*次の火種は中小金融機関?どこまで続く米国発信用不安 【加藤出の日銀ウォッチ
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*次の火種は中小金融機関?どこまで続く米国発信用不安 【加藤出の日銀ウォッチ どこへ行く為替相場】nikkei
今週早々、世界に向けて発信された米国の信用不安対策に、株式市場はいまだ揺れている。
米政府支援機関(GSE)である住宅金融専門会社の連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)の発行する債券であるエージェンシー債(政府保証があると見做される公共機関の発行する高格付債)は、世界中の金融機関、投資家が保有している。海外の中央銀行の外貨準備にも大量に組み込まれている。米金融当局が緊急支援策を発表せざるを得ない状況にあった。 週明けの14日にはフレディマックの短期エージェンシー債の借り換え発行が予定されていたからだ。この借り換えに仮に問題が生じれば、海外の中銀が動揺してエージェンシー債が投げ売られることになる。それはドルの信認を揺るがすことになり、それによって世界中が深刻なパニックに襲われる危険性があった。 幸い14日に行われたフレディマックの定例の短期債の借り換え発行は、米当局の対策が奏功したのか、順調に市場で消化された。積極的な応札が見られ、3カ月物の応札倍率は4.16倍(年初からの平均は2.9倍)、6カ月物は3.73倍(年初からの平均は2.7倍)だった。
最悪の事態が生じるのは避けられたが、両公社の財務内容を考えると楽観できない状況は続いている。それが、マーケットの動揺を収めきれないのだろう。
加えて言えば、今回の対策を含めて一連の米国のサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題で投じられてきた金融政策によって、FRB(米連邦準備理事会)の資産の健全性などにしわ寄せが来ている。それが金融政策の舵取りに影響を与え、金融不安の払拭とインフレ対策の両面で、機動的な対策を講じられなくなる懸念もマーケットにはあるのだろう。 仮にFRBがファニーメイとフレディマックの資金繰りを救済することになった場合、FRBのバランスシートでは何が起きるのだろうか。今年7月9日のバランスシートの状況を認識するために、約1年前(2007年7月11日)のそれと比較しながらポイントを整理してみよう。
・FRB、資産の額はさほど変わらなくても、質は大きく変化
現時点のバランスシート全体の規模(8998億ドル=約95兆円)は、前年比3%の微増にとどまっている。平時の増加ペースと変わらない。負債における準備預金(民間金融機関がFRBに開設している預金口座の残高の合計)もほとんど変わっておらず、平時の残高のままである。 FRBは金融システム危機を和らげるために、昨年来、日本円に換算して数十兆円規模の巨額の資金供給策(流動性対策)を実施してきた。単純にイメージすれば、それはFRBの資産サイドを膨張させると同時に、負債サイドの準備預金を増大させることになる。FRBが金融機関に資金を供給する際は、金融機関のFRBの口座に資金が振り込まれるからだ。 しかし、上述のように、準備預金は増えておらず、バランスシートの規模も平時のペースでしか増えていない。なぜなのだろうか? 資産を見ると、Tビル(短期国債)は、この1年で2553億ドル(約27兆円)も減った(92%減)。中長期国債等は564億ドル減った(11%減)。一方で、表の☆印にあるように、前年にはなかった流動性対策、あるいは利用しやすく改善された資金供給策が急増している。 TAF(ターム物入札方式資金供給)や、銀行がいざという時にFRBから資金借り入れを行えるディスカウントウィンドウ(銀行向け常設貸出制度)などによる資金供給の場合、信用度が劣る担保(サブプライムの住宅ローン、カードローン、自動車ローンなど)もFRBは受け入れている。 http://
会社の名称のメイデン・レーンは、ニューヨーク連銀の従業員出入口が面している通りの名称で、なにやら意味深なにおいがする。それはさておきメイデン・レーンへの資金供給はFRBのバランスシートに今後、10年掲載され続ける可能性がある。7月9日時点で289億ドル(約3兆円)だ。
・空前の規模の入れ替え
前述のように、これらの流動性対策はFRBのバランスシートの資産の部を増やすことになる。資産の部が膨らめば、その見合いとして負債の部の準備預金残高を増大させやすい。 準備預金には、市中の金融機関が法律に従って預金残高の一定率を連銀に預けなければならない所要準備と、所要準備を上回る超過準備がある。通常、FRBは超過準備をわずかしか発生させないオペレーションを実施している。しかし、FRBが資金供給を増加させれば、超過準備が増加する。その状態を放置すると、FRBの政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利は、FOMC(米連邦公開市場委員会)で定めた誘導目標(現在2%)から外れて、大幅に下落してしまう。 FRBは準備預金に金利を付けていない。超過準備が発生すると、金融機関はそれをFF市場で運用して金利を得ようとする。しかし、市場全体の超過準備の額が増大すると、資金を貸したい金融機関は多数出てくるが、借りたい金融機関は現れない。このためFF金利はゼロ%に向かって低下してしまうのだ。 こうした事情から、FRBは上述のように、Tビルや中長期国債を市場に売却(あるいは現金償還)することで資産を圧縮する。そうすることで、余分な準備預金を吸収して、その残高を平時の状態に維持してきた。 その結果、FRBからは国債が大幅に減り、信用度がやや劣ったり、市場で現金化が容易ではない資産が増え、全資産に占める安全資産の比率は下がることになる。この1年で、FRBは「資産の入れ替え」を空前の規模で実施したことになる。
