「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」  | 日本のお姉さん

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
    平成20年(2008年)8月20日(水曜日)
通巻第2295号  (8月19日発行)

 北京五輪の総括を始めよう
  愛国ナショナリズムの瞬間的爆発はたしかにあった
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開会式のショーは長すぎた。
CGや口パク少女などインチキが多かった。批判が集中して、チャンイーモウ監督も散々だが、小生にとって一番気になったのは56の民族が「中華民族」として宥和し、これからの中華文明文化を象徴するとして民族色豊かな舞踏を演じたあと、その踊り子の少女達が、じつは漢族だったという、最初から予測されたことだが、壮大なインチキである。つまり「中華民族」なる架空の概念が、政治的スローガンでしかないことが、この行為によって白日の下にさらされた。漢族が主流の漢族のための五輪であり、少数民族は北京五輪に価値を認めない事実も鮮明になった。五輪前にチベット、ウィグルへの弾圧は凄絶を極めたが、彼らを一元的に「五輪を妨害するテロリスト」だと詭弁を弄しても、海外メディアは北京の説明に冷淡だった。 頻発したテロ事件、爆破騒動に中国への同情心が沸かなかったのも、不思議と言えば不思議である。インチキが成立するのは政治と民衆との間に広がる「中国的闇」である。五輪のチケット一つをみても、はじめからインチキの花盛りだった。ネットオークションによるチケットの詐欺、売れ残りを公務員らを動員しての埋め合わせもうまく行かない。テレビ中継が全てを証明した。中国人選手のでない競技では席がガラガラではないか。
 
あらゆる中国の社会がこうなのである。騙す方が勝ちで騙された方が馬鹿なのだ。インチキ商品、コピィ商品、著作権侵害、海賊行為、無法。だから五輪のインチキ・チケットを印刷し、売りさばいて何が悪いか、という感覚。さすがに偽札が通貨発行量の弐割近いくにのことだけはなる。日本の旅行代理店の被害は相当だろうと想像できるし、JALもANAも、中国路線の廃止、中断、減便に追い込まれるだろう。
さて閉幕式も終わらないのに五輪をはやばやと総括するのは時期尚早かも知れないが、愛国、中華、大国くっき、百年の夢などの華々しい標語などは一体、どうなるか?五輪を成功裏に終わらせたことで、中国は「大国」の自信を背景に今後、世界史の主役となりおおせるのか?
開会式こそ中国人のモラルはまともに見えたが日が経つにつれ、花火のあとのように、モラルが縮んでいった。見せかけのモラル向上、束の間のボランティア精神。空席をうめるために動員された中国人団体は、日本チームを絶対に応援しなかった。
金メダルを期待された障害物競走のチャンピオン=劉!)が土壇場でフライングの後、棄権したときは「死ね」「賞金泥棒」「CMですぎ」などと悪罵のメッセージが書き込まれた。劉!)が「精神的圧力に耐えられない」と心理的に追い込まれた様子を訴える記事を、開会前にヘラルドトリビューンで読んで、中国の心理的環境の異常さを忖度した。いったん敗者になると、たとえ英雄であっても、「水に落ちた犬を打て」の中国的生き方が如実に生きていたのである。

排外主義的ショービニズムは、何回か指摘したように「義和団の乱」に行き着く。
中国人が文明的に遅れ、経済的に劣勢であることを、歴史の長さという唯一の中華的矜持で克服しようとしたとき、擬制ナショナリズムの瞬間的爆発が起こる。99年と01年におきた反米暴動も、05年の反日運動も、08年の反仏騒ぎも、全てはこれである。ユーゴスラビア中国大使館誤爆と海南島事件では、北京の米国大使館に火炎瓶が投げ込まれ、アメリカ大使は命からがら大使館から逃げだした。反日暴動は04年済南サッカーでのブーイングから北京での暴動へと至ったが、日本の勝利を「インチキで勝てた」などと絶対に自己の劣位を認めないことが動機である。北京のサッカー競技場には二千人の日本人サポーターらが夜中まで取り残され、大使館員らは邦人保護を抛擲して先に逃げた。中国人の民度に低さを嘆いたものだったが、本質は北京五輪でも変わらなかったように思える。
 
