民主党代表選挙まで何も進まない永田町(田原総一朗=ジャーナリスト)
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▼民主党代表選挙まで何も進まない永田町(田原総一朗=ジャーナリスト)
小沢(一郎民主党代表)さんは、ひたすら政権奪取の模索をしている。自民党を追い詰めるあらゆる手だてを第一義に考えているのだ。民主党議員の多くは、政策で自民党と戦うべきだと主張し、小沢さんと意見が合わない。民主党内である程度政策を詰めると、小沢さんが否定するといった繰り返しが行われている。小沢さんは政策には一切関心を持たず、ひたすら政局にのみ関心を寄せている。そうしたことに対する小沢さんへの不満が、民主党議員やマスメディアに強い。しかしながら、僕には小沢さんの気持ちがわからなくもない。政策をまともに論ずれば、マスメディアには誉められるが、民主党の政権獲得の道は、遠くなるからである。「国会審議なんかどうでもいい」と与党の法案をすべて否定し、審議にすら応じないといった小沢さんの発想は、そこからきている。とにかく、政権の座に就くことがなにより重要なのだ。だから、一時、小沢さんは総選挙で自民党を倒せないと見るや大連立に舵を切ったのである。
そういう小沢さんと民主党の大半が常に対立している。加えて、民主党内部から小沢批判がマスメディアに流れるのだ。だから、メディアには「民主党はどこへ向かっているのかわからない」という記事が出る。一方、自民党の現状の問題は、野党と交渉し、自民党の望む方向に誘導できる人材のいないことである。
かつて自民党は、社会党や民社党に金権を交え、硬軟織り交ぜた交渉のできる人物がいた。彼らは野党の事情を熟知していたのだ。ところが、いまや、自民党の三役や閣僚で、民主党の内実を理解している者はいない。ここが国会が混迷を続ける一因である。自民党内でコンセンサスがとれていることは、福田さんでは総選挙ができないということ、総選挙は、衆議院議員の任期ぎりぎりまで延ばしたいという二点である。いくら内閣支持率が下がろうと、現状では解散総選挙はない、ということだ。つまり、福田さんにつらいことはすべてやって頂く。極端にいえば、消費税率の引き上げもしてもらいたいといったところだ。その後、福田さんを退陣させ、ワンポイントで総理総裁を誰かにやらせようというわけだ。それで、解散総選挙となれば自民党は敗北必至、そこで選挙の前に政界再編を成し遂げようという思いである。つまり、福田さんで政界再編はしにくいが、ワンポイントリリーフの総理が誕生すれば、政界再編はしやすいということになる。
ワンポイントなら小池百合子元防衛大臣もありだ。一方で、与謝野(馨前官房長官)さんも、麻生(太郎元外務大臣)さんも、ワンポイントなら総理になりたくない。早く、福田さんに辞めてもらいたい、といったところだろう。しかし、何もしない福田さんには、意外にアンチ福田という勢力がいないから、ややこしいことになる。だから、このまま、九月の民主党の代表選挙まで、国会はずるずる進むことになる。反小沢の代表候補が、代表選挙で敗北すれば、民主党に動きが出てくるだろうし、それを受けて、自民党も蠢動するはずだ。(リベラルタイム8月号「THIS MONTH!」)
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▼テレビに甘すぎる「激安」電波利用料
「テレビ局の電波利用料負担は、総計で三十四億四千七百万円にしかならない。一方で営業収益は三兆千百五十億八千二百万円。電波を独占して上げる収益に対して利用料が千分の一。低すぎませんか」
二月末、自民党の河野太郎衆院議員のブログで公開されたテレビ局の電波利用料。有限希少な電波を“激安料金”で独占するテレビ局に、ネットでは「電波利用料を営業収益の三〇%ぐらい取るべきだ」などと厳しいコメントが躍った。
