ヨーロッパの環境規制が世界を支配したわけ (livedoor) | 日本のお姉さん

ヨーロッパの環境規制が世界を支配したわけ (livedoor)

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ヨーロッパの環境規制が世界を支配したわけ (livedoor)
よく、「日本も国際的ルール作りをもっとリードすべきだ」ってかけ声がかかります。新聞の社説とか、経済界の重鎮のスピーチとかね。でも、何をすれば「リード」できるのか、かならずしも主張の主も明確な考えがあるわけではないような気がします。もちろん、ルールといってもスポーツのルールもあるし、会計のルールとかもあっていろいろなんですが。こと環境の世界では、ルールづくりの主導権を握るために「何」をすればよいかは、比較的はっきりしています。まず、規制される側である産業界の実態を考えてみましょう。

■大規模投資と大量販売じゃないと勝ち残れない
ものにもよるのですが、電気製品のように世界でグローバルな競争を勝ち抜いていくためには、大規模投資と大量販売が大きな鍵になります。液晶パネルなんてその典型例ですよね。日、韓、欧の企業が合従連衡しながらそれぞれ超のつく大型工場建設に踏み切っています。男気比べか、はたまたチキンゲームか。大型投資は製品当たりのコストを下げますが、当然ですが、工場からは大量の製品が生み出されます。それを売りさばかなくてはいけない。世界中で売らなければ追いつかないのです。あるメーカーの方がおっしゃっていましたが、BRICsはもはや当たり前。アフリカとかまで市場として計算しないと辻褄が合わないそうです。「ドーンと投資して、ガーンと価格を下げて、グイグイ世界中で売る」。勝利の方程式は単純化するとこうなります。

■長く、複雑になるサプライチェーン
もう一つ重要なことがあります。サプライチェーンが長く複雑になっているということです。野菜なんかですと、最近ではスーパーの店頭で生産者の名前や写真が表示されていたりします。農産品は相対的にサプライチェーンが短いので源流まで遡ることはそれほど難しくありません。複雑な工業製品の場合、そうはいきません。数百から数千、それ以上の部品、部材からできていたりする。部品メーカーが幾重にも連なっています。しかも、間に流通業者、商社なども入り、大陸横断の貨物列車並に長いサプライチェーンを形成しているのが普通です。オマケにサプライチェーンは決して一本の線ではありません。無数に枝分したり、合流したりしています。「チェーン」というよりは「ネット」に近い。市場間の障壁が低くなったが故に、世界市場をにらんだ大型投資ができる。販売網の整備のためアフリカに投資する。コスト切り下げのためにアジアの寒村に工場を移す。安いサプライヤーを求めてどこまでも行く。それがまた投資を誘発する。グローバリゼーションの御陰で可能になったことでもあるし、グローバリゼーションの推進力でもあります。正気とも狂気ともつかない現実。全てがつながっている。そこにEU様が小さな石をポンっと投げ込むと、さざ波は一気に拡がって、末端では津波のようになって、我々が一生訪れることのないようなアジアの片隅の工場を飲み込んでしまう。サプライチェーンで一蓮托生。グローバル・ブランドも道連れにして。

■特定市場向けの仕様はありえない
例えば、EUがパソコンに鉛を使うことを禁止するとどうなるか。EU市場向けだけに仕様を変えるということはコスト面で合理性がありません。EU規制のために鉛フリーの製品を開発せざるを得ないわけですが、それを世界中で売る。このことによって、事実上世界中のPCが鉛フリーになる。さらに、サプライチェーンを考えたら、まず、鉛の入っている部品と入っていない部品を混在させることはサプライチェーン管理をとても複雑なものにしてしまいます。
ケーブルの被覆には着色効果を上げるためにかつてはカドミウムが使われていました。EU向け製品にはカドミウムの使われていないケーブル、日本向けにはカドミウムが使われているケーブルといった仕分けをしようとすると、結局、EU向けにカドミウムが入ったケーブルが混入してしまうことになりかねません。もちろん、大企業が自社内でケーブルをつくっているならしっかり管理できるでしょう。でも、ケーブルはどこか遠い途上国の中小企業でつくられているわけで、彼らを信頼しきることは大きなリスクになる。「ソニーショック」と業界人に呼ばれている事件があります。オランダの税関での検査でソニーの“プレステ”のコードの被覆からカドミウムが検出され、ソニーは全欧の市場からプレステを回収し、クリスマス商戦を一度フイにしています。リスクの大きさがおわかりいただけるでしょうか。

