「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 ・  太田述正 有料メルマガ | 日本のお姉さん

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 ・  太田述正 有料メルマガ

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
    平成20年(2008年)8月9日(土曜日)
通巻第2281号  

 五輪開幕のその日、上海株式はまた暴落した
   世界の投資家は、中国の成長の限界をみた
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上海株価指数は2605ポイント,年初来50・5%の大下落(8月8日)。
 ―五輪特需は終わった
 ―宴の後の展望がない
 ―金融政策が変わったので、人民元が安値に転じた
 ―上半期の企業倒産6万7000件

株式と不動産で稼ぐだけ稼ぎ、最後に人民元高に投機をかさねてきた熱銭(ホットマネー)が行き場を失った。五輪最中に、意外な展開が中国マーケットで起きそうである。拙著の九月下旬予定の新著の題名は『中国の黄金時代は始まったが、すぐ終わる』(仮題)。
    
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♪(読者の声1)北京オリンピックなんとも盛り上がりません。職場では北京の話題は皆無。テレビで開会式を少し見ましたが、さすが朝鮮の宗主国、マスゲームの規模は負けていませんね。
架空の中華民族をあらわすのか色とりどりの民族衣装。オリンピック海のシルクロードだの羅針盤だの過去の栄光にすがっても今の中国とは何の関係もない。を政治プロパガンダの場にしたのはナチス・ドイツ。
草森紳一の「絶対の宣伝 ナチス・プロパガンダ 1-4 番町書房 1978-79」を読むと洗脳のテクニック満載。のちに共産圏が見習うのですね。
最近、中国関係の本を読み直しているのですが「紫禁城の黄昏」のなかに広東人は自身を漢人ではなく唐人と自称する、という一節があったように思います。いまでもそういう意識はあるのでしょうか。
西太后は自身を菩薩の化身と思っており、ダライラマと謁見してすぐに死んでしまう。活仏は二人が同じ場所に現れることはない、ということが中国では信じられているとか。宮脇淳子「世界史のなかの満洲帝国」では清王朝は満蒙漢回蔵の同君連合であった、とあります。満蒙独立運動の背景が少しわかったように思います。さて、オリンピック開会式、やっと入場行進、プラカードを持つのは卵顔の中国美人(みんな同じ顔に見えます)。アフリカ系は黒人といってもだいたい3系統ほど肌の色が違いますが、国別に見るとよくわかります。日本選手団の女子、膝たけのパンツルック、ほとんど韓国人のファッションセンスでがっかり。かつては閉会式だけのくだけた調子が今では開会式から。だらけきった入場行進など見る価値なし。トラックの周りで手を振っている女性たち、カナダあたりでもうだいぶ疲れが見えています。最後までもつのでしょうか。ところで毒餃子が中国でも出回っていたという事件、日本側は一ヶ月も隠していたらしいですが、オリンピックにあわせて公表したのなら案外グッドジョブだったのかも。(PB生)

(宮崎正弘のコメント)餃子の情報をひた隠して北京に恩を売り続けてきたのが福田首相です。これで8月15日に靖国神社を参拝しても、北京はおそらく一言も言わないでしょう。貸借対照表を精算しておかなくちゃ。さて五輪開会式の演出ですが、あれは1936年ナチス五輪と同じようなファシズム的全体主義、あるいは「皇権主義」と批判しているのが香港の知識人。でたばかりの香港雑誌『開放』はそういう特集です。スピルバーグは逃げて良かった。チャン・チーマォはナチスに協力した映画監督のごとし、と。

♪(読者の声2)貴兄のペキンの印象は‘All quiet in Peking’(異常なし、平静)だつたやうですが…?その「平静さ」は平壌的方法によるとお考へですか? それともシンガポール的方法によるとお考へですか?別の問ひ方をすれば…、ペキンが平壌的世界からシンガポール的世界へ移行、といふ目はアリとお考へですか?(貴兄が何度も席を譲られた点など見れば、無きにしもあらずかとの印象を受けますが)現在のペキンの秩序の草創について、何かコメントを戴ければ幸甚です。(showa78)

(宮崎正弘のコメント)シンガポール的秩序は、あのような小島ゆえに可能ですが、中国の広大な面積をもつ場所では不可能です。アフガニスタンはカブールだけが英米軍に守られ、一歩出ると無法地帯、というより「タリバニスタン」。いまの北京の秩序は数十万の軍と公安と警察と私服が守っている。準戒厳令下の五輪でしょう?ですから北京から一歩そとへ。昆明でもカシュガルでも治安が保たれていない。『宴の後』の中国がどうなるか、それが一番の懸念材料です。


