斎藤吉久の「誤解だらけの天皇・皇室」vol.46 ・『台湾の声』 | 日本のお姉さん

斎藤吉久の「誤解だらけの天皇・皇室」vol.46 ・『台湾の声』

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斎藤吉久の「誤解だらけの天皇・皇室」vol.46
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 1 東宮批判より祭祀の正常化を
西尾幹二先生による東宮批判の検証を続けます。今号は「WiLL」9月号の論考を取り上げます。
先生は同誌の論考で、ソ連崩壊後のロシアや第二次大戦後のドイツと対比させながら、長々と日本の敗戦の歴史を描いています。先生が、敗戦と占領で日本の精神の中枢が毀(こわ)され、権力の空白をアメリカが埋めた経緯を深刻なものとして振り返るのは、日本の権力が失われ、国家中枢が陥没する恐怖の到来を感じるからです。先生は、権力の不在、国家中枢の陥没の主因が東宮殿下の世代になって、皇室みずからがパブリックであることをお忘れになっていることにある、と指摘しています。そして、皇室は「民を思う心」によって国民の崇敬と信頼をかち得てくださればいい、と願うのでした。

▽重要なのは天皇個人ではなく皇位
先生の心配は理解できないわけではないのですが、論考には天皇・皇位に関する認識に基本的な誤りがあるように私は思います。もうすでに繰り返し書いてきたことですが、先生は天皇という存在を、固有名詞で呼ばれる個人と理解しています。だから、「昭和天皇が御退位にならず、日本の歴史の連続性を身をもって証明してくださった」と「感謝」することになります。しかし天皇による歴史の連続性というのは、天皇個人の政治的行為の結果ではないはずです。ヨーロッパの王制とは違うのです。そうではなくて、先生のいう「パブリック」、つまり公正無私なるお立場での「祈り」の継承が日本の歴史の連続性を意味しているのだと思います。祭りの霊力によって、多様なる国民を統合してきたのは、個人としての天皇ではなく、歴史的存在としての天皇です。歴史家が個人としての天皇に注目するのは理解できますが、重要なのは祭祀王としての天皇の地位、つまり皇位です。

▽君徳は皇祖神の神徳による
先生の論考の第二の誤りは、その皇位の継承が将来、皇太子・同妃両殿下によってなされるかのように理解していることです。9月号の論考では、いみじくも「皇太子殿下妃殿下の皇位継承」と表現されていますが、完全な誤りです。皇位を継承するのは、いうまでもなく天皇お一人です。両殿下によって、あるいは両陛下によって、皇位が継承される、と誤解しているから、妃殿下批判に血道を上げ、「天皇制は雅子さま制に変わる」ことを妄想たくましく忌避することになるのでしょう。

