6か国協議は中国の伝統芸「猿回し」の曲芸なのか?米国が北朝鮮のテロ支援国解除に動き出した背景を読
ようちゃん、おすすめ記事。↓
▼6か国協議は中国の伝統芸「猿回し」の曲芸なのか?米国が北朝鮮のテロ支援国解除に動き出した背景を読み解く。 。(じじ放談)
北朝鮮は当初から「米朝二国間協議」を主張してきた。これを米国が「6か国協議」という舞台を設定し、北朝鮮を初めとする関係各国を巻き込んだ。米国が「米朝二国間協議を拒否していた」から、北朝鮮としては「やむを得ず6か国協議に出席した」のであろう。6か国協議に対する北朝鮮の不誠実かつ不熱心な態度がこれを証明している。米国は中国を6か国協議の議長国に推挙し中国を喜ばせた。中国は以下の理由によって6か国協議の議長国になったことに満足した。
(1)大国としての積極外交を世界にアッピールできる。中国の国際的な地位向上を図れる。
(2)世界の大国である米露日と同じ土俵で外交活動を行うことは、これまでにない外交の経験と手段を獲得し、相手国の長所と短所を見ることができる。
(3)中米関係に保険をかけるような役割を果たすことができる。
(4)中国外交に見られた従来の受身的な姿勢を改め、積極的な外交に転換していくことが期待できる。
(5)中国の朝野も外交当局がこの一歩を踏み出したことを高く評価した。例えば、王毅外務次官(当時)は一躍「時の人」となりヒーローとなった。
(以上、「中国が予測する北朝鮮崩壊の日」綾野(リン・イエ)著、富坂聡訳、文春文庫21-22ページより抜粋)
6か国協議の進行経過は周知のとおりである。当初米国は「北朝鮮を説得する役回り」を中国に丸投げしていた。中国も米国の期待に応えるべく、担当者を北朝鮮に派遣し相応の努力を行った。結果、何の成果も上げることができなかった。北朝鮮に対する中国の影響力がほとんどないことが世界に知れ渡った。米国は中国が活躍できる機会を存分に与えた。そして、中国と北朝鮮の希薄な関係を浮き彫りにした後で米国はやおら舞台に登場した。米朝二国間協議が始まった。6か国協議は米朝協議を追認し、米朝協議で合意した義務を分担することだけを協議する場に変質した。
6月19日付け日本経済新聞・夕刊は1面トップで「米国務長官:北朝鮮、近く核申告。テロ指定国解除へ」と題する以下の記事を掲載した。(抜粋)
1.ライス国務長官は18日、ワシントン市内のシンクタンクで講演し、北朝鮮が核問題を巡る6か国協議の合意に基づき、議長国の中国に近く核計画を申告するとの見通しを示した。
2.その上で、申告すれば「ブッシュ大統領が北朝鮮へのテロ支援国に指定解除と、敵国通商法の適用除外の意向を議会に通知する」と語った。米政府高官が核申告に合わせたテロ支援国の指定解除を明言したのは初めて。
3.米政府のテロ支援国の指定解除は、議会への通知から45日後に発効する。ライス長官は「45日間に北朝鮮の協力の度合いを見極め、正確さと完全さを検証する。協力が不十分なら、それに合わせた行動をとる。」とも強調。申告の中身を見極め、解除の中止もあり得るとの認識を示した。
