太田述正コラム ・ ≪ WEB 熱線 第1061号 ≫ インド事報 | 日本のお姉さん

太田述正コラム ・ ≪ WEB 熱線 第1061号 ≫ インド事報

ようちゃん、おすすめ記事。↓太田述正コラム#2641
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<中共体制崩壊の始まり?(続x4)>

1 始めに
またまた、騒擾事件が中共であったようです。日本の主要メディアの電子版で本件をとりあげたのが、実質讀賣と東京だけとは寂しい限りです。
2 事件の概要
様々の主要メディアの報道の最大公約数は、次のようなものです。
中共貴州省(Guizhou province)甕安(おうあん)県(Weng'an County)で28日午後、死亡した中学2年生の少女(15)に対する強姦殺人容疑事件の捜査に市民が不満を抱き、数万人が県共産党委員会や公安局の庁舎を襲撃する騒擾が発生した。警官の発砲で市民1人が死亡したとの情報がある。中共では近年、当局の不正に対する抗議行動が各地で相次いでいるが、数万人規模の騒擾は異例。少女が今月下旬に死亡した後、公安当局は、死亡した頃にこの少女と一緒にいるところを目撃された3人を拘束して取り調べを行ったが翌日には解放した。また、少女の親族が捜査状況と死因を当局に問い合わせた上、公安当局に徹底捜査を求めたところ、公安関係者達によって暴行され、少女の伯父1人が病院で死亡が確認されたという。拘束された1人は副県長の息子だから解放されたとか、容疑者の1人の親が公安幹部だったため本格捜査が行われなかったとのうわさも流れ、怒った少女の学校の生徒達(12歳以上)約500人が28日の午後4時半から公安局に対して抗議行動を起こしたところ、蹴散らされたり叩かれたりし、これがきっかけとなって市民1万人以上が加わった騒擾に発展した。
騒擾の中で、県共産党委員会庁舎や公安局庁舎が放火され、その一部は全焼した。警察車両など約20台も燃やされた。消防車が駆け付けたが、群衆は斧で消火栓を壊し消火活動を妨害。警官隊は催涙弾を発射して威嚇したが、騒擾は29日午前2時頃まで続いた。騒擾鎮圧のため武装警察が動員され、市民約150人が負傷、生徒約30人を含む約200人が拘束されたという。新華社電は29日、少女の死についての法医学的所見に不満を抱いた人々によって騒擾が起きたが既に終息したと伝えたが、騒擾は同日もまだ続いているともいう。この事件の写真やビデオが中共の沢山のインターネット・サイトに掲載されたが、当局が介入してすぐにアクセス不能になった。少女の死体は先週(一説には6月初め)川で発見されたが、短い捜査の後自殺と断定されたもの。少女の遺族は、当局からの補償金3,000元の受け取りを拒んだところ、補償金が30,000元にアップされたという。

 3 感想
この事件を見ると、中共の地方当局が腐敗しており、人々の憤懣が鬱積していることがよく分かります。人々の攻撃の主対象が県の共産党委員会(county party office)であるというのでは、さぞかし党中央も肝を冷やしていることでしょう。それにしても、中学生達が騒擾の前衛となったというのですから、彼らの友情の篤さ、正義感、そして覇気は敬服に価します。日本の中学生達に、彼らの爪の垢でも煎じて飲んでもらいたいくらいですね。
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<R>
コラム#2641「中共体制崩壊の始まり?(続x4)」を読みました。流石です!東京新聞、読売新聞とも記事を削除してますね、日本のマスゴミの記事は魚拓とってないと、消されます。BBCとワシントンポストの記事は、しっかり残ってます。いかに、日本のマスゴミが中共に支配されてるか、判りますね!

<衆愚>
フィクションのくだり(コラム#2736)で、太田先生がHearts of Iron(PCのシミュレーションゲームです)をやったらどうなるのかと想像しました。僕はヘミングウェイが好きですね。蝶々と戦車はいいですよそれと遅くなりましたが、以前質問した際、丁寧なレスして頂きありがとうございました。南洋諸島≠東南アジア(コラム#2682)は僕の不勉強でした。どうやら南方=東南アジアや南洋諸島。このあたりから自分の誤解があったようです。