FRBの資産の健全性は、ドル紙幣の価値を裏づけている。その点では、FRBは、既に非伝統的な領域に踏み込んでいることになるのだ。
・最終的な面倒は財務省が見ると釘を刺しているが
米当局もFRBの資産の健全性に神経質になり始めていることが、今回の対策でも見て取れる。ポールソン財務長官は14日にバーナンキFRB議長と、ガイトナー・ニューヨーク連銀総裁に、両公社への支援策が、FRBの財務内容に対する一層の不安を招かないように配慮する、書簡を送っていたことが明らかにされた。 その書簡にはFRB(今回のケースではニューヨーク連銀)から両公社への資金貸し出しが必要となった場合、それは議会で支援策が承認されるまでの「つなぎ融資」であり、ニューヨーク連銀に損失が発生したら、財務省がその面倒を見ることが記載されていた。FRBサイドの要求に応じてポールソン長官はこの書簡を書いたのだろう。 FRBから両公社への資金貸し出しが仮に巨額になると、FRBの資産の健全性の問題に加え、FF金利の誘導が困難になる問題も出てくる恐れもある。先にバランスシートの解説で明らかにしたように、Tビルは大幅に減少しており、資金吸収の手段にあまり余裕がないからだ。 現在、FRB幹部はインフレの先行きも警戒している。このため、FF金利がゼロ%に下落しても構わない、という金融調節を選択することはできない。かといって、中長期国債を市場に売却すると、中長期金利を一時的に押し上げる恐れがある。 それは固定住宅ローン金利の上昇につながるなど経済にブレーキをかけてしまうかもしれない。それを避けるためには、無利子の準備預金を有利子にする、新たな資金吸収手段などの早期導入を検討するなどの手段で市中の資金にだぶつきが生じるのを防ぎ、FF金利の誘導目標の下落を防ぐしかない。
・旧ベアーとは異なる
このように両公社へのFRBへの資金供給が大規模化した際には、新たなる金融調節の手段を講じるなど、難しい舵取りを強いられる可能性がある。ただし、2公社は、事実上の経営が破綻した旧ベアー・スターンズのような投資銀行とは、いくつかの点で異なっており、いたずらに悲観的になる必要はない。
異なる点の1つは、旧ベアーのような投資銀行は短期金融市場から日々大量のオーバーナイトの資金調達を行っているが、両公社は通常、資金の出し手の側にいる。そのため、投資銀行の場合は、ひとたび信用に問題が生じると、資金繰りが切迫する恐れがあるのだが、両公社の場合は、債券発行の借り換えに支障が生じなければ、FRBからの資金借り入れをせずに済む可能性がある。
また、両公社はFRBから資金供給を受けるための適格担保を、潤沢に持っている。その点も、旧ベアー破綻時とは異なっている。また仮に両公社の債券発行に問題が生じて資金繰りが苦しくなり、公社が保有するMBS(不動産担保証券)を担保に市場で大規模なレポ取引(債券を担保にした資金貸借取引)による資金調達を行うようになった場合は、FRBはTSLF(ターム物債券貸出制度)を増額すると思われる。 市場に溢れたMBSをTSLFによってFRB保有の国債と交換すれば、間接的に両公社の資金繰りを助けることになる。TSLFの場合、債券と債券の交換のため、準備預金残高は増減しない。よって、前述の資金吸収の問題はTSLF増額では生じない。
・中小金融機関の動向に注視必要
フレディマックの14日の債券発行が順調に行われたことから、両公社の資金繰り不安は幸い、いったん後退している。しかし、それらの財務状態が改善されたわけではない。先行き、議会の承認がとれて財政資金を投入することになれば、今度は米財政赤字の拡大が懸念されるだろう。また、別の懸念も台頭している。米国の地方の住宅・商業不動産市況の悪化が、地方の中小金融機関の資産内容を傷めている可能性が心配されている。 財務に問題のある中小金融機関の資金繰りに支障が表れ始めている兆候が、FRBから資金を借り入れるディスカウントウィンドウの状況に表れている。ディスカウントウィンドウには、プライマリークレジット(優良銀行向け貸し出し:金利は公定歩合)とセカンダリークレジット(信用度の低い銀行向け貸し出し:金利は公定歩合より高い)の2種類がある。 最近、後者のセカンダリークレジットの利用頻度が高まっている点が、気になる。2003年から始まったこの制度では、これまで利用残高が記録された週は287週中、15週しかない。しかし、その3分の1に当たる5週が、この10週間で記録されている。利用金額は先週水曜日時点で2.5億ドルとまだ小さいのだが、一部の中小銀行の資金繰りに緊張が生じ始めているのかもしれない。
・政策金利は現状維持
バーナンキFRB議長は、今週の15~16日に半年に1度の金融政策に関する議会報告を行う。議長は公社に対する市場の不安感を和らげたいだろう。しかし、それによって、利上げは遠いという印象を市場に与え過ぎてしまうと、石油価格が上昇する恐れがある。発言のバランスの取り方は非常に難しい。
一方で、このところ、賃金上昇と物価上昇のスパイラルに言及するFRB幹部が増えている。イエレン・サンフランシスコ連銀総裁は先週、「賃金と物価のスパイラルの進行を許すことはできないし、許してはいけない」と強い口調で述べた。もしそのスパイラルが顕在化したら、景気下振れリスクや金融システム危機があっても、FRBは利上げを決断せざるを得なくなるだろう。 しかしながら、今のところは、 「70年代スタイルの賃金-物価(の上昇)スパイラルが始まった兆候はない」
(バーナンキ議長)
「エネルギー価格が賃金-物価(の上昇)スパイラルを強めている証拠はほとんどない」
(ミシュキン理事)
「賃金-物価(の上昇)スパイラルの兆候は今はない」
(ラッカー・リッチモンド連銀総裁)
との見方が多い。FRBのインフレ警戒モードは春頃よりも高まっているが、すぐに利上げを決断しなければならないほど切迫しているとは考えていないようだ。当面は政策金利の現状維持を続けるだろう。