商社事務職OLの恋愛事情 社内恋愛では“負け組”に?(日経) 【白河桃子の「“キャリモテ”の時代
ようちゃん、おすすめ記事。↓
【白河桃子の「“キャリモテ”の時代」】 【第27回】商社事務職OLの恋愛事情 社内恋愛では“負け組”に?(日経)
今回は大手商社の事務職OLたちの恋愛事情と、この20年の社内恋愛の変遷について見ていく・・・ アラサー(Around30=25~35歳)世代の女性の恋愛事情は、どうなっているのだろうか? 最近、“アラサー向け女性誌”の取材を受けるたびに、読者の「カレシいる率」をチェックしているのだが、おしゃれな女性誌の読者も、なんと半数は「恋人なし」である。中には、「読者の6割にカレシがいない」という女性誌もあった。みな、20代後半~30代前半の働く女性を読者に持つ雑誌である。 20代後半~30代前半といえば、バブル時代は「社内恋愛」が花盛りであった。今どきのアラサー女性たちは、社内恋愛はしているのだろうか? 前回のコラムで登場した、商社の事務職OL4人に聞いてみた。
いまや社内恋愛の難しい時代
「社内恋愛が当たり前と思って入社したんですけれど(笑)、意外にないですねえ。周りの男性は既婚者ばかり…。だまされた、という感じです」という声が。確かに社内恋愛は、環境がものを言う。 バブル時に大手生命保険に勤務していた女性が、こう話していたのを思い出す。「本社の6階のフロアまではおじさんばかりで、7階以上は若い男性がいる。結局、7階以上に配属された子が、ダントツで社内結婚率が高かった。私も7階以上に配属されていれば…。ちょっと残念です」 社内結婚の法則は、今も昔も実は変わらない。「自分の半径5メートル以内」が肝心だ。だが事務職OLたちは、「半径5メートル以内に素敵な人が何人もいると思って入社したのに、結局50メートルまで広げてみても誰もいなかった」と嘆くのである。 この会社では、全社員が集まるパーティーが年に1度ある。「その時に、あちこち見回しているんですが、いい人がいないんですよぉ」。まあ確かに、理想的な男性は探してもそうそういるものではないだろう。しかし問題は、彼女たちの側にもあるのではないか…? 「カッコいい男性は、キレイでガツガツした人に持っていかれてしまう…。特に最近は、子会社の女性と本社の男性との結婚が多いんです」。この「ガツガツした人」というキーワード! これは、私が共著書『「婚活」時代』でも書いた、「結婚で食べていこうという覚悟のある、結婚のプロのような女性」に該当すると思う。 商社の分社、子会社化で、多くの本社社員が子会社に出向する。すると、本社の男性は子会社の女性に持っていかれるというのだ。「『女子大から大手企業の子会社に入社して、本社の男性と結婚する』という、“ちゃんとした結婚プラン”を持っている女の人もいるんです。私たちは、就職活動の時はそこまで考える余裕がなかったね」「私たち、負けてるよね」「うん、選択を間違えた」と口々に言う事務職OLたち。 「就職も恋愛も、ハングリーな人が勝つんですね」。正社員として事務職の仕事を手に入れた“勝ち組”とも言える彼女たちも、恋愛の方は同じようにはいかないようだ。ここで「社内恋愛の20年史」を見てみよう。 国勢調査などのデータによれば、日本人は1975年頃までは50歳までに95%の人が結婚していた。1960年代半ばまでは見合い結婚というシステムが趨勢だが、その後は恋愛結婚をする率が増える。1964年、東京オリンピックの頃に、見合い結婚と恋愛結婚のグラフが交差して、「恋愛結婚時代」を迎えるのだ。 しかしこの頃の恋愛結婚の多くは、社内恋愛による結婚だった。社内恋愛とは、実は企業の中に仕組まれた「集団社内見合い」でもあったのだ。1970~1980年代は多くの女性にとって、はっきりと「就職活動」=「結婚活動」でもあった時代である。日本の大手商社や銀行、メーカーなどが採用した事務職OLは、会社が「男性社員のお嫁さん候補」として囲い込んだとも言える。
OLは男性社員の“お嫁さん候補”