<太田>
ガーディアンに、男女の深淵(battle of the sexes)を描いた10大現代英語小説が紹介されています(
http://www.guardian.co.uk/books/2008/aug/19/top10.battle.sexes
8月20日)。 ご参考まで。このヘミングウェイも登場するリストの中で、私が聞いたことがある(読んだことがあるではない!)のは、Edward Albeeの『バージニアウルフなんて怖くない(Who's Afraid of Virginia Woolf?)』くらいですが・・。

<ライサ>
今日も雨で暇です。私は、他人を軽蔑したり意見を払いのけようとは思いませんが、「どうもどうも。」(コラム#2738末尾。太田)は、何を意味しているのか考えてしまいます。まさか、この、いわゆる米軍報道を信じきっているのではないでしょうね。もしかしたら本当かもしれない。しかし、一連のアメリカの動向から推察すれば、知っていても、「知っていた」と発表するわけが無いというのが妥当だと思います。先に、先制的に動きを発表し、短絡的に対応したら、今の現状、つまり「ロシアは悪い奴で、グルジアは被害者的立場である」と言う、いわゆる西欧の一般的な動向、そして、NATOは足並みは乱れても、ある程度方向的に同じ方向に向くだろうなどの動きは、最初から計画として立てられないでしょう。虚虚実実の駆け引きがあるのではないでしょうか。時には、まったく誤算として人間の心理を読み間違う過ちを犯しますが、個々の個別的対応で無く、もっと大きな世界的戦略があって米国、米軍は動いているのではないでしょうか。国防の中心にいた太田さんは、情報の操作・リーク・駆け引きについてどう思っているか知りたいです。

<太田>
私自身役所時代に、「駆け引き」的観点から真実の情報の「リーク」を行ったことは何度もありますが、これをも「情報の操作」と言われるのなら、「情報の操作」も行ったことになります。ただし、リークするのは真実の情報でなければ、メディア(記者)との信頼関係が崩れ、リークしても2度と取り上げてもらえなくなりますよ。なお、米国や(この場合は含めてもいいと思いますが)日本のような、報道の自由が確立している自由民主主義国家においては、政府首脳レベルが、(ローズベルトが日本軍による真珠湾攻撃情報を握りつぶした可能性が取り沙汰されているように)真実の情報の隠匿によるところの消極的陰謀を行うことは可能であっても、(英仏イスラエル政府の共謀による1956年のスエズ戦争のような)積極的陰謀を行うことは、それが早期に露見した場合のダメージを考えると不可能に近いことを、私はかねてより指摘してきたところです。この後の議論も参照して下さい。

<バグってハニー>
 海驢さんへのお返事です。
≫たぶん、イラン攻撃に備えて米国(&英国)が露西亜を牽制し、国内(国際?)世論の地均しをするため、米国の傀儡たるサーカシビリ氏を焚きつけたのでしょうね・・・≪(コラム#2738。海驢)もうすでに太田さんが突っ込んではいますが...。事実はそのような見立てとは逆で、米国はサアカシビリ・グルジア大統領に対して軍事行動をとらないように釘を刺しています。太田コラム#2730から「先月、・・・グルジアの指導者は米国務省幹部達に<南オセチアでの>戦争計画について話したのに対し、米国務省幹部達は、コーカサスにおける複雑な民族紛争に軍事的解決はありえないと警告した」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/aug/12/georgia.russia
。8月13日アクセス)
ちゃんとした報道・典拠に基づかないとトンデモなことになっちゃうという一例ですね。ここいらあたりが太田コラムが他の政治関係メルマガよりも優れている理由の一つだと思います。

<太田>
「開戦」直前の米国とグルジア間の生々しいやりとりが、朝日に出ていました。「・・・グルジアの南オセチア自治州では8月に入り、グルジア部隊とグルジアからの独立を求める南オセチア部隊の砲撃戦が続いていたが、米政府は独立を後押しするロシアの介入を懸念。「ロシア軍はグルジア軍の何倍も強大。グルジアは持ちこたえることができない」とグルジアに攻撃の自制を求めたという。 米政府は「戦車などの陸上部隊は食い止められても空爆でやられる」などとも訴えたが、グルジア政府は「村や国民を防衛せざるを得ない」として8日に南オセチアへの大規模攻撃に踏み切り、ロシアの軍事介入を招いた。ブライザ氏は会見で、南オセチア自治州政府ではロシア当局から派遣された人物が幹部を務めていると指摘。部隊指揮権もこうしたロシア当局者が握っていたとして、ロシアが衝突に当初から関与していたと批判した。」
http://www.asahi.com/international/update/0820/TKY200808200050.html?ref=goo 。8月20日アクセス)
 なお、米国政府がグルジア政府を「開戦」に追い込んだという積極的陰謀論が
田中宇氏によっても展開されていました
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/4cae82d67e3964061a7dfc0eacf492ff )。
 本当に困ったものですね。