本来、米朝二国間協議で解決可能な問題について、しかも北朝鮮側は「米朝二国間協議を主張していた」にもかかわらず、なぜ米国は面倒くさい6か国協議という舞台を設定し、中国に(形式上の)主役を演じさせたのであろうか。中国と北朝鮮は朝鮮戦争以来「血で結ばれた同盟関係」と喧伝されてきた。切っても切れない「唇歯関係」ともいわれた。米国も世間の風潮に影響され、北朝鮮の宗主国は中国であるから、中国抜きで米朝協議を行っても「結論を出すのが困難」とみなしていたのかもしれぬ。では、中国が希望する「米国、中国、北朝鮮」の3か国協議はどうか?1対2で分が悪い。ということで、日本、韓国、ロシアを加えバランスをとったのであろう。2003年8月、第1回6か国協議が北京の釣魚台迎賓館で開始された。以来約5年が経過、めぼしい成果は上がっていない。そればかりか、北朝鮮は核実験を強行し立場を強化した。北朝鮮だけが威勢が良く他の5か国はさっぱりであるように見える。米国は6か国協議を通じて「中国は北朝鮮の宗主国ではない」ことと、「北朝鮮は中国の影響力を払拭し自立したがっている」ことを確認できた。だから「米朝二国間協議」に応じることにした。米朝協議で合意し、その結論を議長国である中国に通知することにした。中国は現在でも「北朝鮮の宗主国は中国」と自認している。実態はともかく、建前だけでも宗主国の役柄を演じざるをえない立場だ。だから、中国は「北朝鮮は中国に相談し了解を得てから米国と協議すべきではないか」と思っている。この手続を無視して米朝協議を行うのは順番が違うのではないかと不満をつのらせている。
6月17日から中国のナンバー2習近平国家副主席が訪朝している。これに合わせるタイミングで、前述したライス国務長官の「核申告とテロ指定解除」の発表がなされた。「中国のナンバー2が訪朝しても米朝合意は動きませんよ」という訳だ。以上のような6か国協議について、10か月以上前から予測していた中国の政府高官や軍関係者が少なくなかった。中国国防大学戦略研究所研究員綾野(リン・イエー仮名)もその一人である。リン・イエは「中国が予測する北朝鮮崩壊の日」富坂聡訳、文春文庫23から26ページで以下のとおり述べている。
1.ある非常に有力な国家のシンクタンクの朝鮮問題専門家は、中国の古代から伝わっている伝統芸である「猿回し」に6か国協議をたとえ、これを強烈に皮肉ったことがあった。彼の表現によれば、中国は猿回しの猿でもそれを操る人間でもないというのだ。
2.「猿回し」は通常、二人の人間と1匹のサルがチームとなってやる曲芸である。お祭りなどでよく見かける丸いステージの上で調教師がバナナを持って猿を竿に乗せたり火の輪をくぐらせ、お客に向かってお辞儀をさせるなどして笑わせるのであるが、主役はあくまで猿と調教師である。そして、もう一人の人間は、司会をしながらドラを鳴らして客の間を歩き回りお金を徴収するという役回りである。
3.いうまでもないことだが、6か国協議における主役はアメリカと北朝鮮である。どちらが猿でどちらが調教師かは想像に任せるが、中国の役割は所詮第3の人間として、金の徴収に駆け回ることだというのだ。そして、これ以外の日本、ロシア、韓国は、それ以上に役に立たない存在として、最初から計算外の立場にあるということだ。
4.6か国協議の問題は5つの視点で語ることができる。
(1)北朝鮮の核危機問題であれ、半島全体に関わる問題であれ、いずれにせよ中国はこれらの問題の当事者として主役に位置づけられるべきである。
(2)中国の北朝鮮外交を根本から見直すべきだ。これは従来の政策或いは政策決定者を否定することにもつながるから非常に難しい決断を要する。党指導部や外交当局、軍は、まったく新しく北朝鮮との関係を築き上げるほどの覚悟と決意をもって見直すべき時を迎えている。
