中国人民解放軍上級幹部のレポート「金正日体制崩壊」の背景を読み解く。(じじ放談) | 日本のお姉さん

中国人民解放軍上級幹部のレポート「金正日体制崩壊」の背景を読み解く。(じじ放談)

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▼中国人民解放軍上級幹部のレポート「金正日体制崩壊」の背景を読み解く。(じじ放談)
最近発行された「中国が予測する北朝鮮崩壊の日」文春新書、綾野(リン・イエ)著、富坂聡訳は面白い本である。以下、訳者の説明文から抜粋して本レポートの特徴を列記してみる。

1.レポート作成者、仮名:綾野(リン・イエ)なる軍人について
1957年生まれの50歳。現在、中国国防大学国際戦略研究部に所属するほか中国朝鮮半島研究会の特約研究員という肩書を持ち、北朝鮮の金日成総合大学への留学と韓国高麗大学での研修経験もある。現在は研究者であるが、軍籍(大校・大佐)を持つ現役の軍人。綾野(リン・イエ)は、本レポートが問題視され、目下「謹慎処分中」である。綾野への謹慎処分は本レポートが中国当局に与えた衝撃の大きさと受け取って間違いない。

2.本レポートが訳者(富坂聡)の手元に渡るまでの経緯
当初、本レポートのタイトルは「北朝鮮の和平演変・崩壊及び中国の対策」であった。和平演変とは無血クーデターのことを指す。その後、北朝鮮の内政事情や6か国協議の進展などといった内容を加筆、加えて他の関係者による口述訂正が加えられたという。本レポートが訳者の手元に届いたのは、北朝鮮の最新動向を書き加えた後に「朝鮮解体(崩壊)」という新たなタイトルが付けられたレポートだった。作成後約10か月が経過していた。

3.なぜ、中国人民解放軍の機密資料が富坂聡の手に渡ったのか?
富坂聡43歳は北京大学中文系に留学したジャーナリスト。「豊富な人脈を駆使して中国の内幕をレポートする」と自己紹介している。中国と北朝鮮の国家関係を破壊しかねないレポートが、日本人ジャーナリストに流れたのはいかなる背景があったのか。国家機密に属する資料を漏えいすれば、国家に対する重大な犯罪である。それを敢えて行った人物が中国人民解放軍(以下「中国軍」という)の上級幹部の中にいた。目的はカネ?それとも謀略?。レポート作成者の軍人の経歴が訳者に通知されている。レポート(写)を受け取った富坂聡が「ガセネタではないか」と指摘したのかもしれぬ。レポートの送付者は「本物ですよ。偽物ではありません」ということを立証すべくレポート作成者の経歴を通知したのかもしれぬ。
だが、中国軍の上級幹部で、朝鮮半島専門家はそれほど多くはないであろうから、いかに仮名を使用しても人物を特定するのに苦労はしない。「国家機密漏えい罪」に抵触することを承知の上で、何者かが本レポートを日本人ジャーナリストに流した疑いが濃い。歴代中国王朝の派閥闘争は有名である。現代の中国共産党王朝も例外ではない。胡錦涛(共青団閥)と江沢民・上海閥の争闘、これに中国共産革命の功労者である者の子や孫が太子党として立身出世を果たしている。派閥闘争においては中国軍も負けていない。先般、北京・南京軍区等の青年将校ら多数が「速やかに台湾に軍事進攻すべきだ」という趣旨の血判による上申書を軍上層部に提出したという記事があった。古色蒼然とした旧守派の軍長老に対する中堅・若手の不満が高まっているのかもしれぬ。

本レポートはいう。
「一部の軍幹部や長老たちの頭のなかには、いまだに「抗美援朝・保家衛国」(アメリカに抵抗し朝鮮を助け国を守ろう)という朝鮮戦争時代の思考が残っているようなのだ。彼らの頭のなかでは、時代の流れがどれほど変わっても、国際環境がどんなに変化しても、アメリカは中国にとって永遠の敵という思考だ。…現代の中国が、いかに改革・開放政策を推進し、市場経済のシステムを導入し、資本主義の要素を受け入れるとしても、やはり毛沢東時代から受け継がれてきた社会主義国家の看板を下ろした訳ではない。(共産党)独裁支配も、徐々にだが改善されたとはいえ、政治体制も行政システムも、そして社会構成にしても、いまだに集権国家そのもののスタイルを貫いているのだ。」