♪(読者の声3)ジョン ブラウン ? WHO?愉快、愉快。
戦後派は思わずあの時代にタイムスリップ。友人はもう皆あの世に行っていませんが。社会部記者の一人が、John brownのテープを残してくれました。低音からズーンと盛り上がる黒人歌手ポールロブスンが歌う『John Brown.』です。胸中を振り絞ったこれこそが男の、魂の、神の歌声。ボリュームを挙げて聞き惚れ歌の世界に陶酔です。What is
America ? うーむ、泣ける。眼前のテレビは虚構に築かれた北京五輪開会式の絢爛たる幕開けで『100年かけた夢の実現』。マイクは走り北京中が厚化粧。それに引き換えこの歌の何と素朴な魂をゆさぶる肉声よ。英語は虫酸が・・とおっしゃる筆者のお気持ちに申し訳ないのですが。そこはお許し願うとして。

戦後派にには忘れられない歌なのです。ポールロブスンは出国停止を受けてもミシガン湖からマイクで、電話線でカナダの友どもに歌声を送る。一度聞いたら二度と忘れない美声のバス。『オセロ』をやらせたら彼の右に出るものはいない--と評された有名人です。オバマ、いやブッシュの胸にどう響くのでしょう。感動に違いありません。 Glory,glory,allelujah・・。これです。
John Brown's body lies a moldering in the grave.このリフレイン。
歌は国境を越え時代を越えますが。変化が早い現代人には昔話でしかないのかも。武士道サムライも後期高齢者、まもなく居なくなる----と、ル・モンドの記者が楽しそうに書いていました。私も後期一年生。でも気落ちなんかしませんよ。これからが本番です。まだまだ伝えなければならない事か沢山あるのですから。そこでひとつ、お願い。『白村江』がどうしてジョンブラウン?百済とどうかかわるのですか。ご紹介ください。猛然と知りたくなりました。
朝鮮戦争ぼっ発時点で日本軍が記録した波浪、風速、気象情報を全部まとめて米軍を通して韓国に寄贈した元韓国人がいます。のち渡米し今は立派な気象官。昔は昔。今は今。ひょっとしたら百済の末裔かも知れない私。WHAT IS
ASIA ?(大陸育ちの戦後派)


(宮崎正弘のコメント)昨晩の北京五輪開幕式に比喩して言えば、感動の薄い、光の演出が強すぎて中味に濃さがない印象を持ちました。
 まさに厚化粧の北京でした。夜だから花火は綺麗ですが。こころのなかも、あれほど綺麗だと良いのに。。。。。

♪(読者の声4)通巻第2280号(読者の声1)神奈川のST生様。絶版といわれる『朝日選書』の白村江に関する本、書名・著者等、分かるものがあれば教えて頂けるとありがたいのですが。(KT生 埼玉)
   
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1 始めに
 
コラム#1889(2007.8.1)「奇跡が起こったイラク」を書いたのは昨年8月1日のことでした。それ以来、イラクに焦点をあてたコラムを書いていません。つい最近、コラム#2603でイラク情勢にちょっと触れたところですが、改めてイラクの現状を論じてみたいと思います。

2 イラクの現状をどう見るべきか

 (1)序論
米国主導の対イラク戦によってフセイン・ファシスト政権は打倒され、それまで抑圧されていたシーア派とクルド人が解放されたものの、爾来イラクでは、マクロ的に申し上げれば、(アルカーイダ系テロリストと連携した)スンニ派対米軍、スンニ派対シーア派、そして途中からこれらに加えてシーア派対シーア派、という三つの内戦が平行して続いてきました。その結果、イラク人だけで、米国の人口に置き換えれば1,400万人が死亡するという大惨禍が引き起こされました(http://www.washingtonpost.com/wpsrv/style/longterm/books/chap1/thesecondplane.htm   。4月27日アクセス)。
以上からすれば、5月のの世論調査で、米国民の60%以上が対イラク戦を行ったのは誤りであったと思っており、イラク情勢が好転しつつあると考える者は今年2月時点では46%だったのが、37%へと更に下がり、イラクからの速やかな米軍の撤退を求める者は、2月時点では49%だったのが、更に56%へと上昇した(http://www.nytimes.com/2008/06/01/opinion/01richedit.html?ref=opinion&pagewanted=print  。6月1日アクセス)のは不思議ではありません。

 (2)悲観論
上記米国世論調査結果と基本的に同じ判断なのが、ハーバード大学ケネディー・スクールの公共政策教授のトフト(Monica Duffy Toft)です。
彼女の主張は以下の通りです。