<バグってハニー>
<B61-11についての議論は>なんか話がかみ合ってないですね。B61-11のレゾン・デートルは冷戦という時代背景を考えないと理解できないと思いますが。大きい核(戦略核)と小さい核(戦術核)は軍事的には明確に区別されますよ。B61-11は戦術的な使用も視野に入れた戦略核なのでは。
≫ついでに言うと、私の真意は、核の使用の可否を基準を持ってくると、小さくても大きくても核爆弾を使用するのは同じことだと言う所、つまり、よく皆さんがおっしゃる、いわゆる「ルビコンを渡る」か否かの問題に行き着くので、小さくすることも大国にとっては、あまり意味のあることとは思えません。≪(コラム#2738。ライサ)
ふつう、こういう言い回しからは、たとえ限定的ではあっても核兵器の使用はいずれ戦略核による報復、破滅をもたらす、というような批判、冷戦時代のロジックを想像するのですが。Wikipediaの戦術核の項にもそういった批判が書かれています。海驢さんもそういう読解のもと、グルジアは核を持ってないのでロシアは核による報復を恐れずに核を使用できるはずだ(必要があれば)、というレス付けてますけど、ライサさんは違うことを考えているみたいですね。未だに核の小型化に執心しているのは米国くらいだと思いますが、テロリストに盗まれるといった危険はもちろんあるとは思いますが、米国の核が拡散することを心配するよりも、テロリストやならず者国家に他のならず者国家の核が拡散することのほうがもっと差し迫った脅威だと思うのですが。そういう脅威に対処する一つの手段が核の小型化なのですが。
前にも書きましたが、米軍が北朝鮮の地下核施設を破壊するために核弾頭バンカー・バスターを開発していて、それが実際に使用され放射能が撒き散らかされたら日本にとっては非常に迷惑な話ですが、それでも、北朝鮮の核弾道弾で日本に直接放射能を撒き散らかされるよりははるかにましだと思うのですが。もちろん、そのような目的に用いる手段が過剰であってもいけないのであって、だからこそWikipediaの『No first use』の項にあるように、核保有各国では核の先制使用に関してポリシーが定められています。米軍が核兵器を使うのは相当切羽詰った状況だけですよ。一方で、核を手にしたテロリストやならず者国家はどう出るのかいまいち予測がつきかねますよね。小型核を使用しなきゃならないような事態を作り出さないことが 一番大事ではありますが、テロリストやならず者国家に対する予防的措置として戦略核よりも使い勝手のよい小型核があっても損はないと思いますが。