当時のOLたちは、入社後数年で社内の男性と結婚して退職するのをよしとされていた。「社員のお嫁さん候補」であるから、「浪人、非自宅通学、留年」の女子大学生は就職の際に不利になる。不利というより、そもそも採用条件を満たさないので入社できないという、今から見たら信じられないような高いハードルがあった。 さらに私がいた商社には、「女性は結婚したら退職」の不文律があり、毎年100人単位で事務職OLが退職し、同じぐらいの数の新しいOLが入社してくる。男性社員にとっては天国のような循環が、90年代半ばまで存在していた。 なんといっても、社内の事務職OLたちは入社4年目、5年目(短大卒ならまだ24~25歳だ)で、もうベテランと呼ばれるほど社内の女性の平均年齢は若く、かつ全員が独身…。今思えば、ダイバーシティーからは程遠い社内環境である。 当然社内恋愛は起こることが期待され、社内結婚も多かった。当時、商社マンの妻で最も多いのが社内のOL、第2位がエアライン関係者だった(商社マンは出張が多いためだ)。「半径5メートル以内の社内恋愛法則」は強かったのだ。 こうしたOLの仕事は、男性社員のアシスタント業務。男性の右腕として頼りにされることもあるが、決して男性の仕事の領分を侵さない。今の総合職女性のように男性のライバルになるようなことは、絶対にあり得ない女性たち。男性たちも安心して、彼女たちを「お嫁さん候補」と見ることができたのであろう。 当然女性の方も、「この会社で結婚相手を見つける」という“覚悟”で入社した人もいる。「人事部の女性は新入社員の男性の情報を知ることができるので、彼らが入ってくる前から目星をつけている人もいる」という噂もあったほどだ。 「同期会」という名の「合コン」もしょっちゅう開かれていた。男性の独身寮の寮祭にも、当然のように参加するOLたち。クラブ活動も活発で、テニスやスキーのクラブに、学生時代の延長のように“青春を懸けている”人もいた。仕事以外の「交流」も盛んだったのである。現在の「仕事中心」の職場に比べると、空気感が違う。 社内で男女がつき合うと、たいていは結婚する。社内恋愛がバレても結婚しないと、“人非人”のように思われる…。そんな「周囲の目」も背中を押したのだろう。会社の「集団お見合いシステム」が多くの人たちを結婚に導いた。 1990年代になると、少し様相が違ってくる。総合職女性たちの登場だ。雇用機会均等法は1986年に施行されているが、四大卒女性の就職の実態が変わってくるのは5年後くらいから。つまり90年代になって、マスコミや広告代理店を中心に、大量の総合職女性が誕生する。『負け犬の遠吠え』の著者、酒井順子さんの世代ぐらいからである。初めて、お嫁さん候補ではない女性たちが社内にやって来たというわけだ。 しかしそうはいっても、やはり社内恋愛は起こるものだ。妙齢の男女が同じ場所で長時間を過ごすのだから、何か起きない方がおかしい。 結婚に至る恋愛として社内恋愛が望ましい理由は、男女が同じ「場所」「時間」「目的」を共有するという条件を満たしているからだ。同じプロジェクトを担当したことがきっかけで結婚した、コンサルタントの男女の知り合いもいる。目的を共有することで「同志」としての愛も生まれる。一緒の「時間」を長く過ごすことで、相手の思いがけない一面を発見することもある。お見合いパーティーや合コンで出会った場合と違い、一見パッとしない人でも、相手に「中味」を見てもらう時間が十分ある。男女ともに、社内恋愛はとても良いことなのだ。
しかし90年代の総合職女性にとっての社内結婚は、「仕事との両立」が難しかった。結婚退職を迫られないにしても、出産や転勤で退職を余儀なくされる人も多かった。また同じ部署内で結婚すると、たいていは妻が配置替えされる。育児や家事に関する夫の理解も薄く、育児休業などに関する制度も少なかった。 結局、多くの優秀な総合職女性が結婚後家庭に入るようになるのは、同じようなエリート男性と職場で結ばれたからでもある。経済的に余裕があれば妻が働く必要もないし、夫は仕事が忙しい。どちらが家事や育児をやるかといえば、当然のように女性になる。90年代前半の社内結婚は、「結婚か仕事か」という厳しい選択を総合職の女性たちに強いたのである。 そして本当の「社内結婚の危機」は、1994年頃から始まった「就職氷河期」とともにやって来る…。