▼ドルという飛銭と世界危機 産経新聞7月26日朝刊から(田村秀男)
ようちゃん、おすすめ記事。↓
▼危ういデリバティブ取引(田村秀男)
「危ういデリバティブ取引」 産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男 (ドル危機の背景)
日本でも個人投資家まで巻き込んだ「デリバティブ」(金融派生商品)ブームだが、危ない。
米金融市場を震撼させている連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の経営不安は実は、デリバティブ取引に伴う巨額の損失が主原因であり、住宅ローンの焦げ付きによる損失をはるかに上回る。両社は民間から買い取った住宅ローン債権を住宅ローン担保証券に仕立て直して保証し、市場で売却または保有する。両社は米住宅ローン総額の半分近い五兆二千億ドル(約五百五十兆円)を引き受け、社債も米国債発行規模の三割強にあたる一兆六千億ドル強を発行している。FRB(連邦準備制度理事会)がドル札を刷って両社を救済しても、ドルは市場で氾濫し、売られてドル安と商品投機に拍車がかかる。
(しょせんは博打)
一見高度かつ複雑だがしょせんは博打だ。原油などの商品先物から金利、通貨、天候、景気指標などに到るまで、将来変動する事象はデリバティブとして加工される。例えば三ヶ月先の商品価格や指標を当てるゲームであり、敗者は勝者に負けた分をその時点で清算するゼロサム方式だ。負けるリスクを分散させるために、投資家はさらに関連するデリバティブに片っ端から賭けるので、瞬く間にデリバティブの種類も取引額も膨らむ。この胴元になっているのがJPモルガンなど米銀や欧州の大手金融機関で、取引残高はJPモルガンの場合、2008年3月末で貸し出しや証券などの資産1兆4000億ドルに対し、デリバティブは約90兆ドルにも達する。その主力の取引先が連邦住宅抵当機関で、2000年初め以来の住宅ブームが原動力だ。
(ババを引くのはだれか)
全米一の投資家と呼ばれるW・バフェット氏はデリバティブのことを「大量破壊兵器」と揶揄した。2000年に経営破綻して米株式市場を揺るがしたエンロンも莫大なデリバティブの損失が露呈したのがきっかけだ。国際決済銀行(BIS)によると、07年末の市場規模は前年比で44%増加し、596兆ドルと07年の世界のGDP(国内総生産)54兆3000億ドルの10倍以上だ。商品先物などのデリバティブが原油や穀物相場を押し上げているわけだ。日本の投資家や企業、金融機関が世界の潮流に乗り遅れてはとあせって、デリバティブにやみくもに投資するのはよしたほうがよい。インフレ懸念で米金利が急激に上昇すれば、デリバティブ市場に激震が走り巨額の損失を被る。ゼロサムである以上だれかがババを引く。
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▼そうすれば世界は静かになる?(田村秀男)
週末の暑い夏、ちょっと考えて頭を冷やしませんか。以下、とてつもない発想ですが、どうか笑い飛ばさずに。
今や世界はやはり、中国とアメリカの両極に分けられます。中国では動くものはすべて食べものにしてしまい、モノを食べるヒトが偽モノをつくる。米国では変動するものはモノや金利であろうと天気であろうと景気指標であろうと偽カネ(デリバティブ)にしてしまい、ヒトを狂わせる。すると世界がそれぞれをまねる。この偽モノ、偽カネの交換ビジネス循環がとてつもなく膨らんでいるからこそ、世界は今日もヘンになる。中国は儒教のまともな思想に立ち返り、米国は清教徒の倫理に戻る。そうすれば世界は静かになる?以上。思いつくままの、思考ゲームです。
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▼ドルという飛銭と世界危機 産経新聞7月26日朝刊から(田村秀男)
【経済が告げる】編集委員・田村秀男 ドルという飛銭と世界危機
五輪メダルを彩る金、銀、銅は本来の貨幣だったが、唐の帝国は実物から遊離した紙のおカネ「飛銭」を発明した。それを飛躍的に発展させた元は統一紙幣によって世界を支配したが、帝国は紙幣乱発とともに滅んだ。以来、近代の大英帝国であろうとも、金、銀の裏付けがある「兌換(だかん)」紙幣でなければ世界に君臨できなかった。兌換できない紙幣が世界通貨として復権したのは1971年8月のこと。ニクソン米大統領(当時)がドル・金の交換停止を発表して以来、米国は紙切れで世界を主導する歴史上2番目の世界帝国になったが、ドル危機は繰り返し起きる。ドルが暴落したらどうなるか。米兵は、値打ちがどんどん下がるドル札を那覇、東京・六本木のバーやホテルで受け取ってもらえなくなる。イラクでもアフガニスタンでもドルで物資を調達できなくなる。米国は全世界に張り巡らせた軍事基地を維持できず、世界の秩序は一夜にして壊れる恐れが生じる。だからまともな世界の指導者は何かあればドルを支える。
