中国や中東にロシアが急接近している。(ダイヤモンド社)
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▼中国や中東にロシアが急接近している。景気失速が続く米国に替わり、一大資源国であるロシアが世界経済の覇権を握れば、未曾有の「エネルギー帝国」誕生の可能性さえある。(ダイヤモンド社)
ここに来て、 「ロシア脅威論」という言葉が市場関係者のあいだで語られることが多くなった。それは、ロシアという大国が、世界の勢力図を塗り替えかねない「超エネルギー帝国」にのし上がりつつあることへの懸念だ。今回は、その実態に迫ってみよう。1991年12月のソビエト連邦解体後、ロシアは初代大統領ボリス・エリツィンの下で市場型経済を指向した経済改革を行なった。しかし、需要の拡大に対して供給能力が追いつかず、激しい物価上昇=ハイパーインフレが発生し、国内経済が厳しい状況に追い込まれた。その後、90年代中盤にはしばらくインフレも沈静化し、経済も回復の道を歩み始めた。ところが、97年に始まった“アジア危機”の影響で原油価格が弱含んだこともあり、98年8月、ロシア経済は再び危機的な状況に落ち込み、“ルーブル危機”が発生することになる。“ルーブル危機”は、当時の世界の金融市場に大きな衝撃を与え、それをきっかけに、有力ヘッジファンドである米LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)が破綻したことは、あまりにも有名だ。2000年代に入ると、原油や天然ガスなどのエネルギー価格の上昇を背景に、高い経済成長を維持するようになり、最近では、世界有数の“エネルギー帝国”と称され、BRICsの一角を占めるまでに至っている。
・高いインフレ率やエネルギー輸出依存度 --難題を抱えるロシアの「内情」
現在、ロシアは、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の原油輸出国である。また、天然ガスを含めたエネルギー供給能力は、圧倒的なマグニチュードを誇る。同国は、まさに“エネルギー帝国”の名に値する存在だ。ロシア経済は、過去数年間の世界的なエネルギー需要の増大に伴う、原油・天然ガスの価格高騰に支えられて高い成長を続けており、今や90年代後半の“ルーブル危機”当時の面影を感じさせない勢いがある。そのエネルギー輸出代金によって、多くの新興財閥が誕生しており、彼らは、現在、中東産油国と並んで、「世界で最も大きな富を手にした人々」と言われている。ロンドンの中心街では、毎日のようにロシア人富豪のパーティーが開催されることもあるという。国内経済に目を転じると、今年1-3月期のGDP成長率は8.5%増と、前期対比でやや成長率が落ちたものの、世界的な資源価格の高騰によって、鉱業部門を中心に生産活動が堅調で、雇用・所得環境も安定している。それ以外の分野でも、建設業や小売業などが高い伸び率を示している。このように、順風満帆に見えるロシア経済だが、一方で無視できない問題もある。それはインフレだ。6月の消費者物価指数は前年同月対比プラス15.1%と、かなり高い水準に達している。中央銀行は、インフレ退治のために、今年に入って4回、政策金利の引き上げを行っているが、今のところ、明確な効果は見えていない。高インフレの背景には、エネルギー価格の高騰によって有効需要が拡大していることに加えて、海外からの多額の投資資金の流入がある。海外の投資資金の流入は、ロシアの経済発展のためには大いに有効なのだが、それがインフレという副作用をもたらすことにもなる。今後、海外からの資金流入を如何に対処するかが、インフレと戦う意味で最も重要なポイントになるだろう。インフレを高進させてしまうようだと、国民の現政権に対する不満を蓄積させることにもなりかねない。政権としても、避けて通れない喫緊の課題だ。
・大ロシア主義的な政治・経済事情ーー開かれた市場経済」にはほど遠い
