【ニュースを斬る】 地方の雇用を守るか、建設会社の農業参入:日経 | 日本のお姉さん

【ニュースを斬る】 地方の雇用を守るか、建設会社の農業参入:日経

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*【ニュースを斬る】 地方の雇用を守るか、建設会社の農業参入:日経
食糧危機は最大の好機――今こそ作れ、儲かる農業(6)
公共事業の大幅な減少によって、地方の建設会社は青息吐息の状態にある。活路を見いだすため、農業や介護事業に参入した業者も少なくない・・・
公共事業の大幅な減少によって、地方の建設会社は青息吐息の状態にある。活路を見いだすため、農業や介護事業に参入した業者も少なくない。2000年に農業生産法人「あぐり」を設立した愛媛県松山市の金亀建設(現・愛亀)もその1社だった。時代の荒波に飲み込まれ、将来に強い危機感を持った西山周社長は、社長に就任すると同時に農業への進出を決断した。 それから8年。60アールの水田から始まったコメ作りは50ヘクタールまで拡大した。農地は農家から借り受けているもの。高齢化などによる担い手の不足で西山社長の元に集まった。最近では、近隣から出る食品残渣を集めた堆肥作りも始めている。化学合成農薬や化学肥料などを使わずにコメを作るためだ。安全で、生産者の顔が見えるあぐりのコメは、地元で飛ぶように売れている。 雇用維持、農業再生、産業復興――。地方には課題が山積している。本業の舗装業に農業やリサイクル事業を組み合わせる愛亀の経営。東京から離れた松山の建設会社の試行錯誤に、地方だけでなく、日本が抱える問題を解決するヒントが隠されているのではないだろうか。
「まあ、実際に“巻物”を見てもらう方が早いと思いますよ」。愛亀の西山周社長はこう言うと、A4版の紙を張り合わせたグルグル巻きの資料をテーブルいっぱいに広げた。この巻物は、グループ会社の人繰りの推移を表した棒グラフである。1年分のグラフをよく見ると、月によってグラフの棒線の色と形が大きく異なっているのが分かる。例えば、11~3月。棒線の長さはほぼ同じだが、横軸の「0」を基点に、ほとんどが上に伸びている。2月、3月は特にその傾向が顕著だ。ちなみに、棒線の色はピンクである。一方、5~10月は下に伸びたグレーの棒線が目立つ。 色と上下の伸び方が月ごとに異る棒グラフ。上に伸びた棒線のピンク色の部分は舗装作業に必要な人員の数。下に伸びた棒線のグレーの部分は農作業に従事する人員数を示している。この巻物を見ると、愛亀の従業員は、11~3月は本業の舗装作業に就き、5~10月は農作業にシフトしていることが分かる。

・コメ作りと舗装工事は親和性が高い
松山市に本拠を置く愛亀は愛媛県を中心に舗装業を手がける地方建設会社である。売上高は36億円(2008年3月期)。無借金経営で自己資本比率は80%を超えている。この愛亀、実は50ヘクタールの水田でコメを作るコメ農家でもある。その生産量は年120トンに達する(2008年産の見込み)。 なぜ舗装会社が農業なのか。西山社長の広げた巻物にその解がある。 愛亀が農業に参入したのは2000年のことだ。1995年をピークに公共事業費は減少の一途をたどる。舗装が本業の愛亀にとって、公共事業の縮小は死活問題である。工事が減れば、舗装の技術を持つ従業員の雇用を維持できない。 建設会社の強さの源泉は高い技能を持つ従業員にある。淘汰の時代を生き残り、競争力を高めるには、技能を持つ人々を自社に抱えておく必要がある。「技能者を温存するにはどうすればよいか」。2000年に社長を継いだ西山氏は、農業生産法人「あぐり」の設立を決断した 。西山社長がコメに目をつけたのにはわけがあった。それは、舗装作業と農作業の繁閑がうまくずれるためだ。 舗装の仕事は国や地方自治体が発注する公共事業が多い。国や自治体は4月から新年度が始まるが、実際の工事は秋から3月にかけてがほとんどだ。それに対してコメ作り。水田の代掻きは5月上旬、田植えは5月下旬、稲刈りは9月末である。舗装工事とコメ作りは作業時期が重ならない。工事がない時期は農作業を、農閑期には工事にと、従業員を効率的に配置できる。 もちろん、繁閑のずれだけが理由ではない。農業には経営という発想が希薄。そこに、建設現場で培ったノウハウを持ち込めば、競争力のあるコメを作ることができると考えたからだ。 「精密農業」。IT(情報技術)やデータ分析を駆使したあぐりのコメ作りを西山社長はこう呼ぶ。この精密農業の代表が、センサーを用いた土壌管理である。水田にセンサーを入れ、窒素量や炭素量、電気伝導度、pH値などを計測し、データを集める。 窒素や炭素の量が把握できれば、水田に投入する肥料の量を調整することができる。水分量にばらつきがあれば、水田の高低差をなくすため、土をならす必要があるだろう。pH値が極端にどちらかに振れていれば、水田を休ませるという選択肢も出てくる。こうした土壌に関する様々なデータを分析し、施肥や作付け、水質管理に生かしていく。