第三の誤りは、世襲による皇位の継承者に対して、国民の立場から国民の信頼に足る「徳」を要求していることです。
このことは同じ号に載っている渡部昇一先生の論考「『雅子妃問題』究極の論点」にも共通しています。渡部先生も盛んに「天皇の御君徳」を力説しています。天皇に君徳が備わっていることは望ましいことですが、君徳が皇位継承の要件ではありません。皇位は世襲であり、皇祖神の神意に基づきます。天皇の君徳とは皇祖神のご神徳によるものであり、祭祀の厳修によって磨かれます。
▽見当たらない神への畏れ
したがって重要なことは、東宮殿下が「パブリック」であることを忘れないようにすることではなく、天皇の祭祀の正常化を図ることだと私は思います。西尾先生は、敗戦が近づいた日々の昭和天皇こそ、「ゼロ時」(法の庇護から見放された「無権利状態」)の体験者だった、と書いていますが、そのようなときにあっても昭和天皇は「国平らかに、民安かれ」と祈る祭祀王としての自覚を忘れませんでした。昭和20年の元旦、空襲警報が鳴るなかで昭和天皇は四方拝をおつとめになり、翌年の歌会始では「ふりつもるみ雪にたへて色かへぬ松ぞ雄々しき人もかくあれ」と詠まれました。繰り返しになりますが、求められているのは東宮批判ではなく、祭祀の正常化です。原武史教授の「祭祀廃止論」批判でお話ししたように、昭和50年以降、憲法の政教分離原則をことさら厳格に考える官僚たちによって、天皇の祭祀が破壊されたままになっているのは、じつに由々しいことです。西尾先生の論考は、原論文と同様、神への畏れが見当たりません。
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『台湾の声』
論説】台湾の新駐日大使が決まる―懸念される日台関係の後退
永山英樹
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台湾の駐日代表は駐日大使に相当する。「大使」であり得ないのは日台間に外交関係がないため。だからと言ってその役割が小さいはずがない。なぜなら日台にとり両国関係はきわめて重大だからだ。一九九六年、台湾人の李登輝氏が台湾国民による初の直接選挙を通じて総統に就任し、台湾がすでに「中国国民党の台湾」から「台湾人の台湾」へ移行していることを世界に知らしめたが、その直後に駐日代表に就任したのが荘銘耀氏だった。台湾人として初めて海軍総司令にまで上り詰めた人物でもあり、そのこともまた「台湾人の台湾」を日本人に強く印象付けた。日本時代に生まれ育ち、旧制高雄中学に在学中に終戦を迎えた完璧な知日家だった。そしてこの駐日代表のおかげで台湾海軍と海上自衛隊との将官交流(日本側は退役将官)が活発化したそうだ。そしてその結果であろう、二〇〇四年に行われた台湾の掃海演習には日本の退役将官がオブザーバーとして参加し、日本の訓練実施要領が導入されてもいる。このように一般国民にはほとんど知られていないが、台湾海軍と海自は友好的な関係にあり、実に頼もしいことだ。ちなみに両者間では、尖閣海域へはそれぞれ軍艦を派遣するような事態は避けるとの合意もできているらしい二〇〇〇年五月から〇八年五月までの民進党政権時代には、羅福全氏と許世楷氏の二人が前後して駐日代表を務めた。両氏は学者で、日本留学中に台湾独立運動に従事し、民主化時代以前は国民党のブラックリストに載って帰国できず、日本での生活を余儀なくされていた人たちだから、もちろん日本と日本人を知り尽くしていた。二人は在任中、「台湾人の台湾」の存在を懸命にアピールした。そしてその結果、日本政府は日台交流の重要性により重視するようになった。また彼らの努力や人柄を通じ、日本人は政治家から民間に至るまで、多くが台湾および台湾人を理解し、好意を寄せるようになった。この二人の在任中が、日台関係の最も良好な時期だったと評されている。その後、二〇〇八年五月、国民党が政権を奪還した。しかし新任の駐日代表が決まらず、許世楷氏が暫時留任したものの、そこへ尖閣海で台湾船の沈没事故が発生し、在台中国人が主導する国民党政権は反日を煽動した。劉兆玄行政院長(首相)は「最後の最後は開戦も排せず」とまで公言した。日台関係を守るため、事態の収拾に奔走した許世楷氏は、日本に与する裏切り者として非難され、憤って駐日代表をめた。同政権は尖閣海域への軍艦派遣を決めた(後に中止)。海自ではこれを合意違反とし、台湾側に不信感が抱かれていると言う。台湾紙自由時報(八月二十一日)によるとこの反日騒動により、せっかく進められていた日台の将官交流の制度化も、日本側の意向で無期限停止になったそうだ。このような情勢の中で八月十九日、ようやく新しい駐日代表に馮寄台氏が内定した。今年六十二歳の馮寄台氏は元駐ドミニカ大使。国民党籍の在台中国人で、外交官引退後は総統選挙で馬英九陣営の国際事務部門におけるブレーンとして活躍。外交官だった父親に伴い来日し、日本の小・中学校に通った経験を持つ。

この人事について歐鴻
外交部長(外相)は二十一日、「人選で最も考慮したのはは馮氏が馬総統の信任を完全に得ていること。そして日本で学んだことがあり日本語は確かであることだ。すぐに日本との人脈を作ることになるだろう」と語っているが、民進党の国会議員たちがこれに噛み付いた。「馮氏は馬総統の信任が厚いが、駐日代表への任命は慰労の意味合いが強い」(潘孟安・立法院党団副幹事長)
「これはもちろん慰労のため。小中学校での勉強が日本経験を代表できるなら、多くの人が条件に合っている。駐日代表をなかなか決められなかったのは日本側が馬政府に不信感を持っているから。劉兆源が『一戦を惜しまず』といった問題は今でも引きずられている」(柯建銘・党団総召集人)「日米との関係は台湾には最重要。馮氏は日本語はできても、日本にはまったく人脈がない。羅福全氏や許世楷氏のように日本の政局を正確に掌握することは望みようがない。対日関係の後退が心配だ」(蔡煌瑯・外交国防委員)「馮氏は小中学校を日本で学んでいても、対日外交に触れたことはなく、対日関係もあまり理解していない。もしよりよい台日関係を馬総統が建立しようと言うなら、適切な人選とは言えない」(邱議瑩)馮寄台氏が日本で発揮できる力は未知数だが、ここまで聞かされると、日本人としてはやはり不安になる。劉兆玄行政院長は二十日、日本の駐台大使に当たる斉藤正樹・交流協会台北事務局長と会見し、「両岸関係が改善されれば東アジア地区には平和が到来し、我が国と日本との関係も更に密接になるだろう。双方の企業が協力して大陸(中国)で商機を開拓できれば一石三鳥だ」と語っているが、これら在台中国人の頭には「両岸関係の改善」しかないのか。それは「中国の言いなりになろう。中国を怒らせなければ平和が来る。日台関係の発展は、それからの話だ」と言っているに等しいが、どんなに台湾が中国に妥協しようと、その国の台湾や日本を視野にした軍拡が停止するわけがない。中国の迫り来る脅威の前で、台湾は日本とは一蓮托生の関係にあることを強調してきたこれまでの駐日代表の努力を、在台中国人たちは水の泡にしようと言うのか。歴代駐日代表は日本人に台湾の重要性を教えてくれた。今度は日本人が新しい駐日代表を通じ、台湾側に日本の重要性を訴える番ではないだろうか。「日台関係の強化は、日台両国生存の支柱だ」と。両国関係の良好な発展を祈る。
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