日本漁船の譲渡でロシアを批判 官房長官
日本漁船の譲渡でロシアを批判 官房長官
2008.6.24 12:03
町村信孝官房長官は24日午前の記者会見で、北方4島周辺海域で拿捕(だほ)された日本漁船が露国営漁業関連企業に譲渡されていた問題について「日本から再三にわたり引き渡しを要求しているが、ロシア側は『裁判の結果、船体は国庫に没収された』として応じていない。日本の総領事館員が、この船がサハリン州内の港に係留されていることを確認している」とした上で「人道的な観点からも、わが国の領土に関する基本的な立場からしても容認できない」と、ロシア政府の対応を批判した。
町村氏はまた、「政府としてはロシア政府に引き続き船体の速やかな引き渡しを求め続ける」と述べた。
高村正彦外相も同日午前の会見で、「向こう(ロシア側)の立場は、正式な裁判で没収を決めたというものだが、われわれはそれを受け入れていない」と強調し、粘り強くロシア側に引き渡しを求めていく考えを示した。
これに関連し、政府は24日午前の閣議で、拿捕事件の現状について「ロシアとの今後のやり取りに支障を来す」として、露国営漁業関連企業に譲渡されたことも含め詳細を公表しないとの答弁書を決定した。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080624/plc0806241204008-n1.htm
銃撃の日本漁船、露国営企業に譲渡、「物証」の返還拒否
2008.6.24 01:34
2006年8月16日、北海道根室沖でロシア国境警備艇に銃撃・拿捕され、国後島古釜布(ふるかまっぷ)港に抑留されていた第31吉進丸。右舷船首付近には、銃弾を受けたとみられる痕跡も残っている
【モスクワ=内藤泰朗】
北方四島周辺海域で日本漁船が一昨年夏、ロシア国境警備艇に銃撃・拿捕(だほ)され乗組員1人が死亡した事件で、日本政府側が事件の物的証拠としてロシア側に引き渡しを求めている同漁船が露国営漁業関連企業にすでに譲渡されていたことが産経新聞の調べで明らかになった。ロシア側は、船体の日本引き渡しを今後とも拒否する姿勢だ。来月初めの主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)開催時に日露首脳会談が予定されており、同問題が取り上げられる可能性が出てきた。
ロシア連邦資産庁、極東・サハリン州代表部の担当者は産経新聞の電話取材に対し、昨年4月に北海道根室市のカニかご漁船「第31吉進丸」の船体を裁判所から同庁の管理下に置いた後、国営「漁業資源」会社の資産に移管したことを明らかにした。諸手続きはすべて完了しており、同漁船は、サハリン州内の港に係留されているという。一方、国営「漁業資源」会社側は、産経新聞の問い合わせに対し、「回答はできない」と拒否。同国営会社を統括しているロシア下院国家漁業委員会(クライニー委員長)も、問い合わせに回答していない。
これに対し、日本政府筋は「これまで通り漁船の船体返還を求めていく。それが、北方領土周辺海域でのこうした事件の再発防止につながるとロシア側には主張している」と述べ、今後とも日露両国の協議で同問題を取り上げる姿勢を示した。
日本側は同事件の直後、塩崎恭久外務副大臣(当時)をモスクワに派遣し船体の返還などを求めてきた。
しかし、ロシア側は、日本側の強い働きかけにもかわらず、船体を国営会社に移管しロシアの法律を盾にあくまで船体の引き渡しには応じない姿勢を示した形だ。
7月7日から3日間、開催される北海道洞爺湖サミットでは、ロシアのメドベージェフ大統領が初訪日し、福田康夫首相との日露首脳会談も予定されている。ロシア側が、戦後60年以上にわたり未解決となっている北方領土問題と密接に関係し、人命が失われた同事件の再発防止に向けた協力を無視することは異常な事態といえ、日露首脳会談の議題となる可能性も指摘されている。