昨年8月の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)危機に始まる金融不安の波は、米連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の経営不安の表面化でいよいよ本丸に迫った。両社は米住宅ローン総額の半分近い5兆2000億ドル(約550兆円)を引き受けている。赤字国債を発行して公的資金を注入すれば米金融市場の要である米国債は市場で氾濫(はんらん)し、FRB(連邦準備制度理事会)がドル札を刷って両社を救済すればFRBの信用がおぼつかなくなる。
「外貨準備を融通して米国の公的資金注入を支援することもありうる」(渡辺喜美金融担当相)非常事態だ。日本の外準は1兆ドルを超えるが中国は1兆8000億ドルもある。当座の公的資金必要額の数百億ドルは軽く賄える。「確かに中国も誘い込めば、米金融市場の動揺は治まる」(米国務省筋)
だが、それも甘い考えかもしれない。今回のドル危機の構造はかつてのとはかなり違うからだ。米国は2000年初め以来の住宅ブームを原動力に、ドルを「デリバティブ」(金融派生商品)と呼ばれる金融市場で爆発的に増殖させてきた。デリバティブとは原油などの商品から金利、通貨、天候、景気指標などに至るまで、変動する事象の将来をすべて賭けの対象にするマネーゲームである。
実は2社の赤字の大半は、住宅金融の焦げ付きからではなくデリバティブ取引の損失からきている。デリバティブの市場規模は昨年末596兆ドルと実に世界のGDP(国内総生産)の10倍以上、胴元になっているのがJPモルガンなど米銀や欧州の大手金融機関、その主力の取引先が連邦住宅抵当公社2社。デリバティブ市場で動き回る余剰マネーは原油や穀物先物相場を高騰させては世界各地で暴動や農民・漁民のストを引き起こすかと思うと、今度は住宅抵当公社の経営危機を引き起こし、とどのつまりがドルそのものを襲う。まさしく「デリバティブは大量破壊兵器」(全米一の投資家、W・バフェット氏)である。
現代のドル危機とは、しょせんは金銀との結びつきを断った「飛銭」なのに、束縛がないことを良いことにコンピューターという技術革新をベースに極端に膨張したことから生じている。ドルが暴落すれば世界が壊れる。さりとて暴落しなければ、その狂態は続く。今の世界不安は実はまだ始まったばかりなのだ。(たむら ひでお)平成20年 (2008) 7月26日[土] 大安
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▼標準通貨多様化は絵に描いた餅 (田村秀男)
ドルに代わる国際標準をユーロにしたりアジア共通通貨にしたりして多様化するという考え方には理論的合理性はあるでしょう。しかし国際通貨の多様化という言葉はもっともらしいのですが、運営は容易ではありません。国際通貨というものは、絶えず共通の尺度を必要とします。大英帝国は産金国の南アフリカを支配下に置いて金本位体制を主導しました。現在のドル危機というものは非常事態という短期的な側面と、長期的には国際通貨体制改革という二つの側面がありますが、おっしゃるのは長期的な視野に立っています。長期的な改革議論は成り立っても、当面の危機には役立ちません。もうひとつ、通貨の国際標準は結局、石油資源の支配とか強大な武力を伴う国、つまり帝国主義であることが必須です。その多様化とは、資源をめぐる覇権戦争につながります。今、ロシアが急速に台頭しているのは、金や石油資源に恵まれ、核大国であることからいずれ通貨の覇権争いに参入するでしょう。このことを含めて、小生は「世界不安は始まったばかりだ」と書いたのです。
夢も希望もない話ですが、資源も核もない日本は、米国との同盟関係に頼るしか選択肢はありません。
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▼「ドル、元、ルーブル」北京五輪もうひとつの見方 (田村秀男)
国際政治経済学入門第71回 SANKEI EXPRESS 7月26日から
ドル危機のさなかに北京五輪が開かれ、中国の胡錦濤総書記・国家主席(65)がジョージ・ブッシュ米大統領(62)、ロシア最高実力者ウラジミール・プーチン首相(55)と並んで開会式に出席するが、何やら歴史的な因縁めいたものを感じる。三者の話題はマスゲームどころではないはずだ。メダル獲得数トップをめぐるライバル意識もほとんど関係ない。中国は唐の帝国の、ロシアは世界帝国「元」の末裔、米国は現代唯一の世界帝国。これらの帝国には共通する重要な統治手段がある。「紙幣は唐代からして已に飛錢といって、これを用ひた」(内藤湖南=戦前の東洋史学者=全集から)。五輪メダルを彩る金、銀、銅は本来の貨幣だったが、古代中国は実物から遊離した紙のおカネを発明した。チンギスハンは「飛銭」を飛躍的に発展させ、その孫フビライの元帝国は統一紙幣によって中国から中東を経由してロシアに到る世界帝国を築いた。が、巨大帝国は紙幣乱発とともに滅んだ。以来、19世紀の大英帝国であろうとも、金、銀の裏付けがある「兌換」紙幣でなければ世界では流通できなかった。兌換できない紙幣が世界通貨として復権したのは、1971年8月のことである。ニクソン米大統領(当時)がドル・金の交換停止を発表して以来、米国は紙切れで世界に君臨する歴史上2番目の世界帝国になった。そのドルが今、崖っ縁に立っている。では「ドル暴落」とは何か。