この主張は明らかに「共産党独裁体制」と資本主義中国との矛盾をついている。旧来の思考様式から脱皮できない共産党中央・中国軍上層部を厳しく批判している。このような批判は「反共産党、反革命分子」として、厳しく断罪されると予想されるのであるが、レポート執筆者は「謹慎」という軽い処分に止まっている。おそらく、レポート執筆者に同調する軍内部の勢力が、看過できないほどの力を持っているということだろう。党中央や軍の上層部がレポート執筆者を断罪すれば、軍内部の混乱に油を注ぎ、収拾がつかなくなるから厳しく処罰できないのだろう。だから軍上層部は、レポート執筆者を軽い処分で済ませ一件落着としたのだ。レポート執筆者を初めとする軍改革派は「現実を直視せず、問題を糊塗する軍上層部に対する不満を強めている」ようである。そこで、日本人ジャーナリスト(富坂聡)を活用して、本レポートを世界に流したのではあるまいか。執筆者の特定ができる経歴を付加し論稿に箔をつけたと見るべきだ。つまり、軍改革派は軍事クーデターを起こすまでの態勢を整えてはいないが、党中央や軍上層部の懲罰はほとんど無視できる程度には力をつけているということだろう。(以下、本レポート「朝鮮解体」からポイントを抜粋し骨子を示したい)

第1段階(経済破綻)
01年頃から中国の国有・民間企業は北朝鮮の石炭・鉄鉱石・金・銅・森林資源の開発といった利権を手にしていった。これにより北朝鮮経済は潤ったが、北朝鮮にとってそれは「池を干して魚を獲る」といった短絡的な手段でしかない。いずれ天然資源の枯渇をもたらし、将来、経済発展を妨げる禍根を残す。

第2段階(権力の若返りと中央集権の崩壊)
改革開放経済を導入する過程で、経済特区等の党や政府指導者が外部と接触する頻度が増大し外の風にさらされることで、地方の幹部たちの意識にも変化が生じる。これが改革を求める圧力になる。中国の改革開放特区と同じである。

第3段階(中朝の離反と米朝の接近)
中国との関係がさらに冷え込み、政治的または経済的な依存度も次第に低下していくプロセス。これに代わって急速に改善していくと思われるのが、対アメリカ及び日本との関係である。そして韓国との間の政治的、経済的、人的往来は空前の規模に達するだろう。中国が北京五輪を成功させ、世界の中で国家イメージを大きく向上させて国際化を急速に進めていく。高度経済成長の持続とともに、中国に民主化意識の高まりをもたらす。これが中国の北朝鮮政策に影響をもたらし、冷戦期の外交戦略・思考からの脱却を図る。この動きに対し、北朝鮮も中国を見限り、対アメリカ、対日本との関係改善に積極的に踏み出す。

第4段階(先軍政治の限界と終焉)
先軍政治の限界が露呈すれば、軍事費の削減や人員の削減が避けられない。これに不満を抱く軍人が社会的不安定要素となる。軍は重要な収入源である大規模鉱山や漁場、森林、鉄道、港の使用権及び管利権を一手に握っている。軍の系列には、対外貿易を営む40社以上の企業があり、その責任者のほとんどは軍の権力者と身内で占められている。軍幹部の腐敗が目立つなか、一般兵士の犯罪行為も目立っている。北朝鮮では今「昼は軍人、夜は盗賊」という言葉がささやかれている。

第5段階(ポスト金正日・権力の空白)
金正日は今後、健康上の理由から最高権力者としての執政能力を失う。後継者となるもののキャリアや資質、権威といった問題から、既存の権力は「水が漏れる」ように崩れる。その時、中国、米国、韓国などの影響力の下で、軍部主導による新しい政権が誕生する可能性が高い。詳細に紹介できないのが残念であるが、仮名:綾野(リン・イエ)なる朝鮮半島とりわけ北朝鮮研究の専門家はいかなる任務を帯びていたのであろうか。本レポートで登場するデーターは、北朝鮮国内での各界各層の生活、中朝国境周辺での聞き取り調査並びに北朝鮮の中堅官僚等からの意見聴取などで得られた情報を分析の基礎として活用している。レポートの作成者はおそらく中国軍諜報機関の幹部ではなかろうか。情報収集の在り方や分析の仕方等「事実に即して物事を判断する」という科学的態度が身についている。「まず思想ありき」という姿勢が乏しい。情報収集の在り方、収集したデーターの分析など相当訓練を積んだ優秀な諜報員のような感じだ。現在は中国国防大学で「北朝鮮に関する情報収集の在り方」の講義を担当していても不思議ではない。旧帝国陸軍中野学校出身の「特務大佐」という感じなのだ。