(3)武大偉外務次官(6か国中国代表団団長)は中国の役割を「舵取りの船長だ」と言い放った。しかし実際には船長の役割を果たしていない。現状ではアメリカと北朝鮮が交替で船長をやっている。中国はひたすらその調整役として火消しに走りまわっているだけだ。外交はどこかの国のように威圧や制裁、恫喝さえも必要なのだ。
(4)北朝鮮が望んでいるのはあくまでもアメリカとの直接交渉であり、中国はそれを阻むべきなのである。まず、中朝間で徹底的に交渉し、合意に至った上で米朝会談実現のために協力すべきなのだ。
(5)6か国の議長国となった以上は失敗は許されない。失敗すれば中国の威信が傷つくだけでなく、中朝関係や中米関係を悪化しかねない。アメリカや日本から中国の北朝鮮に対する影響力について疑問の声が高まる。北朝鮮は中国に愛想をつかすと同時に、誰はばかることなくアメリカと日本を相手に駆け引きを始めるだろう。
以上、長々と引用したが、6か国協議を巡る中国の問題が出ていて面白いと感じたからだ。
第1の問題(中国共産党指導部、政府高官、軍上層部における意見の対立)
「中国は北朝鮮の宗主国であらねばならない」という考えでは意見の対立はないようであるが、核開発や米朝協議など北朝鮮が「中国を宗主国と認めない」という態度を鮮明にし出したことから、深刻な路線対立が生まれている様子である。つまり、「中国と北朝鮮は唇歯の関係であるべき」という「べき論」を推し進める旧守派勢力と、自立しつつある北朝鮮の現実を直視して「普通の国家関係」に組み替えるべきだする改革派勢力の対立である。習近平国家副主席があわてて北朝鮮を訪問したのも、旧守派勢力の意向を汲んで北朝鮮が「中国の頭越しに米国及び日本と取引しないよう」働きかけたということだろう。さらに、「北朝鮮が中国の頭越しに日米との国交回復などを行うならば、中国はこれまで行ってきた無償経済援助を中止せざるをえない」と恫喝する等、改革派勢力の意向にも配慮したのではなかろうか。
第2の問題(中国は「猿回しの曲芸」における集金役?)
さすが漢族は文章の達人である。6か国協議を称して「猿回しの曲芸」とは言い得て妙と感心した訳なのだ。当たらずといえども遠からずといえよう。そして、「主役は米国と北朝鮮で中国は集金役」という自己認識も的を得ている。「日本ほかは蚊帳の外」というのも正しい。中国の問題意識の最大のものは「東アジアとりわけ朝鮮半島は中国の縄張りであるから、本来、中国が主導して問題解決を図るべきであるのに、米国が6か国協議の場を悪用して主役になり主導権を奪ってしまった。全くもってけしからん。」ということに尽きるのではないか。地域の覇権国家を狙う中国共産党指導部並びに軍にとって6か国協議は「二度と見たくない悪夢」ではなかろうか。もちろん、試合巧者の米国は、形式面では議長国中国の「面子が潰れないよう」配慮してくれてはいる。だが、実際の行動は「米朝協議最優先」で何事も取り決め、中国には、米朝協議の合意に沿った議事進行を期待するという訳なのだ。つまり、中国を議長国に祭り上げ「逃げることができない」責任を負わせてから、米朝2国間協議を繰り返し「落とし所を決める」という存念なのだ。米朝で合意した内容に従って、中国、日本、ロシア、韓国に分担金を支払わせる段取りなのだ。以上、筆者は中国軍現役大佐殿(リン・イエー仮名)の慧眼に関心したのであった。これら有能な人材が豊富にいる中国は、核兵器以上に脅威というべきなのだが、硬直した党や軍のシステムのお陰で、有能な人材の意見が政策に反映されないから、周辺国家としては「枕を高くして眠れる」という訳なのだ。
第3の問題(なぜ米国は「北朝鮮のテロ指定国解除」を急ぐのか?)
