情では、もはや赤字垂れ流しの空港を維持する余力はなくなっている。空港みずからが独自の生き残り策を模索しなければ将来はない。 「需要が大きければ空港は繁栄するのです」 前回記事で紹介した仁川国際空港公社・鄭濬専務・ハブ戦略室長は、こう述べる。仁川空港は、その周辺にテーマパークやファッションセンターなどの建設を計画している。それは、従来の空港の利用法という発想から抜け出し、空港を中心とした街づくりをめざしているからだ。それにより新たな空港需要が生まれると期待しているのである。 かたや日本では、これまで「空港さえつくれば、航空会社が路線を開設してくれ、赤字は国や地方自治体が面倒を見てくれる」という発想だった。その発想から抜け出せない限り、「廃港」が続出することになるのではないか。それほど厳しい自由化時代に突入したのである。。 当連載は今回で終了致します。ご愛読、ありがとうございました。
-----------------------------------