■“使用禁止”は瞬時に世界に伝播する
結局、鉛でも何でもよいのですが、EUがある物質の使用を禁止すると、その瞬間、世界中の製品からその物質が消えることになるのです。それは、EUが他の国では禁止していないものを禁止してきたから。ちなみに、液晶パネルのメーカーにとっての悪夢は、液晶の使用が禁止されることです。実は、RoHS指令をつくる過程で一時そのような動きがありました。ルールは企業の生命線をにぎるのです。これまで、常にEUがルールづくりの主導権をにぎり、他の国が「守旧派」の役を演じるという構図でした。ノルウェイの「スーパーRoHS」はその構図を崩したのです。スカンジナビア半島の北側、石油収入で潤いおよそEUに入ろうなんて気はさらさらない国、ノルウェイ。彼らはEUが禁止していない物質を禁止しようとしているわけです。何が起こったか? EUが「守旧派」の側にまわってノルウェイに思いとどまるように説得している。あたかもかつて日本やアメリカがEUに対して行ったように。
環境ルールの世界で主導権を握るのはかくも簡単です。サプライチェーンや製品に関して他の国の禁止していない何かを禁止すればよいのです。サプライチェーンは世界中に拡がっており、製品も世界中に輸出されます。よってその禁止は瞬時に世界に伝播し世界中のメーカーを規律するのです。
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★大規模投資と大量販売じゃないと勝ち残れない。特定市場向けの仕様はありえない。“使用禁止”は瞬時に世界に伝播する。ノルウェイの「スーパーRoHS」はその構図を崩したのです。スカンジナビア半島の北側、石油収入で潤いおよそEUに入ろうなんて気はさらさらない国、ノルウェイ。彼らはEUが禁止していない物質を禁止しようとしている。
◎ローカルな環境ルールが世界を規律する時 | WIRED VISIONRoHS・・・ (藤井敏彦の「CSRの本質)
電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する指令(DIRECTIVE on the Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment)」・・・業界人は「ロス」・・・
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いやぁ。ついにやってくれました、ノルウェイ。恐れていたことが現実になるかも。世界中の電気電子産業にとってはなかなか厄介な事態です。何がって? 環境関係の方はご存じだと思います。ノルウェイの「スーパーRoHS(ロス)」であります。
かつてブラッセルで「ロビイスト」という、なんだか胡散臭そうな生業についていたワタシ。ヨーロッパで事業をされる日系企業さんの利益を代表して動いておりました。でも陰の存在じゃないですよ。EU議会公認ロビイスト。並み居る環境NGOさん、あちらさんも公認ロビイストですが、と闘っていました。彼の地のNGOは、思わず守ってあげたくなるような美人薄命的慈善団体ではありません。太い腕っ節と莫大な活動資金を隠そうともしない。甘く見たら一撃にされます。
そんなヨーロッパで、日本の産業界が欧州勢、米国勢と組んず解れつ、史上最大のロビー作戦を展開したのがEUのRoHS指令でした(「指令」はEU法の一類型)。それで今回ノルウェイが出してきたのは人呼んで「スーパーRoHS」。スーパーですよ、なんだか凄そう。
■RoHSがなぜ死活的だったのか
さて、元々のRoHS指令なるものはなぜそれほど死活的だったのでしょうか。所詮、EU内の規制にすぎないのに。実はここの点には、グローバリゼーションの深淵なるインプリケーション(含意)の一つが潜んでいたりします。そもそも、環境規制って言えば、伝統的定番は工場に関する規制ですよね。排水の環境基準とか、土壌汚染防止とかね。もちろん、自動車とか見れば昔から排ガス規制があって、これは工場ではなくて製品に関する環境規制なのですが、ただ、あくまで排出される汚染物質の規制ということで工場規制と発想は類似です。
でも、最近は矛先が変わってきた。製品そのものを対象とした環境規制をすることが増えてきた。リサイクル規制なんてその典型です。環境規制の主な対象が工場から製品に変化するというトレンドを我々ここ10年くらい見てきたわけです。そのトレンドをはっきりと政策理念として凝固させたのは、やはりEUでした。その名も「統合製品政策」。おお、ナンカ厳めしい。英語ではIPP(Integrated Product Policy)と言います。ちょっと呼びやすい。
IPPは、1990年代半ばからヨーロッパで議論されていました。1998年に環境総局(日本の環境省に相当)が発表したIPPに関する報告書は、製品のライフサイクルを通じた環境への悪影響に注目し、環境対策の範囲を、工場を対象とした汚染物質排出規制等から製品自体へ広げることを提唱したのであります
このあたりのコンセプトづくり、さすがヨーロッパは上手い。彼らは「概念の人」。まずはコンセプトづくりから入ります。反対できないコンセプトさえつくって、葵の御紋にする。あとの勝負はもらったようなもの、というのが彼らの発想。工場規制であればEUの域内に工場を持たない企業には関係ありません。でも、工場から製品への環境規制対象の重点の移動は、ローカル・ルールにすぎないEUの環境規制に世界を規律する力を与えたのです。その最たる例が、RoHS指令なのです。