<太田>

われわれの間でこういった議論をすることもさることながら、日本政府に米国政府と(これまで全く行っていない)核協議を行うように促しましょう!
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☆ 25万円車「ナノ」苦境~タタの意地とプライド ――― はぐれ雲さん
今年初め、タタ・モーターズが華々しく公開した夢の1ラーク・カー‘ナノ’(ラークとはヒンズー語で10万の意味:時価約25万円)、タタグループ総帥ラタン・タタ氏が音頭をとって世界に「夢」をアピールした。「バイクより低公害の画期的な未来カー=624cc、1リッター21km走行」
ラタン・タタ氏は、声高に言った。‘Promise is a Promise’と。反響は大きく「夢」は世界を駆け巡り、その後、日産など世界有数の自動車メーカーが、対抗して「3千ドル車構想」を打ち上げている。‘ナノ’は、年内にも販売開始されるが、昨今の自動車用鋼板など資材の価格高騰で、生産現場は苦境に立たされている。5年前、1ラーク・カー構想をぶち上げたタタ・モーターズに、世間の人は首を傾げた。「そんなに安く出来るのか?」と。小馬鹿にしていた者もいた。「実現できたとしてもコストギリギリ、利益は殆ど無い。何故、薄利のプロジェクトに血眼になって取り組むのか?」と。タタ・グループ総帥のラタン・タタ氏は「タタ・グループの意地」にかけても実現すると豪語し、研究開発に乗り出した。インド人の中間層が買える低公害・大衆車を造ると…。1ラーク・カー構想発表以来5年経過、世の中は大きく変っている。石油化学関連素材を使う多くの自動車部品、自動車鋼板、その他殆ど全ての部品価格、そして人件費も上がっている。幾分かは想定内だろうが、基本原料である原油と鉄鉱石・石炭の異常な値上がりまでは想定していなかっただろう。現在、殆どの部品供給者と価格交渉中であるが、タタがかなりの部分の負担を負う事で決着しそうである。採算に合うとは思えない。今年1月、ナノお披露目のモーターショウ現場に立会い、実際ナノに触れた知人に聞いたが、車体の鋼板は薄く、ペニャペニャの感じ、何かに当たれば直ぐ凹んでしまいそうで怖くて乗れない、という感想を述べていた。限界点までコストダウンしたのだろう。
1月以降、原油も鉄鋼も更に価格上昇している。「タタの意地」といえば、歴史的に有名なのはムンバイにある‘タジマハール・ホテル’である。
植民地時代に英国がムンバイに建てた高級ホテルにはインド人は入る事を許されなかった。タタは、英国に対抗して、1903年、インド人の手でその高級ホテルに負けぬ豪奢なホテルを建てた。それが‘タジマハール・ホテル’である。「タタの意地」というより「インド人の意地と誇り」の象徴でもある。英国は対抗して、1911年、‘タジマハール・ホテル’の直ぐ前にジョージ5世とクイーン・メアリーの訪印を記念して「ゲートウェイ オブ インディア」を建てた。「ゲートウェイ オブ インディア」は、1947年インド独立直後、英国軍がこの門のアーチをくぐって撤退した事でも有名である。インド独立の象徴でもある。また、タタは絶対に政商にならなかった。マハトマガンジー国民会議派を支援し、インド独立後多大な恩恵を受けたヴィルラ・グループとは一線を画している。お陰でタタ・グループはインド独立後かなりインド政府から意地悪された経緯がある。宗教的確執があったのかも知れない。タタ・グループはパルシー=ゾロアスター教)である。今では、政商・リライアンスと対照的な‘清潔なインドの大財閥’として有名であり、アメリカの調査期間が毎年発表する世界の「優良企業」200社Reputation Institute Global 200 の6位にランクされている。巨額な寄付をして派手に宣伝するリライアンス・グループとは全く異なり、地道に、実質的に、且つ継続的に慈善活動・CSRを行っているグループでもある。規模でタタを大きく上回るリライアンスは優良企業200社内にはランクされていない。今年3月、タタ・モーターズはジャガーとランドローバーを23億ドルで買収し、高級車や商用車(バス・トラック)部門でも投資を拡大しており、全4輪車車種品揃えし、インド国内及び輸出に注力する体制を整えた。インドは、高級車・商用車の市場も、見逃せぬ大市場になる事は間違いない。
総道路距離数330万kmのインド、輸送は車に頼らざるを得ない。急速な経済成長と共に国内輸送量は急増する。商用車は爆発的に増えていく事は間違いない。富裕層も急速に増えている。さらに絶好調な金満中東諸国、インフラの乏しいアフリカはインドの市場である。全車種に輸出の可能性がある。現地には大勢のインド人が定住している。アメリカの景気後退に端を発し、今年年初よりインド株も大幅下落している。
苦境に喘ぐ‘ナノ’、ジャガー・ランドローバー大型買収に対する不安材料、景気後退・ガソリン高騰による自動車需要減少懸念、世界的な株安傾向、様々な理由でタタ・モーターズの株価は大幅に下がっているようだ。だが「タタ・グループの面子」をかけてナノの苦境を乗り越えるだろう。見方を変えればナノの難産は、結果としてタタ・モーターズの合理化に貢献する事になる。自動車用鋼板はタタ・スティールが協力するだろう。タタ・スティールは、前々より日本の製鉄メーカーとの自動車用鋼板技術提携を志向している。タタは自動車部品のJVに極めて積極的であり、日本にラブコールを送っている。自動車部品JVも増加中である。昨年末70歳になったラタン・タタ氏は現役引退を宣言した。最後の仕事として‘ナノ’を位置付けていた。ラタン・タタ氏は「インド企業の意地」として、「インド企業のプライド」をもって、苦境に立ち向かうだろう。当然「グループ総帥」の意向を汲み、タタ・グループは、グループ全体のプロジェクトとして対処する筈である。タタ・グループの2007年度純利益は、前年対比195%増、ナノ程度の苦境を乗り切る実力と資金力は十分ある。数年後のタタ・モーターズがどの様に化けるか楽しみである。