「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」  | 日本のお姉さん

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 

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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 

    平成20年(2008年)7月14日(月曜日)

通巻第2256号  特大号


 

 新聞休刊日につきニュース独自分析を三本!


(1)生物化学兵器テロにおびえる北京

(2)長春市書記、失脚の背景

(3)モンゴルの本能的、チンギスハーン的な外交


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♪生物化学兵器テロにおびえる北京

   特殊部隊は五輪期間中、40ケ所で二十四時間待機

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北京公安副部長の孟宏悌が警告した。

「北京五輪中、とくべつに警戒するべき対象は!)五輪の機会を絶好の政治宣伝のチャンスと考えるテロリスト!)東トルキストン独立運動を目指す過激派!)治安対策で忙殺される隙をねらって重大犯罪が引き起こされる可能性の三点である」(博訊新聞網、7月3日)。


インドネシア当局は先日、イスラム原理主義過激派の活動家を予防拘束したが、 主力メンバーが北京五輪開催施設を一覧する地図を携帯していたと発表した。


国際刑事機構(インターポール)は、このインドネシア事件にからみ、 生物化学兵器を使ったテロの可能性に十分な根拠があると中国政府に警告した。

 

もとより北京開催が決まった直後から中国はテロリスト対策を幾重にも取り組んできた。9・11型の物理的テロより、 北京がもっとも神経を使ってきたのは1995年3月20日に東京の中枢を襲ったサリンガス事件の類似テロ対策だった。オウム真理教のサリンガス事件を、軍事的防疫的視点から克明に研究してきたのは、米国、中国、そしてロシアだった。


中国を旅行して筆者が肌で感じるのは 「液体」検査の厳密さ 。五月には蜂蜜の瓶まで没収されている日本人観光客がいた。荷物を開けさせられて、である。


9・11直後に米国は炭疽菌をばらまかれるテロの恐怖と闘った。

日本政府はサリン攻撃から僅か三時間後に、無色透明の化学物質をサリンを断定し、テレビニュースで公開し、さらに短時日に犯人グループを逮捕した。 東京の事例が、ことのほか、中国当局の研究対象となった。


北京五輪期間中、生物化学兵器スペシャリストが188名、40ヶ所に分散待機する。すでに2003年九月「長城2003」と銘打たれた軍事演習を皮切りに、2006年「長城2号」から、この六月の「長城5号」まで六回の生物化学兵器テロリスト対策演習が実施されている。

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♪長春市書記が失脚の背景

 ピンク市長は江沢民の影響力が希釈されて失脚

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天網恢々疎にして漏らさず。それにしてもやり過ぎだった。

米風君は吉林省全人代常務委員会副委員長、前長春市党書記。長春市のボスであり、市内の豪華ホテル「クアラランプール・ホテル」に特別室を借りていた。目的は密談と賄賂受け取りの場というより、ズバリ「おんな」である。


4月28日のことだった。 二人の女性を連れ込み、一糸まとわぬ姿で「乱戦」中、規律委員会が踏み込んだ。 取り調べが済むと、その日の裡に長春からの退去処分となった。市は、米書記を「米老鼠」と渾名していた。


ところで米老鼠は回族である。1942年生まれ、戸籍は山東省兎城。在学中に第一汽車に勤務していた李安生夫人と知り合い、吉林工業大学の機械鋳造工学を卒業、第一汽車では異例の出世を続けて副社長までのぼりつめた。


夫人の父親が第一汽車時代に江沢民と親しかったのが理由とされる。91年に長春市市長に抜擢され、爾後トントン拍子の出世階段。08年まで吉林省全人代常務委員会副委員長の座にあった。(ちなみに長春第一汽車はトヨタと合弁している)。


彼には淫乱癖があった、と長春市の消息筋が語っている。米書記のつきあった「カノジョ」は百人前後、土木プロジェクトの許認可権を持ち、そのうえで人事権を行使して長春に君臨した。いわばパワー・ハラスメントの典型。


