「核」のオプションを考えるーー「経済で読む日米中関係」(扶桑… (田村秀男)
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▼とられたら取り返せ (田村秀男)
年間で消費税10数%相当の所得が資源国に奪われているというのに、それをどう取り返すかを考えない原油高騰対策とはいったい中身は何だろうか、と対策なるものをみるとしょせんは被害者の納税者または消費者から税金をとって、別の被害者である漁民や農家、中小企業に政府補助で再配分するゼロサムである。経済が高度成長しているうちはまだよいだろう。全体のパイが大きくなっているなら負担感は感じない。ところがゼロ成長に近い状態の今は、外にとられたら取り返すしかない。だから国家の外交(外務省の外交ではない)の意味があるのに、この政府はそんな戦略的感覚は皆無である。とられたら取り返せ、そのための戦略を編み出し、実行するのが政府の責任である。やり方はいくらである。まず資源国から日本に資金を還流させよ、原材料高を転化した価格で輸出できるよう政府は道筋をつけよ、金融機関は投機家のファンドから資金を引き揚げよ。
政治とはそんな目標を達成するために、スタッフを総動員してプログラムを作らせるためにある。日本の官僚は政治の意志が明確かつ的確であればまだプログラムをつくる潜在能力はあるはずだ。納税者に負担させて配分するだけの政策しか考えつかないようなら、いっそ民間に政策をゆだねよ。
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▼「核」のオプションを考えるーー「経済で読む日米中関係」(扶桑… (田村秀男)
対米外交とは、米大統領に「を忘れない」という情緒的表現を獲得するためではない。現実主義の立場で、自国の安全を確保することに徹し、そのための多様な手段をオプションとして持つことで初めてディール(取引)が成立する。それはちょうど、金融用語でいうリスクヘッジという手法に似ている。もともと軍事用語であり、軍事戦略から生まれたのが現代金融である。金融に弱いと外交も弱い。ヘッジすることを忘れ、オプションを持たなければ、どんな目に会うか、いたいけな子供までが他国に連れ去られ、おまけに核ミサイルに脅かされる。それは基本的に日本人が対応すべき問題であり、同盟国米国に助力を求めても、米国の判断にゆだねる問題ではない。米国はそれでも拉致家族には満腔の同情を表し精いっぱいやっているのだ。米国をなじってもしかたあるまい。冷徹なばかりのリアリズムに日本は徹せよ。それしか教訓はない。
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以下は拙著「経済で読む日米中関係」(扶桑社新書)から
2006年12月初旬、米国の知日派の安全保障専門家が来日し、安倍晋三首相と会談したあと中川昭一自民党政調会長を訪ねた。専門家「安倍首相には、中国首脳に今度会ったら、日本の核保有を中国が望まないのであれば、中国の影響力で北朝鮮の核を廃絶させるべきだと要請してみたらどうか、と申し上げた」
中川政調会長「それはどうか。核保有国が核を廃絶したためしがない。日本で核の議論が起こると、常に自主独立、そして日米同盟の破棄という議論に発展する。共和党内においてもそうだ」
専門家「かつて、英国が核保有を考えた際に米国は当初反対した。だが、英国が核保有国になった後も米英の同盟は崩れなかった。日本が核を保有しない方が望ましいと米国が考えるのは、日本を特別扱いするのかという議論があるからだ。核保有が日本にとって賢明かどうかについては、日本しか回答は出せない」
米国の「核」外交とは、つまるところ現実主義である。18日にブッシュ大統領が署名した「米印平和原子力協力法」は、核拡散防止条約(NPT)非加盟国向けに核物質を輸出禁止している「74年原子力法」をインドに適用除外する。つまり、インドの核保有は不問に伏され、米国から軽水炉や原発用濃縮ウランを入手できる。