値打ちがどんどん下がるドル札を那覇、横須賀あるいは東京六本木のバーやホテルで受け取ってもらえなくなる。また、イラクでもアフガニスタンでもドルで物資を調達できなくなる。つまり、米国は全世界に張り巡らせた軍事基地を維持できなくなり、世界の秩序は一夜にして壊れる恐れが生じる。だからまともな世界の指導者は外国為替市場のドル買い協調介入など、危機のたびにドルを支えてきた。今回も中国、ロシアとも米国債を買い続けている。ドルは急落することはあっても実際には暴落しないはずだ。もちろん、帝国の再興を狙うプーチン氏はロシア通貨のルーブルをドル、ユーロに比肩する国際通貨に仕立て上げようと、ルーブル建ての石油、天然ガス取引市場の創設をもくろんでいるが、まだ時期尚早というわけだろう。今ドルが潰れてしまっても困る。人民元に到っては、ドルを基準にした管理変動相場制を堅持して安定を保ち、二ケタの経済成長の維持に懸命だ。
昨年8月の低所得者向け高金利型住宅ローン(サブプライムローン)危機に始まるドル不安はかつてないスケールである。住宅バブル崩壊とともに米住宅金融の本丸である連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の経営不安が表面化した。両社は米住宅ローン総額の半分近い五兆二千億ドル(約五百五十兆円)を引き受け、社債も米国債発行規模の三割強にあたる一兆六千億ドル強を発行している。赤字国債を発行して公的資金を注入すれば米金融市場の要である米国債は市場で氾濫し、FRB(連邦準備制度理事会)がドル札を刷って両社を救済すればFRBの信用がおぼつかなくなる。 「外貨準備を融通して米国の公的資金注入を支援することもありうる」(渡辺喜美金融担当相)ほどの非常事態である。日本の外準は1兆ドルを超えるが、中国は1兆8000億ドルもある。当座の公的資金必要額数百億ドルは軽くまかなえる。「確かに中国も誘い込めば、米金融市場の動揺はおさまる」(米国務省筋)。
だが、それも甘い考えかもしれない。今回のドル危機の構造はかつてのとはかなり違うからだ。米国は2000年初め以来の住宅ブームを原動力に、ドルを「デリバティブ」(金融派生商品)と呼ばれる金融市場で爆発的に増殖させてきた。デリバティブとは原油などの商品から金利、通貨、天候、景気指標などに到るまで、変動する事象の将来をすべて賭けの対象にするマネーゲームである。実は2社の赤字の大半は住宅金融の焦げ付きからではなくデリバティブ取引の損失である。デリバティブの市場規模は昨年末596兆ドルと実に世界のGDP(国内総生産)の10倍以上、胴元になっているのがJPモルガンなど米銀や欧州の大手金融機関、その主力の取引先が連邦住宅抵当公社2社である。
(不思議なことに、市場原理主義一辺倒のせいか日本経済新聞はおろかウオールストリート・ジャーナルもフィナンシャル・タイムスもこの点には一切触れない。きちんと調べればわかるのに、何でも住宅価格下落で片づけてしまうのは怠慢からか、それとも本質をみたくないためか。)
インターネットで公開されているファニーメイとフレディマックの財務諸表をダウンロードしてみればよい。ファニーメイ07年第三四半期から08年第一四半期までの赤字累計は70億95百万ドル、このうちデリバティブ損失は84億69百万ドルで全体の損失を上回る。フレディマックは同期間、損失総額38億41百万ドルのうち、デリバティブ損失は半分強の19億43百万ドルに上る。デリバティブ市場で動き回る余剰マネーは原油や穀物先物相場を高騰させては世界各地で暴動や農民や漁民のストを引き起すかと思うと、今度は住宅抵当公社の経営危機を引き起しとどのつまりがドルそのものを襲う。まさしく「デリバティブは大量破壊兵器」(全米一の投資家、W・バフェット氏)である。こうみると、現代のドル危機とは、その本質がしょせんは「飛銭」なのに、モノの束縛がないことをよいことにコンピューターという技術革新をベースに極端なまでに膨張し過ぎたことから生じている。ドルが暴落すれば世界が壊れる。さりとて暴落しなければ、再びその増殖は続く。今の世界不安は実はまだ始まったばかりなのだ。
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