(レポートが予測する日朝関係)
1.日朝の国交樹立の実現はそれほど先の話ではないかもしれない。北朝鮮が中国と距離をおくことが決定的になったいま、北朝鮮はプライドを捨て、再びアメリカや日本に接近し、そこで活路を見出すと考えられる。

2.北朝鮮は自国の国運を賭けてアメリカや日本との国交樹立をめざし、国際的な包囲網から脱出を図ろうとしている。アメリカや日本に接近し関係改善をはかれば、確かに一時的には政治的、経済的窮状を救えるかもしれぬ。しかし、それは北朝鮮にとってもろ刃の剣であり、現政権の存続にとっても大きな脅威となり、解体を加速させる可能性がある。

3.中国は、どれほど北朝鮮に対する影響力を強めようとも、内政干渉は一切しなかった。ある意味では金正日独裁政治に協力的でもあった。が、アメリカはそうではない。体制の不備から人権問題、そして政治犯の待遇や歴史の再評価など必ず攻撃の対象にされるであろう。

仮名:綾野(リン・イエ)もやはり中国の軍人である。北朝鮮の現状を分析する冴えは素晴らしいものがあるが、「北朝鮮を再生させる方法」は示さない。「中国と疎遠になった北朝鮮はアメリカや日本に急速接近する」と予測しながら、この道は「金正日体制の存続を危うくする」と危険信号を発信してみせる。「中朝関係は唇歯の関係」とみなしている党や軍の上層部を「現状認識ができていない」と批判しながら、北朝鮮が日米韓に取り込まれることを避けたい様子なのだ。これを称して「我田引水」という。中国歴代王朝の朝鮮支配は常に「中国の利益第1」を基準としてきた。中国共産党中央、中国軍首脳だけでなく、本レポート作成者の如き新進気鋭の軍人でさえも「中国本位主義」の古い観念に骨の髄まで染まっているらしい。周辺諸国を蛮族とみなし、中国王朝を「中華」とみなす悪しき風俗は漢族の度し難い業病である。21世紀、世界には台湾を含め194か国ある。この中で、「中華」を称しているのは、中華人民共和国(北京政府)と中華民国(台湾)だけである。世界から見て、彼らが如何に異質な国であるかが分かる。

中国共産王朝の服属国になって60余年、北朝鮮は宗主国中国の「生かさず殺さず」の対北朝鮮政策の犠牲者である。もとより餓死寸前の2200万北朝鮮国民は最大の被害者であるが、中国の操り人形であった金日成・金正日親子もある意味では被害者かもしれぬ。中国から自立できておれば、今頃はベトナムと同様、経済成長を続け飛躍的に発展していたはずだ。すべては、中国の「アメとムチ」で踊らされた金日成と金正日の自己責任というべきではあるのだが・・・。中国歴代王朝に調教され訓育され教導された朝鮮族並びに韓族の悲しいサダメなのかもしれぬ。
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(まとめ)
本レポートを書いた中国軍の上級幹部が、堂々と軍上層部や党中央を批判してみせるから、つい気になって紹介する気になった。本レポートは、中国軍の統制が相当弛緩している実体を明らかにしてくれた。筆者は中国軍の現役上級幹部が党中央や軍首脳部を堂々と批判し、中国と北朝鮮の国家断絶を惹起するかもしれぬ最高機密資料を我が国のジャーナリストに流出させたことに驚愕したのだ。中国軍上級幹部が「国家反逆」「反革命」の懲罰を恐れず、堂々と意見を表明し、機密文書を外国に流出させた事実にびっくりしたのだ。そして、国家反逆・反革命の証拠を握りながら「謹慎処分」という名目だけの処分しか出せない軍上層部と党中央の指導力の衰退が予想以上に進んでいると感じた訳なのだ。北朝鮮だけでなく中国においても、「統治機構の解体化現象が始まった」と興味深く感じているのだ。じっくり観察させてもらうことにしよう。