隣のパキスタンも1998年5月、インドに続き地下核実験を成功させた。米国は両国にしばらく「経済制裁」を行ったが、両国ともほとんど打撃を受けなかった。2001年の同時多発テロ以降、パキスタンは米国の同盟国扱いになり、経済はブームが続いている。
日本が核を保有できないという理由は、経済面でも沢山ある。例えば、核保有宣言すれば、日本に軽水炉技術や濃縮ウランを供給している米国をはじめ、使用済み核燃料の再処理を引き受けている英仏も日本の原子力協定違反を非難する。米英仏などから譲歩を引き出し、新たな協定を結ぶまでの間は、総発電量の3割を供給している原発が運転できなくなる恐れが発生する。
厳しさの増す現実は、北朝鮮の核保有にある。筑波大学の古田博司教授は「韓国の盧武鉉政権は来年、突如、北との統合を宣言することだってありうる」とみる。同教授の分析によれば、盧武鉉政権と与党ウリ党は「過激派」が要職を占め、野党のハンナラ党でも親北派が影響力を強めている。統一により「核」の半島が日本列島と真っ向から向き合う。
経済と軍事、日本はこのバランスをどうとるべきか。日本はただちに核保有できないとしても、いつでも踏み切れるだけの潜在力を磨き、その能力そのものを「抑止力」とすることは可能なはずである。本紙25日付の政府内部文書「核兵器の国産可能性について」の報道は、南北朝鮮や中国に大きな衝撃を与えている。中国共産党の意見を代弁する香港の新聞「大公報」も大陸の地方紙も大きく転載した。国営通信社の新華社は本紙記事について、「日本はわずか3000億円で数年内に自衛隊の武器庫に核兵器を装備できるのだ」との論評を中国全土の新聞に流した。
問題は「抑止」になるだけのリアリズムが日本の核技術開発にあるかどうかである。ネックは意外なところにある。政府文書は、小型核弾頭試作のためには3~5年の期間、最大3000億円の予算、さらに数百人の技術者動員が必要と結論づけた。日本の大学の工学部で「原子力」と名のつく学科は今、福井工業大学にしかない。東大も京大でも学部からは「原子力」の看板がとっくに消えた。大学院の研究 者は情報技術(IT)やナノテクに移行、地味な溶接や材料工学は消滅または衰退の一途だ。核弾頭開発どころではない。在来の核エネルギー平和利用部門への 人材供給すら危ぶまれている。核には平和と戦争という二面性があるにもかかわらず、日本の核開発路線は縦割りそのもの。経産省・資源エネルギー庁は最近まとめた「原子力立国計画」で2兆1900億円かかる六ケ所再処理工場から、その安全性や巨額の開発費で先頭を切っていたフランスが放棄した「高速増殖炉」国産までうたっている。10年の空白をやっと克服したウラン濃縮は唯一の軍民両用技術であり、抑止力になりうる。「選択と集中」が核政策にも急がれる。
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▼核のオプションを考えるーー資料編 (田村秀男)
以下は拙著「経済で読む日米中関係」(扶桑社新書)から
「核兵器の国産可能性について」の要約 膨大な資金・大規模設備 非現実的2006年12月25日 (産経新聞 東京朝刊 総合・内政面)
政府内部調査資料「核兵器の国産可能性について」(2006年9月20日)の要約
1、結論
法令や条約上の制約がないと仮定しても、現在国内にある核関連施設や核燃料などを使って1~2年以内に核兵器を国産化することは不可能である。小型弾頭を 試作するまでに最低でも3~5年、2000億~3000億円の予算と技術者数百人の動員が必要。核実験せずに開発すれば期間と費用はさらに増える。
2、原材料の入手可能性
(核弾頭の原材料)運用可能な核弾頭の材料としては、94%以上の純度の金属プルトニウム(Pu)239=いわゆる長崎型=を最低でも約5kg程度必要。 Pu239を作るためにはウラニウム(U)238を黒鉛減速炉か重水減速炉の中で3~6カ月照射し、冷却、再処理、冶金(やきん)加工が必要。U238は日本原子力開発機構人形峠事業所(現・人形峠環境技術センター)、日本原燃六ヶ所ウラン濃縮工場で合計約1万トンが保管されている。