強いコネクションは江沢民派を通じて吉林省書記の王雲伸にも繋がる。王が市長のとき、米は副市長、王が省書記となるや、米は省全人代常務委員会副委員長の座に出世するといった具合だった。


 部下だった田忠は長春市党副書記まで上り詰めていたが、06年に賄賂を多額、多数受け取った容疑で逮捕された。

裁判では45万人民元と8万米ドルの賄賂容疑、13件が立証され、デベロッパーへの不正融資問題が司直の手によって裁かれた。ここでも、かれら汚職マフィアによって、多くの「豆腐ビル」が乱立した。


米老鼠一派の失脚と追放は、 米風君前書記自身が少数民族という出自の所為ではない、江沢民コネクションの残滓が、胡錦濤によって狙い撃ちされたということだろう。

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♪モンゴルはことしも米軍と共同軍事演習を敢行

 ただし、五輪直後の九月に延期したが、オブザーバー多数が参加する

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チンギス・カーンの末裔たちは、地政学的にロシアと中国に挟まれた窮地から、どのような外交を展開してきたのか。


91年独立当時、イラク戦争の開始を「ボシス・オブ・アメリカ」(VOA)で聴いた外務大臣は、ただちに閣議開催を要求し、世界でまっさきに「米国への協力」を表明した。パパ・ブッシュは飛び上がらんばかりに喜び、ベーカー国務長官をウランバートルへ派遣した。「チンギス・カーンの末裔たちは何を考えているのかな?」。


実際に湾岸戦争、つづくイラク、アフガニスタン戦争にモンゴルは兵力を堂々と派遣し、米国主導のシオナ・レオネにもPKO部隊を派遣した(全17500名のうち、250名がモンゴル兵)。NATO主導のアフガニスタンへも派兵を惜しまなかった。


旧ソ連の軍事統制時代から離れて独立したとき、ウランバートルはただちに米国と日本と印度に目をやった。ソ連と中国という巨大な軍事大国の挟み撃ちにあった格好のモンゴルは、チンギス・カーン以来の智慧を発揮したのである。


 一方でロシア、中国主導の「上海シックス」のオブザーバー加盟をなすが、他方では米軍と合同の軍事演習を繰り返す。

2001年から「カーン・クエスト」と命名された演習は年々歳々大規模となり、今年は九月五日から。毎年八月の演習を延期したのは北京五輪中の防衛識別圏に抵触する懼れが考慮しての措置である。


この演習に参加する軍事代表団はバングラデシュ、トンガ、韓国、ブルネイ、スリランカ、インドネシア、カンボジア、ネパール、印度、そしてタイから合計1000名以上がやってくる。中国とフランスは駐在武官を送る。


昨年の「カーン・クエスト2007」は、米国、モンゴル軍600名のほかに、韓国、バングラデシュ、トンガ、スリランカ、インドネシア、カンボジアが加わり、ロシア、中国、そして日本が駐在武官を派遣して観戦した。演習費用350万ドルのうち、モンゴルが34万ドルを負担、のこりは米軍が軍事費特別会計から捻出したと言う(「ユーラシア・ディリー・モニター」、7月13日付け)。

 

これにくわえてモンゴルは印度と過去四年間、合同の軍事演習をミャンマーとの国境ジャングルで展開しており、中国の背後をおびやかす印度と軍事的絆を強めることで、中国を牽制する外交力をえる。対ロシア牽制の外交妙薬はNATOを通じてのアフガンへの派遣だ。


すなわち、キルギスのように米軍基地をマナス空港に、ビシュケク郊外カントにロシア軍基地を貸与してバランスをとるスタイルより、モンゴル国内に外国軍の基地貸与は認めず、独立精神旺盛な、バランス外交を展開している。


その平衡感覚と言い、外交力と言い、日本の政治家と外務官僚と自衛隊員は爪の垢でも煎じて拳々服膺せよ。


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