■電気製品の中に有害物質が含まれていてはいけない
本名は、「電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する指令(DIRECTIVE on the Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment)」です。めんどくさいので業界人は「ロス」と呼びます。「ローズ」と呼ぶ人もいますが、これはNG。正しい発音を心がけましょう(笑)。大雑把に言えば、電気で動くものの中に鉛、水銀、カドミウム、六価クロムなど6物質を含有してはいけない、という規制です。
例えば、パソコンです。ちょっと前のパソコンだったら、中は鉛やカドミを使った部品で満ちています。でも、今のパソコンの中には一部の例外を除いて鉛もカドミも使われていない。RoHS指令の故です。僕らパソコンを使う側にとっては別になにがどうちがうということもないのですが、開発する側にとっては、ある物質の使用が出来ないというのは極めて重大な問題です。
パソコンはもちろん、電気で動くほとんどすべてのものが規制の対象でした。電動歯ブラシから電池で動くお猿の人形まで。半分笑い話ですが、オランダ政府内では、ま、いかにも自由で開放的なお国柄というところですが、こういうところで公言するに憚られるような類の器具についてまで、鉛含有の有無を検査する方法や、リサイクル比率の設定とかが議論されたようです(RoHS指令はリサイクル指令とセットになっています)。
この話、当時業界ロビイストの間で流布して、確か議事要旨までついたメールが回ってきたのですが、ちょっと脱力系で、ヨーロッパ人が好むお国柄ジョークみたいだなって。でも実は真面目な背景があります。それは、規制の対象が広すぎるという産業界の主張と関係します。産業界は対象機器の絞り込みを求めたのです。結局この主張は退けられてしまうのですが。今にして思えば、産業界の怨念がつくり出した話のような気もします。そんなもんまでリサイクルしてどーすんのっ、てことで。とにかくヨーロッパの環境規制は厳しいですから。
ちょっと脱線してしまいました。何故RoHS指令が事実上のグローバルスタンダードになったのか、どうしてノルウェイの提案は「スーパー」なのか、それでどうして日本も困るのか、という本題は次回に続きます。