U235による核=広島型=を作るためには、六ヶ所濃縮工場のほぼ10倍の1万トン規模の濃縮設備が必要だが、資金・設備とも現実的ではない。
(U238の国内保有)U238については、日本原子力研究開発機構人形峠事業所、日本原燃六カ所ウラン濃縮工場で合計約1万トンが保管されている。大部分がフッ化物として圧力容器に保管されている。第一段階としてフッ化物のU238を金属か酸化物に転換し、燃料集合体に加工する必要がある。
(原発の使用済み燃料からの製造)現在の技術ではPu240を分離除去する方法がないので、軽水炉から取り出した使用済み燃料からは核兵器を作ることは事実上不可能である。
原子炉でU238に中性子を照射するとPu239より重い同位体Pu240、242、244が増えるが、核兵器に使えるのはPu239のみで、Pu240などがPu239に対して7%以上混在していると突然暴発する。軽水炉や高速増殖炉ではPu239に対してPu240が20~30%も産出する。東芝と金属鉱業事業団が開発した原子レーザー法はPu239を選択的に取り出せる技術だが、未完成である。もうひとつ、軽水炉の炉心を改造し、U239の製造に適した特別の領域を設け、頻繁に燃料交換する方法があるが、商業発電用原子炉では非能率で無理がある。
3、製造工程の利用可能性
(黒鉛減速炉の必要性)Pu239を効率よく作るためには、必要以上に中性子を吸わない黒鉛減速炉か重水減速炉が適している。日本にはかつて日本原電東海 事業所に黒鉛減速炉が、重水炉としては日本原子力研究開発機構ふげん発電所(福井県敦賀市)があったが、いずれも廃炉になっており、再操業は不可能。最も合理的な選択は小型の黒鉛減速炉の新設である。高純度の黒鉛ブロック100トン程度と天然ウラン燃料、U238燃料集合体がそろえば、比較的簡単に建設運転できる。高純度黒鉛は国産の半導体製造用黒鉛を転用できる。この新型炉は核弾頭1個だけならごく小規模で済むが、数をそろえるためには規模を大きくする必要がある。(再処理工場の必要性)黒鉛減速炉から取り出した使用済み燃料を再処理してU239をつくる。日本原子力研究開発機構東海再処理工場、日本原燃六ヶ所再処理工場の場合、軽水炉用なのでPu240で「汚染」されている。高純度のPu239を作ることは困難である。従って東海再処理工場を洗浄・改造しPu239専用とするか、小規模な専用再処理ラインを併設する必要がある。
4、弾頭化の可能性
(起爆)94%以上の高純度の金属Pu239を海綿状に加工した中心核をU238や金属ベリリウムなどの中性子反射体で包んでコアをつくり、コアの外部から爆薬で爆縮して臨界(核分裂が連鎖して起き始めること)させる技術が必要。(核保有と核兵器保有の境界)爆縮を起こすためには、方法が2つある。1つは多面体の爆発レンズで包み、少量の高性能爆薬の衝撃波をコアに効率よく集中させて起爆する「爆薬レンズ法」。もうひとつは、地下の坑道などで数十トンの爆薬でコアを覆い、無理やり爆縮させる「坑道法」である。運用可能な核兵器をつくるためには爆薬レンズ法が必須だ。爆薬レンズ法技術が進んでいれば、Pu239を強いて爆発させる実験は不要で、多くの核保有国は未臨界核実験で十分としている。爆薬レンズは日本の技術力では十分開発可能だが、ゼロからの開発になるため、材料や要素技術がそろっていても数年を要する。核実験をせずに完成させることは不可能ではないとしても時間と費用がかさむ。(弾頭工場)再処理工場でつくられたPu239の酸化物粉末は臨界を起こさないように還元して金属とし、成形加工する工場が必要。機密管理などのために、日本原子力研究開発機構東海事業所の地下か、防衛庁の既知内部などに設置する必要がある。
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