中東でもアジアでも、そして対露交渉でも何らの成果がなく「任期満了を迎える」ライス国務長官が、一つでも実績を残しておきたいと願うのは自然である。米国大統領選まで4か月。次期大統領が決定する11月上旬以降は、ブッシュも大きな決断を要する外交を行うことは困難であろうから、この2・3か月間が最後の勝負である。第3コーナーを回り、ゴールまであと100メートル。最後の一駆けで、北朝鮮問題を解決しようとあせっている。
次期大統領候補のオバマやマケインは、ブッシュよりも組みしやすい相手とはいえないから、北朝鮮も「ブッシュと取引した方がよい。」と考え、ライスと波長が合っているのかもしれぬ。さらに、金正日の健康状態(糖尿病?認知症?)が悪化しているのかもしれず、長期間にわたり最重要機密を秘匿することもできないから、北朝鮮としても「米朝国交正常化を速やかに取り決めたい」というニーズが高まっているのかもしれぬ。米国の主導で「北朝鮮問題が解決された」となれば、東アジアとりわけ朝鮮半島問題への米国の影響力が強まる。中国は「米朝協議主導型の決着」に同意したくないであろうが、ロシア、日本、韓国が同意すれば中国だけが反対することはできまい。しぶしぶ同意させられるのではないか。
中国にとっては絶対忠実な服属国であったはずの北朝鮮が自立し、米・日・韓・露などと対等な外交を行うようになれば、中国の特権的地位は自然消滅する。好むと好まざるとにかかわらず、中朝関係は「普通の国家関係」に変わる。過去2000年以上、中国歴代王朝に服属を強要され、時には併合されてきた朝鮮としては、「自立した国家を実現する」ことは民族の悲願である。逆に、宗主国の地位を失う中国は失意のどん底に陥る。
中国歴代王朝は「朝貢してくる服属国」が多いほど王朝の権威を示すことができたし治世に自信を持つことができた。最後に残った服属国家北朝鮮が自立した場合、中国共産党王朝に与える衝撃の強さはいかばかりであろう。中国共産党王朝の徳を慕って朝貢する国家が消えた時、共産党指導部や中国軍は「がっくり」して緊張の糸が切れ、自律神経失調症となる危険がある。中国と北朝鮮の社会病理的な共依存関係が解消された時、中国共産党指導部・中国軍には大きなストレスがかかる。「心にぽっかりと穴があく」という感じだ。個人であれば「酒で誤魔化す」かもしれぬ。「女遊びで不安解消を狙う」かもしれぬ。中国は心の不安を「米国との共依存関係」で穴埋めしようとするかもしれぬ。くれぐれも、我が日本が中国の「依存対象」とならないよう「袖が擦りあわない」程度の位置関係を保つことが肝要である。
本日(19日)、護衛艦「さざなみ」が中国海軍南海艦隊司令部がある広東省湛江港に向けて出発した。昨日は東シナ海の海底ガス田共同開発で合意した。何やら雲行きが怪しい。くれぐれも「日中共依存関係の構築」だけは勘弁してもらいたいものだ。福田康夫の無原則的体質を見ると、見境なく妥協を繰り返す危険が高いので要注意である。逸脱した政治を行わないよう監視体制を強化すべきであろう。
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▼6か国協議は中国の伝統芸「猿回し」の曲芸なのか?米国が北朝鮮のテロ支援国解除に動き出した背景を読み解く。 。(じじ放談)
北朝鮮は当初から「米朝二国間協議」を主張してきた。これを米国が「6か国協議」という舞台を設定し、北朝鮮を初めとする関係各国を巻き込んだ。米国が「米朝二国間協議を拒否していた」から、北朝鮮としては「やむを得ず6か国協議に出席した」のであろう。6か国協議に対する北朝鮮の不誠実かつ不熱心な態度がこれを証明している。米国は中国を6か国協議の議長国に推挙し中国を喜ばせた。中国は以下の理由によって6か国協議の議長国になったことに満足した。
(1)大国としての積極外交を世界にアッピールできる。中国の国際的な地位向上を図れる。
