“演出”されたサミットでの「温暖化ガス半減」(日経・大西 孝弘,山根小雪 ) | 日本のお姉さん

“演出”されたサミットでの「温暖化ガス半減」(日経・大西 孝弘,山根小雪 )

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▼“演出”されたサミットでの「温暖化ガス半減」(日経・大西 孝弘,山根小雪 )
洞爺湖サミットから速報!「日本のメンツは保たれた」――。 洞爺湖サミットの最大の焦点は温暖化ガスの削減目標で各国が歩み寄れるかにあり、外務省関係者は一定の前進があったとして安どの表情を浮かべた。

・G8の結束を世界にアピール
7月7日、洞爺湖サミットは冷たい雨が降りしきるなか、重苦しい雰囲気で幕を開けた。 昨年のハイリゲンダムサミットで2050年までに温暖化ガスを半減することを「真剣に検討する」との見解で一致していた。そこで、今回の洞爺湖サミットでは、「G8として合意する」のが最低ラインとされていた。 前日の日米首脳会談で米国のブッシュ大統領は、「私は現実主義者だ。インドや中国も同じ目標を共有しなければ問題は解決できない」と述べ、「中国・インドの参加なくして長期目標への同意はあり得ない」との姿勢を崩さなかったため、G8では最低ラインのクリアすら難しいのではないかとみられていた。 ところが、雨が上がった7月8日の午後、福田康夫首相は洞爺湖をバックにすがすがしい表情で記者団の前に現れる。「世界全体の目標(2050年までに半減)として採用を求めるという認識で一致した。G8はこの目標が地球にとって正しく、必要な目標だと洞爺湖で確認した」と語り、胸を張った。外務省関係者は「事実上、50年までに半減で合意」との解釈を示し、米国を説得した達成感を漂わせていた。 米国を説得したカギは首脳宣言の中にある。長期目標について、「2050年までに少なくとも50%の削減を達成するというビジョンを、国連気候変動枠組み条約の全締約国と共有し、同条約にもとづく交渉でその目標を検討、採用を求める」と、あえて回りくどい表現にすることで、米国が様々に解釈できる余地を残しているのだ。米国はまだ、「中国とインドが目標を共有しなければ削減義務を負わない」と言い出すかもしれない。 おとなしかったのはEU(欧州連合)各国だ。これまでの温暖化対策の交渉では、EU各国が高い目標を掲げて米国や日本を揺さぶってきた。2020年までに1990年比で20%削減するという中期目標を公表しているにもかかわらず、今回は数値目標のない「野心的な中期の国別総量目標を実施する」という首脳宣言を受け入れ、従来の主張を鞘におさめた。 米環境NGO「憂慮する科学者同盟」のオルデン・マイヤー氏は、「EUの対応は計算された政治判断」と説明する。 外務省関係者は、「EUはサミットの慣例に従って議長国のメンツを立ててくれた」と見る。つまり、G8各国が互いに配慮し合い、温暖化削減への姿勢を“演出”したのだ。G8は世界全体で温暖化ガスを半減することを呼び掛け、世界のリーダーであることをアピールした。

・消えた数値目標
だが、G8の呼びかけは、強烈な返り討ちに合う。中国やインド、ブラジル、南アフリカ、メキシコの5つの新興国が札幌で会合を開き、先進国に対して厳しい要求を突きつけたのだ。G8の長期目標は半減どころか、80~95%削減が必要だとし、中期目標は25~40%の削減が必要だと迫った。 2008年G8サミットNGO(非政府組織)フォーラムの鮎川ゆりか副代表は、「先進国が大幅な削減をしなければ、途上国は削減目標を負うことはないという明確なメッセージだ」と解説する。外務省関係者は、「明日の会合では大きな進展は期待できない」と、主要排出国会合(MEM)に対しては弱気な発言に終始した。案の定というべきか、7月9日のMEMの首脳宣言では、長期目標の必要性で一致したものの、具体的な数値は盛り込まずじまい。2050年までに半減する長期目標を支持したのは、韓国、オーストラリア、インドネシアの3カ国だけで、成長著しい中国、インドなどの新興国は賛同しなかった。議長総括の記者会見で福田首相が、「中国・インドにも50年で半減する長期目標を共有してもらうように働きかける」と訴えるのが精一杯だった。