アルカーイダ系テロリストのことをさておくとしても、イラクの現状は宗教的内戦と考えるべきだ。
なぜなら、第一に、イラクのスンニ派もシーア派もそう考えているからだし、第二に、現実に敵の選択や脅威の定義にあたって彼らが宗教的アイデンティティーを用いているからだし、第三に、国外に戦闘員、武器、資金の支援を求めるにあたって、彼らが宗教的用語を用いているからだ。
イスラム教にはキリスト教の法王のような存在がないが、スンニ派と違ってシーア派は、神の意思を解釈する宗教学者の存在が不可欠であると考えている。だからこそ、宗教学者であるサドル(Moqtada al-Sadr)師は最近イランに出かけて宗教研究に一層磨きをかけたのだし、宗教学者でないマリキ(Nouri al-Maliki)イラク首相がシーア派の間で今一つリーダーシップが発揮できなくて苦労しているわけだ。現在、一見イラクにおける治安状況が改善したように見えるけれど、イラクにおける宗教的内戦はこれから益々激しさを増していくと私は見ている。というのも、世界の現在進行形の内戦の46%は宗教がからんでいて、宗教的内戦のうちイスラム教がからんでいるものが80%以上占めていて、宗教的内戦は往々にして一方が勝利を収めるまで続くからだ。よって、米軍は可及的速やかにイラクから撤退すべきだ。米軍が撤退さえすれば、イラクのシーア派とスンニ派は、伝統的かつ歴史的な敵であるところのクルド人とイラン人に反対するという両派の共通の利害を発見するに違いないからだ。
(以上、http://www.csmonitor.com/2008/0602/p09s01-coop.html  
(6月2日アクセス)による。)

 (3)楽観論
英エコノミスト誌は、正反対の以下のような楽観論を打ち出しています。われわれは2003年の対イラク戦開戦を支持した。
その後、内戦が続き、余りにも多くのイラク人が辛酸を舐めることになった。しかし今や、治安状況が改善し、石油の値上がりで財政状況も改善した。イラク政府もイラク国民から信頼感を得つつある。このため、イラクが空中分解したり恒久的な混沌状況に陥ったりしてしまう切迫した危険性はもはやない。
われわれは2007年9月にイラクにおける米軍の兵力増強に賛成した。ダメもとでやってみるしかない、と考えたからだ。
その後、アルカーイダ系テロリスト達の残虐さに嫌悪の念を抱き、スンニ派の部族の多くが彼らと袂を分かち(=Sunni awakening=Sahwa)、米軍に協力し始めたことと、2006初めのシーア派モスク爆破事件以降スンニ派とシーア派が殺戮し合いを止めたこと、には、この米軍の兵力増強もあずかっている。
もう一つの理由は、喜ぶべきことではないが、昨年の「民族浄化」の結果、スンニ派とシーア派の混住地区が少なくなったことだ。
 しかし、何と言っても最大の理由は、無差別殺戮の恐怖と訣別することをイラク人の多くが決意したことだ。シーア派同士の内戦も雲散霧消しつつある。過去数週間というもの、イラク政府は、港湾都市のバスラと首都バグダッドのサドル派拠点たるサドル・シティに、それぞれ軍隊を送り込んで制圧した。サドル師が自分の民兵に抗戦をさせなかったのは、今やイラク軍が民兵よりも強力になっただけでなく、少なくともシーア派の間では、イラク政府が政治的正統性を獲得したことを意味すると考えられる。結論的に言えば、マケイン大統領候補の主張であるところの、未来永劫イラク
に米軍を駐留させる必要性はなくなったということだ。むしろ、オバマ大統領候補の主張であるところの、大統領就任後16ヶ月以内の米軍のイラクからの撤退、が不可能ではなくなったと言うべきだろう。もとより、イラクの近未来を確定的に予想することは誰にもできないが・・。(以上http://www.economist.com/opinion/displaystory.cfm?story_id=11535688   (6月14日アクセス)による。)

3 終わりに
この悲観論と楽観論のどちらに与すべきなのでしょうか。
米国のクリスチャンサイエンスモニター紙より英国のエコノミスト誌(ファイナンシャルタイムスと同系列)の方が信頼性が高いこと、前者は一米国人学者のコラムであるのに対し、後者はいわばエコノミスト誌の公式見解であること、等から私は躊躇なく楽観論の方に軍配を挙げます。興味深いのは、ご紹介した悲観論も楽観論も、手段か結果かの違いはあれど、米軍(多国籍軍)のイラクからの早期撤退を語っている(提唱、あるいは予想している)ことですね。
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