(2)世界の大国である米露日と同じ土俵で外交活動を行うことは、これまでにない外交の経験と手段を獲得し、相手国の長所と短所を見ることができる。
(3)中米関係に保険をかけるような役割を果たすことができる。
(4)中国外交に見られた従来の受身的な姿勢を改め、積極的な外交に転換していくことが期待できる。
(5)中国の朝野も外交当局がこの一歩を踏み出したことを高く評価した。例えば、王毅外務次官(当時)は一躍「時の人」となりヒーローとなった。
(以上、「中国が予測する北朝鮮崩壊の日」綾野(リン・イエ)著、富坂聡訳、文春文庫21-22ページより抜粋)
6か国協議の進行経過は周知のとおりである。当初米国は「北朝鮮を説得する役回り」を中国に丸投げしていた。中国も米国の期待に応えるべく、担当者を北朝鮮に派遣し相応の努力を行った。結果、何の成果も上げることができなかった。北朝鮮に対する中国の影響力がほとんどないことが世界に知れ渡った。米国は中国が活躍できる機会を存分に与えた。そして、中国と北朝鮮の希薄な関係を浮き彫りにした後で米国はやおら舞台に登場した。米朝二国間協議が始まった。6か国協議は米朝協議を追認し、米朝協議で合意した義務を分担することだけを協議する場に変質した。
6月19日付け日本経済新聞・夕刊は1面トップで「米国務長官:北朝鮮、近く核申告。テロ指定国解除へ」と題する以下の記事を掲載した。(抜粋)
1.ライス国務長官は18日、ワシントン市内のシンクタンクで講演し、北朝鮮が核問題を巡る6か国協議の合意に基づき、議長国の中国に近く核計画を申告するとの見通しを示した。
2.その上で、申告すれば「ブッシュ大統領が北朝鮮へのテロ支援国に指定解除と、敵国通商法の適用除外の意向を議会に通知する」と語った。米政府高官が核申告に合わせたテロ支援国の指定解除を明言したのは初めて。
3.米政府のテロ支援国の指定解除は、議会への通知から45日後に発効する。ライス長官は「45日間に北朝鮮の協力の度合いを見極め、正確さと完全さを検証する。協力が不十分なら、それに合わせた行動をとる。」とも強調。申告の中身を見極め、解除の中止もあり得るとの認識を示した。
本来、米朝二国間協議で解決可能な問題について、しかも北朝鮮側は「米朝二国間協議を主張していた」にもかかわらず、なぜ米国は面倒くさい6か国協議という舞台を設定し、中国に(形式上の)主役を演じさせたのであろうか。中国と北朝鮮は朝鮮戦争以来「血で結ばれた同盟関係」と喧伝されてきた。切っても切れない「唇歯関係」ともいわれた。米国も世間の風潮に影響され、北朝鮮の宗主国は中国であるから、中国抜きで米朝協議を行っても「結論を出すのが困難」とみなしていたのかもしれぬ。では、中国が希望する「米国、中国、北朝鮮」の3か国協議はどうか?1対2で分が悪い。ということで、日本、韓国、ロシアを加えバランスをとったのであろう。2003年8月、第1回6か国協議が北京の釣魚台迎賓館で開始された。以来約5年が経過、めぼしい成果は上がっていない。そればかりか、北朝鮮は核実験を強行し立場を強化した。北朝鮮だけが威勢が良く他の5か国はさっぱりであるように見える。米国は6か国協議を通じて「中国は北朝鮮の宗主国ではない」ことと、「北朝鮮は中国の影響力を払拭し自立したがっている」ことを確認できた。だから「米朝二国間協議」に応じることにした。米朝協議で合意し、その結論を議長国である中国に通知することにした。中国は現在でも「北朝鮮の宗主国は中国」と自認している。実態はともかく、建前だけでも宗主国の役柄を演じざるをえない立場だ。だから、中国は「北朝鮮は中国に相談し了解を得てから米国と協議すべきではないか」と思っている。この手続を無視して米朝協議を行うのは順番が違うのではないかと不満をつのらせている。