■日本漁船銃撃・拿捕事件
北方領土・貝殻島付近で操業中のカニかご漁船「第31吉進丸」(北海道根室市・船長坂下登船長)が2006年8月16日、ロシア国境警備艇に銃撃され、密漁と領海侵犯の容疑で拿捕された事件。銃撃で乗組員の盛田光広さん(当時35歳)が死亡。坂下船長は、密漁の罪を認め罰金を支払い帰国した。第2次大戦後、ソ連が北方領土を不法占拠してから、同海域で銃撃で死亡者が出たのは1956年以来。銃撃事件については、根室海上保安部が殺人か傷害致死容疑の適用を視野に捜査を続けている。http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/080624/crm0806240135001-n1.htm
国ぐるみ隠蔽許すな 露の漁船引き渡し拒否 (1/2ページ)
2008.6.24 01:38
【モスクワ=内藤泰朗】一昨年夏のロシア国境警備艇による日本漁船銃撃・拿捕(だほ)事件で、事件解明の重要な証拠物件である漁船の日本引き渡しをロシアが拒否する背景には、「シロビキ(武闘派)」と呼ばれる旧ソ連国家保安委員会(KGB)系の権力機関の隠蔽(いんぺい)体質がある。同事件の真相究明は、今後の日露両国の信頼醸成には避けて通れない問題であり、これまで以上に、ロシア側に積極的に働きかけることが不可欠となっている。
今回の事件は、日露の歴史に残る事件となった。ロシア側は「密漁日本漁船への警告射撃が偶然、乗組員に命中した」と説明するが、関係者らの証言は食い違っており、同事件の細部は依然、闇に包まれたままだ。ロシア捜査当局も、これほどの事件でありながら、詳細について情報の公開を行っていない。
事件の真相究明には、ロシア国境警備艇の銃撃を受け被弾したカニかご漁船「第31吉進丸」の弾痕と、当時の漁船の動きを克明に記録した衛星利用測位システム(GPS)のデータが検証が不可欠である。ロシア側がかたくなに日本への引き渡しを拒否し続けているのはまさにこの2つで、日露双方の捜査当局間に信頼関係が存在しないことも浮き彫りにした。日露両国は事件後、同様の事件の再発防止に向け、連携を強化することで合意したが、こうした不信感がある限り、同様の問題が再発する危険は消えないだろう。
石油などを中心に資源ナショナリズムが高揚するロシアでは、石油だけではなく水産資源を強奪する密漁者への取り締まり強化を訴えるシロビキたちが、同国の政治、経済を牛耳っているのが現状だ。プーチン首相は、シロビキたちの代表といえる。
戦後60年以上がたったにもかかわらず、北方領土問題は解決されず平和条約も締結されないまま低い信頼関係にある両国は、北方四島海域で起きた同事件をうやむやにしてはならないだろう。この事件をめぐり日露双方が今後とる対応策は、両国関係の近い将来を占う重要な試金石になるものとみられる。
■サミットでモノ言え 作家・上坂冬子さん
漁船が拿捕(だほ)され、船に搭載されていたGPS(衛星利用測位システム)も没収されているが、GPSの記録を詳しく検証すれば、当時、漁船が(北方領土と納沙布岬の間の)「中間ライン」を越え、違法操業だったかどうかもはっきりわかったはずだ。
ロシア側は物的証拠の返還も拒否し続けており、こうした姿勢は、罪のない丸腰の乗組員を銃撃して殺害した事実を隠そうとしているとしか思えない。
ロシア側から非道な扱いを受け、日本政府がなおも黙っているとすれば、日本の外交能力はゼロという印象を受ける。北海道洞爺湖サミットで来日するメドベージェフ大統領との会談では、この問題を議題の1つとして取り上げ、国家の尊厳を挽回(ばんかい)する機会を取り逃がさないよう切望する。http://sankei.jp.msn.com/world/europe/080624/erp0806240140000-n1.htm