つまり、現在のロシア経済は、エネルギー価格高騰の恩恵を存分に受けているものの、裏を返せば、それはエネルギー輸出依存度が高いことを意味している。そのため、エネルギー価格が一旦下落を始めると、今までと逆のことが起き易いというリスクがあるのだ。同国の指標を見る限り、国内の様々な分野で活発な経済活動が起きているのだが、それは、多かれ少なかれ、エネルギー輸出代金の恩恵が循環していると見るべきだろう。エネルギー輸出の手取り代金が減少に転じると、マイナスの影響が経済全体に及ぶ事は避けられないと見られる。もう1つ無視できないのは、ロシア国内の政治・経済の体制が、旧共産国時代とあまり大きく変化していないことだ。プーチン氏は、大統領の椅子をメドベーチェフ氏に譲ったものの、依然、多くの権力を掌握している。
しかも、その基盤になっているのが、旧KGBの組織という。政府の要職には、同氏の腹心や息のかかった人材が配置されており、あたかも、プーチン独裁体制がより堅固になっていると揶揄されることもある。経済分野に目を転じても、やはりプーチン氏の影響力が大きいことがわかる。いくつかの主要産業が国営企業化されるトレンドも目立っている。たとえば、2003年に、当時の有力石油企業であった“ユコス”社のホドルコフスキー社長が脱税などの容疑で逮捕され、その後、同社に対して巨額の追徴税が課されて資産が差し押さえられるという事件が起きた。その後、同社の資産は、国営企業である“ロスネフチ”に継承されてきた。問題は、こうした旧共産国時代のような政治・経済体制で、今後の変化に迅速に対応できるか否かだ。エネルギー価格が上昇し続けるぶんには、問題は生じない。しかし、一旦、大きな変化が発生したときに、特定少数の要人の権限だけに頼って意思決定を行うことは、むしろ危険とも考えられる。現在のロシアには、そのリスクが内在することを忘れてはならないだろう。
・米国経済失速で「難しい隣人」が台頭する懸念
最近、色々な人から、「ロシアは自分勝手で、付き合いにくい国だ」との指摘を耳にする。わが国が関与した、樺太東北部沖のエネルギー資源開発案件である“サハリン2”もそのよい例だ。94年、日本の商社とロイアル・ダッチ・シェルなどの合意の下で、樺太沖の資源開発に乗り出すことが決定され、ロシア政府と生産物分与協定(PSA)を締結した。その後、開発計画は順調に進み、08年の本格的な原油生産に向けてプロジェクトが動いていた。ところが06年9月、突然、ロシア政府は「環境アセスメントの不備」を理由に、同プロジェクトの中止命令を発出した。ある関係者によると、それは「ロシアの身勝手で、すでに決めた条件を突然反故にするようなもの」だったという。中止命令の後、結果的に、プロジェクト出資割合が変更され、ロシアのガスプロムが過半の株式を保有することが決められ、日本の商社を含む従来の株主の持分は半分程度に減らされることになった。当時、このニュースを聞いて、多くの関係者がため息をついていたことを、昨日のことのように思い出す。そのとき、ある1人が、「ロシアとは、そういう国だと思って付き合わなければいけない」と漏らしていた。もちろん、“サハリン2”の一件が、「ロシアの全て」を適切に現してはいないかもしれない。しかし、こんなことが起きたことも事実だ。特に、最近のロシアの行動を見ていると、昔の“大ロシア主義”が復活しているのではないかと感じることが多い。1人、欧州とアジアを結ぶ広大な国土を持ち、その懐に豊富な天然資源を有する。それは、何よりも、同国を世界有数の“エネルギー帝国”として君臨させ得る要因だ。そうした状況をバックに、同国の経済力や国際的な政治力は、かなり復活していると見るべきだろう。直近のロシアからは、中国との関係改善を図ったり、中東やアフリカ諸国とも親密な関係を築こうとするなど、積極的な意図を見ることができる。その背景には、「アンチ米国」の勢力を糾合しようとの政策が見え隠れする。今後、サブプライム問題の顕在化をきっかけに、米国の政治・経済の相対的なポジションが脆弱化することも想定される。その間隙を縫って、ロシアが、再び「世界のスーパーパワーの一角」になる可能性も否定できない。わが国は、“難しい隣人”として、ロシアとどのように付き合うかを、真剣に考えておく必要があるだろう。