6月17日から中国のナンバー2習近平国家副主席が訪朝している。これに合わせるタイミングで、前述したライス国務長官の「核申告とテロ指定解除」の発表がなされた。「中国のナンバー2が訪朝しても米朝合意は動きませんよ」という訳だ。以上のような6か国協議について、10か月以上前から予測していた中国の政府高官や軍関係者が少なくなかった。中国国防大学戦略研究所研究員綾野(リン・イエー仮名)もその一人である。リン・イエは「中国が予測する北朝鮮崩壊の日」富坂聡訳、文春文庫23から26ページで以下のとおり述べている。
1.ある非常に有力な国家のシンクタンクの朝鮮問題専門家は、中国の古代から伝わっている伝統芸である「猿回し」に6か国協議をたとえ、これを強烈に皮肉ったことがあった。彼の表現によれば、中国は猿回しの猿でもそれを操る人間でもないというのだ。
2.「猿回し」は通常、二人の人間と1匹のサルがチームとなってやる曲芸である。お祭りなどでよく見かける丸いステージの上で調教師がバナナを持って猿を竿に乗せたり火の輪をくぐらせ、お客に向かってお辞儀をさせるなどして笑わせるのであるが、主役はあくまで猿と調教師である。そして、もう一人の人間は、司会をしながらドラを鳴らして客の間を歩き回りお金を徴収するという役回りである。
3.いうまでもないことだが、6か国協議における主役はアメリカと北朝鮮である。どちらが猿でどちらが調教師かは想像に任せるが、中国の役割は所詮第3の人間として、金の徴収に駆け回ることだというのだ。そして、これ以外の日本、ロシア、韓国は、それ以上に役に立たない存在として、最初から計算外の立場にあるということだ。
4.6か国協議の問題は5つの視点で語ることができる。
(1)北朝鮮の核危機問題であれ、半島全体に関わる問題であれ、いずれにせよ中国はこれらの問題の当事者として主役に位置づけられるべきである。
(2)中国の北朝鮮外交を根本から見直すべきだ。これは従来の政策或いは政策決定者を否定することにもつながるから非常に難しい決断を要する。党指導部や外交当局、軍は、まったく新しく北朝鮮との関係を築き上げるほどの覚悟と決意をもって見直すべき時を迎えている。
(3)武大偉外務次官(6か国中国代表団団長)は中国の役割を「舵取りの船長だ」と言い放った。しかし実際には船長の役割を果たしていない。現状ではアメリカと北朝鮮が交替で船長をやっている。中国はひたすらその調整役として火消しに走りまわっているだけだ。外交はどこかの国のように威圧や制裁、恫喝さえも必要なのだ。
(4)北朝鮮が望んでいるのはあくまでもアメリカとの直接交渉であり、中国はそれを阻むべきなのである。まず、中朝間で徹底的に交渉し、合意に至った上で米朝会談実現のために協力すべきなのだ。
(5)6か国の議長国となった以上は失敗は許されない。失敗すれば中国の威信が傷つくだけでなく、中朝関係や中米関係を悪化しかねない。アメリカや日本から中国の北朝鮮に対する影響力について疑問の声が高まる。北朝鮮は中国に愛想をつかすと同時に、誰はばかることなくアメリカと日本を相手に駆け引きを始めるだろう。
以上、長々と引用したが、6か国協議を巡る中国の問題が出ていて面白いと感じたからだ。
第1の問題(中国共産党指導部、政府高官、軍上層部における意見の対立)
「中国は北朝鮮の宗主国であらねばならない」という考えでは意見の対立はないようであるが、核開発や米朝協議など北朝鮮が「中国を宗主国と認めない」という態度を鮮明にし出したことから、深刻な路線対立が生まれている様子である。つまり、「中国と北朝鮮は唇歯の関係であるべき」という「べき論」を推し進める旧守派勢力と、自立しつつある北朝鮮の現実を直視して「普通の国家関係」に組み替えるべきだする改革派勢力の対立である。習近平国家副主席があわてて北朝鮮を訪問したのも、旧守派勢力の意向を汲んで北朝鮮が「中国の頭越しに米国及び日本と取引しないよう」働きかけたということだろう。さらに、「北朝鮮が中国の頭越しに日米との国交回復などを行うならば、中国はこれまで行ってきた無償経済援助を中止せざるをえない」と恫喝する等、改革派勢力の意向にも配慮したのではなかろうか。
第2の問題(中国は「猿回しの曲芸」における集金役?)