・自縄自縛の「温暖化」サミット
先進国が39%、途上国が62%。洞爺湖サミットの主題となった2050年時点での二酸化炭素(CO2)排出量の割合だ(地球環境産業技術研究機構の試算)。世界のCO2排出量を削減する上での主役はもはや先進国ではなく、中国・インドなどの途上国になりつつあると言える。  G8は温暖化対策を主題にすることで、もはや8カ国だけで世界の趨勢を決められないというサミットの限界を、図らずもまた浮き彫りにしてしまった。
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▼インド経済、壁にぶち当たる(NIKEI・BusinessWeek)
経済成長率は下降し、株価は4割低下、外国人投資家も…
ほんの半年前、インドには心配など無用に思えた。経済成長率は年9%と堅調で、企業収益は2割の増益を達成。株価は昨年50%も値上がりした。個人が旺盛な消費意欲を示す一方、企業も海外企業の買収に果敢に取り組む。おまけに外国人からの投資も増加の一途と、インドは破竹の勢いで突き進んでいるように思えた。 ところがこの快進撃に急ブレーキがかかった。6月には、経済が苦境に陥った国の仲間入りをする事態に至った。11.4%に達するインフレ、巨額の財政赤字、金利上昇のトリプルパンチ。そこに、外国人投資の流出、通貨ルピーの下落、今年最高値から4割も下がった株式市場の低迷が追い討ちをかける。 経済成長率は7%に減速するという予想が大勢を占め、成長の“減速”でなく“加速”が必要なインドにとっては手痛い成長率の低下だ。 「半年前にもてはやされていたインドが相手にされなくなった」と、米メリルリンチ(MER)インド子会社(ムンバイ)の自己勘定売買部を率いるアンドリュー・ホランド氏は語る。国内関係者の間でも、インドはやっと手に入れた投資適格国という評価をすぐにも失い、輝かしい“インド成長物語”も幕を閉じると憂慮する声が多い。 インド経済の悪化は、原油高や外国資本の流れを止めたサブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)危機などの世界的な事情の影響を受けているのは明らかだが、責任はインド政府にもある。入念な対策が練られていたならば、インドが今直面している問題の大半は回避できたかもしれないのだ。 インドの石油需要は経済成長に伴い急増しており、そのうち75%は輸入により賄われている。インド政府はディーゼル油などの燃料価格に対し6割の補助金を支給している。インフレ率が3%と低かった昨年、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のスビア・ゴカン氏らエコノミストは、補助金削減に着手するよう進言した。 だが、大衆迎合的な与党の国民会議派(インド国民会議)は、補助金削減どころか農民向け債務減免措置と公務員給与引き上げに250億ドルを費やした。

・政府の無策でチャンスがフイに
今やこうした支出のほか、新たに250億ドルの肥料補助金が加わり、インド政府の歳出は年1000億ドル増加する見込みだ。この金額は国内総生産(GDP)の1割、国の全所得税収入に相当する。 しかも、新しいインフラ設備の整備には5000億ドル、教育・医療施設の拡充にはそれ以上の支出が早急に必要とされている中での歳出増だ。昨年6%以下に縮小した公式政府債務のGDP比は、今年10%近くまで拡大する見通しだ。 インド経済の立て直しに関してゴカン氏は、「昨年以降、政府は重要な改革機会を何度もフイにした。(国民会議派が連立を組んで政権の座に就いて以来)ここ4年間、全く有意義な改革を行っていない」と非難する。 インドの将来性を強く確信する人々でさえ、最近の有意義な経済改革の事例をすぐに挙げることができない。 30の経済特区を設置する計画は事実上、塩漬け状態にある。経済特区に必要な土地の確保には都市でも地方でも根深い利害関係が絡み、インド政府は社会や政治を大きく混乱させずにこの問題を解決する方法を見いだせていない。肥料補助金で市場が歪み、技術の遅れも目立つインドの農業は生産性がきわめて低い。司法制度の強化や裁判官の増員といった単純で政治的利害とは無関係な改革も全く放置されている。 米ゴールドマン・サックス(GS)のジム・オニール氏とタッシャー・ポッダー氏による6月16日付共同リポート「インド:2050年の可能性を実現するための10の課題(原題「Ten Things for India to Achieve Its 2050 Potential」)」にはインドの厳しい現実が記されている。政府の無策が大きくたたり、成長率はBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)4カ国中最下位に転落。コメの収穫量は中国の3分の1、ベトナムの半分にすぎない。労働力の60%は農業に従事しているが、国の経済成長への貢献度は1%以下と指摘している。 このリポートはインド政府に統治体制の改善、教育到達度の向上、インフレ抑制を促すとともに、放漫財政の引き締め、金融市場の自由化、農業生産性の向上、社会インフラ・環境・エネルギー効率の改善に取り組むよう勧告している。 ポッダー氏は、「こうした課題の遂行には強い指導力が不可欠だ」と指摘。英オックスフォード大学卒のマンモハン・シン首相や米ハーバード大学卒のP・チダムバラム財務相を念頭に置き、「インドの現政権には最高の頭脳を持つ“夢の”顔ぶれが揃っている。そうした面々が指導力を発揮しないのでは話にならない」と語る。