そして今後、中国は五輪の成功を背に民主化する? 全体主義一党独裁の体制が覆るシナリオは、百分の一の確率として存在はしても、実現性は希薄であろう。なによりもメインスタジアムが象徴して居るではないか。あれは庶民をこれからも鳥かごに閉じこめておきますよ、というメッセージでもあるからである。
   
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♪(読者の声1)貴誌にあった「宮崎正弘のコメント」のなかの「満州族のことですが、そもそも清朝は自らが漢化したわけで、清朝末期にいた満州八旗は、戦争中に分断され、日本に協力した粛親王など粛清された満族もあれば、毛沢東によってウィグルへ強制移住させられた組も居ます。旧満州に残った満族は、じつは可成りの数が戸籍申請で「漢族」としました。ですから表面的に満州族は消えてしまったかに見えるのです。吉林省から黒龍江省、内蒙古省へ行くと、かなりの数の満族がいますよ」。
昭和43年ごろ早稲田の語学研究所で“三日坊主”で終わりましたが、中国語の講座を受けたことがあります。そのときの講師が上品で美しい中年婦人で、開講第一声が『私は満洲人です。中国人ではありません。』でした。もっとちゃんと出席しておけばよかったと後悔しています。 (YT生)

(宮崎正弘のコメント)それは残念?

♪(読者の声2)満州の人口について書かれていましたが、あの数字は昭和15年(1940年)「満州地図帳」原書房からの数字です。
私は黄文雄さんの「満州国の遺産」で知りました97Pに記載されております。

♪(読者の声3)いつも貴重なニュースありがとうございます。
今年のお盆休みは5ヶ月ぶりのバンコクでしたが、その印象を少し。
・物価は米が3月より5割増、食堂や屋台も少しずつ値上げ。
・交通はタクシーが初乗り1km35バーツになったが伊勢丹のあたりから空港まで乗っても200バーツ程度、それほどの値上げではない。バスは据え置き。
・交通渋滞は少し緩和、BTSや地下鉄は客が増えている。
・象がやたら増えた。田舎はよほど景気が悪いのか。
・深夜の露店の営業時間が2時間ほど延びた。午前4時でも営業している店がある。
・娼婦が増えた。アフリカ系やアラブ系などいままで見かけなかった地域の娼婦や旧ソ連圏の白人娼婦も大々的に復活。ビザの発給規制緩和か。
・ショッピングセンターで目立つのがアラブ・アフリカ系の客。マーブンクロンなど欧米系の客が多かったのだが今回はアラブ系が激増している。
・不法就労で追い返されていたインド人の豆売りも少数ながら復活。
・韓国人観光客は激減(航空運賃の安い日本にシフト?)
・24時間スーパーで深夜12時以降に酒の販売を黙認していた。そろそろ酒の販売時間(11時~14時、17時~24時)の規制もうやむやか。
・コンビニでのタバコ販売も規則破りでパッケージを堂々と見せている。
・空港ではインド人の運び屋、ソニーの液晶テレビやホームシアターセットを大量に積み込み。アラブ人の荷物にもソニーのテレビはけっこう見かけた。
・ゴーゴーバー、ナナプラザは変わらず。ソイ・カウボーイはドリンクを値下げした店がかなりあった。一部の人気店に合わせて値段を上げたものの客離れか。
・日本の外食チェーンの進出が多い。カレーやとんかつなど韓国や台湾でも店が増えているが、寿司・枝豆・カニカマのようにタイで定着できるのか。
空港には深夜着でしたが前回より客がだいぶ少ない印象、入国審査も5人待ち。
タクシン時代は不良外国人追放や飲酒・喫煙・風俗営業の規制強化など体面重視の感がありましたが、景気に陰りの見えるタイ経済の現状、背に腹は変えられないといったところでしょうか。DB生)