さすが漢族は文章の達人である。6か国協議を称して「猿回しの曲芸」とは言い得て妙と感心した訳なのだ。当たらずといえども遠からずといえよう。そして、「主役は米国と北朝鮮で中国は集金役」という自己認識も的を得ている。「日本ほかは蚊帳の外」というのも正しい。中国の問題意識の最大のものは「東アジアとりわけ朝鮮半島は中国の縄張りであるから、本来、中国が主導して問題解決を図るべきであるのに、米国が6か国協議の場を悪用して主役になり主導権を奪ってしまった。全くもってけしからん。」ということに尽きるのではないか。地域の覇権国家を狙う中国共産党指導部並びに軍にとって6か国協議は「二度と見たくない悪夢」ではなかろうか。もちろん、試合巧者の米国は、形式面では議長国中国の「面子が潰れないよう」配慮してくれてはいる。だが、実際の行動は「米朝協議最優先」で何事も取り決め、中国には、米朝協議の合意に沿った議事進行を期待するという訳なのだ。つまり、中国を議長国に祭り上げ「逃げることができない」責任を負わせてから、米朝2国間協議を繰り返し「落とし所を決める」という存念なのだ。米朝で合意した内容に従って、中国、日本、ロシア、韓国に分担金を支払わせる段取りなのだ。以上、筆者は中国軍現役大佐殿(リン・イエー仮名)の慧眼に関心したのであった。これら有能な人材が豊富にいる中国は、核兵器以上に脅威というべきなのだが、硬直した党や軍のシステムのお陰で、有能な人材の意見が政策に反映されないから、周辺国家としては「枕を高くして眠れる」という訳なのだ。
第3の問題(なぜ米国は「北朝鮮のテロ指定国解除」を急ぐのか?)
中東でもアジアでも、そして対露交渉でも何らの成果がなく「任期満了を迎える」ライス国務長官が、一つでも実績を残しておきたいと願うのは自然である。米国大統領選まで4か月。次期大統領が決定する11月上旬以降は、ブッシュも大きな決断を要する外交を行うことは困難であろうから、この2・3か月間が最後の勝負である。第3コーナーを回り、ゴールまであと100メートル。最後の一駆けで、北朝鮮問題を解決しようとあせっている。
次期大統領候補のオバマやマケインは、ブッシュよりも組みしやすい相手とはいえないから、北朝鮮も「ブッシュと取引した方がよい。」と考え、ライスと波長が合っているのかもしれぬ。さらに、金正日の健康状態(糖尿病?認知症?)が悪化しているのかもしれず、長期間にわたり最重要機密を秘匿することもできないから、北朝鮮としても「米朝国交正常化を速やかに取り決めたい」というニーズが高まっているのかもしれぬ。米国の主導で「北朝鮮問題が解決された」となれば、東アジアとりわけ朝鮮半島問題への米国の影響力が強まる。中国は「米朝協議主導型の決着」に同意したくないであろうが、ロシア、日本、韓国が同意すれば中国だけが反対することはできまい。しぶしぶ同意させられるのではないか。
中国にとっては絶対忠実な服属国であったはずの北朝鮮が自立し、米・日・韓・露などと対等な外交を行うようになれば、中国の特権的地位は自然消滅する。好むと好まざるとにかかわらず、中朝関係は「普通の国家関係」に変わる。過去2000年以上、中国歴代王朝に服属を強要され、時には併合されてきた朝鮮としては、「自立した国家を実現する」ことは民族の悲願である。逆に、宗主国の地位を失う中国は失意のどん底に陥る。
中国歴代王朝は「朝貢してくる服属国」が多いほど王朝の権威を示すことができたし治世に自信を持つことができた。最後に残った服属国家北朝鮮が自立した場合、中国共産党王朝に与える衝撃の強さはいかばかりであろう。中国共産党王朝の徳を慕って朝貢する国家が消えた時、共産党指導部や中国軍は「がっくり」して緊張の糸が切れ、自律神経失調症となる危険がある。中国と北朝鮮の社会病理的な共依存関係が解消された時、中国共産党指導部・中国軍には大きなストレスがかかる。「心にぽっかりと穴があく」という感じだ。個人であれば「酒で誤魔化す」かもしれぬ。「女遊びで不安解消を狙う」かもしれぬ。中国は心の不安を「米国との共依存関係」で穴埋めしようとするかもしれぬ。くれぐれも、我が日本が中国の「依存対象」とならないよう「袖が擦りあわない」程度の位置関係を保つことが肝要である。
本日(19日)、護衛艦「さざなみ」が中国海軍南海艦隊司令部がある広東省湛江港に向けて出発した。昨日は東シナ海の海底ガス田共同開発で合意した。何やら雲行きが怪しい。くれぐれも「日中共依存関係の構築」だけは勘弁してもらいたいものだ。福田康夫の無原則的体質を見ると、見境なく妥協を繰り返す危険が高いので要注意である。逸脱した政治を行わないよう監視体制を強化すべきであろう。
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