電波利用料は混信防止など電波の安定的で効率的な利用のための行政事務経費として、総務省(当時の郵政省)が一九九三年四月に導入したものだ。携帯電話の普及で国家予算に見込まれる収入額は年々増加し、二〇〇七年度(予算)は総額約六百五十億円。うち、携帯電話事業者の負担が八割以上を占めている。
テレビ局の激安電波利用料が注目されたのは今回が初めてではない。〇二年にもテレビ局の特別待遇に批判が集まったことがある。驚くべきことに、〇二年度までは、NHKと民放全百二十八社を合わせてもたった五億円しか負担していなかったのだ。当時、〇三年十二月に始まる地上放送のデジタル化に伴う電波混信対策費が、当初見込みの七百億―八百億円から千八百億円へと倍以上に膨れることが明らかになった。電波利用料で手当することになり、テレビ局側は、〇三―一〇年度の八年間の時限措置として、しぶしぶ値上げを飲んだが、それでも総額約三十五億円。携帯電話事業者の負担額にはとうてい及ばないものだった。
「地デジ」で開き直るが、「放送のデジタル化は国策だ。その国策にわれわれは全面的に協力し、必死に中継局整備を行なっているのだから」というのがテレビ局の理屈。テレビ局の電波利用料の値上げが再度取りざたされた昨夏の総務省研究会でも「中継局のデジタル化投資で特に地方局は経営が苦しい。電波利用料まで値上げされたら、中継局整備は約束できない。それでも総務省はいいのか」。テレビ局幹部はこう開き直った。
テレビ局に厳しい態度で臨んだ菅義偉(すが・よしひで)総務相(当時)は、テレビ局の使用周波数帯域幅が携帯事業者より広いことや、民放の給与水準が高いことなどを理由に、テレビ局の電波利用料の値上げを強く求めた。しかし、決着した金額は、一〇年度でもテレビ局全体で約五十億円と限定的な値上げ幅にとどまった。
なぜ、総務省はテレビ局にこうも甘いのか。それは、放送の完全デジタル化は旧郵政省の存亡をかけたプロジェクトだからだ。十一年七月にスケジュール通り地デジへの完全移行が達成できれば、省庁再々編構想が浮上するたびに取りざたされる経済産業省と総務省の情報通信部局を統合した「情報通信省」でも、主導権を握れる可能性が高まる。だが、失敗すれば、「失政」の烙印を押され、復権は夢のまた夢。それどころか電波事業の担い手は、独立委員会に格下げされる恐れさえある。郵政事業に続いて電波事業も失えば、旧郵政省は事実上消滅することになる。それゆえ、総務省はテレビ局の機嫌を取りながら地上デジタル化を進めているわけだが、そのツケは国民に跳ね返ってくる。
デジタル対応が必要なテレビの台数は、完全デジタル化まであと三年余りとなってもまだ一億台残っている。このため総務省は、生活保護受給世帯など低所得者には、アナログテレビに取り付ければデジタル放送が視聴できる五千円以下の簡易チューナーを無料で配布し、是が非でも完全デジタル化を成し遂げる肚だ。生活保護世帯は全国に約百万あり最低でも五十億円が必要な計算となる。対象をワーキングプアや年収二百万円以下の世帯に拡大すれば、数百億円規模になる。米国のように全世帯にチューナー購入の補助クーポンを配布すれば予算規模が一千億円に膨らむ可能性もある。財源はもちろん税金だ。一方でテレビ局の電波利用料は激安なのだから、何とも人をバカにした話なのである。携帯電話など電波需要が高まる中、電波の有効利用のためにもテレビのデジタル化を推進する合理性はある。ただし、すべての地方局の生き残りを前提とする総務省の方針の背景には、地方局と癒着する政治家の存在と、実質支配する中央キー局・新聞社、そして総務省を巻き込んだ、最後の「護送船団」の図式がある。今さらその動きは止められないというのが総務省の立場だろうが、少なくともテレビ局から相応の電波利用料を取るのが筋だ。(フォーサイト2008年5月号より)