・実業界は政府に幻滅
投資の手腕と起業家精神で目覚ましい成果を上げ、活躍の場を世界に広げ始めたインド人実業家にとって、政府の取り組みは自分たちの今後の事業活動に大きな影響を及ぼす。そんな彼らにとって先行きに対する不安は尽きない。 新しい港から道路まで不十分なインフラや未成熟な社債市場に加え、不動産、商品、優秀な人材のコスト上昇も懸念材料だ。ムンバイの資産運用会社ジェータイ・インベストメンツの代表チェタン・パリク氏はこうした問題点を挙げ、「難題や構造的な障害が山積しており、この先数年は足踏み状態が続くだろう」と語る。 インド水道施設大手キルロスカール・ブラザーズ(KRBR.BO)のサンジャイ・キルロスカールCEO(最高経営責任者)は、既に年商4億7000万ドルのうち1億ドルを海外で売り上げる。しかしインド政府からのインフラ関係の発注はほとんどない。 国内の河川をつなぐ大プロジェクトに参加したいと考えているが、計画は4年も棚上げ状態だ。「インフラ事業での成長を期待してきたが、期待外れだった。国内よりも海外事業の方が成長を期待できる」(キルロスカール氏)。 こうしたインド国内の“成長の壁”の影響が今後表れてくるだろう。メリルリンチのホランド氏は、企業の増益率は下落する可能性が高く、昨年の20%から今年は10%に落ち込むと予想する。成長率が下がれば外国人投資家がインド株式市場に魅力を感じなくなるのも当然で、昨年は190億ドルを同市場に投じたが、今年は既に55億ドルを引き揚げている。 新興の金融・不動産大手インディア・ブルズ・ファイナンシャル・サービシズのガガン・バンガCEOは、中国の底力に目を見張る。インドは3年間の成長でさえおぼつかないというのに、中国は10年間もその勢いが衰えていないからだ。 同氏は「重要な会社ほど成長ペースが鈍化しそうで、今年は成長がマイナスに転じる会社も出てくるかもしれない」と指摘する。政府がインド経済の成長を保つための対策を早急に打たない場合、「インド経済は一段と減速する」と言う。 インド政府は4年間の政権運営の正当化に追われている。「我々は、過去に前例のない、4年間連続9%という成長率を達成してきた」と、シン首相の広報担当補佐を務めるサンジャヤ・バル氏は自画自賛し、活発な投資に後押しされた結果だと分析する。 投資の増加率はGDP比28%から35%に上昇し、ほとんどのASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の水準に近づいているとバル氏は言う。ただし、その大半は民間部門の投資であることは同氏も認める。「確かに国家財政の問題はある。だが連立政権には代償がつきもの。成長率が9%から7%に下がるのは深刻な事態とは言えない」と、バル氏の弁明は続く。

・社会不安が広がる恐れも…
米投資格付け会社ムーディーズのインド支店代表チェタン・モディ氏は、インドでの事業にかかる費用が急速に上昇している点を懸念する。金融サービスをはじめ、インドに拠点を置く外資は、もっとコストが安く効率のいいシンガポールや香港のような都市に移転し始める可能性があるという。
米ムーディーズ・エコノミー・ドット・コムのエコノミスト、シャーマン・チャン氏も、景気が失速しインフレの加速に歯止めがかからなければ、「社会不安が広がる恐れがある」と警告する。  実際、インド社会は治安が悪くなっている。大都市では、前政権の改革がもたらした“富”が、高級車や高級マンションという形で現れてはいるが、国民の大半は、こうした富に憧れながらも実際に手に入れる術がない。 大学不足も深刻だが、1500校の大学を設立する計画はほこりをかぶったままだ。連立与党のインド共産党は“国際化”にも“工業化”にも反対で、新しい工場の建設は抑制され、雇用の伸びはわずか2%と停滞している。毎年1400万人の若年層が社会人となるが、地下経済ではない正規経済で定職を得るのは100万人程度という嘆かわしいほどの低さだ。 それでも、インド政府に大胆な変革ができると期待する声はほとんど上がっていない。来年には総選挙、年内にも5つの主要州で選挙が控えている現状ではなおさらだ。既に与党国民会議派の選挙結果は芳しくなく、今年開かれた州選挙ではほぼ全敗。この先5州でも軒並み敗北が予想されている。 来年、新政権が誕生すれば、インドが改革路線に軌道修正する公算も大きくなり、実業界もそれを期待している。最悪なのは、インドの混乱した連立政治から再び優柔不断な“野合政権”が生まれ、インド政治でさらに5年間空白が続くことだ。 そうなれば、“危機シナリオ”が現実化するとS&Pのゴカン氏は警告する。成長率は6.5%以下に落ち込み、国際収支危機に陥った1991年の二の舞いとなる危険性があるというのだ。