・食品残渣を引き受け有機リサイクル
水田は1枚ごとにコンディションが異なる。土壌分析を徹底的に行うのは、水田ごとの品質のばらつきを抑えるためだ。そして、データ分析に長けた社員は社内にいる。「長年の経験を持つ生産者の方々にはかなわないが、彼らにできるだけ近づくために、科学的手法を取り入れている」と西山社長は言う。 次に食味値の追求である。 食味値とは、簡単に言えばご飯のおいしさのこと。330カ所の水田で取れたコメはすべて食味値を計測している。西山社長によれば、収量と食味値には密接な関連があるという。食味値を高めようとすると、収量が上がらない。食味値を高め、かつ収量を上げていく――。そんな相反する課題に取り組んだ結果、今では新潟産コシヒカリに負けないくらい高い食味値のコメも生産できるようになった。 では、有機リサイクルにも着手し始めた。おからや葉くずなどの食品残渣を有料で引き受け、その残渣を原料にボカシ(有機肥料)を製造するのだ。そして、そのボカシを水田にまく。あぐりで作るコメには化学合成農薬や化学肥料が一切、使用されていない。それが可能なのはこのボカシのおかげだ。 こうして作った農薬不使用のコメを地元に直接、販売していく。主な顧客は地元の個人やスーパー、レストランなどだ。実際に味が良いのだろう。あぐりが作るコメは普通のコメの2~3倍で売れている。 「自分たちが作ったコメがスーパーに並んでいるのは、今でも不思議な感じがしますね」。そう語る西山社長だが、取引先の開拓には苦労した。コメをスーパーに売り込むのは、それまでの公共事業の官庁営業とは勝手が違う。西山社長と事業本部長の2人で取引先開拓に汗を流した。 地元の食品残渣を集め、肥料を作って水田に戻す。そうしてできたコメを地域に還元していく。愛亀とあぐりの周りには小宇宙ができている。 今の時期、10人の作業員が水田に張り付いて作業している。彼らは普段は舗装で使う重機を動かしているオペレーターである。時期によって異なるが、10~20人の作業員が代掻きや田植え、雑草刈り、稲刈りなど水田での作業に専念する。 作業員は、近隣農家や住民との間に信頼関係を築くという役割も担う。「彼らはホントによくやってくれる」と西山社長が何度も口にするように、新参者が地域に受け入れられ、順調に規模を拡大し、さらに作ったコメが地元で売れているという背景には、従業員一人ひとりが地域とのコミュニケーションを大事にしてきたという面も大きい。

・グループ企業内で従業員を“貸し借り”
「コメの収支はトントンで構わない」と西山社長は言い切る。愛亀はコメで儲けるために農業を始めたわけではない。コメを作っているのは、あくまで本業である舗装業を強化するため。舗装工事の閑散期の人件費が出れば、それで十分ということだ。 公共事業が存分にあった時代は舗装だけで雇用を維持できた。だが、これからの時代に同じだけの公共事業を望むのはナンセンス。ならば、別の事業で繁閑の波を乗り切る――。西山社長の発想は至極真っ当である。 さらに、愛亀の取り組みが興味深いのは、従業員の“貸し借り”が舗装と農業の間にとどまらないということだ。愛亀には、アスファルトリサイクルや生コン製造、リフォームなど8つの子会社がある。このグループ企業の間でも人員の行き来が頻繁にある。 例えば、工場プラントの熱絶縁工事を手がける加賀工業。7月、香川県直島のプラントで定期修理の仕事があった。ここに、愛亀の舗装技術者が手伝いに行っていた。ほかにも、生コン子会社のダンプ運転手が舗装を手伝うことも。「組み合わせを考えることが私の仕事」。西山社長はそう言って笑う。 「インフラの町医者」。最近になって、愛亀はこの言葉をCI(コーポレートアイデンティティー)として使うようになった。道路舗装や下水管調査、リフォーム、プラント修理――。愛亀のビジネスは、地域の社会インフラと密接に関わっているものばかりだ。

・田畑や山林も社会資本と捉え事業領域を広げる
もっとも、ここで言うインフラは何も道路や橋などの構造物だけではない。農作物を生み出す田畑や山林もれっきとした社会資本である。視野を広げれば、建設会社の技能を生かす場面は数多くあるということだろう。 愛亀の元の社名は金亀建設。松山城の別名、金亀城から拝借した名前だ。今年4月、「愛亀」に社名を変えたのは社名から「建設」を取るためだ。これは、地元のインフラに関わる企業として存続していくという決意表明にほかならない。 「まあ、いろいろ手を打っているが、まだ試行錯誤の段階。売り上げの90%は舗装工事が占めているしね。公共事業の落ち込みは激しく、10年後に会社が存続しているか分からないよ」。西山社長は泣きを入れるが、目指している方向に間違いはないという確信が、表情に表れる。 あらゆるインフラ関連を取り込むことで事業領域を広げ、人員を最適配置し、固定費を削減する。これは、あくまでも愛亀のやり方だ。ただ、建設に農業を組み合わせた愛亀の戦略には農業や地域再生のヒントが隠されている。

・“農建融合”が示す可能性
地方の農家の多くは、農閑期に地元の土木工事や出稼ぎで農業外収入を得ていた。その後、公共事業費の増大によって、農業と建設は切り分けられたが、もともと農業と建設は重なる部分が多かった。 足元を見れば、農業には担い手の減少や耕作放棄地といった深刻な問題が横たわっている。地方の雇用を担ってきた建設会社は公共事業の縮減によって瀕死の状況。基幹となる産業が消えた地方経済も疲弊の極みにある。農業と建設の融合は、こういった課題に対する1つの解決策になりうる。 もちろん、建設会社の淘汰は必要だ。建設会社が農業に参入したところで、農業再生の特効薬になるとは限らない。しかし、“農建融合”は地方や中山間地の雇用を守り、耕作放棄地をなくして地元にカネを落とす1つの可能性ではないだろうか。
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